くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その十四

 翌日、自分は早朝、蒼天の下偵察任務についていた。

 前日の人型ネウロイと行われた戦闘では、ストライカーユニットにほとんど負担をかけていないので、魔道エンジンの整備もチェックだけで済んだから、自分から買って出たのだが、ただ偵察に出たわけではない。

 目的があった。

 それは――

「こちら《くノ一の魔女》、加東圭子少佐、応答願います」

 インカムをオンにして呼びかけた。

 自分は、アフリカよりやってきたケイとティナを出迎えた。

 そろそろ、彼女たちを乗せたカールスラント製の輸送機、JU五二が通信圏内に入っているはずだ。

 少ししてノイズが混ざり、

『こちらケイ。久しぶりね、アキラ』

 加東少佐の応答がきた。

「お久しぶりです、ケイ。マルタ島の露払いは済ませておきましたよ」

『ミーナ中佐から報告を受けてるわ、人型ネウロイが出たそうね』

「ええ、二機出現しましたが、問題なく撃墜できました」

 と、会話していると、空の向こうに黒い点が見えた。ふむ、あれが二人が乗ってきたJU五二だな。

「ただいま、そちらの機影を確認しました。これより五〇一基地までエスコートを行います」

『了解したわ。ありがとう、アキラ』

 増速してすれ違い、反転してはるばるアフリカよりやってきた輸送機の右に並ぶと、窓からケイとマルセイユの顔が見えた。

 手を振って挨拶をするものの、左前腕部がないのを失念していた。

『アキラ、お前左腕』

 マルセイユが驚きの声で尋ねてきた。

「詳しい話はさておいて、人型に切り落とされたんだ。宮藤軍曹の治癒魔法で、今は何の問題もない」

『問題もないってお前』

 泰然自若がモットーとも言える大尉が、驚きとあきれがミックスされた声音で言った。

「自分はシノビであり武術家だ。腕や脚の一本ぐらいならなくなる覚悟はできていた。日常生活は全く問題なくおくれているし、ネウロイを倒すのにも苦労はない。だから心配してくれるのはありがたいが大丈夫だ」

 と言ってはみたものの、傍目から見ればそう思えぬだろうな。

『しかし、アキラ』『ティナ、本人が問題ないというのだから問題ないのよ。それで、マルタ島のネウロイはどうなの』

 と、ケイが言い募ろうとするマルセイユを押さえて尋ねてきた。

「詳しくは基地についてミーナ中佐から直接聞くといいだろう。ただ、ティナならば手こずりはするだろうが、一人でも撃破可能だな」

『それをロッテで攻略させるとか、総司令部もずいぶんと暇なことを考えるもんだ』

 あきれ気味に大尉。

「マルタ島救出作戦を宣伝にしたいのだろう。戦費は常にカツカツで、集める手段はどれだけあってもたりないのが現実だからな」

『せちがらいな』

「世の中そんなものだ。大体戦費がなければストームウィッチーズも干上がってしまうからな」

『違いないわね』からからと笑うケイ。『そういうわけだからしっかり頼むわ、ティナ』

『わかったよ』

 マルセイユは憮然と答える。

 インカムから、ざっとノイズ音が入った。

 どうやら、五〇一基地の通信範囲にきたらしい。

 連絡はJU五二のパイロットがやっているだろう。

 だから、自分が基地の管制と通信する必要はないだろう。

「さて、そろそろ到着だな。エスコートは終了だ。自分はこれより偵察任務に戻る」

『了解したわ、アキラ。また会いましょう』

「久しぶりに二人の顔を見れて嬉しかったよ」

『こっちこそ、お前の元気な顔を見られてほっとしたさ。またな』

 自分は、ロールしながら輸送機の上を越えて、航路を西へと向けたのだった。

 

「それで、どうしてアキラは左腕をなくしたの?」

 自分が事務所で偵察任務の報告書類を書いているところに、ケイがやってくるや否や、そう尋ねてきたのは昼食前の時間だった。

 そろそろ食事でもと思っていたのだが、ケイのずいぶんと思い詰めた顔を見て、それを諦めることにした。

「やっぱり気になりますか」

「当然よ。ちょっとの間でも一緒に戦った仲だもの」

 自分は、軽くため息をついてことの成り行き――五〇二部隊での経緯について簡単に語って、油断が原因で左腕を喪失したことを説明した。

 その間中、加東さんは自分の説明を、メモ書きしつつ何も言葉を差し挟まずに聞いている。彼女は軍に復帰するまでは記者をしていたらしいから、自分の経験談も何かのネタににできるしれない、ということなんだろう。

「というわけで、自分はこうして隻腕になってしまった」

「そうだったのね。苦労はないの?」

「あるといえばあるが、おおむね問題はないかな。これでも忍者だ、片手になったときの訓練も怠ってはいなかったのが功を奏した。まぁ、左手で箸を使う訓練もやっていたんだけどな」

 失ったのが左腕だったのだから、その訓練は無駄だったわけだが。

 片手に機関銃、片手に守り刀の二刀流ができないのは正直なところ厳しいものがあるのは事実なので、ここは講談よろしく、右腕を仕込み刀にしてしまおうか。

「それで、どうして片腕を失っても欧州に戻ってきたの? そんな状態なら、勇退も許されるでしょう」

「確かにそうだな」自分は一息ついて、「端的に言えば、ウィッチを守れるのは、自分だけだから、かな」

「守れるって、人型ネウロイからってこと?」

 小さくうなずいて、

「自分は片腕を失ったが、それでも人型を洗脳の危険なく倒せるのは、ウィッチ多しといえど、今のところ奴らの驚異からウィッチ達を守れるのは、自分しかいない。それなら、自分がやるしかない。加東さんも同じ境遇になったら、自分と同じことをやるだろ?」

 静かに、自分の内の言葉を口にした。

「確かにそうね。アキラなりの決意があってのことだったわけね」

「そうだ。ウィッチ達はネウロイから無辜の人たちを守り、戦う。でも、誰がウィッチを守る? 自分しか守れないなら、自分がやるしかない」

「ありがとう、アキラ。これで納得できたわ」

 そう告げて、彼女は腰を上げ部屋から出た。

 自分は、止まっていた作業の手を動かして、報告書類の続きを書き始めたのだった。


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