くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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ミーナ中佐にサントロンへと呼び出されたペリーヌは、エーリカに初美あきらのことを尋ねられ、初めて出会った時のことを語り出す。

2017/11/13 23:40
諸事情により、改稿。一話でおしまいになります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 外伝1の巻

「それで、例の《くノ一の魔女》はどうだったのかしら?」

 サントロン基地司令室、ヴィルケは、迎撃任務から戻ってきたバルクホルンとハルトマンにそう尋ねた。初美の願いも虚しく、旧501のカールスラント組の間ではコールサインの呼び方が定着してしまっていた。

「空戦の技量に関しての評価は、ヨハンナの報告通りで間違いはないと思う。おそらく、501でもやっていけるだろう。それと、特筆すべきは固有魔法だな」

 と、バルクホルンは答える。

「《迷彩》、だっけ? 凄かったよ。急降下してくる音は聞こえたけど、初美がネウロイとすれ違うまでどこにいるかわからなかったもん。多分あれ、エンジン音もある程度は軽減してるね」

 ハルトマンが、身振り手振りで初美とネウロイの交差する瞬間を表現しながら、少しばかり興奮気味に後をついだ。

「戦力としてはどうかしら」

「典型的な扶桑の魔女だな。扶桑刀での戦闘を好むようだ。あてにはなる」

「でも、固有魔法を活かすためにはロッテ戦法は使えないよ。気にしないでいたら、僚機が初美のこと見失っちゃうもん。あれ使ってる間、通信できないし」

「基本、一人での運用を考えないとだめなのね。わかったわ、ありがとう、二人とも」

「再設立するときの501に入れるつもりか?」

「その方向も含めて考えてみるわ。周辺の統合戦闘飛行隊に配属させる線も含めてね」

 

「ということがあったんだよ、どう思う? ペリーヌ」

 食堂、ハルトマンは皿いっぱいのフライドポテトを突きながら、隊長から渡された書類に目を通しているペリーヌに尋ねた。

 ペリーヌは、先日ヴィルケ中佐よりサントロン基地への召喚命令があり、こうしてやってきていた。パ・ド・カレーには、リネットやアメリー、初美がいる。彼女たちになら安心して屋敷を任せていられる。

 ハルトマン自身は、別に501に新規の隊員が増えようがどうでもいいーー楽になるのなら大歓迎ではあるーーのだが、チームの和が崩れるような面倒ごとは避けて欲しいとは思っていた。

 トラブルメーカーなのに、トラブルを嫌うのが彼女だ。いや、トラブルメーカーだからこそ、と言った方が正しいか。

「そうですわね……技術的に問題はないとは思いますわ。人格的には、ちょっと問題あるかもしれませんけど、ルッキーニ少尉に比べれば可愛いものです。私も、できることなら入って欲しいとも思います」

 ペリーヌは、目を伏せ、書類を読みながら自分の感想を述べた。

「じゃあ、入った方が楽できそうだね、やったー!」

 呑気に喜ぶハルトマンだが、それに水を差すようにペリーヌが付け加える。

「ただ、初美さんの編入は厳しいでしょうね」

 書類を読む手を止めて、顔を上げながら言った。

「どうして?」

「実は私、初美さんにパ・ド・カレーに一緒にいて欲しくて、今回の任務が終わっても、継続して義勇兵として派遣してくれないかと扶桑陸軍に依頼したことがあります」

「それでそれで?」

「答えは、許可できない、でしたわ。初美さん、あれでも、私が想像していたよりも扶桑皇国陸軍の重要な位置にいるようで、直属の上官が彼女を手放したくないようなのです」

「そうなんだぁ、ニンジャもきたら賑やかになると思ったんだけどなぁ」

「扶桑陸軍、初美さんへのHMWの招聘も断ったようですし、あの方をスカウトするのは502のラル隊長ぐらいのアクロバットを使わないと無理なんじゃないかしら。ま、それでも許可されるかは怪しいものですけど」

 ブレイブウィッチーズ隊長、グンドュラ・ラルの強引なやり口はそれなりに有名だ。宮藤が501にくる前の年の暮れ、某所で501から503までの隊長(503は戦闘隊長だったが)が集まって、そのことについての会議があったぐらいだ。しかもそのとき、関わったものが後言しなかったため明るみにこそならなかったが、随伴としてヴィルケと一緒にやってきていたバルクホルン、ハルトマン両名を、502の隊員がスカウトするという事件まで起こしている。

「で、どうなの? あきらって。どんな人なの?」

「ん~、そうですわねぇ。責任感があって、気が利いて、何かにつけて尽くしてくれる方でしたわね。いささか短慮なところはありますけど、私、あの方のことは嫌いではありませんわ。ま、第一印象は最悪でしたけど」

「どんなことがあったの?」

「レイピアの指導をしてきたのですわ」

 ペリーヌは、初美との出会いを思い出しながら、その時のことを語り始めた。

 

「なんですの、貴女! やってくるなり、言う言葉が筋が悪いとか!」

 ペリーヌは、同じガリア空軍所属のウィッチが居並ぶ訓練場で、侮辱にも等しい物言いの扶桑人に腹を立てて怒鳴り声をあげた。

 ガリア空軍のウィッチたちは、彼女の突然の雷に驚いて、首をすくめたりその場を離れたりする。

 ガリアをネウロイに占領されてからというもの、ペリーヌはまともに笑ったことはなく、毎日を怒りで満たして過ごしていた。

 それ故、彼女はガリア空軍の中でも浮き気味で、遠ざける者もいた。

「貴女を怖がって誰も言わないから、自分が事実を言ったのですよ、ピエレッタお嬢様」

「貴女、しかも私をその名前で!」

 ペリーヌは歯を食いしばり、爆発しそうな感情を抑え込む。いつもなら、すぐに手袋を相手の顔面に投げつけるところだが、今日の彼女は我慢強かった。

 そう、にやけた顔で言った扶桑人。彼女が初美あきらであった。髷のようなポニーテールの髪の毛と典型的な扶桑人顔。背は一六〇程度といったところか。きている服は扶桑陸軍の軍装で、腰には扶桑刀が下げられていた。

 その扶桑人は続ける。

「レイピアに関しては門外漢ですが、試合は何度も見ているからわかります。顎が下がってます。顎を上げて、視線を地平線に投げるような感じにしないと、相手の全てを見られませんよ、ピエレッタお嬢様。敵の全てを視界に入れる。これは空戦においても重要なことではないのですか?」

 ニヤニヤとバカにした風で長広舌を見せる。

「くぅぬぉ! 一度ならず二度もその名で! もう許しませんわ! 貴女! 決闘です!」

 

「とまぁ、こん感じでしたの。ほんと、最悪でしたわ」

 その時のことを思い返し、ペリーヌは少しばかり気分が悪くなる。今でこそ初美は彼女に親身になって接してくれるが、あの時は本当にひどかった。

「それで、その決闘はどうなったの?」

「完敗でしたわ。勝負以前の問題でしたもの。いいようにあしらわれました。払われ、投げられ、持ち上げられ。しかも、私もあの人も怪我ひとつなし。後で知ったのですけど、あの人、ブリタニアに避難してきた軍人たちに、自分の武術やサバイバル技術を教える教官役だったんですの」

「え、あの人、そんなに強かったんだ」

「初美さん、何でも扶桑に帰ったら、ブシンリュウ、とかいう武術の後継者になるらしいですわ。そんなの、勝てるはずありません。結局そのあと、毎日のように突っかかっては破れ、その度に泥塗れにされましたの。ああまで私をコテンパンにしたのは、後にも先にも初美さんと坂本少佐だけですわ」

「それからどうしたの?」

「どうしたも何もありませんわ。その後、初美さんはそれまでの功績を認められて、ブリタニアの女王陛下から騎士の称号を賜り、私は坂本少佐と出会って501に参加」

「え、騎士だったの?」

 さしものハルトマンもこれには目を丸くして驚いた。爵位を持つ貴族よりも、騎士の方が少ないかもしれないのだから、当然といえば当然なのだが。

「そうですわ。あの時はどうしてあんな人が騎士の叙勲をうけるんだー、なんて思ったものですけど。なんでも初美さんはその後、ブリタニアの陸戦ウィッチの教官として士官学校に教官として招かれ、しばらくそこで武術を教えて欧州本土に向かったそうですわ」

「そんなことがあったんだ……」

「で、去年の終わり頃、《フレイアー作戦》より少し前に《ぎっくり腰》作戦が発令、初美さんはそのためにブラウシュテルマーの偵察任務、そのまま同作戦に参加して、パ・ド・カレーに義勇兵として私の元にやってきた、とまぁ、こんなところかしら」

 その後の顛末を大雑把に説明した。

「そんなに嫌いだったのに、どうしてあきらのこと認めるようになったの?」

「それはまぁ、色々ですわ」

 初美に教えられたことがきっかけで、とか屋敷の一件を説明する気にはなれない。

「色々あったんだねぇ。んじゃ、お芋たくさん食べたし、昼寝するよ〜」

 そういって食堂を離れるハルトマン。皿いっぱいのフライドポテトは、いつの間にか全て無くなっていた、

「あんなにあったのに、いつの間に……」

 呆然として呟くペリーヌ。

「それにしても、ストライカーユニットの整備基地の変更の確認書類なんて、いつものように郵送していただければいいのに。なんで今日に限ってサントロンまでこなきゃならなかったのかしら」

 彼女が、初美の企てに乗せられたと気がつくのは翌日、屋敷に帰ってからのことである。


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