くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 五の巻 その三

 増槽は、結局稲垣の三式の予備増槽を無理やり使うことになったらしい。新しく作るよりはそちらの方がよほど手早くすむし、メンテも楽だから、とのことでユニットの改造のみ行われることになった。

 当たり前の話といえば当たり前の話で、大きさはさほど変わらない、増槽の取り付け位置もほとんどかわらないのならば、そりゃあ飛燕の予備増槽を使うのは当たり前で悩む必要などないのだ。そして、ご丁寧に自分の使用してる木製疾風は、増槽の取り付け位置のガイドがユニットの装甲裏側に示されていて、改造もそう手間のかかるものではなかったのだとか。

 いやはや至れり尽くせりだが、誰がそんな手回しをしたんだと疑問が残るのも確かだ。自分が使っている木製疾風は、黒江さんがテストに使ったユニットなので、まさかの黒江さんの手配りなのだろうか。だとしたらなんという気遣いの人、なのだがそんな訳はないだろう。

 おそらく扶桑に戻った時に、徹底的なオーバーホールをやった長島飛行機のエンジニア達がもしものためにやったと思われる。

 ともかくあっさりと増槽の諸問題は解決され、改造も数日で終了。念のためテスト飛行を何度か行い問題がないことをチェックして、いよいよ自分はネウロイの巣への単独調査へと向かうことになる。

 

 簡易発進促成装置にセットされた、増槽付きの木製疾風に脚を入れる。手持ちの武装は扶桑刀と棒手裏剣を五本だけ。銃火器は持たない。それにカメラと水筒、簡易食料、その他推測航法に必要な機材が装備品だ。

 自分がユニットを履くと同時に、呼応するように魔法陣が青い輝きとともに発生し、使い魔のモモンガの耳と尻尾が生えてくる。

「昨日、偵察に出てもらったコースを基本的には辿ってもらうわ。その先に、ネウロイの巣が確認されている。いい? 無理だと感じたら迷わずにすぐ戻ってきて」

 ケイは、促進装置の上に立って地図を見せながらインカムを使用して言った。

「わかってる。死にたくないからな。ただ、やれるところまでは無茶はする。問題ないか?」

「川股少将からも聞いてるわ。貴女が無茶なことをやるのは日常茶飯事だって。だから止めない。いい? 無理だけはしないように。これだけは守ってもらうわ」

「了解した」

 小さく頷く。

 ケイはそれを確認して発進装置から離れた。

 同時に魔導エンジンの出力を上げる。呪符プロペラが砂埃を舞い上げた。

「オン・マリシエイ・ソワカ。アキラ一番、発進する」

《くノ一の魔女》なんて誰が使ってやるものか。

 ガシャ! と音を立ててユニットを押さえつけていたロックが外れ、勢いよく飛び出した。

 さまざまな改装で重くなったユニットに、さらに増槽もつけているものだから、いくら促成装置を使っての発進とはいえども、離陸距離は通常よりも長くかかり、舵も重い。

「よっと」

 離陸可能な速度まで上がると、ぐいと体を起こして空に舞い上がる。まぁ、スツーカよりはましだろうな。

「こちらアキラ一番。自分はこのまま昨日と同じコースを使って巣に向かうが、他に何か命令はないか」

 とびあがればこちらのものだ。上昇しながら無線を飛ばす。

『特にない。期待してるわ、《くノ一の魔女》』

 ザッとノイズが入り、ケイが答える。

 くそ、まだ使ってやがる。が、いい加減訂正するのにも疲れてくるな。

「《迷彩》がどこまで有効かのテストにもなる。できるなら巣の中にまで入ってみる」

『それが無茶だっていうの。巣の周辺の状況と、ネウロイの総数の確認だけでいいわ。その奥のスエズ運河まではいかないで』

「わかった」

『まったく、本当にわかってるのか疑問ね。だいたいね……』

 小言か。

 ため息ついて、一言。

「《迷彩》を使用する」

『え、ちょっ』

 ノイズとともに、ケイの言葉が遮断された。

 さて。

 飛びながら、懐中時計を引っ張り出して時間を、そして太陽の位置を確認して、ポーチからメモ帳を取り出し時間と位置を記録する。

 これが命綱となるのだ。

《死神》で叩き込まれた推測航法。間違いはないだろうが、目隠しで飛んでるようなものなのでやはり不安がある。よく海軍の連中はこんな航法で海を飛べるものだとほとほと感心する。

 速度を巡航に固定して、自分は一路ネウロイの巣へと舵を取った。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 いずれにしてもただでは済むまい。


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