くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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この小説はpixivに投稿していたものの再投稿になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 二の巻 その二

 自分は、スツーカの整備が終わったことを整備兵からの連絡で知ると、すぐさま整備室にむかった。そして、整備兵からいくつかの注意事項を受け、テスト飛行を兼ねて何度か急降下爆撃のマニューバの再確認をした。

 背面飛行から急降下、爆弾を投下しつつ水平飛行に移り空域を離れる、一連のマニューバだ。

 スツーカは鈍重なユニットと聞いていたが、噂以上に遅く、重い代物だった。これで空戦ネウロイの追撃を振り切るだの被撃墜率が2%以下だの、不可能としか思えないが現実にやっているウィッチがいるのだから言葉が出ない。

 ともかく、そうやって訓練飛行を繰り返した後整備兵にメンテナンスを依頼すると、作戦要項をまとめて基地司令官へ提出をするために、司令の執務室に向かった。

 

「で、あきらは本気でこの作戦を単独で遂行するつもり?」

 司令は、本作戦概要を一読すると、机の上に放り投げて、ため息とともにそう言った。普段から険しい顔つきだが、この作戦要項を読んだとき、それはさらにきつくなった。

 名を坂井光子といい、階級は少佐。なんでも足柄山の魔女で有名な坂田金時の子孫に当たるという。

 遣欧部隊の一員として活躍したが、二十歳を迎える直前に撃墜され、そのまま退役。前線基地に残り、主計科へ転属。ウィッチ達の精神面でのサポートなどでも活躍し、基地司令に着くと同時に少佐へと昇進した。

「それが自分に与えられた役割です」

「それはわかるのだけど、先のカールスラントのウィッチ救出作戦といい、あきらは単独での作戦行動が多すぎない? 部隊の所属は違うけど、あきらはこの基地の一員。少しはこの基地のウィッチを頼っても構わないのに」

 おそらく、すでに基地のウィッチ達には、何かあれば自分に協力するよう言い含めているのだろう。そういう根回しが本当にうまいのがこの人だ。

「光子さん、自分の固有魔法は、単独でなければ意味がないものです。それに、今回の任務には、506統合戦闘航空団に関する情報の調査も含まれてます。余計な情報に触れて、何かの問題に巻き込まれるかもしれません。申し出は大変ありがたいのですが……」

「まったく、不便なものね。ねぇ、あきら。本作戦が終了したら、この基地本隊に転属してはどう? 所属のウィッチ達も、歓迎すると思う。武術の師範が正式に着任してくれれば、みんなも喜ぶんだけど」

「個人だからできることがあって、その為に自分はくノ一をやってます。申し出は大変ありがたいんですが」

 それを聞いて、坂井少佐はため息をつき、

「残念ね。でも、気が変わったらいつでも言ってちょうだい。歓迎するから」

 少し寂しそうな微笑みを浮かべる。

「了解しました」

「では、初美少尉」

 椅子から立ち上がり、基地司令の顔になる。

「はっ!」

「川股少将に代わり、本作戦を受理する。作戦開始時刻は明日一三〇〇時とする。速やかに作戦準備に当たれ」

「了解しました」

 

 自分は、自室に戻ると作戦に必要なものを、扶桑から持ち込んだ忍び道具から見繕っていた。

 ちなみに、作戦は二段階よりなっている。

 正確には、二つに分けられている、だろうか。

 最初は、セダン周辺並びにセダン以東の高高度からの調査と爆撃。

 その後、バ・ド・カレー周辺基地への転属、調査活動へと移る算段だ。

 さしあたっては、501の活躍も華やかなピエレッテ=アンリエット・クロステルマン中尉と接触をするのが早いだろう。

 彼女が506の隊長、あるいは戦鬪隊長に選ばれる筆頭候補と考えられる。

 最初の統合戦鬪航空団、ストライクウィッチーズに所属し、ネウロイの巣の破壊に多大なる貢献をしたという彼女なら、506の隊長をつとめるための箔も十分だし、広告塔としても相応の働きをしてくれる。

 今は、領地の復興に忙しいはずだが、場合によっては彼女がその役目を引き受けることも考えられる。

 ともかく、現状彼女は復興に忙しいのだから、ウィッチなら誰でもいいから手を貸して欲しいはずだ。そこにつけ入れば、潜入、調査は容易い。

 しかし、謎なのは、なぜ506について探りを入れろと依頼してきたかだ。

 扶桑皇国は、すでにその情報を掴んでいるはずだ。

 統合戦鬪航空団というのは世界各国のウィッチが必要だ。各国政府に協力を要請するため、つまびらかにならざるを得ない。

 なのに、自分にこんな情報を探れということは、506周りで欧州でなにが起きているのかわからない、情報が届いていないということだ。

 とするならば、西部方面統合軍総司令部、あるいは欧州全体の中でなにかしらの思惑が働いているのは確実と言える。

 まさか、あのちょび髭はこの思惑まで探れと言っているのか?いやいや、そんな馬鹿な事はないだろう。

 自分は、嫌な予感を振り払うように首をふると、まとめた忍び道具を背負い袋に入れて、部屋を出るのだった。


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