くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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この小説はpixivに投稿していたものの再投稿になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 ニの巻 その三

 軍用リリーとMP43を肩から下げ、腰に小太刀を携えると、発進促進装置におさめられたスツーカをはいた。使い魔であるムササビの尻尾と耳が出てきて、周囲が魔法陣からでる青い光に包まれていく。

 最初は高高度からの周辺調査。航空写真で何があるのか調査を行うが、それは解析担当に任せて、自分はその後、発見したブラウシュテルマーの爆撃。

 ただし、あまりに数が多いなら遠距離からの長距離砲の集中砲火が行なわれる事になる。

 その偵察へとこれから向かうのだが、目的地となるセダンはいささか遠く、何度か基地を経由していく。

 野太いスツーカのエンジン音が格納庫に響き、その振動が体をビリビリと震わせる。

「オン・マリシエイ・ソワカ」

 口の中でそう呟くと、装置からストライカーユニットを解き放とうとした瞬間、格納庫に何人かのウィッチがやってきた。

 エンジンを停止させる。

「これからセダンの調査に向かうんですね、初美少尉」

 糸目でほっそりとした女の子が入ってきた。大川真子といい、階級は自分と同じ少尉。大物食いとして腕を鳴らすウィッチで、鍾馗を駆り、カールスラントより輸入したフリーガーハマーで大型ネウロイを落としてきた。

 物腰が柔らかいのに、その実誰よりも敢闘精神に溢れたウィッチだ。

「坂井、少佐から、話は、聞き、ました」

 はぁ、はぁ、と肩で息をしている濡れたボブカット(海軍では、軍神の影響からかポニーテールが多く見られるのに対し、陸軍では退役した江藤さんの影響でこの髪型が多く見られる)が佐々勇准尉。

 大川少尉と同じく鍾馗で大物食いを得意とするウィッチだが、戦闘スタイルは正反対で、ズームアンドダイブで果敢に接近戦を挑み、扶桑刀で断ち切るものだ。欧州に来てまだ日が浅いが腕は確かで、扶桑でも夜襲に来た大型ネウロイを撃墜してきたらしい。

 今は確か定期偵察の後で、シャワーを浴びに行っていたはずだったのだが、その様子だと慌ててきたのだろう。

 他にも4名の空戦ウィッチがこの基地に籍を置いているが、偵察中が2名、夜間ウィッチが2名でこちらには来られない。

 しかし、どうしてこんなタイミングに?と思うも、すぐに坂井少佐の差し金と思い至った。あの人は、あんなきつい顔つきの癖して、こういう事で手を回すのは、本当にうまいし早い。

「坂井少佐にきいたな? そうだ。これからセダンの偵察だ。撮影したフィルムは担当に任せて、自分はブラウシュテルマーの破壊に入る。そして本作戦終了後、しばらく後方の基地に転属になる予定だ」

「急な転任ですね」

 大川少尉が、一言痛いところを突いてくる。

「まぁ、西部方面がらみでな。これ以上は守秘義務で言えんのだ。すまん」

「さびしいです、初美少尉」

 と、佐々准尉。

 ありがたいことに、彼女は特に自分を慕ってくれている。

「なにも、これっきりでここをおさらばするわけじゃない。今回の任務絡みでの転属だ。任務が完了次第、また戻ってくるさ。ではな」

 スツーカのエンジンを始動し、発進準備を整える。

「こちら初美あきら少尉。坂井少佐、これより発進する」

 インカムで坂井司令に連絡。

『了解した。健闘と作戦の成功を祈る』

「感謝します。初美あきら、出る!」

 ばしん!と音を立てて、ユニットを抑えていたストッパーが外れ、一気に加速する。格納庫から飛び出すと同時にふわりと空中へと舞い上がった。

 

 自分は、幾度か基地に立ち寄り燃料補給を受けて、セダンにほど近いル・ジェンヌの最前線基地までやってきた。

 なにしろスツーカは足が短い。隼ならひとっ飛びの距離も、スツーカでは何度も補給しなければならない。

 航続距離が千キロにみたないというのだから驚きだ。隼が鳥とするなら、スツーカは蚤みたいなものだ。飛行ではなく、ぴんぴんと跳ねてるだけでしかない。

 それでも扶桑陸軍の基地まで持って来させたのは、ここまでの飛行で、スツーカの癖を完全に掴んでおきたかったからだ。

 おかげで熟達したとはいわないが、基地でマニューバの訓練をやった時よりはスムーズにスツーカを操れるようになった。

「こちら扶桑陸軍東部第33部隊所属、初耳あきら少尉。ル・ジェンヌ基地、着陸の許可をこう」

『こちらル・ジェンヌ。西部方面統合軍総司令部より報告は受けている。ル・ジェンヌへようこそ、初美少尉。当基地は貴君を歓迎する』

「感謝する。以上」

 上空を一回りして基地の外観を上空より軽く確認すると、滑るように着陸した。




調べてみてわかることなんですけど、スツーカ、ほんとに足が短いですね。ドイツ(カールスラント)の戦闘機はほとんどがバッタかノミみたいな航行距離なのだから、そりゃほかに必要な性能を全振りできますよなぁ、と思った次第です。

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