・ 18禁ですよ? えぇ、誰がなんと言おうとも18禁ですとも(笑)
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20××年、世界に先がけ日本で初めて実用販売化されたフルダイブVRMMORPGゲーム【ヴァーチャルワールド】
その衝撃は光ファイバーを超える速度で世界中を駆けまわり、全人類をとりこにした。そしてその成功の後、VR先進国となった日本では様々なジャンルのゲームがVR化。その中でも一際人々の、中でも男性達の関心を誘ったジャンルが存在する。
【脱衣マージャン】――古くはアーケードゲーム勃興期からゲームセンターの一角を占領しつづけた男が一度は通過するパッシングポイント。だが、今そこはVRという無限の可能性を得て、聖域、サンクチュアリへと変貌していた。
これはそんな【VR恋愛+脱衣マージャン】という仮想現実世界の中で起きた悲劇のような喜劇の話である。
「……今日こそ。今日こそ俺は! ヒトナちゃんと結ばれてみせる!」
そう拳を握り締めて叫ぶのは、【VR恋愛+脱衣マージャン】ゲームで最高の人気を誇る超有名タイトル【恋牌!】をプレイ中のとある男。そんな彼を熱っぽい目で桃色の髪の美少女が見つめていた。
彼女こそ漢の夢を体現した存在。【恋牌!】内でもNO1の人気を誇る超絶美少女ヒロイン【ヒトナ】である。現実ではありえない桃色の髪に、大きな瞳。B90W55H85というスーパースタイル、性格はちょっとドジなところのある野球部の熱血美人マネージャー風という、まさに漢の夢そのもの。
そんな彼女が男に向かって叫ぶ。
「がんばって! Aさん! 今日こそ私の全部、貴方にあげたいの!」
なんと情熱的な言葉であろうか! ちなみにこの【恋牌!】では、ユーザーがそれぞれ設定できるマイヒロイン以外に、【恋牌!】内に一人しか存在しない公式ヒロインというものも存在し、彼女たちは文字通り一人しか存在しない。
そんな彼女たちの価値観はいたって単純。【麻雀で強い男の人が好き】、これである。
故にこの世界で彼女たちを手に入れるには、勝つしかないのだ! 麻雀に! そしてそんな気まぐれな女神である彼女たちは、その希少性ゆえに成績上位プレイヤーTOP100にしか、口すらも利いてくれないという厳しい選別が待っている。
故に男たちは日々ゲームにアクセスする為に課金(月辺り五千円)し、切磋琢磨し、麻雀の腕を磨き続ける! それは彼女たちに振り向いてもらう為!
そして磨き上げたその雀力で彼女を求めて戦うのだ! 麻雀で!
そう、この男こそ【恋牌!】全世界今期勝率NO1にして、今、世界で一番幸せな男Aである。つまり全世界今期勝率NO1=ヒトナちゃんの彼氏なのだから、いかに彼が全世界の男たちから嫉妬の対象化がわかろうものであろう。
だが、そんなAもヒトナちゃんと【ナニカ】をしたわけではない。今期NO1になってしたことといえば、『ヒトナにユーザーネームで呼んでもらえる』、『ヒトナと手をつないで(もちろん恋人つなぎ)登下校ができる』、『手作り弁当が食べられる』までであり、それ以上に進んだわけではなかった。
さて、この【恋牌!】であるが、全ての男子の夢を叶える為のゲームであるからして、つまり、そういうことである。
端的にいうと、システム的には最後までヤれる。ヤれるのである!
だが、マイヒロインと違い、ユニークヒロインとヤるためにはそれはそれは凄まじい壁を超える必要があった。それがNO1ユーザーのみに許される固定イベント【彼女の家に挨拶に行く】である。
ヒトナに限らずユニークヒロインというのは非常に身持ちが固く、例え彼氏であって手をつなぐまでが限界。キスもNG、おっぱいもダメ、Hなんてもってのほかなのだ。そんな彼女を全て手に入れるための唯一の方法、それこそ。
『うちのお父さんたちに麻雀で勝ったら、……最後まで、イイよ?』
である。
そう。そのために! 今から勇者たるAは、彼女のお宅にお邪魔して、本当の意味で彼女の男になる(意味深)ため、お父さんたちに交際を認めてもらうべく彼女の自宅に突入した!
「お邪魔します! Aと申します! 今日はヒトナさんとの……」
そういって勢いよく飛び込んで口上述べるAの声を静かな、そして圧倒的な冷たさをもった声が止める。
「いいよ、細かな自己紹介なんて。打てばわかるんだから」
そういって出迎えた男――それはまるで地獄のけっして解けない氷でできた人間の形をした何かのよう。そして何より特徴的なのが、まだ若いというのに真っ白な髪と、そしてあまりにもとがりきったそのアゴと鼻であった。刺さりそうだ。
その男の背中から発せられる冷気に震えながらも、お邪魔しますと、一声挨拶をして彼女の家という完全アウェーに飛び込むA。
そんなAの耳に今度は今までの人生で一度も聞いた事のないような恐るべき笑い声が聞こえた。
「カカカカカキキキククケケケケケコココココカキクケコ! よおくきたなぁ! 小童め! 貴様か! 我が娘と交際したいという愚か者は! あぁ、御託はいらん! 全ては卓上で語るがいい!」
そういって迎えたのは白髪の老人だった。彼女のおじいさんだろうか? しかし彼女のことを娘と呼んだことを考えるとどうも父親らしい。それがAの目の前にいるやたら威圧感のある白髪のオールバックの老人だ。そしてこの老人も先ほどの白髪と同様、異様に、そして異常にアゴがとがっている。こっちも刺さりそうだ。そして白髪と同じく同じような恐ろしいオーラを放っているが、種類が違う。方向が、ベクトルが違う! 先ほどの男が冷気なら、この初老の男が放つのは熱気。しかも、地獄の底の釜の熱気のような禍々しい熱が発せられているのだ。そしてその背後にずらりと並ぶ白服にグラサンの集団。
(……怖ぇ。怖すぎる)
内心小便ちびりそうなぐらいビビりっているA。ビビりすぎで声もでない。なんかザワザワとか変な音というか声まで聞こえ出したし、何これ超怖い。事前情報で知っていたとはいえ、ここまでとは……。そう思いながら立ち尽くすAの背後から、最後の一人がすっとあらわれた。
三十歳前後だろうか? 先ほどまでの二人ほど顔に特徴、つまりアゴはとがっていないし、髪も白くなくて普通の黒。だが、その黒いシャツの男が放つプレッシャーは、二人に勝るとも劣らぬもの。
「……あんたが今日の相手か。まぁ、お手柔らかにな」
そういって静かに席に着き、タバコに火をつける黒いシャツの男。
「Aさん!」
そこに愛しい彼女が飛び込んできた。その愛らしさに再び闘志が燃え盛るA。
その彼女が告げる。
「三人ともただいま! ……えっと紹介するね。こっちから鷲頭お父さん、アカギお兄ちゃん、そして坊や哲おじさんだよ! それでね、お父さんたち。この人が今ヒトナがお付き合いしているAさんだよ! よろしくね!」
その瞬間、絶対零度とマグマの奔流と宇宙空間のような真っ暗闇がAの脳神経を支配した。
そう思ったらいつの間にか席に着いていた、鷲頭お父さんと呼ばれた白髪の老人と、アカギお兄ちゃんと呼ばれた白髪の青年。そして黒いシャツの坊や哲おじさんと呼ばれた叔父。響くのはジャラジャラとかき混ぜられる牌の音とAの喉から掠れ響くヒューヒューという呼吸音のみ。
だがAは大きく息を吸い肚に力を入れた。覚悟などとうに決めた! コンティニュー権のために給料一年分を突っ込んだあの時から! 誰にバカと呼ばれようと、誰に阿呆とさげすまれようと! 全ては彼女を得んがため! Aは引かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! そうして人生最大の勝負へと立ち向かう。
ゴングは鳴った。さぁ、始めよう。――絶望と地獄の麻雀を。
イベント【彼女の家に挨拶に行く】
発動条件 【恋牌!】月間世界ランキング1位獲得につき一度の挑戦が可能になる
勝利条件 ゲーム終了時にプレイヤーがトップであれば、ヒロイン【鷲頭 ヒトナ】を(文字通り)自由にしてよい。
対戦相手 鷲頭様 アカギ 坊や哲
難度 SSSSS 対戦成績(vsプレイヤー) 360戦 360勝
――0敗
特記事項 対戦相手側がプレイヤーに追い込まれると、99%の確率で鷲頭麻雀へのゲーム方式変更というバグ報告あり
この時点でのヒトナの元彼の人数 360人
この時点でヒトナがユーザーに貢がせたお金(リアルマネー) 累計で11桁円
ユーザーの満足 プライスレス
その後――数多のユーザーからの訴えにより、史上初めてネットワーク内の存在である仮想人格にとある判決が下った。
主文
被告人 鷲津 ヒトナ
――不特定多数、かつ非常に数多くの純情な男子の心を弄んだ悪質なつつもたせによる売買春法違反にて、10年間の禁固刑に処する
この事件、【恋牌! ヒトナちゃんラブトラップ事件】はたった一人の人格による、歴史上類をみないほど広範囲かつ金額的に巨額の売春事件であり、なおかつ仮想人格に人格を認めた世界最初の事例でもあったため後世、人権の観点からも、法律の観点からも非常に興味深い事件となった。
なお一点付け加えるなら。
鷲津 ヒトナ は生涯処女であった。
ね、18禁でしょ(棒)?