アルンに着いたキリトとリーファは宿屋でログアウトしていた。
しかしヒビキとユウキはまだ宿屋の中でにいる。
「・・・はぁ」
「どうかしたの?」
「ん・・・まぁ、色々な」
「ん~、何か隠してる?」
「だったらなんだ・・・」
「ボクに教えてくれない事だと・・・何か言いづらくて大事なことかな?」
ユウキの謎の勘の良さにびっくりするヒビキ。
だが言い悩んでいた。
このままあれを言ってしまっても大丈夫なのだろうかと。
「無理には聞かないよ。だけどいつか話してほしいな」
「ああ・・・ごめんな、ユウキ」
「ううん・・・でも何かあれば言ってね?ボクはヒビキのお嫁さんなんだから!」
「・・・おう」
ユウキに励まされ、改めてユウキの存在を確認したヒビキ。
だがその顔はどこか浮かない顔をしていた。
それにユウキは気付いていたのだろうか。
キリトとリーファが戻って来ると、リーファは少し泣いていた。
キリトが泣かしたのかヒビキが問い詰めていたが全力で否定していたのを見て、ユウキを連れてキリトとリーファだけにした。
「ヒビキ?良いの?」
「ああ、あれはキリトじゃないとダメだろうな」
ヒビキに言われユウキはただ扉の向こうにいる二人を見つめていた。
それを見ていたヒビキはユウキを優しく抱きしめた。
「・・・ヒビキ?」
「今回の騒動が終わったら・・・大事な話をする、その時が・・・」
「その時が・・・?」
「いや今はまだいい・・・ただ今はこうしていられることを感じておきたい」
「う、うん・・・」
いつになくユウキを抱きしめていたヒビキは少し震えていた。
何かに怯えるように。
それを解消出来なかったユウキは自分の無力さを思い知らされた。
少しするとキリトが扉を開けてきた。
それに合わすようにヒビキも手を解く。
「終わったか?」
「ああ・・・ありがとう、ヒビキ」
「なーに、お前にしか出来なそうだったしな」
すると奥からリーファが来る。
しかしその瞼は赤く腫れており、泣いていたと教えていた。
「んじゃいこっか・・・!」
「だな」
宿屋を出てアルンの町並みを見ていると、ユイが何かに反応して空を見ていた。
「ユイ?」
「これは・・・?」
「・・・上か」
「まさか・・・!?」
ユイの行動が分かったヒビキはキリトに目で合図した。
すると羽を出して全速力で上に飛んでいく。
「ちょ、キリト君!?」
「はぁ・・・俺らも一応行くぞ」
「うん!」
リーファも飛んで行ったため、ヒビキ達も着いて行った。
速度を上げて上に飛んでいるとキリトが見える。
そして上に向かって大声を出して。
「アスナー!!」
「ママァー!」
それを3人は見ていた。
するとヒビキが空に何かを見つけた。
「・・・?何だありゃ」
気になったヒビキはそれを掴む。
それはカードのような物だった。
「ヒビキ、それは?」
「カード・・・アイテムじゃないところを見るとGM権限系か」
ヒビキは予測を付けるとカードをキリトに渡す。
キリトも意味を理解するとカードを大事そうに持つ。
「キリト、このカードは多分GM権限のカードだ。だからもし何かがあればお前が使え、俺はその頃には一緒には行けねぇから」
「・・・分かった、ありがとう」
「多分お前の声が届いたんだろう、警告モードで声を出してたからな。アスナがそれに気付いて落としたと見ていい」
ヒビキの予想にキリトはカードを持つ手に力が入る。
これはアスナが託した物だと。
一刻も早く助けなければならないという使命感が渦巻いていた。
カードを手に入れると4人は下に降りる。
するとヒビキがウィンドウを開いた。
「・・・なるほどな」
「どうしたの?ヒビキ君」
「ちと寄る所出来たから単独行動するわ」
「俺らも行くよ、まだ時間はある」
「いや、俺一人で良いよ」
そういうとヒビキはどこかに飛んで行った。
ユウキも追い掛けようとするがヒビキが来るなと合図したからか途中で止めてしまう。
「ヒビキ・・・」
「すぐに戻って来るよ」
「うん・・・」
キリトが落ち込んだユウキを励ます。
リーファも同じくユウキに声をかけていた。
その頃ヒビキを呼び出していた相手のところへと向かっていた。
「ったく、何のようだよ・・・」
その場所は世界樹の近くの店だった。
店名は『不通の武具店』というプレイヤー店舗だった。
ヒビキはそこに入ると一人のプレイヤーを見つける。
「何の用だ?」
「ん、あるもの見たから確証を得るために」
「はぁ・・・で?何を聞きたいんだ」
「お兄ちゃんの机の引き出し。中に診断結果の紙があった」
「・・・勝手に開けたのか」
「うん。勝手に開けたのはごめんなさい」
「はぁ・・・」
隠していた病気が神楽にばれたため、どうしようかヒビキは考えていた。
すると神楽は響夜を椅子に座らす。
「病気。治すの?」
「治すよ、治療法も聞いてある」
「そっか。いつ頃?」
「今はアスナ救出が優先だ、それが終わったら・・・入院する」
「ん・・・着替えとかは?」
「この際だ、神楽。お願いしていいか?」
「ん、お任せあれ」
響夜はいつもみたいに神楽を膝に乗せると頭を撫でる。
神楽はされるがまま撫でられて嬉しそうにする。
「ん・・・にへへ・・・」
「ありがとうな、神楽」
「ん、お兄ちゃんの為なら頑張る」
「さて、俺もそろそろ行くよ」
そういい、カグラを降ろすと扉に行く。
「気をつけてね、ヒビキ」
「ああ、行ってきます」
扉を開けて外に出て行ったヒビキ。
それを手を振って見送るカグラ。
「・・・いつか、この想いが言えたら・・・良いな」
「そろそろ・・・お店の準備、しよ」
そういってカグラは店の裏側へと入って行った。
キリト達はその間、世界樹攻略クエストである『グランド・クエスト』に挑戦していた。
「未だ天の高みを知らぬものよ。王の城へと至らんと欲するか」
キリトは『はい』と選択すると門番の武器が退かれ、扉が開く。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
「わかった!」
リーファとユウキもキリトに続く。
中に入ると大きな空洞に繋がっており、壁にある鏡のような物からどんどんとモンスターが湧いていた。
キリトとユウキが前衛を務め、リーファが回復をするという形で倒していく。
「もうすぐだ・・・!もうすぐ・・・!」
「キリト・・・」
もうすぐアスナの所に行けると信じ戦い続けたキリト。
しかし後すこしの所で大量のモンスターが壁となりキリトの行く手を阻む。
「なんでっ・・・!もうすぐなのに!」
「キリト!一旦退こう!」
ユウキの言葉を無視しキリトは突っ込んでいく。
だが弓兵に狙われどんどん的となって行った。
「くそっ、くそっ・・・」
《You Are Dred》と表示されたキリト。
それは魂となり数秒間残るためそれをユウキが回収すると出口へと撤退する。
だがモンスターがそれを遮り、逃がそうとしなかった。
「まずい・・・!」
反射的に目をつぶってしまったユウキだが、その攻撃は一つも来なかった。
恐る恐る目を開けると目の前には半透明の剣がクルクルと回っていた。
そして出入口から声がする。
「人の嫁に手ェ出すとは良い度胸だなぁ!?」
その声はユウキの夫であるヒビキだった。
だがいつものヒビキでは無く、どこか怒りを持っていた。
「リーファ!ユウキ連れてさっさと出ろ!」
「わ、わかった!」
ヒビキは『幻影剣』を出すと逃げるときの邪魔になるモンスターに容赦なく刺して行った。
そのおかげか、ユウキの逃げ道にモンスターが居なくなりリーファも来ていた。
「ユウキちゃん、今のうちに!」
「う、うん!」
リーファもモンスターが近づくと武器で切っていたため、ユウキはすぐさま脱出した。
リーファも一緒に脱出したが、ヒビキだけはそこに残った。
「はぁはぁ・・・」
「えっと・・・確かこれが・・・」
リーファがあるアイテムを魂となったキリトに使うと魂から人へと形を成す。
「・・・ありがとう、二人とも」
「良いよ・・・別に」
「ううん、キリト君のためにしたから・・・」
キリトはまた立ち上がると扉の前まで移動する。
「キリト君!また行くの!?さっきあんな目にあって一人じゃ出来ない事分かったでしょ!」
「ありがとう、リーファ。でももうあんな無茶はしないでくれ、俺は大丈夫だからさ、これ以上迷惑はかけたくないんだよ」
「キリトでも無理な事分かってるんでしょ?ならみんなで行こうよ、それのが確実だってば!」
リーファとユウキがキリトを止めようとするが、キリトは頑なにやめなかった。
「リーファ、ユウキごめん。あそこに行かないと何も終わらないし、何も始まらないんだ。会わなきゃいけないんだ。もう一度・・・もう一度アスナの所に行かないと」
「キリト君・・・探している人って・・・」
「アスナ、それが俺の探している人の名前だよ」
それを聞いたリーファは驚いた後、涙を流す。
ポロポロと大粒の涙を。
「だって・・・だって・・・その人は・・・酷いよ・・・あんまりだよ・・・」
リーファがそういうとメニューを弄り、設定からログアウトを押す。
「リーファ!」
キリトがリーファを呼ぶ頃にはリーファはもう姿を消していた。
「リーファって・・・キリトの知り合いなんだね」
「・・・ああ、そうだな」
「行ってあげなよ、キリトにしか出来ないことだから」
「ごめん、ユウキ・・・行ってくる」
キリトもログアウトしたリーファに真実を聞くべく、ログアウトした。
すると扉が開き、プレイヤーが出てくる。
「・・・ヒビキ!」
そのプレイヤーはヒビキだったが、体には弓矢や剣が刺さり無事とは言えなかった。
「・・・ユウキか」
「うん、ってどうしたの、それ!」
「それって・・・グランドクエストだけど」
「なんで一緒に出なかったの・・・?」
「これが最後になりそうだったからな」
「・・・ぇ?最後って・・・?」
ヒビキがよくわからない事を言ったユウキは意味を理解出来なかった。
いや、理解したくなかったのだろう。
「ユウキ、約束してくれ」
「なにを・・・?」
「もし俺が死んでもお前だけは幸せに生きてほしい。例え会えなくなったとしても」
「や、やめようよ。そんな事言うの・・・。ヒビキらしくないよ?」
「仕方ねぇだろ、そろそろ時間が限られてんだ」
「時間って・・・」
そう言ったヒビキの体は薄く光っていた。
そしてユウキがヒビキに触れようとしても通り抜ける。
「ヒビキ・・・これって」
「時間らしい、詳しいことは神楽に聞け」
「やだよ!どこにも行かないで!」
「俺はお前を捨てたりもしないよ。ただ・・・少し旅をするだけ」
「ならボクも・・・ボクも行くからぁ!」
「ダメだ。お前は一緒には行けない」
「いやだぁ!やだぁってばぁ!」
「我が儘言うんじゃないっての・・・」
ヒビキはそういうもユウキは駄々をコネるように泣きじゃくる。
「事の顛末は全部カグラに言った。だから俺のことが聞きたいならカグラを見つけるんだ」
「ひっぐ・・・行かないでよぉ・・・」
「・・・それじゃあな、ユウキ」
ヒビキは最後に言い残すと、ログアウトしたように消えていった。
ユウキはそれをただ泣いて見ていることしか出来なかった。
「やだよぉ・・・!独りにしないでよ・・・」
その日、ヒビキを知るALOプレイヤーからのフレンドリストから『ヒビキ』というプレイヤー名は消えた。
それと同時に現実世界からも雪宮響夜が行方を眩ませた。
これにて、原作のALO編のストーリーは終わりにしたいと思います。
一応話としては出ますが、ここからはオリジナルストーリーとして出していきます。