くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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原隊の指揮官より、直接指令を受けた初美。
その内容は、昨日開放がなったガリアのセダン周辺の強行偵察であった。
セダン。そこは、第506統合戦闘航空団、ノーブルウィッチーズの拠点がおかれる場所。
初美は、この指令の裏にきな臭いなにかを感じるのであった。



この小説はpixivに投稿していたものの再投稿になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 二の巻 その一

「高高度からのネウロイ支配地域の偵察、ですか」

 自分が、扶桑陸軍欧州派遣部隊本部無線室にて、所属部隊である東部第33部隊の川股少将より直接指令をうけたのは、朝の鍛錬を終えて風呂に入ろうかというところだった。

『場所はガリアのセダン。501の活躍によりガリアは解放されたが、ネウロイの残存勢力はいまだ侮れない数が存在する。つまり、少尉の任務はそれらの調査とブラウシュテルマーの確認、並びに可能ならブラウシュテルマーの破壊になるわけだ。これは西部方面統合軍総司令部からの要請でもある』

「その作戦、くノ一少尉のウィッチ一人に任せるには随分と責任が重大ではありませんか、少将殿。それにブラウシュテルマーの破壊は、自分には不可能です」

 調査はともかく、ブラウシュテルマーの破壊までは無理だ。これは爆撃ウィッチの本分であり、偵察を主たる任務とする自分にやらせるような任務ではない。

 おまけにその場所がセダンときた。

 第506統合戦闘航空団の基地の候補地じゃないか。確かに自分は、欧州の政治情勢の調査の為に派遣された部分はあるが、それは枝葉の部分であって、木の幹の様子を探れと言われた覚えはない。

 契約外もいいところだ。

『耳が早いな』

「感心しないで頂きたいであります。事はくノ一一人でどうにかなる程単純ではありません」

『破壊は不可能かね』

 言外に、506に探りを入れるのは不可能か、と言っているのだ。

「少将、わかってて言ってるのではありませんか? 」

『いやまぁ、そうなんだが……』

 聞こえてくる声色は、明らかにしょげていた。

 黒縁メガネのちょび髭が肩を落としている様を思うと、なにやらこちらが悪いことをした気分になってくる。

 せめて、ブラウシュテルマーの破壊だけでも請け負う事としよう。

「了解しました、川股少将。本作戦は、初見あきら少尉が受命するものであります。ただし、こちらからも条件があります」

『やってくれるか! で、条件とはなんだね』

「カールスラントのある基地から、Ju87、スツーカの貸し出しを依頼したくあります。あの基地なら、無くてもどこからかかっぱらって持ってくるはずであります」

 自分のセリフを聞いた時、無線の向こうから喉の奥の笑い声が聞こえてきた気がする。あのちょび髭、自分の都合のいいように解釈したか。

 

「こちらが、スツーカとその受領書になります」

 カールスラント空軍の輸送兵が、書類をこちらに渡しながら継げた。

「貴重なユニット、お貸し頂き感謝致します」

 自分はそれにサインし、手渡す。

 カールスラント空軍のトラックに乗せられたスツーカか届いたのは、川股少将とのやりとりがあってから三日たった日の昼頃であった。

 そもそも爆撃隊がないあの基地に、スツーカを融通させるのは相当な無理難題だったらしい。

 自分のところに、スツーカの手配は無理だ、と直接電話を入れてきたぐらいだ。

 ところが、自分が西部方面統合軍総司令部よりうけた作戦内容を聞くと、すぐに手のひらを返し、二つ返事で引き受けてきた。

 どうやらあの基地の上層部は、506に関する情報に近いところにいるらしい。

「それから、こちらはジークリンデ少尉からのプレゼントです」

 菓子の小箱を差し出してくる。

 はて。

 既に彼女からは御礼の銃をもらったのだが、と首を傾げながら受け取る。

「では、作戦の成功をお祈りしております」

「ご厚意は無駄に致しません」

 引き取りが終わると、すぐに整備兵がやってきて荷下ろしと整備を開始する。

 さてはて。

 ジークリンデからのプレゼントか。

 鬼が出るか蛇が出るか。くわばらくわばら。

 

 自分の部屋に戻り、小箱を開封するとカールスラント製のクッキーがあった。高級品ではないが、そこそこに名の知れたところのもので、一度食べてみたいと思っていたものだ。

 そして、その小箱の蓋の裏には、折り畳まれたペーパーが一枚貼り付けられていた。

「これは……」

 それを手に取り広げてみると、それには506についての人選が現在行われていること、ただし、爵位持ちのウィッチのみとなっていて人選が難航していることが書かれていた。

 具体的な人名はあげられていなかったが、ホルダー持ちのウィッチなどたかが知れている。それぐらいは自力で調べろ、ということだろうか。

「それにしても……どういうことだこれは」

 足の引っ張り合いがおきていて、そこに扶桑を入れて力を削ごうとしているということか?

 それに、こうなると今回の作戦も途端にきな臭くなる。

 おまけに、統合総司令部内での派閥争いはもちろん、戦後の欧州における主導権にも関わってくるだろう。

 本当にくノ一一人に任せる任務じゃなくなってきたな。


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