「そこを開けろ! 扶桑陸軍のウィッチが降りてくるんだぞ!」
「陸戦ウィッチ部隊がきたぞ、戦闘脚輸送車はユニットを降車させるな! 整備はすでに終わってるんだ!」
「ウィッチ達はすぐに休ませろ! 明日には作戦開始されるんだ!」
「急げ急げ急げ! リベリオンからの補給物資は格納庫横だ!」
基地は怒号であふれていた。
自分が偵察に出てから3日たち、《ぎっくり腰》作戦は明日決行される。
自分の爆撃計画とは別に、本作戦の計画書は提出、秘密裏に本作戦は関係部署に通達していたという。
なんともはや、用意周到という他はなく、生き馬の目を抜くとはまさにこのことだった。ますます《欧州一危険な
しかも506に関する作戦は他にもいくつか走っているらしいが、それについては明かすことはできないと笑われてしまった。506が設立する頃にはその結果も見えているのだろうか。
ともかく、自分もその慌ただしい基地の空気に飲まれ、細々とした雑用で駆け回っていたのだった。
その日の夕方、基地の作戦会議室。
《ぎっくり腰》作戦の概要を説明するため、当作戦に参加するウィッチ、総勢三六名が集められていた。作戦指揮がカールスラント人であるためか、構成要員の大部分があるカールスラント人だったが、他にも自分を始めとした扶桑人が何名かとガリアやブリタニア、おまけにリベリオンまで含まれていた。
驚いたのが、《クバンの獅子》こと、ヨハンナ・ウィーゼ少佐がいたことだ。ガリア解放後、前線に復帰したとは聞いていたが、よもやこの作戦に駆り出されているとは思わなかった。おそらく、本作戦の戦闘隊長を勤めるのだろう。
もはや、臨時の統合戦闘航空団といってもいい様相だ。
ともかく、作戦自体がガリア解放という、大きなくくりの中の一つなので、一人でもここにガリアのウィッチがいなければならない、ということは分かる。扶桑が入っているのは、おそらく506に関連することだろう。とするならば、ブリタニアやリベリオンまで混ざっているのはーー
などと思索していると、オティーリア中佐とその副官らしきウィッチが作戦会議室に入ってきた。
その副官が、壇上で声を発する。
「
全員が起立し、それぞれの国の敬礼をした。
「ご苦労。座ってくれ。さて、既に通達されているとは思うが、本作戦《ぎっくり腰》は、ガリアの真の解放のために行われる、一大作戦である」
《ぎっくり腰》作戦と聞いて、ウィッチ達が笑い声を漏らす。
その様子を見たオティーリアは、薄く笑みを浮かべ、
「作戦名、気に入ってもらえたようだな。では、概要はこうだ」
照明が落とされ、プロジェクターから壇上の壁に自分が撮影してきた写真が投影される。
赤い丸が描かれたフィルムが5枚、切り替わりで表示される。
「以上、大型のブラウシュテルマーは五基。それぞれを北から順にアントン、バーサ、カエサル、ドーサ、エミルとする」
続いて、フィルムが切り替わり、作戦区域全景になる。
中佐は、指示棒で北から三番目、中央の赤丸を指し、
「本作戦は、明日、
空戦ウィッチの諸君はそのままニ隊に別れてバーサとドーラの制空権を確保する。激戦になるだろうが、各国より集まってくれた優秀な諸君ならば、この難敵を排除してくれるものと確信している。
さて、空戦ウィッチの諸君の奮闘の後、こちらの制空権の優位が確定したら、いよいよスツーカ隊のお出ましだ。バーサとドーラを速やかに撃破。そのまま、外側のアントンとエミルもやってもらうが、手順はバーサとドーラと同じだ。
スツーカ隊には、諸君の活躍を聞いたスカーフェイスのロートル
プロジェクターの電源が落とされ、照明が戻る。
「途中、弾薬や燃料の補給が必要になるだろうが、基地まで戻らずセダンに設営される補給ポイントで行うこと。本作戦は陸空合同の電撃戦である。速さが何より肝要だと思え。
ただし、担当区域の作戦遂行が困難と判断したら、即座に放棄。他の隊と合流してくれ。細かい作戦指示は、これより配布する作戦指示書を確認すること。
なお、作戦の成功は重要だが、ウィッチの命はさらに重要だ。諸君の命は消費される時間より貴重だということを肝に銘じてほしい。最後に、命知らずな諸君へ、扶桑のある海軍少将の言葉を授ける。
『帰ろう、帰ればまた来られるから』
以上だ。健闘を祈る」
全員が起立し、敬礼をした。
それで、作戦会議室は終了だった。作戦指示書が副官より配られ、ウィッチ達はそれぞれの待機部屋に向かう。
自分もこれからどうしようかと考えていると、大川真子少尉と佐々
「お久しぶりです。とは言っても、まだ1週間も経っていませんが」
と、大川が挨拶をしてきた。
「ああ、よもやこんな大ごとになるとは思わなかったからな。佐々准尉も元気そうだな」
「当然です。初美少尉の技を教えてもらうまでは、死んでも死に切れません」
満面の笑顔で佐々は答えた。
「まぁ、この戦争が終わったらだな。教えてやるよ」
前々から弟子にしてくれ、とは言われていたのだが、自分は一度命令を受けると、中々一つところにとどまれないので、今の今まで曖昧にしてきた。だが、《ぎっくり腰》作戦は、規模も桁違いだが、命の危険も桁違いだ。
戦況が泥沼になれば、扶桑海事変さながらの消耗戦になりかねない。そうなれば、ウィッチとしての寿命どころか、命すら失ってしまうこともある。
せめて、生きる希望を持たせてやれば、それを命の綱に生き延びることもできるだろう。
「ほ、本当ですか?」
「ああ、嘘は言わないよ。本当だ。ただし、キツイぞ。覚悟しておけよ」
「なんの! 戸隠流を学べるなら、それぐらい覚悟の上です!」
「よく言った。吐いた言葉は飲み込めないぞ」
にや、と笑うと、佐々もさすがに引きつった笑いになる。
「ふふ、ようやく教える気になったのね」
この台詞を聞いて、大川は笑みをこぼして言った。多分、この意図をわかっているのだろう。笑顔になってはいるが、表情はかたかった。
「まぁな」
「へ? なんです? なにか変なこと言いました?」
雰囲気だけはおかしいと感じたものの、自分の意図を汲み取れない佐々だけが、不思議そうに自分と大川の顔を交互に見やるのだった。