くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 四の巻 その七

 推測航法とは、大雑把に言ってしまえば時速何キロでこの方角に何分飛んだから現在地はここ、と計算で現在地と目的地の位置を割り出す航法だ。

 もちろん、そのためには現在地の緯度、経度の割り出しや星の見方も必要になる。だから、実際は言葉で言うほど簡単なものではないし、そもそも二週間で学べるわけもない。本来ならそれなりの時間をかけて座学を行い、実地訓練を経て身につける代物なのだ、

 だから、こんなふうにいきなり実地訓練から始めるものではないのである。

 

『そうです。時計、地図と六分儀、方位磁石で現在地を割り出すのが基本です。飛行機の場合ですと、移動しながらなのでかなり複雑な計算をやらなければならないのですが、幸い私たちはウィッチでホバリングが可能です。極端に難しいものではありません』

 インカムから、白浜隊長の呑気な声が聞こえてきた。

 気楽に言ってくれる。これが冬だったらいかなウィッチでも凍死してしまう。

 だが、今は春だ。

 雪解けも終わり、春の芽吹きも本格的になったオラーシャの大地はまだ土臭いが、身を切るような寒さはなりを潜め、確実に冬の去る足音は遠ざかっているのがわかる。

 これなら、防寒さえすれば野宿も無理ではないだろう。

「そりゃあ自分も忍びだ。現在地の割り出しや地図の見方は人より長じている自負はある。しかし、いきなり実地研修はなかろう」

 自分は、流石にこれはやりすぎだと抗議した。

 横目に、トーシャが食べられる野草のそばを歩いていたのを見たので声をかける。

「む、トーシャ、その足元の草、灰汁が少なくて食べやすいぞ。若ければ生でもいける」

「お、おう」

 トーシャはしゃかんでその野草を摘み始めた。

「アーラ、足を止めて5メートル前方の地面を注視しろ。飢え死にしたくないならな」

「なにがいますの? 見えませんわ」

「蛇だ」

「え? どこにいますの?」

 びっくりしてあちこちを見回す。

「自分で見つけろ。蛇は大事なタンパク源だ。さっちゃん、右手の木は胡桃だ。秋口には大事なカロリー源だ、覚えとけ」

「どうして少尉まで私をそんな呼び方で」『ぷっ、さっちゃんですか、いいですね。私も今度からはそう呼ぶことにしましょう』

「隊長!」

 さっちゃんは非難の声をあげた。

 可哀想に。

 会った時からそこはかとなく感じていたんだが、さっちゃん、名前に反して幸が薄いんだな。

 と、それはともかく自分達は今、どこにいるかわからなかった。

《死神》の隊員全員が、目隠しで数時間車にて運ばれ、地図と六分儀、方位磁石と簡単な狩猟道具を持たされて森の中に放り出されたのだ。

 自分には座標の割り出しを学ばせ、隊員には自分から実地でサバイバル技術を学ばせる算段なのは明らかなのだが……

「それで隊長、自分たちがいない間、防衛はどうするんですか?」

『505に頑張ってもらっています。普段は私たちが頑張ってるのですから、多少は甘えてもいいでしょう。それから初美さん、ゴロプ少佐にはキ106は全損してしまい、《迷彩》も望む効果が発揮出来ず役立たずになったと伝えてあります』

「どうしてそんなことを」

 隊長の不可思議な処置に首をかしげる。

『あの人、あれで結構手癖が悪くて強引なんですよ。ラル少佐は手に入るならなんにでも手を出しますが、ゴロプ少佐は、獲物を厳選します。それ故これと決めたらその執拗さはラル少佐以上です』

「つまり隊長は、ゴロプ少佐なら自分をあのヒゲからかっさらえらと睨んでるわけですか」

『やりかねません。そして、貴女をゴロプ少佐に渡さぬためなら、私も多少の強引さは持ち合わせていますよ。加えて、貴女を必要とする部隊や作戦は、これからも沢山あるでしょう。それを考えれば、ゴロプ少佐ごときに独占させていいものではありません』

 ほう、なるほど。会った当初は自分を独占しようと考えていたが、あれから一週間たってそれを変えたか。

『私たちが独占すべきです』

 変わってない。

「相変わらずか。さっちゃん、そこで止まれ。前をよく見ろ、ウサギがいるぞ。スリングの使い方は教えたな」

「だからさっちゃん呼ばわりするなであります」

 文句を言いながらも、足元の小石を拾ってスリングを構え、放つが、小石はウサギの耳をかすめて飛んで行ってしまった。

 うさぎは慌てて逃げていき、すぐに草むらの中に紛れてしまった。

「おしかったな。ご馳走を獲れなかったか」

「それで、この蛇、どうするんですの?」

 アーラは蛇の頭を掴み、腕に蛇を絡ませながら尋ねてくる。

「全員注目! 一度だけやるぞ。覚えておけよ」

 顎を掴み、噛んで切れ込みを入れると思い切り引き裂く。腑のついた腹が裂けて、皮もめくれていく。

「ひゃっ」「へぇ~」「うっ」

 トーシャが可愛らしい? 悲鳴をあげ、アーラが感心して、さっちゃんが口元をおさえる。

 まさに三者三様だな。

「よく覚えておけよ。蛇は腑分けに刃物がいらない。簡単なんだ。それがどれだけ重要か今はわからないだろうが、これから撃墜されて自分の足で逃げ帰らなきゃならなくなった時、それでどれだけ助かるか身をもって知ることになる。あと、蛇の肉は意外といけるしな」

 そう言って、未だ暴れる蛇の体を結んで動けないようにしてやると、自分はバッグの中の地図やコンパス、六分儀を取り出して、経度、緯度の観測を始めた。




すみません。何の間違いか、途中の原稿がコピペされてしまっていたようです。
ただいま完成原稿と差し替えました。
大変申し訳有りません。(2018/02/01)

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