くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その十六

 マルタ島解放作戦は、無事成功に終わったとミーナ隊長より聞いたが、その後ハルトマンとマルセイユの間にちょっとしたいさかいがあったらしく、エーリカは始末書を書くのに色々と苦労したらしい。

 本来なら営巣入りしてもおかしくない事件だったが、解放作戦の立役者がそんな大事件を起こしたとあっては外聞によろしくないと判断した司令部は、特別に始末書のみでことを収めるとしたと、ミーナ中佐より聞かされた。

 自分は、本来ならマルタ島の偵察が終了した時点で、五〇一を離れてもよかった。

 ただ、そこは乗りかかった船、作戦終了までとどまることにしたが、それがもたらしたのはストライカーユニットの故障である。。

 キ一〇六の修理は、エンジンのプラグ焼き付けだのなんだので、エンジンのオーバーホールが必要になり、ついでに機体整備も行う結果となる。

 結局、なんだかんだで一週間、時間をかけることになった。

 その間、自分は宮藤軍曹が使っていた零式艦上戦闘脚を借りて哨戒任務を手伝ったり、エイラに強引に誘われ、サーニャと三人で夜間哨戒に出たりした。

 零式は、噂通り軽快な操縦性で、高い運動性能は陸軍の傑作ユニットである隼と共通する部分があり、自分の空戦スタイルにもあっていた。

 そんな一週間、偵察型ネウロイとの定期戦闘以外は特に何もなく、五〇一の隊員達もつかの間の平和を謳歌していた。

 が、そんな短い夏休みも、総司令部が打ち立てた一大反攻作戦――オペレーションマルスの発動によって終わりを告げ、キ一〇六の修理がおわった自分もこの五〇一を去る時が訪れる。

 

 ミーナと坂本は、倉庫で修理がおわったストライカーユニットを撫でている自分のところへやってきて、声をかけてきた。

 自分は、すでに五〇一基地出立の準備を終えていて、今すぐにでも飛び立てる状態だ。

「いってしまうのね、初美さん」

 中佐の声音は、寂しさが見え隠れしていた。

「ええ。ミーナ中佐との約束であるネウロイの調査はもちろん、最初に撃墜した二機の奴らに加え、後に現れた人型も撃破しました。そして、あいつらはおそらく巣からやってきたはずです。合計四機。巣には奴らもいないでしょう。となれば、自分にはもうここにいる理由もありません」

「初美さんには、オペレーション・マルスにも参加してほしかったのだけど……」

「そう言うな、ミーナ。初美にも事情がある」

「そうね、そうよね。初美さん、これまでの協力、感謝するわ」

 人柄を感じさせる柔和な笑顔を浮かべながら、ミーナ中佐が言った。

「いえ、借りた恩義を返しただけですから、お礼は……」

 自分は、若干困惑気味に言葉を返す。

 確かに、ペリーヌを呼び出させるだけの借りを返すためとはいえ、これほどのことをする必要はなかったかもしれないが、なにぶん人型ネウロイが敵として出てきては関係ない。

 なぜなら、人型ネウロイからウィッチを守るのが、自分自身に科した使命であるからだ。

 そこに貸し借りだなんだと理由をつけて逃げ出すなど、許されるものではない。

「しかしだな、初美。我々五〇一はお前に対して、すぐには返しきれない借りができてしまったのは事実だ」

 坂本少佐は、どこか神妙な面持ちで言った。

「それなら、またいつか、自分がこのストライクウィッチーズに訪れた時、一宿一飯を預からせてください。それでチャラです」

「そんなことでいいのか?」

「かまいません。人型ネウロイの件は、自分と詠宮龍子妃殿下の願いですから」

「わかりました。そのときは改めて歓待させてもらうわ」

「では、自分はこれで。お世話になりました」

 二人に頭を下げて跳躍し、キ一〇六、木製疾風戦闘脚を履いた。

 モモンガの尻尾と耳がはえて、倉庫を青い魔法光で照らし出す。

 扶桑陸軍式の敬礼をして別れを告げ、

「管制、扶桑陸軍中尉初美あきら、発進する」

 自分は、無線機を通して、管制に離陸を報告し、

「オン・マリシエイ・ソワカ――」

 一気に魔法陣が広がり、うなりを上げる魔道エンジンと倉庫内に風を巻き起こす呪符プロペラ。

 さすがは名高きストライクウィッチーズの全ユニット整備を担当する整備兵だ。

 轟く排気音からもわかる。

 オーバーホールは完璧で、新品同様のエンジンへと生まれ変わった。

「発進するっ!」

 バシャン‼

 音を立ててストライカーユニットは開放され、滑走路へと躍り出てあっという間に離陸速度へと加速、飛び立つ。

 基地上空へと舞い上がると、自分を見送る二人の上官へ宙返りの挨拶をして、一路北へと飛び立ったのだった。 


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