年が開けると人々は色んな所へ向かう。
知人に挨拶回りや、いつも通り友人と遊ぶ者。
そして、神社にお参りをしに行くなど。
今日はその一日。
響夜達が初詣で起きた出来事。
1月1日。
前日の大晦日から少しの睡眠を取っていた響夜は木綿季に揺さぶられて起こされることとなる。
「きょーやー」
「んあ・・・」
「おっきろぉ~」
「ん・・・何だよ・・・」
「朝だよ~、初詣いこーよ~」
「・・・分かったから・・・とりあえずお前はそこからどけ」
「ぶ~」
現在木綿季は響夜の上に跨がっている状態であり、響夜からすると色々と当たっているのだ。
それをわざわざ口に出さないが、木綿季はそれに気付いていなかった。
「さて・・・着物あんのか?」
「あるよー!お買い物の時買ったもん~」
「・・・じゃあ神楽と一緒に着付けしてこい、あいつ一人じゃ出来んから」
「はーい」
木綿季は部屋を出ると神楽の所へ向かった。
その間に響夜はクローゼットから着物を取り出した。
以前木綿季と買い物をした時に一緒に買っていた。
シンプルな蒼色の生地の着物だが、響夜はこの色が好きだった。
「着付けは・・・どうやるんだっけか」
着物をあまり着ない響夜は着付けの方法を忘れてしまっていた。
神楽は知っているが自分では手が届かす出来ないので響夜に教えていた。
「んー・・・確か・・・」
響夜は微かに覚えているやり方を思い出しつつ着物の布を動かす。
肩にかけて、右布を左に寄せる。
この時に地面に触れない高さにし、左布も右に寄せる。
そして布を固定する腰紐と呼ばれる紐で布を固定するとあまりと言うやり方で紐を捩っていく。
そして着物にシワが無いように綺麗にならすと、紐を隠すもう一つの布を紐を中心にして巻いていく。
これもシワが出来ないように巻いていけば、着付けは完成。
「・・・見よう見まねだが、まぁ良いか」
クローゼットに付いている立ち鏡に自分の着物を写すと、出来栄えを見た。
シワは一つもなく、足元の裾はほぼ完璧に揃っている。
「さて、さすがに着物じゃバイクは乗れんし・・・神社も近かったような気がするが・・・タクシー使うか」
響夜は携帯で神社の場所を調べた。
それは『瀬戸神社』と呼ばれる神社で、交通安全の神社として名があった。
もしバイクが使えれば『明治神宮』に行きたかったが、木綿季は響夜と一緒に着物を着て初詣に行きたいと思い瀬戸神社にした。
「時々俺もお参りしてるし、ちょうど良いか」
瀬戸神社は海の安全と交通安全のご利益があるとされ、響夜はバイクを乗るため通ったらいつも賽銭をしている。
「響夜ー、出来たー?」
「出来たー、今行くから外出とけー」
「はーい!」
響夜はタクシーを携帯で呼ぶと部屋から出て、電気を消していく。
つけっぱなしは勿体ないのだ。
「お待たせ・・・綺麗だな、木綿季と神楽」
「えへへ・・・ありがと」
「ん・・・ぁりぁと・・・」
木綿季は紺色の着物に鈴蘭の刺繍で、元の長い黒髪と合わさり、大人びた雰囲気を。
神楽は明るめの青色で、椿の刺繍がされている。
木綿季と同じく長い黒髪だが、幼さが抜けきっていない神楽の着物姿は子供らしさが残る。
響夜に素直に褒められた木綿季と神楽は顔を赤くする。
特に神楽は普段言われ慣れない為か木綿季の後ろに隠れた。
「響夜のも・・・その・・・かっこいいよ」
「・・・あんがと」
「にぃに、かっこいい」
「恥ずいから言わんといてくれ・・・」
「ふふ~」
普段余裕持っている響夜が恥ずかしがっているのが珍しいのか木綿季はニコニコしている。
「・・・今日はタクシーでいくぞ、着物じゃバイク乗れねぇし」
「分かったー」
その後、タクシがやってきて3人は後ろの座席に乗り込んだ。
「お兄さん、行き先はどちらで?」
「瀬戸神社でお願いします」
「瀬戸神社・・・わかりました」
タクシーの運転手は行き先を聞くと車を動かす。
その手の仕事をしているだけあり、神社までの近い道を知り尽くしていた。
「初詣ですかい?」
「あー・・・まぁ、そんなとこです」
「夫婦でお参りですか・・・良いですねぇ」
「あはは・・・ありがとうございます」
運転手に夫婦と言われ響夜は苦笑いをするが、木綿季は顔を赤くする。
神楽はよくわからないといった感じで響夜と木綿季の手を繋いで遊んでいた。
「ボク達夫婦だって」
「神楽が娘か」
「う?」
「・・・なんも。神楽はいい子だなって」
「えへへ」
「む~」
「・・・家帰ったら思う存分してやるよ」
「わーい」
木綿季は神楽ばかり撫でられて羨ましかったのが表情に出ていたらしく、響夜にばれてしまっていた。
結局家に帰ったらしてくれることがわかり、嬉しがっていたが。
「着きましたよ、お兄さん方」
「ん、木綿季、神楽。先に出てろ」
「うん、分かった。神楽ちゃん出よっか」
響夜に言われ木綿季は神楽と一緒にタクシーから降りた。
そして響夜は運賃の三千円を払う。
「毎度あり・・・それとお兄さん」
「ん、どうしました?」
「今日に限った話じゃないんですがね、不良がこのあたりにちらついてるらしいんですわ。狙いはカップルや女性だけ何だとか」
「なるほど・・・」
「奥さんも狙われるかも知れませんからね、お兄さんはお客さんですから、一応と思いまして」
「これは・・・わざわざありがとうございます」
「いえいえ、そんじゃご利用ありがとうございました」
響夜はタクシーから降りると木綿季達を連れて神社に向かう。
この場所は神社の近くの駐車場なので、神社までは数分ほど歩くこととなる。
「神楽、歩けるか?」
「ん・・・だいじょぶ」
「疲れて来たら言えよ、背負ってやるから」
「うん」
「ボクも背負ってくれる?」
「当たり前だろうが・・・ほら、行くぞ」
響夜は木綿季と手を繋ぐと神社を目指して向かった。
道中響夜達と同じなのであろう着物を来た人がいたため、中々に人が来ていると予想が出来た。
すると神楽が階段辺りで足を踏み外して足を痛めた。
「ぁ・・・ぅ・・・」
「大丈夫か?」
「・・・ぅ・・・」
「どうしよう・・・大丈夫かな・・・?」
「まだ足痛めたぐらいなら放っとけば治るけど・・・痛いだろうし背負うか」
「じゃぁ・・・ボクが背負うよ」
「ん、そうか・・・足元マジで気をつけろよ。ここの神社の石段は危ないからな」
響夜が言った通り石段の傾斜は緩やかだが、幅が小さい。
しっかりと足元を気をつけてなければ足を踏み外してしまうだろう。
響夜は持ってきていたタオルを神楽の痛めた足に巻き付ける。
少し痛むだろうが無いよりマシの処置だった。
木綿季はそれが終わってから背負うと響夜と一緒に神社を目指した。
響夜達が昇っていくと段々と人の姿が増えていった。
そして一番上に上がりきると周りには屋台が出ており、一番奥には瀬戸神社があった。
「やっと着いたな」
「うん・・・」
「あれから神楽背負ってるし・・・代わるけど?」
「ううん、大丈夫。ボクが背負っとくよ」
「無理して背負うなよ。疲れたなら交代すれば良い」
「ねぇね、めーわくなら歩くよ・・・?」
「う・・・」
響夜と神楽の攻撃により、木綿季は響夜に神楽を預けた。
何故背負っておきたいのかと言えば神楽の体温が木綿季にはちょうど良く、それでいて姉妹の触れ合いが出来るからだった。
だが疲れているのを二人に見抜かれたので疲れがとれるまで交代することにした。
「木綿季と神楽は行きたい屋台とかあるか?」
「ボクは・・・あそこがいい!焼きそば屋さん!」
「ん・・・金魚掬い」
「じゃあ先に食べ物系を回るぞ、じゃないと混みやすい」
「はーい」
近くに食べ物系の屋台があったため、響夜は先に木綿季から進めることにした。
木綿季はすぐに焼きそば屋に向かうと響夜はたいやき屋に向かった。
「たいやき3つ」
「あいよ」
「・・・?4つなんだけど」
「娘さんだろう?サービスだ」
「ありがとうございます」
店主は神楽へとサービスでたいやきを一つプラスする。
神楽も小声でお礼を言うと店主に聞こえていたのか喜んでいた。
「神楽は凄いな」
「ん・・・縁起物?」
「ホントにそんな感じだな・・・たいやき2個食っていいぞ、元々1個ずつだったしな」
「わぁい」
「とりあえず木綿季を見つけて座るか」
「ぅん!」
響夜は焼きそば屋からどこかへと消えた木綿季を探す事にした。
しかし響夜はここの屋台の順番をほとんど覚えている。
何度も来ており、屋台の大体の場所を記憶しているため木綿季が行きそうな場所をしらみつぶしに向かうことにする。
そうして何個か回っていると道端で言い合いのような物が聞こえた。
「ボクは行かないよ!」
「良いじゃんかー、俺とお前の仲だろ?」
「それでもボクは待ってる人がいるの!」
「後で良いだろ?ほら、いこーぜ?」
響夜がそれを見に行くと、言い合いしている相手の一人は木綿季。
何度見ても木綿季だった。
そしてもう一人は見知らぬ男だった。
「・・・はぁ、木綿季も色々連れて来るよなぁ」
「にぃにが言えることじゃない」
「はっきり言うな」
響夜は木綿季の元へ歩いていく。
それに気付いた木綿季は表情を明るくした。
「木綿季、お前どこまで行ってんの」
「えへへ、ごめんね?色々あったから・・・」
「まぁ良いけど・・・で、そいつは?」
「木綿季ちゃん、その男だれ?」
「響夜は知らなくて良いよ・・・もういこっ」
「お、おう」
「あっ、ちょ、木綿季ちゃん!」
木綿季は響夜の手を引っ張って屋台の中へと歩いていく。
まるで先程の男から逃げるように。
「ったく、木綿季。あいつ誰?」
「・・・中学の同級生。転校前の」
「・・・いたっけ、あんなの」
「響夜は覚えてないかも、いつも外に出てる子だから」
「じゃあ知らないな」
「ごめんね、やなことになって」
「構わん、どちらにせよお前をくれてやる気はない」
「っ・・・!・・・恥ずかしいよ・・・」
「そのまま恥ずかしがっとけ・・・とりあえずどっか座るぞ。神楽がたいやき食べたそうに俺の頭を叩いて来る」
「ぷぷ・・・じゃあ早く座ろ?」
手頃なベンチを見つけると木綿季はそこに座った。
響夜は神楽を降ろして座るとたいやきを木綿季と神楽に渡す。
「ありがとー!」
「良いよ、元々あげるつもりで買ってるし」
「ぱくっ・・・んむ・・・」
「こいつはもう食べてるし」
先程まで神楽は響夜の頭を軽く叩いていたのが嘘のようにたいやきを頬張る。
「ん~、美味しい」
「それたべたら神社行こうか」
「分かったぁ~」
響夜は二人がたいやきを食べ終わるのを待っていると奥の方に見たことがある人物を見つける。
その人物も響夜に気づくと近寄ってきた。
「ん・・・ありゃ和人と明日奈か」
「明日奈?!」
「ん・・・」
「おーい!響夜ー!」
「やっぱ和人だな、うん」
「ボク明日奈と話してても良い?」
「お好きにどうぞ」
「じゃあ話して来るね!終わったらベンチで待ってるから!」
「あいよ」
木綿季はたいやきをすぐに食べ終えると明日奈の所へ向かう。
「なんだ、お前らも来てたんだな」
「そりゃあな」
「しかし・・・和人よ。黒好きだよなぁ」
「うっせ、良いだろ」
和人の着物はゲーム内でも似たように黒色が基調となっている。
対称的に明日奈は明るい花柄の着物だったが。
「二人はもうお参りしたのか?」
「いや、まだだ。神楽がたいやき食べ終わってから行く」
「そうか・・・」
「あ、あとな。最近このあたりで不良がいるらしいから明日奈とか気をつけとけよ」
「ああ。明日奈の事は任せろ」
「頼んだぞ、英雄さん」
「うっせ・・・んじゃ行くよ」
「おう、また学校かALOでな」
「ああ、またな」
軽い話を終えると木綿季も終わったのか響夜の所にやってきた。
その頃には神楽も食べ終わっていたので響夜が背負うと神社へと向かうことにした。
「んじゃ行くか」
「はーい」
「うん」
「神楽は俺が背負うからな」
「む~、分かった・・・」
「家帰ったらいつでも神楽を弄べるだろうが」
「人聞きの悪い言い方を~」
響夜達が神社に着くと結構な人が並んでいた。
人は色々で、カップルや夫婦らしき男女、男同士や女同士など様々な人が祈願しにきていた。
そして木綿季達の番になると五円玉を賽銭箱に入れて鈴を鳴らした。
そして手を2回叩くと、手をあわせて目をつぶる。
(木綿季と神楽で一緒に暮らせますように)
(響夜と神楽ちゃんで一緒に暮らせますように)
(にぃにとねぇねがいつまでも幸せになりますように)
3人はお祈りを済ませると家に帰ることにした。
ホントならばもう少し楽しみたいのが本音なのだが、神楽の足の事もあり、早めに帰りたかったのだ。
「帰るか、神楽の足を事考えて」
「だね、悪化したらダメだから」
「・・・ごめんなさい」
「謝んなっての、嫌じゃないから」
「でも・・・」
「神楽ちゃん。良いんだよ。それにやりたくてしたわけじゃないんだから」
「・・・分かった」
「んじゃ帰るぞ」
「はーい!」
響夜は家に帰るべく、来た道を引き返して石段を降りていく。
すると木綿季と言い合いをしていた男が遠めに見えるのが分かった。
「木綿季。さっきの男いるぞ」
「嘘!?・・・うぅ、嫌だなあ」
「とりま駐車場まで行くぞ、そこじゃないとタクシーこれねぇから」
「・・・そうだね」
あまり良い思い出がないのだろうと響夜は思い、木綿季はこれから会うのだろう元同級生に溜め息を付いていた。
そして近くになると、男が木綿季に話しかけた。
「あ、木綿季ちゃん!」
「・・・どうしたの?」
「あれから探したんだよ!いきなりどっか行っちゃうんだから」
「そうなの・・・」
「俺と一緒にお参りしない?」
「えっと・・・ボク、この人ともう済ませたから・・・」
木綿季は響夜に抱き着くと男は響夜を怪訝そうに見る。
見た目で判断しているような目で、木綿季を下心丸出しだと響夜は判断すると、木綿季を少し後ろに移動させた。
「わりぃな。木綿季は俺の貸し切りだ」
「はぁ?木綿季ちゃんは俺と行くつもりだよね?」
「さっきから木綿季ちゃん木綿季ちゃんって・・・うっせぇなぁ。木綿季は親公認の相手なんだよ、いまさら何手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ」
「・・・親・・・公認・・・?う、嘘だよね?」
「・・・ホントだよ。ボクはこの人が好き」
「・・・嘘だ。木綿季ちゃんは・・・俺の・・・俺のだ」
男は錯乱したようにブツブツと何かを呟くと木綿季に近付く。
そして木綿季の手を掴もうとするが響夜がそれを止めた。
「もう一回言うぞ?」
「人の嫁に手ェ・・・出してんじゃねぇよ?」
響夜は本気でいらつきながら男に向かってそう言い放つ。
それに怖じけづいたのか男は響夜から離れた。
「・・・失せろ、うぜぇ」
それだけで男は急いでどこかへ走り去っていく。
響夜も溜め息を付くと携帯でタクシーを呼んだ。
「・・・」
「ねぇね。大丈夫?」
「・・・うん。大丈夫・・・」
「悪い。威圧し過ぎたか」
「・・・ボクが悪いから・・・ごめんね、響夜と神楽ちゃんこそ」
「ねぇね辛そう。素直になったのが良いよ」
「っ・・・」
「木綿季。家に帰ったら部屋にすぐに来い。それまでは少しは我慢してくれ」
「・・・うん」
響夜は木綿季の頭を撫でる。
そして少ししてやってきたタクシーに乗ると家に向かった。
その間は神楽がずっと木綿季に抱きしめられていたが。
家に到着すると、神楽はすぐに自分の部屋に向かった。
響夜も木綿季を連れて部屋に入る。
「木綿季」
「うぐ・・・」
「もういいぞ」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!怖かったよぉぉ!!」
「よしよし・・・」
泣くじゃ来る木綿季を響夜は抱きしめて背中を優しく叩いた。
泣き止むまでずっと。
木綿季は元同級生の男が怖かった。
中学からずっと付き纏われ、何かと話し掛けられた。
高校になり響夜と一緒になってから気にしなくなったが今回の一件で木綿季はさらなる恐怖を覚えた。
男の歪んだ愛情の執着心に。
その恐怖をひたすら家に帰るまで我慢し続けた。
それも限界になって木綿季は響夜に抱き着くと泣きつかれるまでずっと泣きつづけた。
響夜も木綿季を落ち着かせるように、優しく、それでいて強く抱きしめて。
それもあってか数分もすると木綿季から正しい寝息が聞こえてきた。
「すぅ・・・すぅ・・・」
「ごめんな、守ってやれなくて」
「でも・・・いつでも頼ってくれよ」
「お前は俺の大事な嫁さんなんだからな」
響夜は木綿季の唇を重ねると一緒にベッドに入って寝ることにした。
時間帯としては夕方だったが、問題ないと思いそのまま寝付く。
いつの間にか木綿季に抱き着かれていたが、響夜は気にせず木綿季を抱き寄せてそのまま夢の中へと落ちていった。
はい、初詣回でした。
少し木綿季が悲しい感じになりましたが、中学時代の事がありましたから仕方ない・・・ですね。
ですが、二人はお互い依存し、支え合えるからこそ何でも乗り越えれる、そんな気がしてきました(書いててですが)
さて、次回からようやく書いてみたかったお話に入れます、章タイトルも次回投稿後に追加しておきます。
しかし思ったように書けるかは別ですよ?作者の文章力なんてなさすぎて上手く書けなさそうです。
感想とかありましたらよろしくです。