「初美さん、あなたはひとまず私の直属の指揮下に入っていただきます。クロエ戦術が実際にどのように運用されるのか、見学してください」
「了解した」
ま、当然だな。
「全員、所定の位置へ。敵は小型ネウロイが六機です」
『いつも通りに』
『了解であります』
『任せとけ』
各機が所定の位置へと到着すると、白浜の目が青く輝き、全身がぼんやりと青い魔法光に包まれた。
「アーラ、前方仰角二十度に注視して下さい」
『確認しましたわ、トーシャ、ついてきて下さいまし』
『おうさ』
なるほど……こうやってロッテ戦術で迎撃するわけか。
「人数がいるなら、トーシャの位置にフォローとして別のウィッチが入ると。なるほど」
自分は、魔導エンジンの回転数を上げて、トーシャがいた場所に飛んでいく。
『初美さん!』
白浜少佐が制止しようと声をかけてくるが、
「習うより慣れろと言うだろう、隊長殿」
『なにも知らないウィッチがそこに入っても邪魔になるだけです。戻りなさい!』
「武術をやっていたおかげか、呼吸や間合いを合わせるのだけは自信がある。ロッテ戦術で及第点をもらってるのもそれが一因でね」
そう言って空いたスペースに滑り込み、
「トーシャ、初美だ。お前の位置についた」
『! 隊長!』
『仕方ありません。トーシャはそのままアーラの僚機を。撃破後、フォーメーションをホ番に変更です』
『無茶にもほどがあるであります、初美少尉!』
上川曹長が、無線越しにでも噛み付かんばかりの怒声で非難する。
「簡単な話だ。道理を引っ込ませれいいだろう。なぁ、トーシャ大尉殿」
『お前はもっと慎重な奴だと思っていたよ!』
無線越しにMG42の銃声が飛んできた。
『郷に入れば郷に従え、でしたかしら!』
「その通りだ、アーラ曹長。このまま状況に流されるのも面白くない。それなら好きにさせてもらうさ。これが《死神》流だろう? 隊長殿」
『撃墜されても、フォローはできませんよ』
「それも《死神》流か?」
『人の手が足りないだけです! 幸さん直上です! 初美さんは僚機に!』
「了解!」
その後、自分と《死神》の連中との間に多少の連携の乱れはあったものの、白浜隊長の指揮のもと無事全ネウロイを撃破することに成功し、自分達は基地へと帰還した。
帰りざまその足で食堂へと向かう。何しろ朝飯を食ってないんだからな、自分達は。
「うへぇ、腹減ったぁ」
食堂に着くなり、トーシャは直ぐに食卓テーブルについて、並べられた扶桑料理を箸でかっ喰らいはじめた。扶桑が補給してるだけあって、基本が扶桑式なんだな。
で、朝食の内容はというと、銀シャリと鮭の塩焼き、大根の味噌汁、たくあんか。お茶は番茶と。悪くない。
「大尉は行儀が悪いであります」
と、上川。多分、こいつがこの部隊の良心なんだろうな。一癖ありそうではあるが。
「うっせ、腹減りすぎてめまいしてんだ、ほっとけ」
悪態をついて一心不乱に食いまくる。
「トーシャは本当に下品ですわね」
憮然とした表情でトーシャに向かって非難の視線を投げるアーラは、箸ではなくフォークとナイフで食べようとしていた。
おいおい、ご飯茶碗でフォークかよ、とツッコミを入れそうになるが、皿に盛られた鮭の塩焼きを横にずらしてスペースを作り、そこにどばっと茶碗の銀シャリをのせてしまった。
なるほどそうきたか。トーシャを下品呼ばわりしたアーラも大概下品だな。
ため息をついた上川は、上品な所作で食事を始める。
そんな中、白浜隊長が遅れてやってくると、席に着くなり鼻歌交じりで鮭の塩焼きをほぐし、銀シャリにのせて茶漬けにしやがった。
外務省高官の娘がそれかよ!
「隊長、他の国の人間ならともかく、扶桑人がそれは如何なものかと」
自分はさすがに耐えきれず訴える。いくらなんでもそれはなかろう。まだトーシャの方が上品だ。
「……家で躾けられた反動ですね。こういう庶民の食べ方が好きなのです」
照れた風に言いながら、トーシャのようにかっ喰らい始める。しかもこちらは音付きだ。ちらりと上川を見ると、何かを言いたそうだった彼女は自分を見返して頷き、深いため息をついた。
ああ、わかる。わかるぞ、お前の気持ち。痛いほど理解できた。
恐らく、彼女は隊長に食事マナーについて何度か注意したのだろう。そして、その頑張りの結果がこれだ。
きっと、以前はもっとひどい食べ方で食事していたに違いない。そんな食べ方など想像もできないのだが
黒江殿はこの部隊の隊員に、どんな教育をやったんだ?