くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 外伝3

 初美が新たな任地であるスオムスに旅立って三日がたった。カルドロンの仮設基地。エジプトの厄介がなくなったにもかかわらず、ストームウィッチーズのメンツの表情は暗かった。

 もちろん、マルセイユはどこ吹く風と気にした様子はないし、ケイは隊長としておくびにも出さない。パットンなどは戦争狂らしく、むしろ巣がなくなったことを苦々しく思っているくらいだ。ただ、ライーサや真美は違ったし、食事前の二人との会話や笑顔を楽しみにしているロンメルなども表情を曇らせていた。

 原因は一つ。

 第504統合戦闘航空団、アルダーウィッチーズが壊滅的打撃を受けたからだ。これは、まだ歴史は浅いものの、JFWが発足して初めての事態であり、その衝撃は少なからず世界のウィッチ達に影響をあたえた。

 そして、スエズにも巣と呼べるほどではないが、大規模なネウロイの拠点がある。あれをなんとかするのが今のストームウィッチーズの役目だが、ところがその奪還作戦も、実施が困難になりつつあった。

 収まっていたネウロイの襲撃が、活発さを取り戻し、奴らとの戦闘がまた激しくなってきたのだから。

 

 マルセイユは、自分の天幕でシースルーのネグリジェ姿で扶桑からの慰問袋に入っていた芋焼酎をロックで傾けていた。

 本日、彼女はゴブレットを7機撃破した。コアなしとはいえアフリカのネウロイである。小さい硬いすばしっこいの三点セットなものだから、撃墜するのは普通のウィッチなら一苦労だ。

 それを撫で斬りするように鮮やかに撃墜していくのだから、このマルセイユは心胆を寒からしめるほどの天才なのだ。撃墜数ではハルトマンに大きく水を開けられてこそいるが、カールスラント四強に入っているのにはそれなりの理由がある。

「ティナ、邪魔するわよ」

 そんなところに、事務仕事を終えたケイがやってきた。

「どうしたんだ、ケイ」

「さっきまでロンメル将軍と話してたのだけど、このままだと正直ジリ貧ね。撤退も考慮するらしいわ」

 からん、とグラスを鳴らしながら、

「それも仕方ないだろうな」

 憂いを秘めた眼差しでつぶやくように答える。

「元気がないわね」

「いや、アキラ、どうしてるかなってな」

「珍しいわね、感傷に浸るなんて」

「なかなかからかい甲斐がある奴だったからな。暇つぶしのおもちゃに最適だった」

 ぐい、とグラスに残った焼酎を飲み干し、テーブルに置く。

「で、どうなるんだ?」

「撤退するわ。無理はさせられない」

 ケイは、つとめて感情を押し殺し言った。

「だろうな」

 と、話している所に、ストライカーユニットの飛行音が聞こえてくる。

「なんだ?」

 マルセイユは慌ててジャケットを羽織りながら、ケイは、急いで外の様子を見に天幕の外へと出る。

 他の天幕からも、何人も人が出てきていた。

「ケイさぁ〜ん」

 真美とライーサが駆け寄ってくる。

「この音、疾風の誉45の音です。初美さんですよね」

 星空を見上げながら彼女を探す

「ええ、そのはずだけど翼端灯も見えないわ」

「《迷彩》を使ってるな、あいつ。なんのつもりだ」

 と、マルセイユが呟くと同時に、彼女たちの前にずどんとポーチが結わえつけられた手裏剣が落ちてきた。

「ティナ、これは……」

 ライーサが砂に埋もれかけたそれを手にする。ポーチの中身は軽く、カチカチと金属音がした。

「貸してみろ」

 そう言ってライーサの手からポーチを譲り受けると、紐を解いて中身を出してみる。

 そこには、撮影済みのカメラのフィルムが8本と手紙が入っている。書いている文字が扶桑語なので彼女には読めない。

「ケイ、読んでくれ」

「はいはい。えーと……『スエズ運河上空、ゴブレット多数、中型少数、大型は皆無。カルドロンの現有戦力、並びに陸戦ウィッチ、ストームウィッチーズの連携でもってあたれば、撃滅も可能かと思われる。フィルムは、スエズ運河周辺の空撮也。スエズ運河攻略作戦の一助とされたし。《くノ一の魔女》』……」

 そこにいたウィッチどころか、いつのまにか集まってきた兵隊全員がざわ、とどよめく。

「やるなと厳命したはずなのに、アキラは……」

 と言いながらも、唇に笑みを浮かべる。

「どうしたのかね、加東少佐」

 ロンメルが人混みを掻き分けながら慌ててやってきた。着衣の乱れがないあたりはさすがだ。

「アキラが、スエズ運河の航空写真を持ってきました。今から現像に回します」

 それを聞いてなるほど、と頷く。

「詳しい話は明日だな。総員休め! 明日から忙しくなるぞ!」

 と、集まった兵士に命令する。その言葉の前に、全員が意気軒昂と駆け足で自分の天幕へ戻っていった。

「やってくれたな、ケイ」

 マルセイユは、すっかり酔いの覚めた顔で言う。

「ええ。ティナも明日から忙しくなるわ。もう休んでちょうだい」

 ケイは、手紙とポーチを持って、現像室のある天幕へと歩き出したのだった。

 

 それからしばらくして、スエズ運河攻略作戦の一報が世界に飛んだ。




今回、外伝は書く必要がないかなぁ、と思ったのですが、考えてみればスエズは取り戻してるわけで、あのままではそこのフォローができてないよなぁ、と気づきました。
そうなると書かないときまりが悪いよなぁ。
というわけで、できたのが外伝3です。
外伝では現在の初美さんを登場させないというマイルールがあるので、こうなりました。いかがでしたでしょうか。

追伸
参考までにお尋ねしたいのですが、くノ一の魔女で読みたい話ってありますかね。よろしければ教えていただけると幸いです。

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