まだ響夜が直人だったとき。
幼い頃から一緒にいた女の子がいた。
名前は朝田詩乃。
ご近所付き合いで家同士も仲が良かった。
だが、ある日を境にそれは変わっていく。
郵便強盗事件以降、俺は詩乃の前から消えた。
あの事件で郵便局役員が一人射殺された。
確かに俺は犯人を止めたが、詩乃の前で躊躇いもなく銃を使った。
詩乃の母親は俺を恐怖、軽蔑の目を俺に向け、詩乃は・・・泣いていたのだろうな。
学校を簡単に転校出来なかった俺は渋々中学にも行った。
まぁ屋上で寝転んでるだけだったが。
時々誰かが屋上を開けようとする時があった。
大方詩乃だろうと思ってた俺はそのまま放置する。
「直人君」
「・・・何の用だ」
「授業・・・受けないの」
「受けねぇ、どうせ内容も知れてる」
「そう・・・」
詩乃は名残惜しそうに言葉を残すと屋上から出ようとする。
その時詩乃の首元が変色していた。
紫色が見えた辺り締め付けによる物だろうと俺は思った。
「詩乃」
「なに」
「虐められてるなら・・・言えよ。助けてやる」
「・・・」
表情が少し変わっていたのを俺は見逃さなかったがまだ確証に至った訳ではない。
まだ・・・まだ、本人からかその現場を見なければ決定的な証拠となり得ない。
「ありがとう。私もう行くわ」
「ああ」
少し表情が柔らかくなった感じがしていた。
不安を少しでも除けたら良いな。
虐めは俺は好きではない。
確かに人が悶えている所を見て嘲笑う時はあるが程度は弁えている。
やり過ぎの場合なら俺は止める。
だからこそ思う。
虐めは糞だと。
現に俺の目に入る所で虐めが現在進行形で行われている。
「なあ、朝田。お金ないから貸してくれない?」
「私もう無いんだけど」
「財布貸してみなよ、それで判別するから」
「嫌」
詩乃に金をたかる女子は詩乃を殴ると無理矢理財布を奪い取る。
決定的な現場をあえて録画したから逃れは出来んぞ。
「なら俺のをくれてやろうか?不良共」
「なっ・・・!」
「と、時崎?」
「へぇ・・・俺の名前知ってんだ。なら言いたいことわかるだろ?」
「根暗がいきんな!」
まぁ俺は根暗と言われようが構わない、その通りだし。
だが自分と相手の実力を見極めきれない奴は総じて弱い。
ちょっとした殺気を当てるだけで怖じけづく。
「実力も測れない奴がいきんじゃねぇよ」
「ひっ・・・」
ほら、殺気を少し出しただけですぐに怯える顔をする。
生憎俺は男女平等に手加減はしない主義だ。
男にも女にも同じ力で殴れる。
「ご、ごめんなさいでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」
「・・・弱虫が」
女子生徒はすぐにどこかに逃げ出すと詩乃の元に行く。
殴られた痛みで気を失ってるのか反応がない。
「ごめん、もっと早く行けたら良かった」
詩乃を背負うと俺は保健室に詩乃を運び込む。
その場を後にしようとするが詩乃の手が俺の服を摘む。
「・・・しゃーねぇなぁ、ちょっとだけだぞ」
仕方なく俺は近くの椅子を持ってくると座って俺は寝た。
近くに俺がいることで安心したのか詩乃はぐっすりと寝ていた。
「懐かしい物を見たもんだ」
懐かしい事を夢で出てきて昔を懐かしむ。
近くには響夜に抱き着いて寝ている木綿季がいた。
「こいつ、人を抱き枕みたいに・・・」
「むにゃ・・・」
「・・・はぁ、怒る気が無くなる」
嬉しそうな表情をする木綿季に響夜はどんな夢を見ているか気になったが時間を見るとそれも無くなる。
「7時か。飯作るか」
響夜は木綿季を起こさないように手を離していくとベッドから脱出する。
木綿季のホールドの包容力には底無しだと思いつつ今日の朝ご飯を考える。
「何にしよう。昨日は和食だったしなぁ」
響夜が朝ご飯を考えているとインターホンが鳴り響く。
「ん、誰だ?」
響夜が玄関を開けるとそこには。
久方振りに見た詩乃だった。
「・・・」
響夜は無言で玄関の扉を閉めようとするが詩乃は足を入れてそれを防ぐ。
「・・・見間違いじゃないな」
「当たり前でしょ!?」
「まぁ、とりあえず入ってくれ」
「え、ええ」
まだ朝食を作っていないため長話をしても良いが季節は冬まっしぐら、響夜としても女子を寒い外に放っては置けない。
「久しぶりだな」
「・・・そうね」
「何話せば良いのかねぇ」
「本当ね」
「・・・学校はどうだ」
「特に変わらないわね・・・」
「そうか・・・俺は学校変えたしな」
「学校・・・どこなの?」
「場所ねぇ・・・」
響夜は話すべきか悩んだ。
詩乃には黙って転校したため、詩乃からすると心配なのだろう。
だが、響夜の学校はSAO被害者が主な生徒。
そのほか、家庭事情などでも入れるが詩乃は十分今の高校でも問題なかった。
「詩乃、お前は今の学校が嫌か?」
「正直言えば嫌ね。あんたがいないもの」
「なんだそりゃ・・・」
「・・・やー」
「「・・・」」
「誰の声?」
二階からした声は確実に木綿季の物だった。
詩乃には言っていないが同棲に近いことをしている響夜はこの場をどうするか考え悩む。
「はぁ・・・隠すことでもねぇし、言うか・・・」
「何を?」
「好きな相手がいるんだよ、この家に」
「・・・え?」
「だーかーら、同棲してんだよ!」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
「響夜ー、誰かいるのー?」
大声をあげた詩乃は二階にも響き、階段から木綿季と神楽が下りて来る。
神楽は事情を知っているので驚きはしていないが木綿季は固まっていた。
「き、響夜・・・?」
「木綿季、一応言うぞ。浮気してねぇから」
「ほ、ほんと?」
「・・・昨日言ったろうが・・・」
早くも修羅場になりつつある家で響夜は大きなため息をついた。
木綿季の誤解を解いた響夜は詩乃を紹介した。
詩乃にも同様に木綿季と神楽を。
「朝田さんが響夜の幼なじみかぁ・・・」
「・・・ええ」
「そういや詩乃って改名した俺の名前教えたっけ」
「知らないわよ、教えられて無いもの」
「雪宮響夜だ。雪宮は親の名字」
「じゃあ響夜って呼ぶわよ」
「お好きに」
「響夜ー、お腹すいた」
「はいはい、作るから待ってろ」
お腹の音を鳴らす木綿季は響夜に抗議し、響夜は朝ご飯を作る。
「詩乃、朝飯食ったか?」
「あ・・・」
「・・・和食と洋食どっちがいい」
「よ、洋食で・・・」
注文を承った響夜は冷蔵庫の材料をまず確認する。
野菜室、冷凍室の中にある材料を見て簡単でありながらそこそこお腹を満たせる物を考えつく。
戸棚からホットケーキミックスを取り出すと慣れた手つきで卵と牛乳を放り込む。
「慣れてるのね」
「両親が研究職で家にあまりいないからな。家事は自然と身についた」
「そうなの」
「響夜が作るご飯は凄く美味しいんだよー」
「へぇ・・・?」
詩乃は響夜のご飯に期待をしつつ、木綿季と話をし始める。
響夜もそれを見て姉妹みたいだなと思いつつホットケーキを作る。
神楽が率先して手伝いをしてくれるため、焼けてすぐに皿に移せていた。
「木綿季、せめて少しは神楽を見習おうな」
「うっ・・・」
「ほんとよ?」
「だって神楽のが動くの早いんだもん・・・」
「それは詩乃と話してるから神楽が気を利かしてるだけだ」
「う~」
「とりあえず出来たから二人とも食べとけ。もっといるなら枚数を言え」
「私はあと1枚ぐらい」
「ボクは3枚!」
「詩乃と、同じぐらい」
「はいはい」
本当に主夫となっている響夜は注文を受けてホットケーキをどんどん焼いていく。
響夜が食べれるのは詩乃達のホットケーキを焼き終えた時だった。
木綿季は合計4枚のホットケーキを食べ尽くしていた。
そこそこ大きめのを焼いたのだが美味しそうに全て食べ切る。
「よく食べるよなぁ」
「ふふん!」
「そこ自信はることじゃないわよ」
「お前ら話はもう大丈夫か?」
「ええ、聞きがいのある話だったわ」
「ボクも響夜の昔を聞けて満足だよ~」
「そうですかい・・・んで詩乃はどうするんだ?」
「え?」
「一応耳には入ってたからな。俺んとこの学校に来たいんだろ?」
「・・・そうね。響夜がいる方がまだ楽しいもの」
響夜はそれを聞くと携帯を取り出し、電話をかけた。
「母さん、響夜だけど」
『あら、響夜。どうしたの?』
「母さんって理事長だよな?俺が通う学校の」
『そうだけれども・・・誰か入れたいの?』
「ちょっと訳ありな子でな。クラス指定まではしないから入学出来るようにできない?」
『知ってるでしょ?あの学校はSAO事件に関わった未成年や家庭事情など普通の学校に通うのが難しい子が入学出来るって』
「そりゃーわかってる。だからこそだ」
『・・・仕方ないわね。馴染みのある子なんでしょ?』
「ああ、詩乃っていう女の子。幼なじみなんだよ。訳は・・・また言う」
『わかったわ。だけどすぐには出来ないから一度その詩乃さんに会わせてね」
「さんきゅ。んじゃ切るぞ」
『ええ、良い新婚生活を楽しみなさい』
洒落にならない冗談をぶちかましてきた母親にすぐに電話を切ると詩乃に話を切り出す。
「詩乃、とりあえず掛け合ってはくれるが事情がなければ余程の事が無いかぎり俺の学校は無理だ」
「・・・ええ」
「元より俺の通う学校はSAO被害にあった未成年や家庭的な事情によって学校が難しい子が通うとこでな。恐らくお前が入るならあのことは言わないとダメだ」
「・・・」
「大丈夫だよ、ボクと神楽と響夜もいる。それに響夜も一緒だったなら言いにくいことは言ってもらえば大丈夫だから」
「・・・ありがとう」
木綿季と詩乃はすっかり仲良くなり、詩乃も安心しているのか結構無防備になりつつある。
響夜としては襲う気は無いし、するとしても木綿季以外有り得ない。
「詩乃、お前家はどうすんだ?」
「一人暮らしだし、明日は日曜だから・・・」
「寝るときは二階の俺の部屋使っとけ。木綿季も同じ」
「えー、一緒で良いじゃん」
「詩乃がいるだろうが・・・」
「まさか・・・一緒に寝てるの?」
「そうだよ?響夜って抱き心地が良いんだ~」
木綿季が爆弾発言を投下し詩乃は絶句する。
「・・・お前らは一緒に寝ておけ。俺は下で寝る」
「わ、私は・・・良いわよ?」
「ほら、詩乃もこう言ってるよ!」
「お前らの頭の中はピンク色か!ごたごた言わずに二人で寝ろー!」
まさかの三人一緒にベッド宣言をする詩乃と木綿季をなんとか説得した。
寝ること以外は普通に過ごしていたため、女子組が仲良く話していた。
響夜は家事に追われていたが。
ベッドは響夜の部屋に詩乃と木綿季が仲良く寝ていた。
響夜は一階のソファで毛布を被っていた。
だが、誰かが一階におりてくる。
「・・・響夜」
「木綿季、寝ないのか?」
「ん・・・ちょっと・・・ね」
「毎日一緒に寝てるだろ?」
「それでも・・・寂しい」
「仕方ないな・・・ベッドには入らんが近くで寝るよ」
「ありがと・・・」
木綿季の頭を優しく撫でると二人は二階へと上がる。
部屋に入ると詩乃はまだ寝ていた。
「木綿季、おいで」
「ん・・・あむ・・・」
木綿季を抱き寄せて1分ではあるが唇を重ねた。
それだけで木綿季の顔は蕩けている。
「これで良いだろ?またいつか続きしてやるから今日はもう寝なさい」
「はぁい・・・」
近くで寝ている事が分かって木綿季は響夜の手を握る。
響夜からすると少し寝ずらかったのでベッドに顔を乗っけて寝ることにした。
「木綿季、おやすみ」
「おや・・・しゅみ・・・」