くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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この小説はpixivに投稿していたものの再投稿になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 三の巻 その三

 クロステルマン侯は、自分とのやりとりを終えてから直ぐに二人を招き入れた。どうやら、二人を外で待たせていたらしい。

「こちらがアメリー・プランシャール軍曹で、こちらがリネット・ビショップ曹長」

 招き入れた二人を自分に紹介する。

「アメリー・ブランシャールです。よろしくお願いします」

「初めまして、初美少尉。リネット・ビショップです」

 二人は、クロステルマン侯と違っておしが強いわけではないらしい。

 階級はこちらのほうが上だが、自分は侯爵のところに押しかけてきた立場であり、今は軍籍を一時的に離れ、客文として訪れている状態なので、立場としては二人の方が自分より上になる。

 自分は、左足を後ろに引き、右手を心臓の上に置いて、

「扶桑皇国陸軍少尉、初美あきらです。少しの間ですが、お世話になります」

 と、いわゆるカーテシーという作法で挨拶を返した。

「見事なカーテシーですわね、初美さん」

 クロステルマン侯にしては珍しく、他人を褒めた。少しばかり自分を見直したのだろうか。それとも、ブリタニアにいた時の彼女とは違う、ということだろうか。

「ありがとうございます。騎士を叙勲してから、マナーはそれなりに学びましたが、その甲斐もあったというものです」

 自分が答えると、クロステルマン侯は自分を二人に紹介し始めた。

「彼女には、本日より義勇兵としてパ・ド・カレー復興をお手伝いしていただきます。初美はブリタニアにいた頃、ブリタニアに撤退したウィッチ達にサバイバル技術と扶桑武術を教練した功績で、ブリタニアの女王陛下より騎士の称号を賜りました」

「凄い、本当なんですか? 初美さん」

 と、リネットが感嘆する。

 続いてアメリーも、

「騎士ですか、初めて見ました……」

 目を丸くしていた。

 今が中世の時代ならともかく、現代において騎士の叙勲はそれなりに珍しい事なのだ。しかも自分の場合、名誉叙勲としての騎士ではなく、軍事的な功績による、武官としての騎士の叙勲の側面もあるのだからなおのこと珍しいだろう。

 そのこともあって、ブリタニアから扶桑へ、自分のHMW、通称グローリアスウィッチーズへの編入を要請されたとも聞く。

 ただ、扶桑としても忍びの技術を持ち、わずかながらでも扶桑皇国の機密情報に関わる仕事をしていたウィッチを手放すのは、国防上の大問題であったようだ。

 これが統合戦闘航空団への編入であったならともかく、HMWへの編入はブリタニアの独断運用が前提のため扶桑皇国の意思が介入することは困難だ。そんな部隊へ、自分を派遣するというのは、なんとしてとも避けたい事態だったに違いない。

 ともあれ、他人に自分が騎士だなどと名乗ることは滅多にないし、そう紹介されることもほとんどない。だから、二人の感嘆は少しばかりの自分の顕示欲を満たしてくれたわけだが。

「ま、騎士とは言っても、中身は扶桑のウィッチなんですけど」

 人がいい気分でいたのに、一言多いな、この侯爵は。

 彼女の台詞を聞くと、二人はああ、と異口同音に納得した。

 そして、騎士を見る時の憧れめいた視線を、無理無茶無謀の三無(さんない)ウィッチを見る時の、あの何か哀れむようなそれに変えていた。

「はは……偉大な先達に負けないよう頑張っているつもりではありますが」

 これには流石に苦笑をこらえる事が出来ない。

 両名とも、坂本少佐や宮藤軍曹、あるいは角丸さんをそばで見てきたからなんだろうが、あの人たちと自分を一緒にしては向こうに失礼だ。

 あと、自分はそんな無理なことはしていない。

「ともかく、お二人とも自分のことは、階級や騎士のことなど気にせず、初美でもあきらでも、好きにお呼びください」

「私のことはリーネって呼んでください。あきらちゃん、よろしくお願いしますね」

「アメリーって呼んでください、初美さん」

「よろしく、リーネ、アメリー」

 自分は、そうやってお互い同士挨拶と自己紹介を握手とともに交わすが、

「うわ、どうしたんですか、その手」

 その時、リーネが自分の指が女の子なのに節くれだってしまっていたのを見て、声色を変えて驚いた。ウィッチは基本的に眉目秀麗であるし、それは指先にも同じことが言えるわけだが、自分の指は例外的にゴツゴツしている。

「あ、ああ、これですか。自分はウィッチの力が発現する以前から武術の修行をしていました。その結果、と思って下さい」

 自分は、ウィッチである前にくノ一としての修行を始めていたので、指はもとより膝や肘なども普通のウィッチと違い、醜く黒んだり変形したりしていた。

 ウィッチの力が発現してから武術の修行を始めていたなら、それによって得られる基礎体力や身体能力の向上、あるいはシールドの存在によって、武術の修行程度でこのように体を変形させてしまうことはなかったのだが。

「顔合わせはその辺でいいでしょう。初美さん、屋敷を案内しますわ。とはいえ、まだ半壊状態ですけど。リーネさんとアメリーは、予定通り哨戒を」

「「はい」」

 二人はそう返事をして執務室を出て行く。

「では、ついてきて下さい、初美さん」


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