白血病を治し、普通の生活に戻った響夜は自分の部屋を弄っていた。
押し入れの奥の方にある段ボール箱を取り出して開けてみる。
「・・・懐かしいな」
中にあったのはクラス写真。
それは響夜がまだ『時崎直人』だった時。
担任が最後だからとクラス全員を説得し、木綿季を伝って直人を連れ出してようやく撮れた一枚。
「たまには・・・顔を出しにでも行ってやるか」
響夜はそう思い、中にあった制服を着る。
それは高校指定服で、気分的に置いていた物だった。
制服を着てバイクの鍵を持って家を出る。
「神楽、ちょっと外出てくる」
「わか、った・・・いって、らっし、ゃい・・・」
「ん、行ってきます」
神楽を家に置いていくと響夜はバイクに乗ると高校に向かった。
ほどなくして到着し、いつもの駐輪場にバイクを止めると毎日寛いでいた屋上に向かう。
「未だに鍵返してねぇわ、まぁ良いけど」
鍵を返し忘れていたため、屋上には難無く入れるのだが向かう途中生徒に会ってしまう。
その生徒からすると見知らぬ男子生徒が入っていて驚いたのだろう。
「あ、あなた誰ですか!」
「・・・おかしいな、制服着てんだが」
「私の記憶には貴方みたいな男子は居ません!」
「は、はぁ・・・じゃあ桜先生どこにいる?」
「桜先生・・・?職員室に居ますけど・・・?」
「ん、なら職員室向かうか」
女子生徒からかつての担任の場所を聞き、その場所にいるであろう桜の所に向かった。
響夜をつけるように女子生徒は後ろからひっそりとついていく。
「さぁ~て・・・ふぅ~」
「失礼しまーす、元2年A組の時崎です、桜先生いますか」
元という言い方に職員室内はざわめき、中から担任だった桜がやってくる。
「時崎君?」
「久しぶりですね、先生」
「え、えぇ・・・」
「落ち着いたんで内容教えに来たんですけど」
「じゃ、じゃあそこに座って?」
桜に促され響夜は近くの椅子に座る。
女子生徒はどうやら生徒会長らしく、記憶力が異常なほど良いため初めてみた響夜に怪しんだらしい。
「とりあえずまず家庭事情で、大きな事があったんですよ」
「確か・・・時崎君のご両親は居ないんですよね?」
「そうですね、信頼できる親戚に養子として引き取ってもらいました。名前もその時変えましたし」
「今の名前は?」
「雪宮響夜ですよ」
「なるほど・・・それで何でここに?」
「えっ、だからあの時に言った様に落ち着いたのと、まだ俺ここの高校在学中になってるんで、中退しようかなと」
「中退・・・」
響夜が高校を止めると思い桜は言葉を詰まらせた。
桜にとっても響夜は問題児だったがその分の事をしていたと思っていた。
「SAO事件・・・俺も参加してたんですよ。それでSAO事件被害者とかが入れる支援学校に入る予定です」
「あの事件に・・・?大丈夫だったんですか?」
「ええ、逆に大事な物を見つけれましたから」
「そうですか・・・」
「高校自体はもう一回学校が違いますけど入りますし、仲間も多いんであの時みたいな事は起きませんって」
「なら、良いんです・・・あの時私が何も出来なかった事で・・・」
「いいんすよ、俺が勝手に騒いで起こした問題ですから。桜先生が気に病む事はないです」
「ありがとう、時崎君」
「いえいえ・・・っと、時間やば」
響夜が時間を見ると12時を超えていた。
1時から予定があるため、そろそろ出なければならなかった。
「もう行ってください。私だって忙しいんですからね?」
「そうすね、それではまた」
「はい、またです」
予定がある事を察し桜は話を終わらせて響夜を帰らせた。
その途中、視線が気になり辺りを見回すと一人の女子生徒が響夜を見ていた。
その生徒は眼鏡をかけていて響夜も知っている人物だった。
「・・・直人君?」
だが急いでいる今構ってやれないのですぐにその場を後にして急いで下に降りるとバイクを乗る。
「なんであいつが・・・今頃になって俺の前に出るんじゃねぇよ・・・」
響夜は先程の女子生徒を思い出すがすぐに頭を振って思考を止める。
そしてその場から、学校から逃げるようにバイクを走らせた。
家に帰った後、神楽を連れて行かなければならないため、外に行けるように用意させる。
「神楽、用意出来たか?」
「うん、できた」
「んじゃバイクに乗りな」
「うん」
バイクに乗ろうとするが届かないのか飛んで乗ろうとするも届かず響夜が持ち上げて後ろに乗せる。
響夜も乗るとバイクを吹かして、目的の場所へと向かった。
25分ほど時間がかかったがその場所に到着する。
それは古めかしい感じがする喫茶店だった。
「ダイシー・カフェ?」
「この場所に用があるんだよ」
神楽の手を引くと響夜は扉を引いて中に入る。
中は広く、隠れ家的な雰囲気を出していた。
「いらっしゃい」
「わざわざ来てやったんだ、もうちょいなんか言えよ」
「・・・?初めてだろう?」
「きょー、見た目違うよ」
「あー・・・マジか」
マスターを勤めているのは『アンドリュー・ギルバート・ミルズ』。
SAO、ALOでは『エギル』という名前でキリト達と関わっていた人物だ。
「ヒビキだよ、見た目ちげぇけど」
「全然雰囲気違うじゃねぇか、ぱっと見分からないぞ」
「だろうなぁ・・・あ、アイスコーヒーとホットミルク頼む」
響夜はエギルに飲み物を注文する。
アイスコーヒーは響夜でホットミルクは神楽の分だった。
「ほらよ・・・で、今まで顔を見せなかったのはどういう了見だ?」
「さんきゅ・・・SAO攻略してALOにも居たけど途中で入院することになってな。だから行きたくても行けなかったって感じだ」
「入院って・・・何のためだ?」
「CML・・・慢性骨髄性白血病だ。まぁ数日前に治ったけど」
「なるほどな・・・っと、もうすぐキリト達が来るぞ」
「なら俺はこのままの姿で居よう、面白そうだし」
響夜の姿はSAOの時と違い髪の毛が少し伸びていた。
それだけでエギルを勘違いさせたのだから気づく可能性は低いと思った。
少しすると扉が開いて3人が入ってカウンターに座る。
「よっ、エギル」
「こんにちは、エギルさん」
「こんにちは~」
和人、明日奈、木綿季がカウンターに座ってエギルに言う。
そして近くに座っている響夜と神楽を3人はちらっと見るが分からなかったようで気づいていない。
そしてまた扉が開いた。
その人物は見た目は10歳ぐらいで銀髪を持つ少女だった。
「・・・面倒な奴が来やがった・・・」
「面倒?」
その少女が来ると喫茶店はざわめく。
そして響夜を見つけると一目散に飛びつく。
「ひびき~!」
「だー!うるっせぇ!」
「プリヴィエート!やっと見つけたわ!」
「・・・逃げたい」
「きょー、この子は?」
神楽はいきなり響夜に飛びついた少女の事を聞きたかったが隣の3人に思いっきり聞かれたであろう。
「ヒビキ・・・?」
「・・・エギル、帰っていいか」
「諦めろ」
「ちくしょう・・・」
エギルに助けを求めるも諦めろと言われ響夜は頭を抱える。
まず銀髪少女の事と、和人達で対応が疲れていた。
「とりあえず、久しぶりだな」
「響夜だよね?」
「お、おう、そうだけど」
いきなり木綿季が響夜の目の前まで近づく。
響夜もさすがに恥ずかしいのか目を逸らして離れさす。
「ちけぇから離れろ・・・」
「ぶ~」
「ヒビキ君だよね?」
「ん、まぁな。本名は雪宮響夜・・・まぁそこの真っ黒に聞けば教えてくれると思うけど」
「えっ?そうなの?」
「だって結構長い付き合いだし。SAO以前からな」
「あはは・・・で、響夜。その女の子は?」
和人は苦笑いするも、響夜に近寄ろうとして止められている銀髪少女が気になった。
「・・・アル、自分で自己紹介ぐらいしろ、めんどい」
「ちょっと、それはひどいんじゃない!?」
「良いからさっさとしろ・・・」
「む~・・・まぁ、良いわ。私は七色・アルジャービン。VRMMOではセブンって名前で遊んでます」
「七色ってあの!?」
「多分?」
七色の自己紹介に4人は驚く。
何故かと言えば、この少女『七色・アルジャービン』はVR技術の研究者で茅場晶彦と並ぶ知能を有する。
茅場が闇ならば、七色は光の科学者と言える。
そして年齢は弱冠12階で天才科学者だったために世界的にもその名は有名だった。
「きょー、なんで知ってるの?」
「元々メディキュボイドはまだ実用化されてないんだよ。使うには被験者としてじゃないと使えない。その許可でアルに貰いにも行ったし、昔から知ってたからな」
「そうなんだ」
「で、アル。お前は何しに来たんだ」
「メディキュボイドの被験者になった響は政府から報奨金が出るのは知ってるでしょ?」
「ん、ああ。そうだな」
「報奨金自体が振り込まれてる通帳を直々に私に来たのよ!」
「あ、はい。さっさと渡してお前は仕事しに行け」
響夜の冷たい対応に七色はいじけるも通帳を渡す。
外にはワゴン車がある辺り仕事の休憩時間に来たのだろう。
「仕方ないわねー、ダスヴィダーニャ、響」
「ダスヴィダーニャ、アル」
七色はそのまま嵐のように車に乗ると去って行った。
そこからは今度は木綿季と和人と明日奈が七色との関係を根掘り葉掘り聞いてきた。
「ねえ!あの子とどういう関係?!」
「親同士の絡みで昔から知ってんだよ!ていうかちけぇから!」
「それにしてはやけに仲良かったじゃないか」
「仲悪かったら俺死んでるからな」
怒涛の勢いで聞いてくる3人に答えていると終わる頃には疲れ果てていた。
「響夜、退院おめでとう!」
「木綿季、遅い」
「えへへー、ごめんね?」
「悪びれてねぇだろ!?」
「ふふんー」
和人と明日奈も木綿季に続いて言うと木綿季のペースに響夜は飲まれていた。
それを嫌と思わなくなった辺り、過去と変わったのだろう。
いつかは言わなければならないのにも関わらず。
「さて、そろそろ帰るわ」
「えー、まだ話してたいー」
「腹減った、眠い、しんどい」
響夜の3連続返答に木綿季は黙るほかなかった。
元々留めさせたのは自分達と分かっていたからだ。
「あ、あとな。しばらくALOにログインしないから」
「「「えっ!?」」」
「GGO・・・ガンゲイル・オンラインをやってみたくなったんだよ。神楽もやりたいらしいから」
「響夜、それ俺もなんだよ」
「お前の場合どうせ役人さんにこき使われてるだけだろ」
和人も行くと言うと明日奈は驚いていた。
明日奈に言っていなかったのだろう、後に説教されると響夜は思った。
「とりあえずそろそろ帰るわ、ご飯作らないとだし」
「そうか、それじゃあな」
「またね、響夜君」
和人達と別れてバイクに乗るとここに来るときより重かった。
「・・・木綿季、お前は何故乗ってる」
「え?響夜のご飯を食べに行こうかなーと」
「お前絶対そのまま泊まるだろ・・・」
「駄目?」
「せめて親に泊まっていいか聞け」
響夜が言うと木綿季は携帯を操作して電話をかける。
『紺野です』
「お母さん?ボクだけど」
『どうしたの?』
「響夜の家に泊まっていい?」
『響夜君が嫌じゃないのなら良いわよ、それと変わってもらえる?』
「うん・・・響夜、変わってだって」
「変わりました、響夜です」
『響夜君、以前失踪したって聞いたけど・・・何があったのか聞かせてもらえる?』
「長くなるんで簡単に言ったら自分の病気の事を知られたくなかったんですよ、結局はばらしましたけど」
『そう・・・あまり思い詰めないことよ。木綿季と響夜君はお互いに支え合えると私は思っている』
「・・・そうですね。すみません、木綿季を放ってしまって」
『あら、その自覚があるなら木綿季をお願いしようかしら?』
「洒落にならないんでやめてください。しかもまだ16じゃないんですから」
『16になったら貰ってあげてね』
「・・・良いですよ、それじゃ切りますね」
『ええ、木綿季によろしく』
そういって裕子は響夜との電話を終えて、響夜は携帯を返す。
「お母さん何て言ってた?」
「んー、秘密だ。そのうち教えてやる」
「仕方ないなぁ・・・」
木綿季と神楽を乗せると響夜はバイクを発進させた。
いつもと違い2人も乗っているため安全運転で家に向かった。
家に着くと神楽は疲れたのか自分の部屋に入っていった。
疲れていたため眠たいのだろうと響夜は思う。
木綿季も家に入れると荷物を部屋に置きに行く。
「木綿季」
「ん?どうしたの?」
「16になったら挨拶しに行かないとな」
「ふぇ?」
「知ってるか?日本じゃ女性は16歳で結婚出来るんだぞ」
「・・・はわわ・・・」
響夜がいきなり言うため木綿季の頭は処理が出来ずにショートする。
ポンッと頭を爆発させると木綿季はそのまま力が抜けて倒れる。
「ちょ、木綿季」
「ボクと響夜が結婚・・・えへへ・・・」
「・・・しばらく寝かしとこう」
自分の世界に入った木綿季をベットに寝かせると響夜も眠たくなったのか椅子に腰掛けて眠ることにした。
一応アラームもかけて。
「おやすみ、木綿季」
ひとまず、これでALO編のストーリーが完結しました。
次は日常編を書いていきます。
その中でGGOの事も入れていきますが最初のメインは日常編となります。
また、高校の話に出ていた眼鏡をかけた女子生徒はGGO編でも重要人物になります。
それでは、ALO編を読んでいただきありがとうございました!