せっかくの故郷の味も、まわりのろくでもない食事マナーのせいでロクな味も感じなかったわけだが、とりあえずうんざりしそうな朝食が終わると、正式に自分を他の隊員への紹介となった。
とはいっても、共同で迎撃任務をこなした後だ。語ることはすくない。
白浜隊長は、全員の食事が終わったのを確認すると立ち上がって口を開いた。
「皆さん。私たちは、これまで墜落されても戦場が基地の近くだったので歩いて帰ることが可能でした。ですが今後、505との共同作戦も計画されており、ピクニック気分で帰ってくることが困難になるでしょう。そこで、サバイバル技術の教練をしてもらうために、初美あきら少尉を招聘しました。彼女には、諸事情により推測航法とクロエ戦術も学んでいただくことになりました。二週間と短い時間ですが、互いに協力しあい、ネウロイに死神の鎌の鋭さを教えてやりましょう。では初美さんからも挨拶を」
やれやれ、あまり挨拶は得意ではないのだがな。仕方ない。
自分は立ち上がると、全隊員の顔を見回すと、部隊員三名の視線が突き刺さる。
「えー、先ほどの戦闘では皆さんの協力のもと、クロエ戦術を学ばせていただきました。初美あきら少尉であります。アフリカでの作戦行動のため、急遽推測航法を学ばせていただくことになり、いささか慌ただしくはなりますが。今日から二週間、よろしくお願いします」
そう告げて、自分は頭を下げた。
クロエ戦術に関しては、もう何回か実地で経験して、細かい決まりごとを座学で学べば大体は習得できるだろうか。
そんなに簡単なものではないとは思うが、概要ぐらいならそれで十分だ。なにも完璧にできるようになれ、とは言わないだろう。
問題は推測航法であるわけだが、恐らく隊長自らが教鞭をとることになる。
そんな事情もあり、自分は今ーー
小型ネウロイの群れの中を、《迷彩》を使っての敵中突破に挑んでいた。
確かにネウロイには発見されないだろうが、これはさすがに肝が冷える。
ネウロイの狭間を上下左右に潜り抜け、隊長の指示通り反対側へと抜け出ると、さらに少しばかり飛んで距離を取り、《迷彩》を解除した。
「こちら初美! 目標座標に到達! 攻撃許可を!」
インカムをオンにして隊長へ伝える。
『了解しました。総員、攻撃開始!』
自分と死神の全員が、同時にネウロイへ攻撃開始する。
突然の挟撃に、奴等は一瞬攻撃を中止した。
それは混乱したようにも見えた。単純に優先攻撃目標の選定に手間取ったともとれるが、実際はネウロイならぬわが身には見当もつかない。
だが、そんなことは今はどうでもいい。ひねり出したこのスキを手放すアホなど、《死神》にはいない。
そして、自分も手放すつもりなどない。
引き金を絞り、銃弾の雨を降らせていく。
『こいつは楽しいカモ撃ちだなぁ!』
『カモ撃ちとは、カモに失礼であります』
『雲霞を蹴散らすようなものですわね』
次々とネウロイは撃破されていった。当たれば破壊、そしてその破片がまた他のネウロイに当たればさらに撃破だ。楽しくないわけがない。
が、さすがにこれはうまくいきすぎているな。
「白浜隊長、きついでしょうがもう一度周辺空域の探査をお願いします。自分ならこのスキに、直上か直下から自分たちを襲撃します」
『今、やっています。直上、一機……いえ、これは……』
「どうしたんですか、隊長」
インカム越しに躊躇う隊長の声を聞いた自分は、何事かと隊長に問うが、彼女は沈黙で答えるのみだった。
「隊長?」
再度、返答を求めると、今度は、
『いえ、なんでもありません。ウィッチらしき影を確認しましたが、私が見える範囲のギリギリでした。この辺りを飛ぶウィッチは私たちや505しかいませんから、きっとなにかの見間違いでしょう。それより、下方に中型ネウロイが一機。初美さん、私と合流して迎撃を。残りは小型ネウロイの掃討を継続して下さい」
『『『「了解!」』』』