「それで、《ぎっくり腰》作戦はどの様な内容でしたの?」
クロステルマン侯は、自分を連れて執務室を離れ、最初の案内先に連れていく途中の廊下でそう尋ねてきた。
外では、職人達が館の補修や改築を少しずつ進めておりーー自分の館よりも、領民達の家屋や畠の復旧を優先させているのだそうだーー石を削るノミの音や、木材の加工の音が響いている。
作戦内容まで機密情報になっているわけではない。自分は、彼女の質問に答えることにした。
「セダンより東に存在したブラウシュテルマー5基の破壊と、ネウロイの殲滅です。空戦ウィッチは自分を含めて20、陸戦ウィッチ10、スツーカ隊6、合計36名のウィッチによる一大奪還作戦でした。総指揮官は、《欧州一危険なエクスウィッチ》ことオティーリア・スコルツェニー中佐、戦闘隊長は《クバンの獅子》ヨハンナ・ウィーゼ」
それを聞いて、クロステルマン侯は足を止めた。自分も立ち止まって、
「スコルツェニー中佐に《クバンの獅子》まで引っ張り出してくるなんて、総司令部もかなりこの作戦を重要視していたのね。いえ、この場合はカールスラントが、というべきかしら」
腕を組んで考え始めるクロステルマン侯。うつむき加減に右こめかみをトントンと、人差し指でつつきながら思考をまとめていく。
「ええ。ウィッチの国籍も、ブリタニア、ガリア、カールスラント、リベリオン、ロマーニャ、扶桑と多様で、空戦ウィッチの陣容を見てみると、さながら大規模な統合戦闘航空団の様相を呈していましたね」
「カールスラントとしては、戦後の欧州での事も考えると506での立場を強いものにしておきたい。ということは、《ぎっくり腰》作戦は506でのカールスラントの立場を強くするため、ということかしら。でも、そうなるとブリタニアはこの事をどう思うのでしょうね」
「こころよくは思わないでしょう」
「……デイム初美、あなた!」
侯爵は、そこまで思い至るとはっとして自分の顔を見た。自分がここまできた理由の一端に、おそらく気づいたのだろう。
さすが!
自分は思わず心の中で喝采した。
それでこその侯爵だと感嘆した。
ブリタニアに逃れていた頃の、荒んでいた彼女とは大違いだ。
今のクロステルマン侯ならば、扶桑皇国よりも自分をうまく扱えるのではないかと、そう期待させてくれる。ガリア救国の英雄とも言われるだけのことはあったわけだ。
501での経験は、そこまで彼女を育てたということなのか。
「さすがは侯爵閣下。恐らく、侯爵がたどり着いた答えは、ほぼ正解でしょう。騎士として忍びとして、この初美あきら、侯爵にお仕えしたくなりました」
騎士として、扶桑撫子として、深く頭を下げる。
「およしなさい、デイム初美」
「しかし、その慧眼。ブリタニアの頃の侯からは考えられないほどです。この初美、ほとほと感服つかまつりました」
「では初美。あなたの目的は」
再度確認をせまる侯爵だが、たとえそれが正解だとしても、自分はそれを教えることはできない。
「それは教えられません。ですが、自分は侯爵閣下のお役に立ちたいと本気で思っております。それを証明しろとおっしゃられるのならば、ケルトの風習にならい、侯爵に
「そう。まぁ、いいでしょう。貴女がそこまで言い切るのなら、そういう事なのだと納得することにしましょう。答えは、506が結成された時にわかることでしょうから。さ、まずは食堂に案内いたしますわ」