IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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『マルス』
ローマ神話に名高き3大神、その一柱である『軍神』の銘を冠した試作兵装。
FIATローマ本部と、アイルランド支部による合作の第二世代型兵装となった。
ウラガーノによる射撃戦闘と近接戦闘、フィオナローズによる侵食現象、それらを両立させたものとなっている。
槍の穂先は従来のフィオナローズ同様に、金、紅に染まっている。
柄は海の色を映したかのように、青く輝いている。
籠鍔部分には、煌びやかなバラの装飾が彫られており、豪華絢爛な外見となっている。
それぞれがアサルトライフルへの変形、ハンドガン内蔵式と、元来のウラガーノと同様のシステムも込められており、ウェイルが開発した弾倉高速装填のプログラムにも対応出来るようになっている。
なお、メルクが扱っていたフィオナローズとは違い、レーザー刃の出力は無い。

なお、ウェイルは外見に対して「ハデ過ぎるだろう」と思っていたらしいが、使い勝手が良さそうなので、言葉にはせず素直に兵装を受け取った。


第89話 躙風 大罪の在処

海岸沿いの道路には国際IS委員会のエンブレムが記された車輛が一台。

その助手席のドアが開かれ、学園から去ったとされる織斑教諭が姿を現した。

 

「ッ!」

 

ラウラ、鈴、メルクの視線が途端に鋭くなる。

過剰に反応しているようにも見受けられるが、俺としても警戒した方が良さそうだった。

例え、一度だけであったとしても、俺とてこの人には操り人形にされそうになった事があった。

接触・干渉禁止の命令があったが、その抜け道として利用されていたようだったが、それで俺を操り人形にしてきたんだ、警戒して当然だろう。

 

「ここは学園外部の人間は立ち入り禁止にされているのよ、部外者はさっさと立ち去りなさい。

この場で不法侵入者として捕縛することもできるのよ?」

 

ティエル先生はすでにバチバチにケンカを売っている、早くも一触即発だ。

 

「私は部外者ではない、国際IS委員会からから指名、要請、依頼されてここに派遣されている。

既に部外者ではなく、学園関係者というわけでもない。

先に言っておくが、学園長から通達されていた件も既に私には通用せん」

 

接触・干渉禁止命令を下せる範囲の外にいるという事か。

ってことは俺達に直接干渉しようが、咎められる人間は居ないって事か?

うわぁ、嫌過ぎる…。

 

「これからの訓練内容もこちらで既に把握している。

ウェイル・ハースをこちらに寄越してもらおう」

 

視線をこちらに向けてくる。

刹那、メルクとティナが銃を向け、鈴とラウラが剣を、簪がナギナタを向けた。

俺は…対応仕切れなかった、なので皆に倣う形でマルスを銃形態にしてそれを織斑教諭へ向ける。

 

「生憎ですが、お断りしますよ」

 

「国際IS委員会指名だろうけれど、他国の企業所属への干渉権限はありませんよ」

 

他の教職員たちも織斑教諭に銃口を向ける。

あっちも本物の拳銃のようだ。

 

「お前には私がトレーニング内容を組んである、こちらへ来い」

 

話が通じねぇっ!

 

「断る、先にもそう言った。

それに俺はアンタを嫌悪しているんだ、アンタの指示には到底従いたくないね。

アンタには俺に対しての命令権限なんて無いだろう!」

 

「ハース君の言う通りよ、貴女には現場指揮権限は無いわ、失せなさい」

 

こうやって話を直接するのは初めてだが、嫌悪感が吐き気のように押し出してくる。

オマケにこちらの話は一切聞かず、自らの話だけを押し通そうとする。

嫌悪どころではなく、それこそ相互理解など到底望めない。

織斑全輝を『究極の敵』と吐き捨てた覚えがあるが、この女の場合は『断絶の向こう側』とでも言えばいいだろうか。

 

「感情でものをいうか、下らん(・・・)

それに、私が来たのはそれだけではない。

1()組の生徒(・・・・)で新たに専用機所持者が出ると聞いている」

 

誰もが一瞬絶句した。

なにしろ、そんなことはあり得ないと言われている。

1組の生徒は問題行動の頻発でISの使用権限の大半を奪われており、稼働時間が他のクラスに比べても著しく少ない。

先のトーナメントでも出場していた1組の選手は殆どが1回戦で敗退しており、記録と呼べるものが存在していない。

2回戦に挑んだ者も確かにいるかもしれないが、それはシード権限があってのもの。

そこでも敗退しており、記録らしい記録は提出できるものでなかったというのは明白だった。

それにも関わらず、軍事物資であるISの専用機所持権限が認可される筈が無い。

 

「在り得ないわよ」

 

鈴の言葉に俺も頷く。

記録もない相手に、国家、企業、軍が所持権限を与える筈がない。

 

「ウェイル・ハースには、今から1組の専用機所持者とともに訓練を受けてもらう」

 

旅館から出てくる人物が一人、そしてもう一人が。

その人物は

 

「織斑、篠ノ之…!?」

 

例の問題児二人がISスーツを着て出てきていた。

専用機所持者といえば、確かに一人は織斑を思い浮かべる。

だが、なんでここに篠ノ之が来てるんだよ!

 

「ウェイル・ハース…!」

 

どう見ても憎悪を滾らせて俺を睨んできている。

こんな状態の輩と訓練しろだと?

なりふり構わず斬りかかってくるのがもう見えている、猶更お断りだよ!

 

「アンタ正気か?

それともその頭の中身は何も入っていないのか?

ソイツ等がこっちにどれだけ被害を出してるのか忘れてるんじゃないだろうな?」

 

「その分の贖いだと思ってくれ」

 

「何が贖いだフザけるな!」

 

コイツ等のせいで今まで被害を受け続け、憎悪を剥き出しにして何が『贖い』だ!

アンタの言葉には中身が感じられない、誠意がそこに宿っているとは到底思えないんだよ!

ああ、間違いない、コイツ等は敵だ、相互理解など一切存在しない究極の敵だ!

 

「揚陸艇、コンテナを開き、篠ノ之の機体を出せ」

 

誰もが揚陸艇に視線を向ける中、俺達だけは決して視線と銃口を逸らすようなことはしなかった。

これは一種のフェイントだ、誰もが視線を向けた瞬間にコイツ等は何かをしでかす、そう思えてならなかった。

 

「おい、千冬さんの命令が聞こえていないのか!?」

 

レーダーを起動させ、周囲を探知。

だが、レーダーに反応しているのは周囲の代表候補生の専用機だけであり、揚陸艇にそれらしい反応は無い。

そして、学園生徒以外の熱源反応も探知がされていない。

だとしたら上空からか…?

 

「いや、上空にも反応は無い」

 

俺の考えを察知したのか、ラウラがそれを告げる。

だとしたら地下か?だが周囲には掘り返すような様子も無い、掘り返した形跡だって見受けられない。

そして

 

「…おいっ!?何をしている!?」

 

無情にも揚陸艇は発進し、姿を消していった。

…これは…一種のコメディーか?

それともこれもまだ何かしらのフェイントなのか?

 

「気は済んだかしら?」

 

ティエル先生の言葉が益々棘を増やしていた。

物凄いイライラしてらっしゃる、こんな様子は今まで見た事が無い。

最早爆発寸前といっても差し支えなさそうだ。

 

「どうやら篠ノ之に機体を譲渡する企業も軍も国家も無かったみたいね」

 

「そりゃ当然ね、暴力事件を頻発させ続ける、暴れる以外に何一つ脳のない本物の無能に、必要以上の力を与える危険性を理解できないバカは居る筈が無いものね」

 

鈴、ティナの容赦の無い言葉が放たれる。

 

「だよね、言いがかりだけで他者を傷つける人に信用なんて出来ないもん」

 

「それすら理解出来ていなかったのか、貴女は…!」

 

簪、ラウラもまた冷たい言葉を放つ。

 

「こうなるんじゃないかと思っていたけど」

 

「やはり貴女の言葉には何一つ真実が無いみたいですね」

 

シャルロットもメルクも銃口を決して降ろさない。

俺もまた、銃を下ろさず、織斑と篠ノ之に向ける。

 

「なんで…機体を束さんが用意してくれる筈って、箒が…」

 

「そうだ、今日は私の誕生日なんだぞ、姉さんが私の専用機を用意してくれる筈」

 

織斑と篠ノ之からしても予想外だったのか、まともに言葉が出せていなかったようだった。

そんな中、

 

「見限られた、という事でしょう」

 

そんな言葉を吐き捨てた人物が一人いた。

揚陸艇が発進したにも拘らず、この場に残っていたクロエだ。

 

「いえ、それとも見捨てられたといったほうが最適でしょうか?」

 

「貴様、何を…!?」

 

クロエが俺達の間へと割り込んできた。

銃口を向けられていると判っているのか彼女は!?

一度、こちらに視線を向けてくる、どうやら銃口の存在は把握しているらしいが、正気かよ…!?

 

「待て、それ以上近づくな…!」

 

織斑が白式を展開し、ブレードの切っ先をクロエへと向けてくる。

流石にコレは…!

 

「ご安心を、私から危害を加えるようなことをしません。

ビーバット博士のもとに届けられたメッセージ(離別宣告)を見せるだけですので」

 

彼女がホロキーボードを操作すると、俺達の頭上にモニターが展開される。

そこに映ったのは、見覚えの無い男性だった。

だが、よく注視してみれば、その人物は両手の小指が無い(・・・・・)

 

「え、父さん…」

 

その呟きは篠ノ之の声だった。

そしてモニターに映った人物が静かに声を放つ。

 

『この映像が公開されているのであれば、私と鼎はもうこの世に居ない(・・・・・・・)

 

「…な…!?」

 

織斑 千冬の驚愕の声が聞こえてくる。

どうやらあの御仁からしても顔見知りだったらしい。

 

『箒、お前が立て続けに起こし続ける問題行動について、その全てが私と鼎のもとに届いている。

私達は、お前が起こし続ける不祥事を聞かされ続けることに、もう疲れたんだ。

だから、束と共に(・・・・)判断を下したよ』

 

映像の中の人物が一枚の用紙を突き出した。

日本語で記されているが、俺にも読める。

それは『離縁届』だ。

 

『お前はもう、私達の娘ではない(・・・・・・・・)

私達の娘は、束の一人だけだ(・・・・・)

この書類はすでに役所に届け、7月7日付けで有効になるようにしている。

この映像を貴様が見ている時には、話は通した後だと思っておけ』

 

「そんな…!どうして…!」

 

篠ノ之が叫ぶが相手は記録された映像だ、応える事も無く無情にも話が続く。

 

『そして、篠ノ之 箒、織斑 全輝、織斑 千冬、貴様等のような恥知らずの外道共は全員破門(・・)だ。

道場で学んだ全ての使用を禁ずる、もう二度と道場の敷居を跨げると思うな!』

 

そこで映像は終わり、モニターは消えた。

 

「まあ、見限られて当然ですね。

なにしろ、新宿に於ける凛天使による爆撃テロは篠ノ之 箒が仕組んだ(・・・ ・・・・・・)事も伝わっているのですから」

 

再び、砂浜は沈黙に包まれた。

教職員も、生徒も、誰もが言葉を発する事が出来ないでいた。

もうこれで何度目だよ…。

 

「これが先程お伝えした匿名掲示板に投稿された内容です」

 

その場にいた全員の眼前にホロモニターが突如として展開される。

そこには…『ウェイル・ハースが新宿に向かう、これを討て』と顔写真入りの投稿が記されていた。

おい、ちょっと待て…!

 

「ある民間の方から、イタリア大使館へ通報が入り、判明しました。

無論、大使館もこの掲示板の情報を把握し、本国にも通達しています」

 

「この投稿をしたのは、まさか…」

 

クロエが俺に視線を向け、静かに頷いてみせる。

 

「IPアドレスを辿り、特定しました。

篠ノ之箒の端末であることを、そして場所も特定されています。

7月2日、IS学園の学生寮、深夜に発信されたものであると」

 

最悪だ。

俺が新宿に向かうなどと言った覚えは俺自身一切ない。

どこでそんな話を聞いたのかは知らないが、真偽も定かではない情報が外部に漏洩し、あの爆撃テロが起きたということか。

テロ組織の狙いは俺だったが、イタリア大使館に居たから被害を受けなかったというだけ。

連中は、俺個人を狙うために、都市一つを壊滅させ、そこにたまたま居合わせたであろう民間人を虐殺しつくしたということになる。

その発端が…篠ノ之箒だという事に…。

 

「それだけではありません。

昨日の夕方、イタリア大使館に、別の民間人の女性からこのような通報が入りました。

病院に入院している意識不明の我が子の携帯端末にこのようなメールが届いていたのを発見した、と。

もしかしたら新宿の爆撃テロに関与しているのではないのか、とね」

 

再びホロモニターが展開される。

そこには、再度俺の顔写真…角度的にもこれも盗み撮りしたであろう写真が一緒になり

『ウェイル・ハースを袋叩きにしろ』と記された内容の個人用メールの内容が。

 

「こちらも発信者のアドレスは特定済みです」

 

途端に織斑が蒼褪めていく。

その吐き気のするような顔を見れば容疑は確定だ。

 

「待て、それは…」

 

「織斑 全輝さん、発信者はあなたです。

尤も、メールを受け取った側は一人だけでなく、複数。

恐らく、殆どが亡くなられているでしょうが」

 

メールの送信時間は早い、ということは織斑がメールを送った後に、匿名掲示板に投稿がなされている。

織斑の友人?が新宿に出向いた後にテロが勃発したということか。

織斑の友人?は完全に巻き込まれ、無駄死にさせられたようなものだな。

 

「全輝、箒、コレは本当か…!?」

 

織斑教諭も顔を真っ白にしながら視線を二人に向ける。

どうやら本人も知らなかったようだ、憎悪どころか完全に殺意剥き出しにしてるじゃねぇか。

何が『贖い』だ、フザけるなよ。

お前らの頭の中では『贖い』とはどういう意味で記憶されてるんだよ。

 

「相変わらずだな、お前らは。

自らは動かず、他人を利用し、自らの目的を達成しようとする。

考えることが以前から何も変わってねぇじゃねぇか、それで今回はテロリストを使ったわけか」

 

こいつらのやり方はウンザリさせられていた。

もう、本当に関わりたくもないと思うほどだが、それでもコイツらは俺達に害を成し続けてきていた。

それが今回は無関係の第三者を都市ごと巻き込んでまでの大殺戮だ。

目的を成すためであれば、どれだけの人をも巻き込む事になろうとも構わないというのが、コイツらの在り方か。

 

『やあやあ、聞こえているかな諸君?』

 

いい加減に頭が痛くなってきていた瞬間、間の抜けた声が聞こえてきた。

見ればクロエが未だに映像の再生を続けていた。

モニターには誰の姿も映っていない、音声限定通信のようだった。

だが、その声には聞き覚えがある。

ヴェネツィアで偶に耳にした『鵞鳥の人』の声に似ている気もしたが…何か違うような気もする。

 

「ね、姉さん…!?」

 

篠ノ之の震える声。

アイツがそう反応するということは、音声の主は『篠ノ之 束』博士だと察する事が出来る。

その人との通信をクロエが繋いでいるのが気にはかかるが…

 

『そう、私は篠ノ之 束だよ』

 

「姉さん!私に!私に専用機を」

 

『なんでお前にそんなものを作ってやらなきゃいけないの?』

 

篠ノ之の声を遮り、響くのはあからさまな拒絶の反応だった。

 

『お前のせいで私がどれだけの迷惑を被ってたと思ってるの?お前のせいでどれだけの人が巻き込まれたと思ってるの?お前のせいでどれだけの人が傷ついたと思ってるの?お前のせいでどれだけの人の未来が断たれたと思ってるの?お前のせいでどれだけの人の希望が砕かれたと思ってるの?お前のせいでどれだけの人が死んだと思ってるの?お前のせいで父さんと母さんが苦労したと思ってるの?お前のせいで父さんと母さんがどれだけ苦しんだと思ってるの?お前のせいで父さんと母さんがどれだけ悩まされたと思ってるの?お前のせいで父さんと母さんが自殺したって自覚してるの?お前が父さんと母さんを殺したって理解してるの?あ、理解してないか、ミジンコにも劣る脳みそ程度が限度のお前が何かを理解出来る筈もなかったよねアハハハハハハ!

壊す、傷つける、奪う、以外に何もしないようなお前に何が出来るっていうの?

何かを作り上げる事も出来ないくせに、人のものを壊して楽しむような腐れ外道のお前が、要らない力を身に付ければ何をするか簡単に予想だって出来るのに何でそこで私に片棒担がせようとしてるのさ?

言葉に困れば暴力を、状況に困れば私の名前を出し、都合が悪くなれば私を無関係な人間扱いする、そんなお前を私は身内だなんて思いたくもないよ。

あ、もう身内じゃなかったね、この人殺しの化け物め。

父さんと母さんの映像が偽物だと疑っているだろうけど残念、本物だからその点しっかりと覚えておきなよ。

お前が身内ではなくなって、本当に、ほんっとうに!ほんっっとうに!ほんっっっとうに!ほんっっっっとうに!清々したよ!』

 

そして吐き出されているのは純度100%の拒絶と嫌悪で綴られたマシンガントークだった。

溜まっていた恨みとストレス解消を目的にしているのではないのかとすら思えてきた。

 

「な、何を言って」

 

『父さんと母さんが自殺をしたのはお前のせいだ。

お前なんか家族じゃない、これで完全に他人だよ!

ほら、嬉しがりなよ。

お前は私の妹じゃない、私はお前の姉じゃない、完全な他人だよ、私を姉だなんて呼ぶな、耳が腐る。

お前のやった事は、欧州連合と欧州統合防衛機構と国連と国際刑事警察機構と国際裁判所にも通達済みだよ。

お前の居場所は、お前が今まで傷つけて未来を奪った子供達の親御さんにも通達済みだよ、精々制裁を受け入れるんだね、赤の他人の何処かの誰か。

ああ、そうそう、今日が誕生日なんだってね。

私からの贈り物だよ、お前には…現実と言う名の地獄を与えてやるよ。

じゃぁねぇ、サヨナラ!』

 

「これで録画映像は終わりです」

 

マシンガントークはこれで終わった、らしい。

モニターは消え、クロエの持つ通信機からは輝きが失われた。

状況を頭の中で整理してみる。

えっと、だ…。

篠ノ之は俺の名と顔を全世界に露見させた。

織斑は、俺の名と顔を知り合いに伝え、暴行を行わせようとした。

その結果、どうなったか。

篠ノ之の手によってテロリストが新宿で大暴れし、織斑の知人含めて250万人を上回る数の死傷者が出た。

さらにその二人の行いが国連と欧州二大組織…だけでなく国際社会の表舞台にも伝えられている…と。

 

「篠ノ之博士からも完全に(えん)を切られている以上、ようやく法に裁かれる時が来たらしいな。

過去がアンタに追いついたらしいぞ」

 

「わ、私は裁かれるようなことなど何一つしていない!

お、お前が悪いんだ!何もかも全て貴様のせいだろう!

貴様が私達を貶めようとしなければ!」

 

「フザけないで!」

 

篠ノ之がお得意の責任転嫁を喚き始めた瞬間だった。

俺達の背後に居た生徒が叫んだ。

 

「アンタの…アンタのせいで私は家族全員を喪ったのよ!?」

 

「私だって…新宿でアルバイトを頑張っていた弟と妹が居たのに…アンタせいで私は弟妹達が…!」

 

そうだ、家族を失った者だって当然居る。

心にそれだけ大きな傷を負った者が居るはずだった。

それもこれも、篠ノ之が原因となって、だ。

 

「なお、篠ノ之箒の容疑はそれだけではありませんよ」

 

冷徹に、クロエの言葉は続いた。

だが、これ以上に何があるのかは俺には判らない、だからその言葉に耳を傾ける。

 

「既に、IS学園は壊滅しています(・・・・・・・)

 

…は?何を言ったこの子は?

とんでもない事を言っていなかったか?

壊滅?学園が?どういう事だ?

 

「クロエさん、どういう事か聞かせてもらえるかしら?」

 

「先の匿名掲示板には前述があります。

『7月7日から、教師陣とともに臨海学校に出向』、『織斑千冬がすでに学園から去った』、と。

学園の防衛力の3分の1近くが失われ、最高戦力ともとれる織斑教諭が学園に居ない。

その情報をネットワーク上に露見させています。

これ幸いとばかりに、昨晩、IS学園は凛天使による夜襲を受け、壊滅しました」

 

………人の事を言えないけどさ、コイツ、もしかして究極のバカじゃねぇのか?

学園の防備がダウンしていることをわざわざ外部にバラすのか?

相手は電磁シールドを貫通する兵装を持っていることは学園全土だけではなく、全世界で知られていることだぞ?

なのに、コイツは何をしているんだ?

 

「今朝、教職員や簪からも学園と連絡が通じないといわれて妙だと思っていたが…」

 

「はい、受け取る側が居ませんし、通信インフラが失われていますから。

襲撃を受けた学園は、現在は建物ほぼ全てが倒壊、炎上しており、学園に配備されていたIS、及びコアは殆どが奪取されている状況です。

生存者の報告は未だ届いていないとのこと」

 

最悪だ、今までにない以上に最悪だ。

 

「学園運営は…絶望的でしょう、歴史的な大事件です。

情報漏洩は間違いなく篠ノ之箒によるものであると調べがついています」

 

テロの扇動、本人にその自覚が無くても疑いは確定した。

こんなもの、『贖い』なんて言葉など口にするのも烏滸がましい。

どう考えても俺を殺す事にだけ執着していると見るべきだ。

昨日、バスが集まった場所で俺を見て驚いたのは、俺がテロに遭いながら生き延びたから、そう思っていた。

だけど違う、今ならそれがハッキリと判る。

コイツが驚いていたのは『俺が死んでいなかったから』だ

 

「すでにこの情報は全世界へと発信済みです、逃げられるなど…到底思わないでください。

世紀の大犯罪者さん」

 

織斑教諭も顔が真っ白だ。

こんな奴らと俺を一緒にして合同訓練をさせようとしていた?

どれだけ頭の中がお花畑なんだよ!

 

「…おのれ…貴様が…貴様のせいでぇぇぇぇぇーーーーッッ!」

 

篠ノ之は木刀も、真剣も無いまま拳一つだけで殴り掛かってこようとする。

 

「何もかも全て貴様のせいだぁっ!」

 

…もう加減はしなくていいだろう。

俺の中でコイツはテロリストと同じだった、だったら、俺は…!

 

ドガァッ!

 

鈍い音が響いた。

俺達は何もしていない、銃の引き鉄は一度も引かれていない。

それでも、篠ノ之は殴り飛ばされていた(・・・・・・・・・)

殴ったのは、4組の生徒の一人だった。

 

「アンタのせいで、私は妹を失ったのよ!」

 

「この外道!」

 

「人殺しぃっ!」

 

次々と殺到していく生徒達。

俺はそれを見たが……見なかった振りをしつつ、銃口を織斑へと向ける。

 

「くっ…!テメェ…!」

 

「テロリストは俺を死んだとみなした、その確認もせずに、な。

なら、次はお前がテロの標的だな。

いや、IS(・・)学園を狙ったテロが(・・・・・・・・・)お前を狙ったもの(・・・・・・・・)だろう」

 

織斑教諭がここに来たのはテロリストの連中が知っているとは到底思えない。

で、あれば…織斑の生存がテロリストに知られれば、更にテロが広がると想像するのは簡単だ。

織斑全輝が次のテロの標的となるのは自明の理だ。

となれば、奴らも加減しないだろう。

たった一人の人間を殺すためだけに、都市一つとそこにいる人間を皆殺しにするような連中だ。

その被害は上限が無い、電磁シールドを貫通する兵装を持ち、剰え、学園への攻撃は夜間だったらしい。

国家滅亡レベルのテロが起き続けるのも想像しやすい。

 

「この疫病神、悪魔か、それとも死神か…アンタ達は意志を持った災害だな」

 

こんな奴等のせいで、250万人以上の人間が無駄死にさせられたともなると、取り繕う必要もない。

額の傷跡が痛む言葉を、今度は俺が口にする。

 

「何もかも全て、お前が悪いんだぞ」

 

言い切ってやった。

心臓がバクバクと煩い、嫌な汗が背中を流れる、眩暈がするが唇を噛み切って痛みで耐えた。

 

「フザけんなぁっ!」

 

「ガラスィア!」

 

メルクの指示でシザービットが縦横無尽に飛び交う。

白式の両腕部装甲を

 

ギャギィィィンッッ!!

 

切り裂いた。

 

白と青に染まる両腕の装甲が裂かれた直後に、全員の銃口から夥しい数の弾丸が放たれる。

白式の絶対防御に阻まれるが、弾丸の豪雨に速度も奪われ、シールドエネルギーがガリガリと削られていく。

最後は、ラウラが放つ二門の砲がその最後の灯を消し去った。

高速切替(ラピッドチェンジ)で銃が切り替わり、高速装填(ラピッドリロード)で弾倉を交換、再度全ての銃口が…織斑教諭に突き付けられた。

 

「アンタ、何が狙いだ…!」

 

「貴女のような人に、私の家族は任せられません…!」

 

「何が『私の家族』だ!そもそも…」

 

そこから先の言葉は続かなかった。

 

プシュッ!

 

そんな空気の抜けるような音が微かに聞こえた気がした。

その音源は…クロエが持つ拳銃からだった。

銃口の先端部分に筒のようなものが搭載されている。

確か、消音機とか言われるものだったか。

 

「見るに堪えませんから撃ってしまいました♡」

 

アンタ、そんなキャラだったっけ?

 

「…いえ、もう良いわ」

 

ティエル先生も本気で頭を抱えながら精一杯の声を捻り出していた。

篠ノ之は…数十人がかりで殴る蹴るを繰り返される袋叩きで血まみれ青痣まみれだ。

あれで生きているというのだから、下手な頑丈さは自分の首を絞めることになるようだ…。

 

「織斑()教諭、旅館に一室用意してあげるわ。

後々に警察を呼んでそこの二人を逮捕させる、逃げ出さないように監視をしておくことね。

アンタに、まだ人間として(・・・・・)の良心が残っているというのなら、ね。

アンタは、その二人の行動を抑制するように命令されていたことを、忘れていたわけじゃないでしょう」

 

その言葉で最後の宣告となった。

 

教職員によって織斑千冬が拘束される。

その状態でありながらこの疫病神は俺達を睨んでくる。

これ以降、俺はこの人物達と言葉を交わすことが、もう二度と無ければいいとさえ思う。

そう、思っていた。

 

ヴィーッ!ヴィーッ!

 

そのサイレンは、ティエル先生の懐から聞こえてきた。

 

「山田先生?どうしたの?

…は?緊急事態!?」




新宿爆撃テロについて
『ウェイル・ハースが新宿に向かう』という誤情報を顔写真とともに、篠ノ之 箒がネットワーク上に散逸させたことによって起きた悲劇。
これを凛天使が発見し、新宿駅を中心にしての爆撃テロを行った。
フルネームの情報の露見もそうだが、顔写真の漏洩は短時間で二度も行われており、イタリアはこれを国家機密情報の意図的漏洩と見做して日本政府を糾弾。
また、殺害を命じるかのような書き込みからすれば『殺人委託』ともとれる。
偶然にも、『ウェイル・ハースを袋叩きにしろ』と言った『犯行教唆』を行った織斑全輝の取り巻きもそのテロ攻撃に巻き込まれ、全員死亡している。
だが、イタリアによる『報復活動』によって制裁を受けていた意識不明の少年の母親から、イタリア大使館への通報が入っていた。

IS学園テロ攻撃について
篠ノ之箒が上記の行動に出た際にタイピングミスを行い、『7月7日に臨海学校へ向かう』という書き込み内容から、その前日である6日の夜に夜襲が仕掛けられた。
ウェイル・ハースを新宿で抹殺完了をしたと思い込んだ凛天使が、今度は織斑全輝の抹殺を企てての攻撃だった。
なお、箒によって、『織斑千冬の不在』『学園講師もまた臨海学校へ向かう』旨も記されており、学園の防衛戦力が大幅低下の情報も故意的に露見させており、被害が余計に拡大した。
こちらの情報は御手洗 数馬によってイタリア大使館へ通報されたが、対応が間に合わなかった。
箒の行いにより、IS学園がテロの標的とされた。
これに伴い、校舎も殆どが倒壊している。
今回のテロ攻撃に関しても凛天使は世界中に対して、IS学園爆撃テロを『聖戦』『征伐』と称し、犯行声明を報じた。

IS学園は世界全土からは治外法権によって守られた小国とも見られていため、今回の箒の行いを国連は『外患罪』『外患誘致』と判断した。

なお、学園講師達によって携帯端末は没収されていたが、千冬によって手渡されていた予備端末を講師達に渡していた。
これにより全輝は腰巾着達に指示を送り、箒は国際機密情報のリークを行った。

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