IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q.織斑姉弟と篠ノ之の三人ですが、投獄と解放がしつこく繰り返していますが、今後も繰り返されるのでしょうか?
P.N.『匿名希望』さんより

A.今回が最後の予定です。
言われて振り替えってみると、確かにそうですね。
些か飽きが来るパターンになってました、申し訳ない。
それに裏では恐ろしい方々が既に動いていますからね

今回は前話の捕捉を入れています。
悪しからず


第91話 毒風 諸刃の剣

赦さない

 

絶対に赦すものか。

 

 

あんな奴等なんて

 

 

絶対に赦さない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハース、お前に与えられた選択肢は二つに一つだ。

『こいつらを反逆罪で軍法会議に付き出した上で出撃する』か、それとも『何も無かったものとして、快諾して出撃する』か。

迷う事でもないだろう?」

 

 

赤黒いソレが漂う蒼を見上げながら…俺はあの女に憎悪を向ける。

 

ああ、あの女は…生粋の詐欺師だったのだろうと今更ながらに思いながら

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ウェイルは、判断を下した。

この戦いにウェイル自身は乗り気な筈が無かった。

もともとウェイルはただの一般市民で、企業にアルバイトに出向いているだけの何処にでも居るであろう学生に過ぎなかった。

守られる側の(・・・・・・)市民であり、軍人(戦士)ではない。

暖かな日常を笑いながら過ごす一般人、そんな彼が、友人を人質に取られようものなら、冷静に居られる筈が無かった。

あの女は、それを察知してウェイルを脅して強制的に作戦への参加をさせた。

 

確かに、私達だって軽率な行動をしたかもしれない。

だけど、事ここに限ってそんな私達を利用するだなんて…。

メルクは涙を流しながらウェイルに謝り続けた。

ラウラも、シャルロットも、ティナ、簪ですらもウェイルに謝った。

無論、私も…。

泣き続けるメルクを落ち着かせるために自室に送り、ティエル先生に任せた。

 

そして私は…ウェイルを見送る為に旅館の前にまで来ていた。

 

「本当に行くの…?」

 

「そうするしかない…非常に不本意だけどな」

 

ウェイルの胸元は吐き出した鮮血が今も滴っている。

あの女の一撃によって

 

「だけど…お前らのした事を無かった事に出来ると言うのなら、安い話だ」

 

頭の上に手を置かれ、左右に動く。

また私と飼い猫を重ねて撫でているんだと思う、猫扱いされるのは非常に不本意だけど、今だけは好きにさせておく。

名前は、『シャイニィ』とか呼んでいたかな…。

 

「織斑教諭には、俺が作戦に参加するに当たって条件を出しておいただろ」

 

「それは…そうかもだけど…」

 

ウェイルが織斑 千冬に出した条件、それは

・織斑を運搬している間は、『白式』及びその兵装の展開を禁止する。

・ウェイル自身は戦闘領域に入らず、戦闘に参加しない。

・運搬は帰投も含まれる、その際のために戦闘領域外で待機。

・ウェイル個人の判断で、ウェイル単独の撤退判断の許可。

 

その4つだった。

 

「それを了承させる代わりに、コイツを持たされることになったがな」

 

そう言って見せてきたのは、見覚えのある形状のブレード型の兵装だった。

 

「アンタ、剣なんて使えたの?」

 

「使えないよ、俺が得意としているのは槍であって、剣じゃない。

だが俺が提示した条件をのむ代わりにコレを持たされた。

だけど、持っていく件は了承したが、持って帰るとは言ってない(・・・・・・・・・・・・)、戦闘領域外の海にでも投げ捨ててやるさ」

 

そう言って、海を見晴らしながら柔らかく微笑む。

そして

 

「皆の尊厳を守るのは当然だけど、俺自身命が惜しいからな」

 

「でも、それだと…」

 

ウェイルの行動で作戦が失敗しても、私達の軍務違反が見逃されるとは思えない。

どちらにしても私達も、ウェイルもハメられた。

他者の気持ちを利用し、他者を駒のように利用し、自らは動く事も無く、目的を達成する。

それがあの姉弟のやり方だというのは判っていた筈なのに…!

 

「判ってるよ、俺だってあの手段は気に入らない。

作戦に成功しないといけないが、攻撃役がアレだからな…。

まあ、なんにしても出来るだけ早く戻ってくる、それまで妹をよろしく頼むよ。

いつまでも泣かせ続けるわけにはいかないからさ」

 

「だったら、早く戻ってきなさいよ!」

 

相変わらず私の頭を撫で続ける左手を止め、拳を突き出してくる。

私もそれに応え、ウェイルの拳に軽く右の拳を当てた。

 

 

 

その時だった。

風が流れてきたのは…

 

「……ぁ………っ………!」

 

風が流れ、ウェイルの前髪がふわりと浮き上がる。

見てしまった…前髪に隠され続けてきたであろう、その場所を…。

 

 

 

 

 

 

どうして忘れてしまっていたのだろう。

無理に色々と証拠を探そうとしなくても、ただそれ一つだけを見れば確信を持てた筈だったのに…。

 

あの日、私は血まみれになった一夏の手当てをして不器用ながらにも包帯を巻いた。

その際に私は見ていた筈なのに…その傷跡(・・)を……。

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

砂浜に駆けていくウェイルを止めようとしたのに、足が動かなかった。

声すらも出なかった…。

 

ずっと探し続けた人が、ずっとそこに居たんだと判ったのに…。

 

紫色の影が海の果てへと飛翔する姿を見つめ、水平線の向こう側に消えて、ようやく私の足は動いてくれるようになった。

足取りに比べ、私の頭は上手く働いてくれなかった。

ゆっくりと、ゆっくりと情報頭の中で整理する。

ウェイルは一夏だったのだと、でもこの一学期の間で私に対しての態度は、久しぶりに会った旧友とはとても思えなかった。

なら、それは何故?

 

「私を…覚えていない…?

でも、弾や数馬や蘭の事も一度も話していなかったから…6年前以前の記憶が、無い…?

記憶喪失…?それで、名前も姿も変えて生きていた…?」

 

自ら姿を隠し、名も、姿も変えて生きていく。

一夏は中学卒業と同時に、自分が知らない、自分を知らない場所へと、自ら姿を消そうとしていた。

もしかしたら、名も、姿を変えてまで。

 

それが、とんだ皮肉だけれど…予想以上に現実になってしまっていたとしたら…?

見付けられる筈が無かった……。

それでも

 

「…やっと見つけた…」

 

コレをあの女に悟られるわけにはいかない。

深く、深く息を吸う、いつも以上に深呼吸を繰り返す。

この後にはメルクに徹底的に訊き出そう、今度こそ隠し事をさせないように…。

 

 

 

 

 

 

「よし、戻ろう」

 

記憶を失っているのなら、私の事を思い出してほしいという願望は確かにある。

だけど、いつか記憶が戻るのを待つと信じていよう。

記憶が戻る日が来るとしても、嫌な記憶も一緒に思い出してしまうかもしれない。

だけど、そんな記憶を塗りつぶすくらいに、もっと素敵な思い出を作ればいい。

そんな事、ずっと前から決めていた事だから。

『忘れられるくらいに、もっといい未来を』、と。

笑顔で過ごせる未来を創るんだと、私自身、そう決めて動き続けていたんだから。

 

「ごめん、遅くなったわね」

 

作戦会議室に戻れば、そこには皆が居た。

 

「随分と遅かったな、凰」

 

「アンタに対して言ったつもりは無い」

 

この女に対して吐く言葉はどうにも冷たくなりがち。

元々私はこの女のことを嫌い続けているのだし、言葉を交わすことすら億劫でもある。

どうあっても判りあえないのは6年前にお互いに理解していること。

相互理解など、未来永劫出来ないだろう事も。

 

モニターは…今は映っているらしい。

作戦領域が赤く大きな円で囲まれているのが理解できた。

その中には一直線上に白いライン、あれが鉄器が通ると予想されている進路だと理解できる。

モニターの中にはウェイル達を示すであろう青いマーカーが。

そこにあの男も一緒に居るのだろう。

全輝はともかくとして、ウェイルには無事に帰ってきてほしい。

 

数十秒後、ウェイルを示すマーカーが戦闘区域の300m前の海上で停止、その直後に新たなマーカーが出現して戦闘区域へと一直線に向かっていった。

 

「ウェイル君は無事に仕事をやり終えたみたいね」

 

ウェイルが出した条件、個人の判断による単独の撤退。

その判断の許可も出されている以上、すぐに戻ってくる、そう、思っていた。

だけど

 

『SIGNAL LOST』

 

その言葉がモニターに出るまでは

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

モニターに映る二つのマーカーが消える。

それでもあの二人であれば作戦を成功させられると信じていた。

学園に編入して以降は、互いにいがみあう状態だったがそんな事は関係無い。

あの二人は…血肉を、魂までも二分させてまで産まれてきた、血の繋がった双子の兄弟だ。

窮地であれば、必ずその絆が発揮される。

 

今でも私は、そう信じている。

 

「モニターが…!?」

 

更識の声と同時にモニターからマーカーが消える。

 

「通信も繋がらない、どうして…!?」

 

「落ち着いて簪!一旦電源を落としてから再起動してみて!」

 

「判ってる、少しだけ待って!」

 

小娘達が騒ぎ始めるが、私は狼狽えるような様子を見せるわけにはいかなかった。

モニターが再び投影を始めるが、戦闘区域の様子は何も変わらない。

それぞれの機体を使っての通信も試みているようだったが、それによる成果は成さなかった。

あの二人なら無事だ、作戦には何一つ支障無い。

私の弟達だ、この程度の逆境とて乗り越える。

一夏も、あのブレードを使って戦っているだろう。

そして全輝と力を合わせて戦っている筈だ、ならばあの二人の勝利は揺ぎ無い。

普段、いがみ合っていようとも双子の兄弟だ。

逆境であろうとも、兄弟の絆が発揮される。

そう信じていた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

何か不測の事態が起きているのではないかと思う。

それについては

 

「なんで急に…!?」

 

「通信も繋がらない、なんで…!」

 

メルクが目元を赤く腫らしたまま声を上げだす。

あれだけ泣き続けていたら仕方のない話だとは思う、でも今はそんなことを言ってられない。。

家族を戦場に送り出すのを見送るのは辛いだろうとは思う、私だって悔しかった…!

 

「アンタは…!」

 

モニターに目を向けていながらもこの女は…笑っていた…!

 

「アンタ、何を仕組んだのよ!」

 

だから、この女だけは…絶対に許さない。

 

「何も問題は無い、この程度の障害、あの二人にとってはないも同然だ。

危惧することは何一つ存在しない」

 

そう宣いがらもこの女の口元は歪んでいた。

誰もが思っていた筈、『正気じゃない』と。

 

「それで、織斑指揮官、ウェイル君が作戦に参加すれば成功率が跳ね上がるって、何か理屈でもあるの~?

モニタリングも通信も出来ない状態だってのにさぁ?」

 

あんな扱いをされたからか、珍しくもティナがやさぐれた様子を見せていた。

それは誰もが疑問に思っていた事、根拠が何一つ感じられず、答えを見つけられない事でもあった。

 

「愚問だな、ハミルトン」

 

にも拘らず、決して私達に顔を見せず、背を向けたままこの醜女(しこめ)はとんでもない爆弾を投下した。

 

「あの二人が血肉(・・)を、魂まで二分させてまで産まれてきた(・・・・・・・・・・・・・・・・)血の繋がった実の兄弟だから(・・・・・・・・・・・・・)だ」

 

誰もが言葉を失った。

誰もが予想など出来なかった言葉が返されたからだった。

 

「お前とてそう思っていた筈だ、凰」

 

此処で返答に困る言葉を私に投げてくるか…!

 

「ウェイルと織斑が実の兄弟?

荒唐無稽にも程が有る、それがこの作戦にどんな影響が出ると?」

 

「そうそう、いがみ合ってるどころか、ウェイルに対して危害を与え続けてるだけの害悪だよ。

実際に僕もそれで騙された経験もあることだし。

その害悪が足手まといになる程度で終わるんじゃないの?」

 

ラウラとシャルロットからの援護射撃は正直ありがたい、下手な回答をせずに済んだ。

実際にはそういう評価が下されるだろうとは思っていたけどね。

 

「だから貴様らは何も理解出来ていない。

実の兄弟の繋がりというのは窮地にこそ発揮される、私の弟ならそれが」

 

「一夏をその窮地に追いやり続けた張本人が全輝だって事を、アンタは今になっても理解していないのね」

 

眼前にいる女が私を睨んでくる。

負けじと私も怒りを込めて睨み返す。

 

「一夏からそのような話は聞いた事も無い、出鱈目を言うな!」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ブン、と音がしてモニターが一瞬暗転。

再度モニターが映り、地図上にマーカーが出現した。

マーカーは1つだけ、それが示すのは白式、つまりは全輝だけだった。

 

「モニターが回復したということは、作戦が成功した。

ハース、貴様には話が」

 

だけど、メルクが此処で言葉を発した

 

「作戦が失敗しました」

 

返答ではなく、それは冷酷な宣告だった。

 

「お兄さんが撃墜されました、白式の攻撃によって」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「これで俺の仕事は終わりだ」

 

胸元に未だに残る鈍痛を堪えながら呟く。

織斑を運搬し、自身は戦闘区域には入らない。

そして独自の撤退判断、こらが今回の作戦とやらで、提示した俺からの条件だった。

 

「砂浜にまで戻って、戦闘が終わるまで待っていれば良いだろう」

 

そう考えながら、織斑 千冬から押し付けられた兵装を展開する。

『持っていけ』と所持を強要されたが、『持って帰れ』とまでは言われていない。

鈴にも言ったが、このまま海に投げ捨ててしまおう。

展開した、その瞬間だった。

ホロモニターが急に開かれる。

 

「『ロックオン警告』!?」

 

何者からの問答無用の先制攻撃が放たれた事を示すものだった。

そんな事をする存在が居るとするなら、それは

 

白銀の福音(シルヴァリオ・ゴスペル)か!」

 

だが、俺の現在地点は戦闘区域外だ。

敵機が進行していくとされる航路からは大きく離れている筈だ。

織斑(あの馬鹿)は…肝心の初撃を外したのは察した。

作戦は既に崩壊した。

それどころか、あの女に要求しておいた条件も全て無意味となった。

 

「クソっ!」

 

放たれた攻撃をギリギリで回避する。

このまま上陸されるわけにもいかない。

ブレードを投げ棄て、バレルロール直後に急加速をする。

迷っている暇なんてもう無い、帰投はもう出来ない。

 

「クソッ!」

 

戦闘をするつもりなんて無いのにこの結果だ。

悪態をつきながら操縦桿を握りなおす。

浜辺に戻ろうものなら陸上に被害が出る。

ロックオンされている点は兎も角として、離れようにも追跡されている。

何故急に進路を変更したのかは判らない。

更に厄介な点がある。

 

「生命反応を探知…情報が伏せられているどころか、虚偽情報まで含めていたのかよ…」

 

単純に撃墜するのも難しいのに、この搭乗者を助ける必要まで出てきた。

なにもかもが想定外で対処できる範疇を超えている…!

 

「作戦本部!至急救援を要請する!作戦本部!応答しろ!

なんで通信も繋がらないんだ…!」

 

作戦本部に居座っているあの女は救援を出せと言われても応えるつもりが無いだろう。

通信が繋がれば、みんなは無断だろうが出撃してくれるだろう。

それすら通じなければ、自分の判断だけで事態を対処しなくてはならない。

 

「やるしか…ないのかよっ!」

 

いつまでも逃げられるかも判らない。

相手は軍用機だ、所持しているエネルギー総量を考えれば、こちらが先に尽きてしまうだろう。

だった、迎撃するしかない…!

左手にウラガーノを展開し…ひどい違和感に襲われた。

 

「…なんだよ、コレは…!」

 

右手に握られているのは長槍(ウラガーノ)ではなく先程投げ棄てた刀剣型兵装(ブレード)だった。

そんなもの俺は展開を指示した覚えは無い。

そもそも俺は剣なんて使えない。

大量の疑問符が頭の中に浮かぶが、敵機はわざわざそれを待ってくれる道理など持ち合わせてなどいない。

再び繰り返される莫大な量の光弾が迫りくる。

ブレードを再度投げ捨てて緊急回避とともに後退瞬時加速を行い距離を開こうとするも、白銀の機体はどんどん迫りくる。

加速能力は第二世代機のテンペスタⅡに並ぶどころか超えうるようだ。

 

「またか…!」

 

左手に長銃(トゥルビネ)を展開させたつもりだが、投げ捨てたブレードが右手に展開されている。

明らかに異常だ、なんでこのブレードが繰り返され展開するんだ!

あの女が何か仕込んだのか!?

 

「アルボーレ…ダメか、ならマルス、これも…!

クラン、グラシウス、ミネルヴァもダメか…!」

 

連続してほかの兵装を展開させようとしたが全て展開ができない。

使い慣れた兵装にエラーが生じているわけではなかった。

なら、このブレードに何かあると考えるべきだろう。

すぐにコンソールを開き、解析を始める。

むろん、戦闘なんてしていられない。

『自分に向いていない』『使い慣れない』そう判断できる武器での戦闘は命取り同然だ。

織斑の居場所は…かなり離れている、追っては来ているようだが、追いついてこれていないらしい。

だが、そんな事情を悟ってくれるわけでもなく、砲撃は苛烈さを増していくばかり。

 

コンソール操作をしながら敵機による砲撃を搔い潜りながら操作を続ける。

 

「チィッ!」

 

この状態では俺は囮になる以外に出来る事が無い。

確かにこの状況では織斑に頼るのが最善だろう。

だが、それは本当に信用できる場合であれば、だ。

信用出来ない以上、この場を離れる以外にない。

実際、俺は既に戦闘区域に踏み入ってしまっている。

 

「解析完了…だが、コレは…!」

 

外見は日本特有の刀剣のそれだが、それに内包されていた機能は最悪なものだった。

『敵機誘因』

展開させた場合、敵機のレーダーに検知される電波を自動的に放射するというもの。

 

『展開優先』

この兵装の展開を最優先させ、他の兵装の展開指示に割り込むというもの。

 

『展開阻害』

他の兵装の展開指示を阻害するというもの。

 

『自動収納』

一定距離を開けば拡張領域に自動回収される機能。

 

『通信阻害』

味方や拠点への通信を行えなくなる機能。

 

この五つだ。

この剣のプログラムはほかの兵装用のプログラムにまで侵食している。

機能を停止させるには、拡張領域に登録させてある兵装、弾薬、予備パーツ、プログラムをなにもかも全てをを一括で登録解除させる以外に無い。

だがここは海上だ、そんなことをすれば兵装は全て海に落下していく。

当たり前だが、アンブラは水中には対応していない。

投げ捨てた所で回収など出来る筈も無い。

丸腰のまま、生身のままで、あの砲撃の雨を受けて死ぬだけだ。

 

こんな悪質なプログラムを組み込んでいる以上、確信犯なのは間違いない。

あの女は、織斑千冬は俺を殺そうとしている。

 

もう怒りの限界だった

 

「あの女あああぁぁぁぁぁっっ!!!!!!

そこまでして!そこまでして俺を殺したいのか!」

 

俺の仕事は運搬だけだと言った

その言葉は嘘で塗り固められていた

 

戦闘区域に入らないと言った。

巻き込むことを前提にしていた

 

戦闘に参加する気は無いと言った。

最初から闘わせる予定でいた。

 

剣は使えないと先んじて言っておいた。

俺の言葉など耳にも入れていなかった。

 

個人の判断で撤退するとも言っておいた。

撤退などさせる気などなかった。

 

あの女は、俺をここで殺す予定だったのだと今更ながらに理解した。

その為に、アメリカの軍用機をも利用したのだと気付かされた。

 

迫る白銀の機体にアンブラの両腕で食らいつく。

背面スラスター最大出力でその勢いを相殺させる。

使えもしない剣など邪魔でしかない、ほかの兵装が全て使えないのなら、それをも使用しない白兵戦に持ち込むしか無い。

砲撃戦に重きを置いた機体であるのなら、そこに賭けるしか

 

ドズンッ!

 

「…貴様…!」

 

背後から重い衝撃が走る。

遅れて走る激痛に視線を下に向ければ蒼と白に染まる刃が貫いていた。

ハイパーセンサーの中、真後ろに見える男の姿、その口元がゆがんでいるのが見えた

そして

 

「何もかもすべて、お前が悪いんだぞ」

 

どこかで見たかのような繊月のような歪んだ笑み

 

脳裏に、いつか見た悪夢を思い出す

 

どこかの家の中、階段の上、逆光の向こう側から見下してくる男の姿を

 

繊月の様に歪む口元を

 

引き抜かれた刀身が金色の刃を形成し、白銀の福音諸共に振り下ろされた。

焼かれる様な激痛と共に真紅が溢れ出しながら、俺は蒼に堕ちた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

堕ちていく影を見下ろし、彼はほくそ笑んでいた。

その手に握られていた蒼白の刃には深紅の体液が滴っている。

 

「ふん、呆気ない」

 

他者を見下す愉悦、暴虐を振るう嗜虐心、そして…目障りで仕方なかった相手を自らの手で排除したのだという達成感がそこには見え隠れしていた。

他者の命を奪う行いをしたにも拘らず、悪びれた口調ですらない、その表情すら無かった。

今まで目障りな相手が居れば、間に腰巾着を挟んで暴威を振るい続けていた自分が、とうとう自らの手で下した。

こうやって自ら手を下す経験など、実の弟以外にはほんの数人だった。

気に入らない相手であろうと、正面から相対することを避け続けてきた。

相手が自分と対等以上である状態など、自身に対しての侮辱だなどとすら思ってきたのだから。

だからこそ、その立場に収まっていた実の弟も気に入らなかった。

自分と同じ『織斑 千冬の家族』という立場に居るだけで憤るには充分な理由になった。

生まれを変える事など誰にも出来ないというのも理解しながら。

 

そして、流血を伴いながら海に堕ちた彼もそうだ。

『気に入らない』、それだけで排除するには充分な理由だった、彼にとっては。

 

「さて、帰るか。

アイツは敵機に撃墜されたと言っておけば誤魔化せるだろ」

 

そして自分は仇討ちとばかりに敵機を撃墜したのだと言えばいい。

そう考え、踵を返して旅館の方向へと飛翔していく。

考えるのは、称賛されるであろう遠くない未来の自分。

敵機を撃破し、救国を果たした輝ける時代だった。

自身が虐げ続けた者達の事など何も考えはしない、自分の生きる時代に『相応しくない存在』だとして思考からもは除外していたのだから。




雪片参式
ウェイルを作戦へ無理矢理に参加させるにあたり、千冬がウェイルに所持を強要したブレード兵装。
一見、雪片の色彩が逆転しただけの兵装に見えるが、機体に対しての浸食現象を発生させるものだった。

・『優先展開』
兵装を拡張領域から取り出す際にあたり、雪片参式が自動的に最優先で展開されるようになる。
また、ウェイルは左利きであり、兵装を展開する際には左手側から優先的に展開させる傾向にあるが、この兵装はそれを無視して右手側に展開させる粗悪点を有している

・『展開阻害』
雪片参式の展開優先度が上がるだけでなく、他兵装の展開優先度を下げさせることで雪片参式以外の兵装の展開指示を阻害する。

・『敵機誘因』
ブレード本体から誘因電波が放出され、周辺に存在する敵機に感知されやすくなる。

・『自動収納』
登録した機体から一定距離離れると自動的に拡張領域へ収納される。
その為、投擲武器としても成立しない。

・『通信阻害』
拠点への通信を行えなくさせるだけでなく、レーダーや通信機能への通信妨害を行う。

これらの機能は、拡張領域への登録から、1度目の兵装展開から有効となる。
他の兵装にも影響を与える形になっており、解除をするには、このブレードを含めた拡張領域に登録している全ての兵装、弾薬の登録を解除させる必要があった。
ウェイルは戦闘をしながら兵装解除をマニュアルで行おうとしていたが、その隙を突かれ、織斑 全輝によって白銀の福音もろとも串刺しにされた。

千冬本人としては、ウェイル・ハース(織斑 一夏)と織斑 全輝の兄弟による連携は無論だが、絆の証明の為に製造した兵装。
だが、それら全ての面が、今迄に無い程の致命的な最悪の結果をもたらした。

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