バルクホルン大尉にネウロイ撃墜の感謝を伝えるため、空中で停止している二人のそばに飛んでいく。
「バルクホルン大尉」
自分の呼びかけに、バルクホルンはすぐに反応して、隣でぼやいているハルトマン中尉を放っておいて自分をみる。
「ん、貴君が初美少尉か。協力を感謝する」
「いえ、こちらこそ感謝いたします。ペリーヌのいぬ間にパ・ド・カレーに被害を出しては騎士の名折れですからね」
「ペリーヌから話は聞いてるよぉ~、ネウロイを攻撃した時、あきらの姿がはっきり見えなかったけど、あれが固有魔法の《迷彩》ってやつ?」
いきなりフランクにハルトマン中尉がきいてくるが、悪い気がしないのは人柄があってのことだろうか。
「はい。これを使っている限り、そう簡単にはネウロイに発見されません。まぁ、欠点として通信もできなくなりますが」
「電波の類いを特殊なシールドで遮断しているのか。だからネウロイに見つからずに攻撃できたわけか」
と、バルクホルン大尉。理解が早いな。
「そういうことです」
「あきらちゃーん、そっちは大丈夫~?」
佐東は随分のんびりと飛びながら言ってきた。
「准尉のおかげで無傷だ。准尉は無傷か?」
「当たり前だよ~、あんなの相手に怪我してたら夜間哨戒なんてできないよぉ」
自分の隣にホバリングする。
ま、そういえばそうだよな。無事なのか訊くのは失礼か。
「そういえばそうだったな、すまない。バルクホルン大尉、彼女は扶桑陸軍の佐東健子准尉で、パ・ド・カレーにおける自分の後任になります」
簡単に佐東の紹介をすませてしまう。
「佐東健子准尉です」
陸軍式の敬礼をする。まぁ、流石にそれぐらいはやるか。
「彼女が、パ・ド・カレーにおける自分の後任になります。いささか長く勤めることになるかと思われますので、何かあった時にはよろしくお願いします」
「了解した。ペリーヌのことはよろしく頼む。戻るぞ、ハルトマン」
「ほーい、んじゃ、またねー」
バルクホルン大尉とハルトマン中尉は、早々に基地へと帰投する。まぁ、足が短いからな。早々無駄な飛行はしていられないんだろう。
「では、自分たちも戻ろうか」
「は~い」
案外、ハルトマン中尉と性格が合うのではなかろうか、と思いながら自分たちもこの空域を後にするのだった。
自分と佐東は、あれからすぐに邸宅にもどり、領民たちの手料理による、ささやかなながら日頃の感謝を込めたパーティの準備を手伝った。屋敷の修繕もわずかながらでも進み、応接室も数日あれば使えるようになるところまできた。
ペリーヌがサントロンから戻ってきたのは翌日の昼ごろで、領民達は多少慌てはしたものの、ジャンポールさんと一緒に彼女を出迎える。
ペリーヌは、唐突な彼らの出迎えと宴に驚き、どういうことかと執事に尋ねたり自分に詰め寄ったりしたが、それもエルマン氏の日頃の感謝の言葉で解決した。
というより、ペリーヌが大泣きして、話が出来ない状態になってしまった。
ペリーヌが落ち着いたところで宴は始まった。酒の入らないものではあったが、宴は賑やかに進み二時間ほどで幕を閉じた。
翌日、自分はペリーヌに八つ当たりじみた説教を小一時間ほどされ、その後で自分のここでの役割が終えたことを報告。そのまま佐東に引き継ぎをしてパ・ド・カレーを離れる。
葡萄畑の上空を飛行した時、領民達は木製疾風で後にする自分を大声で見送ってくれた。
自分は、大きく宙返りをして返答の代わりとすると、加速して次の任地へと飛んで行ったのだった。
これにて、三の巻は終了です。おつきあいいただきありがとうございます。
四の巻は短くしたいなぁ、と思いつつ。