くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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この小説は、pixivに投稿したものの再掲載になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 三の巻 その十六

 ジャンポールさんは、自分の話をバカにせず、熱心に耳を傾けてくれた。

 その上でしばし熟考する。

 そりゃそうだろう、自分が提案し、やろうとしていることは、世が世なら領民達はなにをされても仕方のないことなのだ。

「ふむ、確かに初美さんのおっしゃるプランなら、お嬢様の気もいくらかは晴れるでしょう」

 だが、その事を無視して、自分の計画に賛同してくれた。最大にして最難関と思っていた問題があっさりクリアされ、若干の拍子抜け感はあるが、そんなことは些細な話だ。

「しかしそうすると、リネットさんやアメリーさんにも話を通しておかないといけませんね。そちらは明日、私がやっておきましょう。初美さんは、領民の皆さんにご説明をお願いします」

「それでは、ジャンポールさん……」

「ただし、屋敷は今、あまり大人数を招ける状態ではありません。人数は十人ほどにさせて下さい」

「ええ、それは仕方ありません。彼らにもそこは我慢してもらいます。ですが、お願いをした身でお尋ねするのも失礼かと思うのですが、こんなことをして本当にいいのですか?」

「かまいません。お嬢様の気が少しでも晴れるなら、その方が重要です」

 そう言われて、自分は胸をほっとなでおろした。さて、この計画のためには、できれば一日ほどペリーヌには外出してもらわなければならないわけだがどうするべきか。

 やはり、軍務としてしばらく出かけてもらうのが楽なのだが、自由ガリア空軍とは生憎っていうとはない。となると、501になるわけか。こちらにも知り合いのウィッチはいないが、《クバンの獅子》ことヨハンナ・ヴィーゼ少佐とは面識があり、彼女はバルクホルン大尉と懇意の仲と聞くし、ヴィルケ中佐とも顔見知りだという。それならば……。

 

 翌日、自分は無線でスコルツェニー中佐に連絡を取った。作戦進行について定時連絡の必要はないため、状況の変化があったときのみ連絡を入れれば良いことにはなっていた。

 だから、今までスコルツェニー中佐には一度も入れていなかった。

 しかし、今回の一件ではヴィーゼ少佐と話をして伝手を作らなければならないので、まずスコルツェニー中佐と話をつけて、ヴィーゼ少佐の所在を聞かなければならない。

 そのために、自分はペリーヌが哨戒のために邸宅を出計らっているうちに、執務室の無線を使わせてもらうことにした。

 なにはともあれ、スコルツェニー中佐に連絡を取るためだ。

 現在、中佐は西部方面統合軍作戦司令部直属のはずで、司令部にいると思われるのだがはたして。

「こちら《くノ一の魔女》、西部方面軍作戦司令本部、応答されたし。こちら《くノ一の魔女》ーー」

 まったく、あの中佐め。こっぱずかしいコールサインをつけてくれたものだ。おそらく、これで自分のコールサインはここには登録されてしまっているはずで、今後は何かにつけてこう呼ばれるのだ。若干気が重くなる。

 呼び出してすぐに、むこうは返してくれた。さすがだな。

『こちら西部方面統合軍作戦司令本部。《くノ一の魔女》のコールサインを確認した。スコルツェニー中佐から連絡は受けている。すぐに中佐を呼び出す』

 若い男性の声で、若干声がはっている。新人だろうか。

「よろしく頼む」

 そうやって呼び出すと、スコルツェニー中佐は数分とかからずに出てきた。

『待たせたな、《くノ一の魔女》』

「スコルツェニー中佐、お久しぶりです。それからこのコールサイン、どうにかなりませんか」

『ムリダナ』

 どこか平坦な発音だ。

 JFW.O.Aのエイラの真似だろうか。

「中佐……」

『こほん、うん、久しぶりだ。そちらの情勢はこちらに流れてきてるよ。初美くんもよくやってくれているようだね』

「たいしたことはしておりません、畑いじりをさせていただいているだけです」

『そういうことにしておこうか。で、わざわざきみのほうから連絡を入れてきたということは、そちらで何か動きがあったのかな? それとも、何かお願いでも?』

「ありていに言ってしまえば、後者です。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐か、それが無理ならヨハンナ・ヴィーゼ少佐に連絡を取りたいのですが、現在の配属先を教えていただけないでしょうか」

『ほう。西の狼と連絡を取りたいということか。いよいよきみも統合戦闘航空団に入隊を希望する、ということか。いや、感心感心』

「仮に自分が入隊できたとして、あのヒゲメガネが自分を手放すと思えますか?」

『それこそありえないな。彼は君を抱え込んでま手放したくないようだからね。もてる女はつらいものだ』

「あんなのにもてても嬉しくはありません」

『ふ、はははっ! 君もひどいな』

「ヒゲメガネの相手は中佐にお譲りしますよ」

 だいたいにして、むこうは妻子持ちなんだがな。

『それは私も御免こうむるかな』

 ひと笑いして彼女もひどいことを言った。

『で、どうしてきみがミーナと連絡を取りたいのか、理由を聞いてもいいかね?』

「ペリーヌ……ああ、クロステルマン侯のため、とだけ言っておきます」

『なるほど。彼女に気に入られたというのはどうやら本当のことのようだ。さすがはくノ一といったところかな?』

「最初は胡散臭そうに見られたりしましたけどね。で、どうなんですか?」

『うん、それはこちらで手を打っておこう。この通信が終わり次第、すぐにでも電話でそちらに連絡が入るはずだ。彼女、今は事務仕事に圧殺されそうになっているだろうからね。いい紛らわしにもなるだろう』

「中佐は事務仕事、大丈夫なのですか?」

『無論、私も書類に圧殺されそうだよ。私もいろいろやることがあるからね。君との会話はいい気分転換ーーっと、わかった。すぐに対応する。すまない、初美くんとの楽しい会話もここまでだ。呼び出しを受けた。ミーナ中佐の件はすぐにでも対応しよう』

「よろしくお願いします、スコルツェニー中佐」

『うん。それから最後に、きみ、私のことも階級抜きのファーストネームで呼んでくれないか? どうにも堅苦しくていけない。私の部下にもそう呼ばせているんだ』

 つくづく自由人だな、この中佐は。

 フォローしているだろう部下はさぞ苦労しているだろうな。

 しかし、私の部下にも、か。自分のこともその扱いにしたいのだろうか。

「了解しました、オティーリアさん」

『んん、さん付けか。まぁ、今はそれでいいか。では、失礼する』

 そうして、スコルツェニー中佐ーーオティーリアとの無線のやり取りは終了した。

 さて、次はあのディートリンデ中佐か。


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