くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 九の巻 その二

 静寂な夜空を、二人のストライカーユニットが轟音切り裂き飛翔する。

 ハイデマリー少佐は、規定高度ましで到達すると魔道アンテナを展開して、

「初美さん、夜の空って暗くて寂しくて、上も下もわからなくなったりして大変でしょう?」

 そう言ってきた。

「ええ、五〇一での実地訓練でも、僚機の二人がいなければ上下がわからなくなってパニックになっていました」

「ふふっ、でも、魔道アンテナがあると一人ではないんですよ」

 自分に手を伸ばしてくるので、握り返してみると、耳ではなく脳に直接声が響いてきた。

『あ、初美さんですね?』

『む、新入りのナイトウッチか?』

『違うぞ、以前話した扶桑のくノ一ウィッチだ。な、あきら』

 不思議な感覚だ。

 脳の中で別人が騒いでいる。

「こ、これは……?」

「ナイトウィッチの魔道アンテナによる通信です。こうやって、通信しておしゃべりしてるんです」

「あ、は、初めまし……て? 扶桑陸軍の初美あきら少尉です」

『初めましてじゃねーぞ、あきら。忘れんなよなー』

『お久しぶりです、あきらさん』

「む……エイラとサーニャか」

『ふむ、ということはおぬしとは初顔じゃな。わらわはハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン。カールスラント空軍所属の大尉じゃ』

 む、この声がかの有名な姫様か。

 ということは、そうか、五〇六も無事設立されたのだな。

 貴族階級のウィッチを集めるのにずいぶん難儀している、という話は小耳に挟んでいたが、設立に必要な人数はかき集められたのだな。

「五〇六JFW、無事設立されたんですね。よかった」

 あのまま設立しなかったんでは、自分が骨を折った甲斐がない。

『なぜそこでノーブルウィッチーズが出て……しかし初美、初美……おぬしひょっとして、《ぎっくり腰》作戦での偵察任務を担った初見少尉殿か!』

「そうです。大尉、ご存知でしたか」

「《ぎっくり腰》作戦?」

 少佐は、自分を見て首をかしげる。

「あー、五〇六隊の基地近辺には、大量のブラウシュテルマーが存在していて、それの撃滅作戦が行われました。その作戦名が《ぎっくり腰》作戦です」

『幸い、B隊の基地にブラウシュテルマーはなかったがな。初美殿は、その作戦で偵察任務を担い、見事成功したのだったな。まさかあの作戦に参加したウィッチとこうして言葉を交わせるとは、今宵はなんとも奇妙な縁を感じるぞ』

 B隊? 五〇六はA隊とB隊に分かれているのか。どういうことだ?

『あきらすげーな、そんなことしてたんだ』

「都合よく使われるだけの使いっ走りですよ」

 と、エイラの言葉にこたえた。

『だが、そのおかけで妾達はこうして部隊の本拠地を持つことができた。感謝するぞ、初美殿』

 見たこともない貴族に、ここまで言われるのはなんともはや曰く言いがたいものがある。

「しかし、B隊とはどういうことですか? 五〇六はA隊B隊に分かれているのですか?」

『あー、それはな。いろいろ面倒な話がついてまわるのじゃ』

『確か、集まりの悪い貴族ウィッチの補充としてリベリオンがウィッチを送り込んで、それがB隊としてディジョン基地に配置されることになったんだよな』

 と、エイラが興味のなさそうな声で補足説明をしてくれた。

 なるほどな、そんな事情でA、Bの二隊に分けられたというわけか。そのあたりの事情は探っておくべきかもしれないな。

『それで、どうしてあきらさんはハイデマリーさんと一緒にいるんですか? 人型ネウロイ関連ですか』

「そうです、ベルリン偵察のために、サントロン基地にきてくれたんです」

 ハイデマリー少佐が自分の代わりに答えてくれた。

『ベルリンじゃと? それに人型ネウロイとはどういうことだ』

 あ……ひょっとして、大尉は人型のことしらない、とか? 人型の案件は、まだトップシークレットなんだったか? いや、トラヤヌス作戦で情報は解禁されたはずだな。

「人型のネウロイがいて、彼らはウィッチを洗脳、誘拐して傀儡とするのです」

 自分が、簡単に大尉の疑問を解消した。

『そうだぞ、五〇一も手を焼かされたんだ』

『宮藤さんも、ネウロイの巣に連れ去られましたしね』

 ま、マジか。マジでそんなことがあったのか。

 ブリタニアでのネウロイとの戦争が終結したあの一件はどうやら最高軍事機密になっているらしく、気になって軽く調査してみたのだが、人型ネウロイが扶桑海軍の空母赤城を乗っ取り、コアとなって宮藤のストライカーユニット投下により撃破されたとなっていた。

 だが、人型ネウロイにそんな能力があったとは考えづらい。

 おそらく、何か重大な事案があって、それがこの時の一件を最高軍事機密としたきっかけなのだろう。

 突然、魔道通信にザザっと雑音が混じり、少佐の緑色に輝いていた魔道アンテナが真っ赤になる。

「む……これは、ネウロイか」

「そうです。方角は一時、上方」

 その台詞と同時に、ハイデマリー少佐が指摘した方角から、赤い光が瞬いたのが見えた。 自分はすぐさま手を離すと左にロール、少佐は右にロールして分かれると、その間隙にネウロイの光線が走った。

「中型の反応、数は二。任せられますか?」

「任された。自分は片腕ウィッチだが、相応の働きはしてみせよう」

 少佐と自分は、上体を反らして高度を上げ、ネウロイへと突貫した。


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