くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 四の巻 その五

「初美さん、あなたはひとまず私の直属の指揮下に入っていただきます。クロエ戦術が実際にどのように運用されるのか、見学してください」

「了解した」

 ま、当然だな。

「全員、所定の位置へ。敵は小型ネウロイが六機です」

『いつも通りに』

『了解であります』

『任せとけ』

 各機が所定の位置へと到着すると、白浜の目が青く輝き、全身がぼんやりと青い魔法光に包まれた。

「アーラ、前方仰角二十度に注視して下さい」

『確認しましたわ、トーシャ、ついてきて下さいまし』

『おうさ』

 なるほど……こうやってロッテ戦術で迎撃するわけか。

「人数がいるなら、トーシャの位置にフォローとして別のウィッチが入ると。なるほど」

 自分は、魔導エンジンの回転数を上げて、トーシャがいた場所に飛んでいく。

『初美さん!』

 白浜少佐が制止しようと声をかけてくるが、

「習うより慣れろと言うだろう、隊長殿」

『なにも知らないウィッチがそこに入っても邪魔になるだけです。戻りなさい!』

「武術をやっていたおかげか、呼吸や間合いを合わせるのだけは自信がある。ロッテ戦術で及第点をもらってるのもそれが一因でね」

 そう言って空いたスペースに滑り込み、

「トーシャ、初美だ。お前の位置についた」

『! 隊長!』

『仕方ありません。トーシャはそのままアーラの僚機を。撃破後、フォーメーションをホ番に変更です』

『無茶にもほどがあるであります、初美少尉!』

 上川曹長が、無線越しにでも噛み付かんばかりの怒声で非難する。

「簡単な話だ。道理を引っ込ませれいいだろう。なぁ、トーシャ大尉殿」

『お前はもっと慎重な奴だと思っていたよ!』

 無線越しにMG42の銃声が飛んできた。

『郷に入れば郷に従え、でしたかしら!』

「その通りだ、アーラ曹長。このまま状況に流されるのも面白くない。それなら好きにさせてもらうさ。これが《死神》流だろう? 隊長殿」

『撃墜されても、フォローはできませんよ』

「それも《死神》流か?」

『人の手が足りないだけです! 幸さん直上です! 初美さんは僚機に!』

「了解!」

 

 その後、自分と《死神》の連中との間に多少の連携の乱れはあったものの、白浜隊長の指揮のもと無事全ネウロイを撃破することに成功し、自分達は基地へと帰還した。

 帰りざまその足で食堂へと向かう。何しろ朝飯を食ってないんだからな、自分達は。

「うへぇ、腹減ったぁ」

 食堂に着くなり、トーシャは直ぐに食卓テーブルについて、並べられた扶桑料理を箸でかっ喰らいはじめた。扶桑が補給してるだけあって、基本が扶桑式なんだな。

 で、朝食の内容はというと、銀シャリと鮭の塩焼き、大根の味噌汁、たくあんか。お茶は番茶と。悪くない。

「大尉は行儀が悪いであります」

 と、上川。多分、こいつがこの部隊の良心なんだろうな。一癖ありそうではあるが。

「うっせ、腹減りすぎてめまいしてんだ、ほっとけ」

 悪態をついて一心不乱に食いまくる。

「トーシャは本当に下品ですわね」

 憮然とした表情でトーシャに向かって非難の視線を投げるアーラは、箸ではなくフォークとナイフで食べようとしていた。

 おいおい、ご飯茶碗でフォークかよ、とツッコミを入れそうになるが、皿に盛られた鮭の塩焼きを横にずらしてスペースを作り、そこにどばっと茶碗の銀シャリをのせてしまった。

 なるほどそうきたか。トーシャを下品呼ばわりしたアーラも大概下品だな。

 ため息をついた上川は、上品な所作で食事を始める。

 そんな中、白浜隊長が遅れてやってくると、席に着くなり鼻歌交じりで鮭の塩焼きをほぐし、銀シャリにのせて茶漬けにしやがった。

 外務省高官の娘がそれかよ!

「隊長、他の国の人間ならともかく、扶桑人がそれは如何なものかと」

 自分はさすがに耐えきれず訴える。いくらなんでもそれはなかろう。まだトーシャの方が上品だ。

「……家で躾けられた反動ですね。こういう庶民の食べ方が好きなのです」

 照れた風に言いながら、トーシャのようにかっ喰らい始める。しかもこちらは音付きだ。ちらりと上川を見ると、何かを言いたそうだった彼女は自分を見返して頷き、深いため息をついた。

 ああ、わかる。わかるぞ、お前の気持ち。痛いほど理解できた。

 恐らく、彼女は隊長に食事マナーについて何度か注意したのだろう。そして、その頑張りの結果がこれだ。

 きっと、以前はもっとひどい食べ方で食事していたに違いない。そんな食べ方など想像もできないのだが

 黒江殿はこの部隊の隊員に、どんな教育をやったんだ?


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