くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 二の巻 その十

 翌日、早朝八時。食堂に空戦ウィッチ二〇名、陸戦ウィッチ一〇名、スツーカ隊六名の計三六名が集められた。

 国ごとにウィッチは固められているが、この大作戦の前には国同士の確執などは意味を持たず、軽い挨拶だけで十分に仲間意識を共有できていた。

 さて、こうして食堂に集められたのは、作戦開始前の訓示の後、朝食を一緒にとることで少しでも連携を高めようとしてのことだろう。

 ウィーゼ少佐が全員の前に立ち、咳払いを一つ。

「みなさん、初めまして。本作戦の戦闘隊長を務めます、ヨハンナ・ウィーゼ少佐です。昨日、オティーリアさんが丁寧に作戦概要について説明していたので、私からはなにも言うことはありません。作戦指示書に書かれている通り、空戦ウィッチはA班とB班に分かれてください。

それから初美少尉」

「はっ!」

 立ち上がって返答した。

「少尉の固有魔法はオティーリアさんから聞いてます。貴女は戦闘には参加せず、偵察に回ってください」

「少佐、《迷彩》を使っている間は、無線通信ができませんが」

「分かっています。ですから、ネウロイの戦力を確認したのち、それを紙に書いて伝書鳩で作戦本部へ送ってください」

 正直なところ、自分も戦闘に参加する気満々だったので、これには承服しかねた。

「失礼ながらその命令には従い難くあります」

「気持ちはわかるわ。でも、貴女の《迷彩》はネウロイに知られずに偵察が可能な稀有な固有魔法なの。わかるでしょう?」

「しかし!」

「お初美少尉にしかできないことなのです。作戦の成功確率を少しでもあげるために、お願いします」

 たかが少尉に対して、少佐という立場の人間にここまで言わせることがどれだけ異例なことはよくわかっている。

 ぐっと拳を握り締め、目をつむる。何度か深呼吸して、

「了解しました」

「ありがとう、少尉。それじゃあ、作戦成功の前祝いをいたしましょう!」

全員が、水の注がれたグラスを持って立ち上がり、

prost(乾杯)!」

 

「初美少尉」

 ガヤガヤと立ち話で賑やかな食堂の中、自分一人壁の花になっていると、レムケ少尉が話しかけて来た。

 扶桑の同僚は、自分がかなり頭にきているのがわかっているので、触らないでいるのだろう。かっかきている頭の片隅で、それも仕方ないと冷静に思う。

 だが、カールスラントのこの少尉は、自分のそんな事情を知らないものだから、ほいほいと気軽に話しかけてくる。

「……」

 答えず、水を飲む。

「不満なんですね」

「当たり前だ」

「初美少尉のおかげで、セダン以西のブラウシュテルマーの位置全てが発見できました。それがなきゃ、この作戦は成立できませんでした」

「そうだな」

「この作戦の偵察も同じです。道のないところに道を作る。他の誰にもできません。凄く凄いことだと思います」

「戦さ場の先陣を切る。これは武士の誉れじゃないの?そうじゃなくても、騎士にとっては誉れね。違うかな、デイム初美」

 レッシュ少尉が水を飲み干し、フォークに刺したソーセージを食いちぎりながらやってきた。

「ブリタニアの女王陛下より承った騎士の称号が邪魔に感じる。こんな時は特にな」

「やるなら何事も前向きにやったほうがいい。師匠(レーラー)にはそう教わった」

「はぁ……」

 自分は、大きくため息をついた。

 他国の人間にここまで気を遣わせるとは、何をやっているのだろうな、自分は。

 師匠がこの様子を見たらどう思うだろうか。怒るだろうか、笑うだろうか。それとも、呆れられるだろうか。

「ありがとう、二人とも。自分は忍びである前に兵士のつもりだったが、偵察兵というものもあるしな。騎士に斥候をやらせるなとは思うが」

「適材適所だ、デイム初美」

「私たちが優位に戦えるよう、よろしくお願いします、初美少尉」

 

0930。作戦開始30分前。

 陸戦ウィッチは既に前線の所定位置にて待機している。

 ずらりと倉庫内に並べられた10機の発進促成装置には、集められた各国のウィッチ達が発進の時を今か今かと待ち構えていた。自分もその中に混ざり、発進の時を待つ。

「総員、エンジン始動!」

 一番機、ウィーゼ少佐の号令一下、一斉にエンジンの点火プラグに火を灯す。自分も、キ106ーー通称木製疾風の誉45魔道エンジンを始動した。

 倉庫内が、耳を弄するほどのエンジンの轟音に満たされた。

 倉庫の扉が、整備兵達の手によって全開に開け放たれ、二月間近の寒風が庫内に吹き込んでくる。

『オティーリアだ』館内放送が倉庫に響く。『何も言う必要はあるまい。ただ一言だ。私は、諸君の勝利を確信している。A隊、発進せよ!』

「A隊、発進!」

 ウィーゼ少佐から、次々と促成装置より解き放たれ、飛び立っていく。最後、自分の順番になり、声をあげた。

「10番機、初美あきら少尉、発進する!」

 


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