くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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すみません遅くなりました。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 四の巻 その八

 計測の結果、どうやら自分たちは東に百キロの森に捨てられたことがわかった。もちろん、真西ではない。北にもズレている。

 自分はとりあえず方位磁針で方向を測ると、三人を連れて基地へと向かうことにした。

 一応、全員腰に大きめの水筒をぶら下げているから水分については補給の必要はないだろう。

 食料に関しても問題ない。アーラが、蛇の捕獲のコツを覚えたのか、短時間で五匹ほど見つけて皮まではいでいたからだ。

「さてと、そろそろ基地に戻るか」

 と、呟いて何の気なしに上空を見上げた。春を迎え、どんよりとした雲も縁遠いものになった。薄い色合いの青空が頭上にはあり、地平線と空の境目には雲が浮かぶ。

 平和な空だ。この時がずっと続けばいいのにと思ったその時だ。

 黒い点一つ直上に現れた。

「全員隠れろ!」

 自分はそう叫び、全員が木の陰に隠れるのを確認して、自分も彼女たちのように身を隠すと、インカムをオンにして声を上げる。

「隊長!」

『確認したわ! 私が迎撃に向かう!』

 ほぼ同時に、隊長の返答がある。

 505基地より東方の位置ならば、人類圏で一応の安全地域だが、こういう状況も考慮して、隊長は万全の準備を整えていた。位置は不明だが、なにかあればすぐに駆けつけられる距離で待機している。

 そして隊長の腕ならば、中型ネウロイぐらい一人で処理できるだろう。普段は指揮に集中しているが、士官になるだけの腕はある。

 ザザッ……と、一瞬のノイズが無線に走り、

『白浜、ここが前線である事を失念したな』

 暗いトーンの声が無線に割り込んできた。その言葉のイントネーションには若干だが侮蔑の色が混ざっている、

『ゴロプ少佐、ここは我々《死神》の領分です。引き退り願いたいのですが』

 なるほど、この声が音に聞こえしミラージュウィッチーズの隊長か。

『我らは共にオラーシャの空を守るウィッチだ。気兼ねする必要などない。フォーメーションユリウス。いけ』

『了解!』

 その声と同時に、黒い点、つまりはネウロイに絡みつくように何人かのウィッチが攻撃を仕掛けていく。瞬く間に白く輝く破片が飛び散り、黒い点は砕けた。

『それから、白浜少佐、貴様のブラフはすでにバレてるぞ。《死神》へのキ106の部品の動きは皆無だし、その他必要な書類の提出もない。下手を打ったな』

『やはり慣れないことはするものではありませんね』

『そして本題だ。《くノ一の魔女》、貴様に用がある』

 またか。

「そのコールサインで呼ぶのはやめていただけますか、ゴロプ少佐殿。自分には初美あきらという名前があります」

 このやり取り、これから何度繰り返さなければならないんだろうな。

『こだわるな、《くノ一の魔女》。なるほど、ヴィルケの言う通りか。で、こちらの要件だが、貴様の505への配属を命じる』

「断ります」

 即答する。

「自分はもう少しでアフリカに向かいますし、他にもやらねばならぬことがあります。それに、自分の所属は川股少将からの辞令を持ってのみ変更されます。ゴロプ少佐殿、少将からの辞令はお持ちですか?」

 ゴロプ少佐は、食えない奴だ、と呟いてふん、とつまらなさげに鼻を鳴らした。

「それはともかく、助けていただいたことには感謝します」

『感謝するぐらいなら、505への転属届けを出せと言いたいがな。さて白浜隊長、楽しいピクニックはここで終了だ。履帯付きの大型陸戦ネウロイが、時速十キロでやってくる。明後日にはここまでくるだろう。貴様らの手も借りなければ打破できん。ついて来てもらうぞ』


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