「扶桑皇国陸軍欧州義勇兵所属、佐東健子准尉です。昨晩はご迷惑をおかけしました」
執務室に着くなり、佐東が開口一番発した言葉がこれである。珍しく、きびきびとした言葉遣いに驚き、思わず彼女の顔を見てしまう。
「怪我はありませんの?」
ペリーヌは、墜落について文句を言うよりもまず先に、無事かどうかを確認した。家屋に被害がないのだからというのもあるのだろう。
「はい、もちろんです。ネウロイに撃墜されたわけじゃなくて、ちょっとへまをして墜落したぐらいなら怪我なんてしませんよぉ」
へらへらと笑いながら答える。
どうやら、真面目だったのは最初の一言だけだったようだ。すぐ普段通りに戻ってしまった。緊張感があるのかないのか……。
「そ、そうですの。それで、これからの予定は?」
佐東は、扶桑皇国のウィッチでは珍しい性格なので、ペリーヌは少々面食らってしまったらしい。
彼女の表情は、まさに鳩が豆鉄砲を食ったようだった。
「とりあえず昼まで酒が抜けるのを待って、午後には帰らせるつもりだ。佐東、鹿の解体はできたよな」
と、自分が今後の予定を説明する。
「あきらちゃんにたたき込まれたから、やりたくなくてもできるよぉ」
ほんと一言多いな、こいつは。肝っ玉の太さでは、あの基地で一番なんじゃないか?
「中庭に下げてあるから、昼までにやっておけ。それがおわったら基地に帰投。それから、人前ではあきらちゃん禁止だ」
「了解したよ、あきらちゃん。それじゃ、解体してくるねぇ」
そういって、まるで蝶のようにふわふわとした歩き方で出ていった。
禁止と言ったそばからこれである。
「すごい方ですのね、佐東准尉」
「ああ見えて、哨戒の腕はいいんだがなぁ」
腕を組んで、うーんとうなってしまう。
「ペリーヌならわかると思うが、自分は506の隊長が本決まりになる少し前、おそらく一ヶ月後にはここを離れることになる。そのあと、あいつを自分の後釜に据えようとおもっていたんだが、どう思う?」
「あの方、腕は確かですのね?」
「哨戒任務においては、昼夜問わずに折り紙つきだ。あいつ一人で二人ぶんの働きはする」
断言した。
佐東は、エースウィッチで戦闘技術も標準以上のものは持っているが、それ以上に哨戒がずば抜けていた。
生来目の良さも一因なのだが、とにかく観察力が常人離れしていた。
目付けのよさが並外れている。
どうやら、固有魔法のおかげでもあるらしいのだが、本人があの調子なのでどんな固有魔法をもってるのか、本人もまわりもまったくわからないのだった。
「ただ、酒癖がな。酒乱ではないんだが、妙に気が大きくなりすぎて、色々盛大なポカをやりがちなんだ。で、営倉入りを何度かやらかして、次にやったら厄介払いにどこかのJFWに放り込むとか言われててなぁ」
「はぁ……JFWを問題児の矯正施設か何かだと勘違いなさってませんこと?」
こめかみを抑えながら言った。
「イェーガー大尉とルッキーニ少尉を思い出すか」
つい、喉の奥で笑ってしまう。
「宮藤さんやエイラさんもです! まったくもう」
「それで、どうする? 合格なら早々に扶桑陸軍へ所定の手続きを要請するが。まぁ、一度会っただけじゃ判断はできないだろうが」
「合格ですわ」
「は?」
即答に言葉を失う。
「ですから合格と言ったのです。初美さんの眼鏡にかなったのでしょう?」
「確かにそうだが、いくらなんでも即決にすぎないか?」
「性格はその次で構いませんわ。パ・ド・カレーには、復興を手助けしてくれるウィッチが必要です」
そんなことを言っていると、仮にウィッチが集まったとしても502のような愚連隊みたいになるぞ。
まぁ、ペリーヌなら存外、まとめられるような気もするが。というより、予定されている506のウィッチに比べたら、大抵のウィッチは御し易いか。
「わかった。ではその旨を連絡しておこう」
自分は、そう答えて所属基地へ無線で連絡を取るのだった。