IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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巨匠 いのまたむつみ先生が亡くなられてしまいました。
テイルズオブシリーズ、機動戦士ガンダムSEED、他にも多くのキャラクターやイラストを世の中に送り出してくれており、私もファンの一人でした。
いのまた先生、本当に今までありがとうございました。

『ガラスィア』
銀河の銘を冠した最新式第三世代型BT兵装。
イギリスのIS開発研究機関であるBBCから押収したBTシリーズのデータを改良して製造された。
『ISは先天的な適正によって操作性能が変化する』
『BT兵装に於ける適正によって操作性能が上下する』
この二つの適正によって使用できる人間が著しく制限されると考慮され、誰にでも扱えるものが適切であるとウェイルがイタリアで漏らし、それを考慮したうえで改良、開発がされた。
それによって開発されたのが暴徒鎮圧用電磁吸着ブーメラン『ミネルヴァ』であり、兵器として利用できるものとして、今回の兵装破壊ビット『ガラスィア』となった。
運用するにあたり、ガラスィアのユニットとリンクシステムが直結されており、搭乗者が求める動きを自動的に演算処理され、学習していくようになっている。
その為、BT兵装とは違い、逐次操作をせずに、最適な動きを適時行ってくれるものとなった。
ミーティオに搭載されたビットは24機。
すでに過去のデータを自動学習しており、ワンマンアーミーと言えるかもしれない。


第92話 斬風 『  』の刻

「お兄さんが撃墜されました、白式の攻撃によって」

 

そしてメルクの冷たい宣告が放たれ、場が静まった。

モニターに映る白式を示すマーカーは北上を始め、旅館へとまっすぐと向かうコースになっているのは見て取れた。

だけど、モニターを拡大しても嵐影(テンペスタ・アンブラ)の反応を示すであろうマーカーはどこにも映っていない。

待機していたであろう、領域線を告げるラインの付近にも見当たらない。

そして白式はそのラインを踏み、速度を落とす事も無く北上してきている。

 

「状況証拠は、確かにあるね」

 

「だが、物的証拠はあるのか?」

 

「在りますよ、ラウラさん」

 

先ほどから物静かにしていたメルクが待機状態にされ続けていたブレスレットを見せる。

その少し上にはホロモニターが展開されている。

そこに記されているのは…

 

「ログデータ、かな?」

 

簪の疑問の声にメルクは頷いて見せた。

だとしても、これは誰のログデータなのかがよく判らない。

 

「私とお兄さんの機体には、お兄さんが考案した特殊なシステムが搭載され、運用しています。

取得情報共有機構、通称『リンクシステム』。

これは、お互いの機体のログデータをお互いに記憶させるというものです。

そのシステムを搭載していることで、私とお兄さんはお互いの経験や取得情報をリアルタイムで記録(・・・・・・・・・)しています。

理由は判りませんが、これがたった今、本国側から送られてきました」

 

成程、物的証拠はここに存在しているわけだ。

そしてこのシステムは…追跡アプリなんかの上位互換って考えれば簡単かも。

それも機体を使って何をしているのかがリアルタイムで把握出来るというんだから、機体に使用されていく経験値取得なんかも倍以上になったりしてね。

 

「で、アンタの言う『兄弟の繋がり』っていうのがコレ?」

 

「見下げ果てた、やはり貴女は腐っている…!」

 

「もとから成功率が低い作戦だってのに、ウェイル君に不要なリスクとデメリットを押し付けたってことよねぇ?」

 

「その結果がコレ?何を考えてるの?」

 

そう、こうなるであろうことは事前に予測出来ていた筈。

だから、私達は副次案、代案を提唱した。

なのにこの女は、それらを一切許さず、自らの考案したという無謀な吶喊を作戦と称して強行した。

その結果がコレだ。

白銀の福音がどうなったかは判らないけれど、それまでの過程でウェイルを攻撃して撃墜させ、あのクソバカは悠々と戻ってこようとしている。

 

「お兄さんの捜索・救助活動に入ります。

どうか皆さんにも協力をしてください、お願いします」

 

この頼みに首を横に振る者は誰も居なかった。

全員が立ち上がり、外へ出ていこうとしていた。

 

「待て、私はまだ何も指示を出してなど」

 

ダァンッ!

 

銃声が一つ、響き渡る。

それは、ラウラが握る拳銃から発されたものだった。

放たれた銃弾は、あの女の右肩を貫いていた。

 

「我々はこれ以上、貴様の指示に従えない」

 

「軍務違反だというならどうぞご勝手に、私達も出るところに出てやるわよ」

 

「指揮官を名乗る無能な人のやらかした事を堂々と言ってのけるから、そのつもりでいなよ」

 

その瞬間だった、その気に入らない声が聞こえたのは。

 

「へぇ、全員でお出迎えかい。

気前がいいじゃないか、作戦は終わらせたぜ、あ~疲れた」

 

全輝だった。

やはりというか、周囲にウェイルの姿は無い。

私達の殺意を込めた視線には気付いていないらしい。

 

「ウェイルは何処?」

 

その言葉は誘導尋問と然程変わらない。

それを理解していながらも私は全輝に問いかける。

一瞬、顔を歪めたが素知らぬと謂わんばかりに

 

何処かに行ったんじゃないかな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

それは、あの日と同じ言葉だった。

一夏が行方不明になり、あの女が日本に戻ってきた時に、一夏の不在を問われた際と、同じ言葉。

 

ああ

 

やはりもう限界だ

 

コイツの気持ちの悪い笑みなんて

 

もう

 

 

…見たくない!

 

ドゴォォォォッ!

 

「…か…は…!」

 

鳩尾に全力で拳を打ちこんだ。

そこに手加減、容赦など一切無い。

この一撃で体が数センチほどは浮かんだ、それも当然だった。

本来なら天井に叩きつけてやるほどだけれど、吹き飛ばす距離を縮めた分、威力は内臓に浸透させている。

当面は呼吸すら出来ない苦しみに襲われるだろう、そのまま苦しみ続ければ良い。

 

「…メルク、アンタには後で話がある」

 

あの女と私は、ウェイルが一夏ではないかと思い続けていた。

違うのは、証拠を集めようとしていたかどうかという一点だけ。

 

あの女は願望と妄想で、そうだと決めつけていた。

 

私は、一夏の生存を諦めず、自分の時間の全てを費やし、情報を集め続けた。

 

思わぬ形でウェイル・ハースという人物に巡り合えたけれど、それでも私はその事物がその本人であるかどうかを図り続けた。

必ず間にメルクが入り込んできてその妨害をされてしまっていたけれどね。

だけど、思わぬ形で証を手に入れる事が出来た…!

なら、十中八九、メルクは何かを知っているから妨害に奔走していたんだろう。

 

「…応えられるとは思いませんが…」

 

「なら、力ずくにでも…!」

 

「…受けて立ちます」

 

そう思い、部屋を出た瞬間だった。

 

「お待ちください」

 

そこに一人の人物がいた。

双眸を閉ざした銀髪の少女、クロエだった。

そして

 

「ティエル先生、フロワ先生も…」

 

それだけじゃなかった。

この旅館に居たであろう全ての教職員が集っていた。

 

「欧州統合防衛機構総長レイ・L・コーネティグナーの名代として告げます。

暴虐の限りを尽くす織斑千冬、織斑全輝、篠ノ之 箒の蛮行をこれ以上見逃す事は出来ない。

現時刻をもって現場指揮官の任を解く。

あまりにも妄想甚だしい判断をする人間は信用に値しない。

以上となります。

そして、日本首相宛にもメッセージを預かってきています」

 

「ことの顛末はクロエさんから聞いたわ。

とてもではないけれど、これ以上は看過出来ないわ。

欧州統合防衛機構総長から指名を受け、今後は私が現場指揮官を請け負います」

 

そしてティエル先生は私達に視線を向けて言い放つ。

 

「専用機所持者総員は即座に機体を展開、そして、全力でウェイル君を捜索しなさい!」

 

その言葉を皮切りに全員が即座に動き始めた。

色とりどりの機体が旅館の部屋に展開され、飛び立ち始める。

 

「それと、通信回線は開いておくようにしなさいね!」

 

その言葉を聞きながら、私達は襖を吹き飛ばしながら飛び出していった。

私とティナはメルクの機体の脚部クローに捕まり牽引してもらう。

ラウラは簪とシャルロットに手をつないでもらって牽引、全員の速度を並べながら最高速度を維持できる陣形だった。

 

なんか物凄いことにもなっていた。

あのクロエと呼ばれる子、どんな地位に納まっているのよ…?

 

「ねぇメルク、あのクロエって子なんだけど…」

 

「私も接触した機会はそんなに在りません。

それこそ鈴さんだって、クロエさんと接触した回数だって変わりませんよ?」

 

それこそクロエが秘密主義ってことかしら?

それとも、助手として働く先に居るであろう人物、『ラニ・ビーバット博士』だって何者なのかがよくわからない。

 

さらに通信回線の向こう側からは声が聞こえてくる。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

私の眼前には倒れる男が一人と、両足から血を流し両手を背面で拘束され転がる女性が一人。

前者が『織斑 全輝』、鈴さんの放った剛腕の拳が胸元に突き刺さり、内臓にまで衝撃が浸透しており、その激痛で動けないと思われる。

後者が『織斑 千冬』と呼ばれていた、かつてはあの人が憎悪を向け、今は無関心の極致に居る人物。

教職員部隊によって、右の太腿、左の脛を銃で撃ち抜かれ風穴があいている。

 

そしてこの二人に共通しているのは、外道であるという点でしょうか。

 

「貴方達の所業は既に国際刑事警察機構(インターポール)欧州統合防衛機構(イグニッションプラン)、国際裁判所裁判長ダグリア・リューネイム、欧州連合にも通達済みです。

共に、殺人未遂での訴訟が先程日本政府へ通達され、日本政府も貴方達の取り扱いが面倒になったようで、処置をこちらに任せてくださいました」

 

「そんな…そんな馬鹿な!」

 

「オレは何もしていないだろう!?」

 

「織斑 全輝、貴方がしてきたことの全ては裏付け証拠も含めて調査済みです。

ウェイル・ハースに対して行い続けてきた風評被害、また、間に人を挟んでの傷害暴行の教唆犯として。

貴方自身は動いていませんが『共同正犯』、その原理に基づき、実行犯と同じ刑罰が適用されます。

何より、今回の件…我が国の搭乗者を殺害しようとしたその罪を見逃すなどと思わないように」

 

「フザけるな!そんな証拠が何処にあるっていうんだ!」

 

仕込み杖に内蔵された刃を振るう。

白銀の剣閃とともに緋色が畳に落ちる。

その一閃で、織斑全輝の右耳がその緋色の中に落ちた。

 

「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

「五月蠅いですね、次はその耳障りな声が出ないように喉を斬りましょうか?」

 

「辞めろ!弟に…私の家族(・・)に手を出すな!」

 

貴女が…貴女がその言葉を言うのですか…!

織斑 一夏を一度もまっすぐに見ず、早々に見切りをつけ、そして今回死地に無理やり追いやった貴女が…!

 

私にとって『家族』という言葉は特別でした。

捨てられ、死に至ろうとしていた私を、束様は拾ってくれた。

読み書きを教えてくれた。

食事を与えてくれた。

帰る場所をくれた。

だから、私にとって束様は母であり、私の全てだった。

ある日、右腕を斬りおとした日も

 

「やっと…やっと…探していた人を見付ける事が出来たんだ…。

今はまだ眠り続けているけど…暖かな場所に迎えられてた…無事で良かった…」

 

そう言って失った腕の断面から夥しい血を流しながらも涙していた。

旧名『織斑 一夏』、今の名は『ウェイル・ハース』、束様がそれこそ弟のように見ていた人。

目覚めてからも表世界には決して姿を現さず、ウェイルさんのために影として支え続けて生きると決めた。

なら私は、その影を支える柱であろうとして生きると誓った。

だから、それを害するものは誰一人として断じて赦さない。

 

「あら、その家族を失ったのは、その人が原因ですよ?」

 

だから、これは私と束様(ビーバット博士)からの個人的な報復です。

家族という言葉を宣った大罪に、(絶望)を与えましょう。

通信回線が開かれていますから、シャルロットさんにも聞こえることでしょう。

貴女にとっての、たった一人の家族を殺した張本人が誰なのかを教えてあげましょう。

 

「6年前、モンド・グロッソ大会で、貴女のもう一人の弟さんが貴女の棄権を狙い、誘拐され、死にました。

貴女にはその連絡が届かず、大会を勝ち抜き、何も知らずに帰還した。

ここまでは世間でも知られています、ですが…大きな盲点がありながらも、誰もがそれを見逃してしまった」

 

そう、これは全ての真実、その闇の部分を今ここで切開する。

これを語ることは許可されているのだから。

 

「貴女は当時から2()つの(・・)携帯端末を所持していた(・・・・・・・・・・・)

一つは公務用、これは政府からの連絡に使用していたもの。

もう一つはプライベートで使用するものであり、自身にとって極々身近な人に教えていました。

モンド・グロッソでも時折使用していた端末もそちらにしていましたね」

 

「ソレがなんだ…!」

 

射殺すかのような視線を向けてきますが、怖くも何ともありません。

なので、淡々と語りましょう。

そして…絶望しなさい、家族を殺したのが誰なのか。

私は、蹲る彼女に背を向ける。

それは、束様が私に教えてくれた、一人の少年の悲嘆な人生の終幕について。

 

「ある所に、一人の男の子が居ました」

 

その終幕劇は、その言葉で始まる。

 

 

「彼は、数少ない友人と、思い描いていた未来を心の支えにして生きていました」

 

滔々と、救いを奪われた男の子

 

「ですが、彼は…双子の兄と、年の離れた実姉に裏切られ、海の底に叩き落されました」

 

家族と言う言葉を嫌って、家族と言う存在に憧れた男の子

 

「毎日続く絶望と、地獄の苦痛のなか、心を擦り減らし続け、最後は…サメに食われて、死にました」

 

そう、そしてこの終幕劇は語り終わる

 

 

「織斑一夏が消え去るように、『日本に居ながら』、『政府に無干渉でありながら』、『事件が起きている事を把握しながら』、『貴女に連絡する手段を持っていながら』、それでも猶、何もしなかった、自身の日常の変化を意図的に貴女に伝えなかった人が居た事を」

 

全ての教職員の目が、織斑 全輝へと突き刺さる。

織斑 千冬、貴女もどこかで考えていたはず、なのに貴女は『家族』という言葉で蓋をして、考える事を辞めた。

 

「辞めろ、言うな…!」

 

いいえ、告げましょう。

 

「織斑 一夏が行方不明になった事を把握しておきながら連絡の一つもせず」

 

「黙れ!それ以上喋るな!」

 

「フランス政府に全ての責を負わせてフランスを経済崩壊に追い込み」

 

「違う!違う!違う!違う!」

 

「そして今年には、セシリア・オルコットを故意に暴走させ、ウェイルさんの殺害を促し、最終的にイギリスをも消滅させた」

 

「私の家族を侮辱するな!」

 

カチンときた、怒りが限界に達するとはこういう事でしょうか。

だから、冷静に怒る(・・・・・)

 

「諸悪の根源は織斑 全輝です」

 

「嘘を言うなぁぁぁぁっっ!!」

 

プシュッ!プシュッ!プシュッ!

 

消音機搭載の麻酔銃が撃たれ、彼女の右肩と左太腿、そして右わき腹へと突き刺さる。

すぐに眠りに落ちるわけではない、けれどその痛みで立ち上がる事も出来ないでしょう。

 

「ああ、それと言っておきましょうか。

メルクさん、ウェイルさんにも秘密にしていましたが、リンクシステムが搭載されているのは、あの二人の機体だけではありません。

システムを搭載している機体は、イタリア大使館と(・・・・・・・・)イタリア本国にも存在しています(・・・・・・・・・・・・・・・)

言わば、お二人が見聞きしている事は、大使館とイタリア本国もリアルタイムで把握しているのですよ」

 

だから、もう逃がさない、絶望に震え上がりなさい。

自身の傍若無人な振る舞いで欧州の国を2つも滅亡させた報いを。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

通信は、私達にも全て聞こえていた。

正直、考えられない事ではなかったかもしれない。

私だって、「それだけは無い」という考えは有った。

それでも、兄弟だから、という名目だけを盲信していたのだろう。

 

その果てが、一夏(兄弟)が行方不明になっても、それでも動かなかったというもの。

あの女(織斑千冬)が大会から帰ってきた時に何と言っていた?

「何処かに行った」と宣っていた。

知っていたんだ

 

あの日

 

 あの時

 

  あの場所で

 

   何が起きていたのかを。

 

『何が起きたのか判らない』という事態に陥っていた私達に対し、その全てを知っていて、今までずっと隠していた…!?

 

なら、アイツにとって、私達は何だったのだろう。

事態を把握も出来ず、あんなにも必死になって、全ての時間を費やし続けていた私達を…アイツは…嘲笑っていたという事か…!?

 

「赦さない…絶対に…!」

 

「アイツのせいで、僕は…母さんを…!」

 

シャルロットも怨嗟の声をあげていた。

思えばフランスは、一夏が誘拐された事件を発端として、全世界からバッシングを受け、経済制裁を受けた。

フランス人だからと言うだけで、世界中から差別行為を受け、国内の経済も崩壊している。

今はフランスと言える場所は首都パリだけになり、それ以外の国土の全てを欧州国家に差し出さなければならないほどに逼迫した。

全輝があの女(織斑千冬)に連絡さえしていれば、事件を黙殺したフランス政府の一部だけが裁きを受けるだけで済んでいたかもしれない。

一夏だって助かっていたかもしれない。

なのに、伝える手段を持ちながらも、それをしなかった。

 

欺き

 

騙し

 

陥れ

 

苦しませ

 

そしてそれを愚かと言って嗤う

 

それが奴の本性…!

 

決めた、後で奴の四肢を切り落とす。

そうでなくては、私の気が収まらない…!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「こんな筈じゃ……!」

 

 

自身の左側には、麻酔弾を受け、横たわる姉が。

そして自分の顔のすぐ下には血がボタボタと流れ落ち、その池の中央には切り落とされた自分の右耳が転がっている。

痛む耳元を押さえているが、手当てもされずに放置され、流血は止まらない。

 

「お前…!」

 

眼前には、仕込み杖を持つ少女が自身を見下ろしてくる。

この構図は気に入らなかった。

自分は、常に他者を見下ろし、見下し、踏みにじり、君臨する側であると信じていたから。

構図が立場が逆になるなど、到底受け入れられない。

見下ろされるなど我慢ならない、見下されるなど以てのほか。

そのような事をする相手が在らば、陰謀で、謀略で、権謀術数を巡らせて相手を踏み潰してきた。

『相手が自身と対等以上』である事など、決して認められない。

 

「白式のログデータの解析完了、メルク・ハースさんの言っていたように、ウェイル・ハース君への攻撃をしていた裏付けがこれで出来ました」

 

「ご苦労様です、フロワ教諭。

では、友軍への故意の攻撃を行った織斑は、日本警察国際犯罪対策室は…新宿爆撃テロで警視庁が壊滅していますから後回しにしましょう。

国際刑事警察機構、並びに、国際裁判所へと連行します。

無論、この無謀な吶喊を作戦と称して強行された無能指揮官の更迭もお忘れなく」

 

「…ふざけるな…!」

 

全輝が体を起き上がらせる。

この場を切り抜ける方法を探す為にも、周囲へと視線を巡らせる。

姉である千冬、その弟である自分は、誰よりも特別な存在であると今でも自負している。

そんな自分達が、裁かれる側になどなる筈が無い、あり得る筈がない。

自分達が君臨する側で在り続ける為に、誰であろうと平然と踏みにじってきた。

それが許される特別な存在であると、今も、そう信じている。

 

「では、連行する前に一室へ軟禁しておきましょう」

 

千冬を連れ、この場を切り抜けようと必死に考える。

その最適手段とも言える白式は既に手元を離れ、スリープモードにされ、コールしても展開がされない。

 

「だったら…」

 

耳元にあてていた手を離し、千冬の腕を掴む。

そのまま走りだし、

 

ドサァッ!

 

一歩目で無様に転倒した。

 

「……!な、何が…!?」

 

「………逃がしませんよ」

 

静かな声と、目の前に突きつけられる銀色の刃。

それに怯み、後ろへ視線を向ける。

そこで目に入ったのは、ISスーツからは露出している足の甲の部分から赤い液体が流れ出している点だった。

そして、遅れて走る激痛に声すら出せない。

喚き散らせば耳を斬り落とされ、走りだそうとすれば……左足の甲へ白刃が貫き、畳へと縫い付けていた。

 

「貴方の軸足は左、それは貴方の動きを見れば理解出来ます。

ですから、一歩目を踏み出す時点で足を貫きました」

 

今までの所業を見抜かれ、自身の動きを予測され、それでも周囲への逃げ道を探そうとする。

そんな自分にすら苛立ちを感じてしまう。

何もかもが思い通りに進まない、今迄はそんな事に陥る事など無かったと言うのに。

だが非情な現実に、それでもプライドがそれを認めようとしなかった。

 

「織斑全輝、アンタを警察に引き渡すまで、その身柄を拘束する」

 

突き付けられたのは、汚物を見下ろすような視線と夥しい銃口。

そして、冷酷なまでの処断だった。




はい、種明かしでした。
まとめてみましょう。

織斑全輝
・『事件』として把握していないが、一夏の行方が判らなくなっている事態を把握。
・モンドグロッソに参戦している千冬に対し、連絡する手段を持っていた。
・千冬からの信頼を知っており、それを計算した上で伝えなかった。
・鈴や弾が数年がかりで調べた事を最初から把握していたが、教えなかった。
・鈴や弾が一夏を捜索しているのを知りながらも、嘲笑いながら、何も教えなかった

織斑千冬
・公務用、プライベート用の端末を所持しており、擬似的に自宅へのホットラインを確立させていた。
・国際電話にもなるため、連絡の頻度が少なく、会話する時間を意図的に短くしていた。
・一夏に対しても、全輝に対しても、盲目的な信頼をしていた為、通話の内容をそのまま呑み込んでいた。
・一夏が巻き込まれた事件については帰国後に知り、全輝に対しては『家族だから』『兄弟だから』という理由で疑う事をせず、その時点で思考停止していた。

こんな感じですね。
察していた読者様も居ましたが、どうでしたか?
次回もお楽しみに。

クロエの語りですが、あるドラマにて使われていたセリフをオマージュしてみましたw

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