くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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《ぎっくり腰》作戦を終えて、初美はそのままパ・ド・カレーに向かう。
スコルツェニー曰く、そこにいるだけでいい、ということだったのだが果たして……


この小説はpixivに投稿していたものの再投稿になります。


くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 三の巻 その一

 パ・ド・カレーは行政区分としてはノール=パ・ド・カレーに属し、ガリアの最北部にある地域である。

 ノール=パ・ド・カレーは、本来工業によって立つ地域だが、パ・ド・カレー自体は、例外的に農業、とくにワインの産地として著名であり、同時にカレー港は重要な旅客港であった。

 そこの現領主であるピエレッテ=アンリエット・クロステルマン――ペリーヌ・クロステルマン中尉の爵位(タイトル)は侯爵。

 領地さえネウロイに奪われなければ、あの肥沃な土地がもたらす富と港湾施設の収益は莫大なものであり、ウィッチとしての彼女のありようも今とは大きく異なっていたのではないだろうか。

 今は、復興のために身を粉にして働いているとのことだが、とにかく被害が甚大で、人手はいくらあっても足りたものではない。

 そんな事情もあり、なんであれウィッチの力は必要で、自分はそこへ義勇兵として向かうことになっている。軍籍などの問題は上の方で解決していて、自分は一時的に扶桑陸軍を離れ、現地へ赴く手筈だ。

 こういう事情もあり、本来ならストライカーユニットの貸与はありえないのだが、自分の場合、木製疾風という誰も使いたがらないユニットなので、ありがたいことにそのまま自分が利用していいことになっている。

 まぁ、義勇兵に来ました、ユニットありませんでは格好がつかないしな。このあたりは扶桑陸軍の面子もあるのだろう。

 ともかく、《ぎっくり腰》作戦の報告書をしたため、昼を迎えた今、こうしてパ・ド・カレーに向かっている最中だった。

 それにしてもだ。

 作戦後は、多少の休暇をもらう予定だったが、ウィーゼ少佐が握りつぶし、自分に徹底的な地獄の訓練を叩き込んできたのには苛立ちを抑えきれなかった。そんな自分の考えなど無視して訓練を強いてきたあたり、どうやらそうとう彼女を怒らせてしまったようだった。それはとにかく徹底していて、基本マニューバやロッテ戦術の一から十まで叩き込まれる始末だ。

 大川少尉も日頃から自分に言いたいことがあったのだろう。模擬戦の際には、ウィーゼ少佐と一緒になって自分を追い立てにきたのだからたまらない。

「まったく。あのクソッタレども、覚えていろよ」

 つまり、クロステルマン侯の居城間近、眼下に広がるワイン用の葡萄畑が見え始めた場所まできても、そんな悪態をついてしまうのも仕方ないことだと思うのだ。

『なにがクソッタレなんですの、デイム初美』

 一瞬のノイズの後に、しっとりと柔らかみのある声がイヤホンから流れてきた。

 しまった。チャンネルを開いていたか。

「なんでもありません、そしてお久しぶりです。クロステルマン侯。デイム初美、騎士の勤めとして侯のもとに馳せ参じました」

『どうだか。まぁいいでしょう。堅苦しい挨拶はぬきにして、今はネウロイの撃破です。ついて早々申し訳ないですけど、そのままその位置から北上して下さい。偵察型ネウロイが二体やってきています。敵ネウロイの高度は4000』

「了解。これより《迷彩》を発動します」

 固有魔法により無線が使えなくなり、ホワイトノイズが走る。

「ついて早々これとは、なかなか大変な状況じゃないか」

 太陽を背に高度を上げつつ、上昇を開始した。

 指示通り高度4000まであげてしばらくすると、高速で飛来する二機の小型ネウロイが確認できた。同高度に調節して真正面に位置どり、狙いを定める。

 普通ならできないことだか、《迷彩》のお陰でこんなことも可能だ。

 照準一杯に左側のネウロイが迫る瞬間、引き金を引いた。

 12.6ミリ弾が奴らに降り注ぎ撃破、そのまま右のネウロイに狙いを移し、これも破壊する。

 コアのない小型ネウロイならば、《迷彩》があればこんなものだ。

「クロステルマン侯、偵察型ネウロイの撃破に成功した」

『了解しましたわ、デイム初美。ご苦労様です。それでは、こちらにいらして下さいな』


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