くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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アフリカで人型ネウロイと交戦した初美は、その情報や戦訓を学ぶべく、スオムスはカウハバ。サイレントウィッチーズへとやってきたのであった。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その一

 北欧の国、スオムスはカウハバ。

 そこは、ウィッチにとってある種聖地のような場所であり、同時に滅多なことでは立ち寄りたくない基地でもあった。

 何故ならそこは統合戦闘航空団の元となった、スオムス義勇飛行中隊の生まれた国であり、そして、現在はサイレントウィッチーズとなっている部隊の戦闘隊長である、迫水ハルカがいるのだから。

 

 自分は余程の距離がない限り木製疾風で移動するのだが、今回はアフリカの時と同様に海軍さんの補給便に同乗させていただいている。陸軍もそれなりに補給便は出しているのだが、何分海軍さんの二式大艇の航続距離には遠く及ばないのが実情だ。そんなことだから、今回も自分は海軍さんのお世話になっていた。

 カウハバ基地に到着したのは昼を少し過ぎたあたり。夏場なので雪はないが、それでも扶桑に比べると気温は低く過ごしやすいと言える。

 そんな土地へ、自分が二式の降り口から飛び降りると、いきなりおかっぱ頭、二種軍装の女性が飛びついて来た。

「ようこそいらっしゃいました初美さああああぁぁぁん!」

 流石の武術達者な自分でも、着地の体勢から立ち上がったその瞬間にやられては受け止めるだけで精一杯であった。

 そう、彼女こそ、かの悪名高き迫水ハルカである。

 迫水ハルカ。

 義勇独立飛行中隊、すなわちいらん子中隊創設メンバーの一人だ。創設メンバーの中で唯一の現役ウィッチでもある。創設当時はいらん子扱いされても仕方ない腕だったというが、今ではサイレントウィッチーズの戦闘隊長という重要な立場にいる。

 だが、問題はそこではない。

 このウィッチ、真性のガチレズであり、さらに年中発情期というどうにもならないどうしようもなさなのだ。

「ええい、噂は本当だったか!」

 抱きついてきたハルカの右手首にある急所へ思い切り親指を突き立てる。

「っぎゃあああぁぁっ!」

 絶叫を上げて自分を抱きしめる腕から力が抜けた瞬間、右手に順関節技を仕掛けて制圧し、地面にうつ伏せにして、動けないよう彼女の背中に腰を下ろす。

「上官に失礼ですが、貞操の危機ですのでご容赦を」

 ストライカーユニットの整備場らしき施設から何人かのウィッチ達が駆け出てきた。黒人に白人、地黒のアジア人に扶桑人か。資料の通り人種も多種多様だな、サイレントウィッチーズは。

 しかし、駆けつけてきた面子には隊長のハンナ少佐はいないようだ。

 まぁ、当然か。

「あ、 隊長が組み伏されてる!」

 地黒のアジア人、恐らくクラマース・ブレンガーム曹長が驚きの声をあげた。

「大したもんだ。美也、あれが扶桑のニンジャというやつなの?」

 と、黒人のリー・アンドレア・アーチャー中尉がとなりのおさげの扶桑人に尋ねた。なるほど、彼女が美隅美也軍曹だろう。

「忍者なんてもういませんよ。おおっぴらに公言してるのなんて、それこそ初美少尉ぐらいです」

 確かにな。自分以外にくノ一のウィッチがいるなんて聞いたことがないし、師匠以外に忍者を公言してる武術家も見たことがない。中野にいるにいるにいるのかも知れないが、見たことはない。

「昨夜から姿を見せなかったんですけど、こういうことだったんですね」

 ヴェスナ・ミコヴィッチ曹長だろう。白人が呆れ半ばで言う。手には縄を持っている。

「た、隊長命令ですぅ! 早くわたしの上からどきなさい」

 自分の尻の下でなにやら騒いでいるが聞こえないことにしよう。

「すまない、その縄を貸してくれないか。尻の下の色ボケを縛り上げたいんだ」

 と、ミコヴィッチ曹長に訴えると、

「最近はどんなに縛ってもすぐに抜け出すんですよ」

 と、言いながら渡してくれたので、縄術をもってして手早く縛り上げていく。

「ちょ、初美さんっ」

 捕縛から逃れようとするのを、今度は肩甲骨にある痛点をぐりっと押すことで邪魔をする。

「ぎゃああぁっ!」

 触れるだけで猛烈な痛みが走る場所だ。これで暴れることをやめて沈黙する。

「大人しくしていてください」

 そうして作業を再開し、雁字搦めにした。暴れれば暴れるほど、解こうとすればするほどきつくなるような特殊な縛り方だ。足は胡座の状態で縛り上げているので、歩くこともままならないだろう。

「初美さんっ! いきなりなにすんぐぐ」

 なにやら喚き出そうとした迫水隊長を、猿轡で黙らせるアーチャー中尉。なるほど、やはりこう言う扱いなんだな。

 まぁ、当然か。

 うーうーやかましい迫水隊長を無視して、

「自分は、扶桑陸軍遣欧義勇隊所属、初美あきら少尉であります」

 自分は背筋を伸ばし、扶桑陸軍式の敬礼で挨拶する。

「ようこそ、いらん子中隊へ。少尉、隊長をそこまで綺麗に縛り上げた人は初めてです。縛り方、教えてくれますか?」

「もちろんですよ、アーチャー中尉」

 自分は右手を差し出し、彼女はそれに答えた。流石に身長が170を越えていると手も大きいな。自分の手が小さく感じてしまう。

「司令官がお待ちです。案内します」

 ヴェスナ軍曹が、先導するように自分の前に立つ。

「はい、お願いします」


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