くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 四の巻 その四

 その後、自分は一日の休暇を過ごし、朝を迎えて早々のネウロイ襲撃を知らせるサイレンで目を覚ました。

 裸の上にホワイトシャツを羽織っただけという姿だった自分は、取るものもとりあえず、ハンガーにかけてあった扶桑陸軍軍装を羽織って雑に褌を腰に巻くと、ストライカーユニット格納庫へとすっ飛んで行った。

 途中、何人かの兵卒にはだけた胸を見られたような気がするが、気にする暇などない。まずは何よりネウロイだ。

 自分がハンガーに到着すると、《死神》部隊の隊員も集まりつつあった。

「初美、ずいぶん勇ましい格好だな、おい」

 トーシャ大尉が自身のユニットであるMiGi-225に飛び乗りながら言った。

「今はそれどころじゃないだろう!」

「扶桑人はあまり大きくないのが一般的って聞いたけど、隊長といいあなたといい、意外とあるのね」

 屋根下の鉄骨から飛び降りて、自分の右隣にあったMiG60を履いたオラーシャウィッチが言った。

「アリーサ・アレリューヒン空軍曹長よ、よろしく」

「初美あきら陸軍少尉だ」

「アーラでいいわ」

「自分のことは初美だろうがあきらだろうが好きに呼ぶといい」

「少尉、少しは恥じらいを持っていただきたいであります」

 扶桑陸軍のウィッチではよく見られるおかっぱ頭が、左隣の疾風を履きつつ、藪睨みして言ってきた。

「ネウロイは待ってくれないからな。恥じらいなんて捨ててしまえ。どうせ空では誰も見ていない。で、貴君は?」

「上川幸(さち)陸軍曹長であります」

「全員揃ったようですね。本当なら朝食前に顔合わせをしたかったのですが。しかし初美さん、あなた、ほとんど裸ではありませんか?」

 白浜隊長は、やれやれと嘆息しながらハンガーのストライカーユニット出入り口から登場した。かくいう彼女も、自分と同じく半裸で、その美麗な容器に負けぬプロポーションを惜しげもなく披露していた。

 しかし、外務省高官の娘がやっていい格好ではないと思うのだが。

「出撃前のハンガーで初顔合わせも、実に《死神》らしくていいと思いますわ、隊長」

 アーラの言葉はどこか楽しげだ。

「ついでに隊長の格好もな。実に《死神》らしいぞ。な、счастье(シシアーチシィ)」

「その呼び方の方が長くて面倒だと思うのであります、大尉殿」

「可愛いじゃないか、シシアーチシィ」

 言外に、その呼び方はやめろと言われているのに、まるで意に介せずに繰り返すトーシャ大尉。

「しかし、白浜隊長殿。その格好、父上の竹夫さんが見られたら嘆かれると思いますが」

 誰も注意しないので、あえて自分が指摘した。

「! ち、父の名は出さないでいただけますか」

 隊長は素に戻ったのか、途端に顔を赤らめた。そして、襟元のボタンだけをつけて胸元を隠す。

 いや、その方が扇情的だと思うのだが、まさか扇情と戦場を掛け合わせてるのか? そんなわけはないか。

 目を伏せながらつま先だけで跳躍すると、紫電改を履いた。

「《死神》、全機発進!」

 全員が一斉にエンジンを動かした。

 ゴッ、とハンガーに風が巻き起こった。ストライカーユニットが巻き起こす暴風だ。死神たちが巻き起こした、ネウロイへの死をもたらす風だ。

「オラーシャ一番、トーシャ、出る!」

 トーシャの一言と同時に、彼女が発進促進装置から解き放たれ、外へと飛んでいき舞い上がる。

 先頭隊長が離陸すると、彼女を追うように次々と離陸してき、最後に少佐が離陸した。

 木製疾風は、力強く自分を上昇させていく。

 しかし、一昨日聞いた感じだと、この人数ではクロエ戦術は十全な威力を発揮できないんじゃないのか? しかも、相手がこちらのカバーできない範囲での攻撃を仕掛けてきたなら、討ち漏らしも発生するだろう。その漏らしたネウロイはどうする。

 不安を伴った疑問がよぎって止まらない。

「白浜隊長、おそらくクロエ戦術で対応するんだろうが、今のうちに聞いておきたいことがある」

 インカムをオンにして隊長に言った。

『なんでしょう』

「クロエ戦術、欠点がいくつかあるんじゃないのか?」

『……いつ気がついたのですか?』

「今、だ。正確には何か引っかかるものは昨日休んでいる間に感じていた。今、寸前になってその違和感に気づいた、といった方が正しいな」

『そうだ、初美。お前の想像通りの欠点があるが、まぁいい。答え合わせだ。お前の感じた違和感を聞かせてみな』

「まず、《死神》程度の少人数で行う戦術ではないのではないか、ということ。もう一つが、カバーしきれない範囲でネウロイが押し寄せた場合、対応できず鏖殺されてしまう。これはまぁ、どんな戦術だろうと同じだが、恐らくロッテ戦術より対応力に乏しいんじゃないかと考えられる。最後に、これは少人数での欠点だと思うが、撃ち漏らした時のカバーをできる人間が、現状、隊長一人しかいない。以上だ」

 答えると、しばらく沈黙が続く。

『正解です、初美さん。この戦術は十人以上の部隊で行うことを念頭に置かれた戦術です。隊長旗下のロッテが一組必要で、この部隊と、最悪の場合隊長がカバーに入ります』

『どうやって気づいたのかしら。聞かせていただける?』

 アーラ軍曹だ。

「兵法、だな。自分が学んだ兵法の知識が元になった。これが陸地なら、地形が行動を限定して、少人数でもなんとかなるのだろうが、空中にはそれがない。それがきっかけだった」

『おい、隊長、こいつをなんとしてもうちの部隊にねじ込め』

 自分の、アーラ軍曹への返答を聞くや否や、トーシャ大尉は有無を言わさぬ口調で隊長に迫った。

『勿論です。可能な限り努力しましょう』

 やれやれ。


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