IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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年末年始の休みも今日が最後かぁ…

釣果上々号
ウェイルが旅館から借りた旧式の何の変哲も無い小型ボートの名前。
エンジンなども旧式のバッテリー式だが、メンテナンスが普段からされているのか、簡単に動かせた。
ボートの名前は旅館の先代女将がシャレで名付けたものらしい、なんつーネーミングセンスだ。
ウェイルはコレにクーラーボックスを大量に敷き詰めるほどに魚を釣り上げて見せていた。
4か月近いブランクがあるのにこの結果、このボートの名前通りの釣果上々、爆釣日和だった。


ウェイルの心境
新宿爆撃テロの要因が自分に在ることを知り、頭を抱えていたが、鈴やメルク、ティナ、楯無の言葉により、暗い方面に足を踏み入れそうになっていた所を引き戻された。
今となっては、『自身は要因の一つに過ぎず、根本的な原因が別の所に在る筈だ』と考えているが、確証に至っていない。


第86話 回風 巡る

食事と入浴も終え、俺は割り振られている自室に戻ることになった。

俺の場合は教職員用の部屋の一室となっており、担任のティエル先生との同室だ。

無論、メルクも一緒なのでそこまで気まずいわけでもないんだが。

 

「あら、何を書いてるのかしら?」

 

部屋に戻ってから俺は思いついたものをスケッチブックに描いていたが、ティエル先生が覗き込んできたらしい。

どうにも俺の手元が気になったみたいだった。

 

「ちょっと思いついたものがあるので、忘れないうちにスケッチを」

 

この旅館には手入れをされた庭木がいくつもあり、そこに数羽の鳥が翼を休めに留まっているのを見かけた。

なかなかに難しいかもしれないけど、鳥の姿を模したロボットでも作れないかなぁ、なんて思っていただけだった。

その鳥のロボットで何かをするわけでもないけど、シャイニィの遊び相手にでも…いや、壊されるかな?

だったらリラクゼーションとか、メンタルヘルスにでも使えたらいいんだけどな。

 

「動力は超小型のバッテリー式にして…これだとウミネコみたいな大きさになるかな…。

やっぱり小鳥サイズにするとなると、今の技術じゃ作り出せないか…」

 

それに鳥の姿にするのであれば、飛行できないと形を模した意味がない。

それこそ模型同然だ。

あとは音声認識とかの機能も搭載しておかないと。

 

「他に機能搭載するとなると…」

 

搭載させたい機能を箇条書きにしてみるとそれこそ結構な数になる。

飛び立ったまま帰ってこなくなったら困るから、いわば帰巣本能に近いそれもあったほうがいいからメモリー容量の問題も…。

 

「よくこんなの思いつくわね」

 

「思いついただけで実際に作れるかどうかは…」

 

頭の上に何かがポスンと乗っかってくる。

視界の端には長い茶髪が垂れているのが確認出来た。

頭の上に乗せられたのは鈴の小さな手らしい。

 

「…思いついた」

 

スケッチブックをめくり、次のページに思いついたソレのデッサンを手掛けていく。

うん、思いついたのは猫型のペットロボットだ。

 

「ちょっと、何を描いてるのよ、何を見て何を思いついたのよ!?」

 

「ん?鈴の今の姿を見て、猫の姿を模したロボットを…痛い痛い痛い痛い、耳を引っ張るな」

 

どうにも鈴を見ているとシャイニィを思い出すんだよなぁ。

以前に頭を撫でた時もあったがその時にも引っ掛かれそうになったっけな。

次に下手なことを言ってしまったら噛みつかれるかもしれない。

 

「それに、ネコ型のペットロボットなら随分と昔に発売されていた事が有ったらしいわよ」

 

「そりゃぁ残念だ。

それはともかく、いつの間に部屋に入ってきたんだ?」

 

「お兄さんがアイディアのデッサンをしていたタイミングに、です」

 

メルクも髪を靡かせながら微笑んでいる。

だが何故だろうか、普段以上に髪が手入れされているように見える。

スケッチブックをもとのページに戻し、ウミネコのそれに再度集中する。

だがまぁ、妹が部屋に戻ったんだ、そちらの方向に向いたほうが…。

 

「おっと」

 

胡坐をかいた俺の左膝の上にメルクが座ってくる。

 

「ちょっとアンタ…」

 

「あらあら♪」

 

妹の珍しい我儘だ、ここは文句は言うまい、ここはその重みを甘んじて受け入れることにしよう。

 

「他に機能搭載をするとしたら、それこそ鳴き声も出せるようにしといたほうがいいか」

 

「カラーは…ウミネコと同じようにしたほうが良いかもしれませんね」

 

「それもそうだな、次に脚部についても体重を支えられるようにして…」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ウェイルを驚かせようかな、なんて思ったけどあんまり驚いてはくれなかった。

それに関しては少し残念に思ったけど、メルクになんか見せつけられたようでカチンとくる。

オマケにドヤ顔してるんじゃない!

 

「この機能をつけると、どうしてもウミネコくらいのサイズが要求されるよな…。

小鳥サイズにするのは今の俺の技術では無理だな…う~ん…」

 

深く考え込み始めたのかスケッチブックを床に置き

 

「わ、ちょ…」

 

あろうことか右手で私の髪を触れ始めた。

髪の先端を指先でクルクルと…流石になんだか恥ずかしくなってくるけど、考え事を邪魔したくなくてされるがままにするしかなった。

けど、なんか恥ずかしい…!

頭に血が上ってくるのがはっきりと自覚できるほどで見られないように顔を横に向ける。

けどそんな状態になってるのを…襖の向こう側から覗き込んできているティナと目が合った。

 

「あら、そんな所で何をしてるの?

入ってきなさい」

 

「またお客さんですか?」

 

「おっ邪魔しま~す♪」

 

気が抜けるような挨拶と一緒に入ってくるティナがそこに居た。

覗きをしてることに関しては特に文句を言う気にもなれないし、そのままほっとこうかしら。

 

「ティナさん、その…浴衣の胸元が…」

 

メルクも流石に気になったらしい。

現状、ティナはかなり浴衣を着崩している。

 

「だって、この日本式の(ベルト)?だったかしら、キツイんだもの。

これくらいは大丈夫でしょ?」

 

「どこがよ、肩はむき出し、胸の谷間が見える状態になってるわ、裾を括ってミニスカート状態にしてるわ…どこで何をするつもりの服装よ、それは?」

 

着崩し方が半端じゃなかった。

プロポーションを全力で活かして、それこそハニトラでもするつもりなのかと怒鳴りたくなる。

そしてハニトラする相手なんてこの場には一人だけ居るわけで…。

 

「そういう鈴だってウェイル君に髪を触れさせてるじゃない♪」

 

「これは、その…成り行きで逃げられなくなっちゃったのよ…」

 

ウェイルはティナの様子に気付いてないらしく、まだ私の髪の先端部分を指先でクルクルと回している。

それが何か琴線にでも触れたのか、不機嫌そうな視線をメルクから向けられるハメに…どうしろってのよ!

 

「大変な状況になってるわね♪」

 

ティエル先生は笑ってないで助けてってばぁっ!

 

1分後、メルクはウェイルの膝から降り、ウェイルの手は私の髪から離れ、大胆な格好をしたティナは床に正座させられていた。

なお、そのウェイル本人はといえば

 

「この人数になってるんだし、なにか飲み物でも買ってくるよ」

 

変な気の利かせ方をしていた。

館内をたまたま散歩をしていたらしいラウラを捕まえて廊下の向こう側へ消えてった時には流石に文句を言いたくなったけどね…!

 

「それにしてもウェイル君は人気者ね。

妹のメルクさんは仕方ないとして、凰さん、ハミルトンさんもウェイル君を気にしてるだなんてね」

 

本当のことを言えば、私が求めている人は別に居る。

だけど、ウェイルと一夏が同一人物ではないかという思いは今でもずっと続いていた。

 

「私としては良い友人として在りたいという思いですが…そこから先となると…あ、この先は何も言いたくないです…」

 

ティナのその台詞の最中でメルクの視線が突き刺さる。

逐一殺気を放つのを辞めなさいよそこのブラコン…。

 

「私は…ノーコメントで…」

 

私は問いたい事が在るけれど、それを言えば織斑千冬と同じ扱いになりそうで口を閉ざした。

ウェイルと一夏が同一人物ではないかと疑っているのは確かだけれど未だに何か決定的な証拠を掴めていないんだもの。

そんなタイミングでここから先を言っててしまえば、危険が付きまとうのは理解出来ていた。

織斑千冬も同じ感覚で近付こうとしていただろうけど、あの結果を見れば踏み込みすぎるのは危険だと思う。

今はまだ、友人としてそばでいればいい、疑われないように、それでいて証拠を掴み取る事が出来れば…!

 

「う~ん、確かにウェイル君は機械いじりに釣りにと趣味に生きてる所が在るし、異性にはそんなに気が向いていないのかしらね?

そこのところはどう思うメルクさん?」

 

「悪い虫が寄ってこないかが心配です…。

尤も、危害を与えようと寄ってくるドブネズミが学園には居るようですけど」

 

「派手な言い方するわねぇ、…まぁ同意はするけど」

 

そのドブネズミが誰を指すのかはティエル先生も理解していると思う。

実際に学園にいる間はウェイルは繰り返し被害に遭っているわけだからねぇ。

でも、それだけでなく、あいつ等が手出しをしてくる都度、学園外部で全輝の取り巻きが一人ずつ始末されている。

死んでこそいないけれど、ドイツもコイツも再起不能のレベルに至っている。

メルクはそれを理解しているかは知らないけれど…。

 

「ああ、知ってる知ってる、風評被害を与えようとしていたのよね」

 

「アイツが以前から繰り返し使ってきた手よ、同じ手ばかり使ってて飽きないのかしらね」

 

やり方がワンパターン、といっても差支えがないとは思う。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ガコン!

 

たまたま遭遇したウェイルに同行した先にあった自動販売機で購入する4本目のジュースを手にとる。

だがウェイルはそのまま無言でコインを入れ、また飲み物を購入する。

部屋にそれだけ大所帯ともいえる人数の客人でも来ていたのだろうかと思うが。

 

「ほら、おまえの分だ」

 

どうやら私のものを購入していたらしい。

頼んではいなかったが

 

「ああ、感謝する」

 

もらえるものはもらっておくことにした。

プルタブを開けば、ほのかにリンゴの香りがした。

どうやらリンゴのジュースらしい、子ども扱いされているような気がしないでもないが、すぐに頭から追い出し、ジュースを飲んでみる。

 

「むう、甘いな」

 

「はは、そうか。

ああ、そうだ、少し話がある」

 

話、というのが理解できなかったが、重要そうな案件かもしれんし私は大人しく同行することにした。

ついていった先は旅館の庭で、周囲は庭木ばかりで、人気が無かった。

また視線も感じず、虫の鳴き声が少し聞こえてくる程度だった。

 

「話っていうのはだ…織斑教諭についてだ」

 

「…話せ…」

 

「あの人はどうやら、俺とメルクに対して『干渉・接触禁止』の命令を学園側から言い渡されていた事は知っているだろう?」

 

干渉・接触禁止か…。

ハース兄妹に対して一切の干渉をするなと、関わるな、か。

だがずいぶんな指示にも思える。

 

「俺もメルクもつい最近まで知らなかったんだけど、な。

この指示はどうやらイタリア本国からだった」

 

「それは私も把握している、あの人が学園から居なくなり、食堂の一件の後だったらしいな。

鈴を経由して訊いている。

だとするなら、やはりあの人はイタリアに対してかなりの挑発行為に近い何かをした事になるな」

 

だが、具体的に何をしたのかは現状では手掛かりが無い。

あの女(織斑千冬)が学園から追い出されるまで、私に対してあの態度をとり続けてきた理由はコレだったのか?

私はあの人に対して決別を果たしたが、今となっては過去の出来事にしか感じていない…後悔は無かった。

そして…同情もしない。

頭ごなしにそのような事を命じられるだけの事をしていたのだろう。

 

「それを私に語って何が望みだ?」

 

「いや、織斑教諭が俺に何を求めていたのか、或いは何か知らないだろうかと思っていたんだ」

 

「生憎だが、お前が望んでいるようなことは何も知らされていない」

 

「そうか、なら話は終わりだ。

部屋に戻るよ、妹も待ちくたびれているだろうからな」

 

そういうだけ言ってウェイルはさっさと立ち去った。

マイペースというか、なかなか掴みにくい人物のようだ。

 

「いや、興味を持てないことはすぐに忘れるタイプの人間なのか?」

 

つくづく読めない男だ。

だが、話をしていて思うことがある。

見ていて飽きないタイプだ、友好を育んでみるというのも面白いかもしれんな。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「帰ったよ」

 

缶ジュースを抱えて部屋に戻ってきたところで、部屋の中は部屋を出る前とはそんなに変わっていなかった。

変わった点といえば…ティナと鈴とメルクの三人が、俺のスケッチブックを見て何かを話し込んでいる様子だった。

 

「ティエル先生、あの三人は何があったんですか?」

 

「ペットロボットじゃなくて、人が中に入れるサイズのジオラマにしてみたらどうなんだろうって話し始めてあの様子に、ね」

 

それを見てクスクスと笑っているのを見るにあたり、ティエル先生も楽しんでいるのかもしれない。

人が中に入れるサイズって…遊園地でも作るつもりかよ?

 

「先生も止めればいいのに…」

 

「あら、真剣に意見を出し合っているのよ、止めるほうが野暮よ」

 

そんなもんかな…?

あ、でもFIATでも見た覚えがあったような気がする…。

とはいえ、だ。

 

「はい、没収」

 

スケッチブックをさっさと彼女達の手から掠め取り、三人の頭を手刀で軽く叩いておいた。

俺のアイディアで話し合いをしてくれるのは構わんが、オモチャにするんじゃないっての。

文句を言ってくるくらいには楽しんでいるらしく、俺はそれを横目に苦笑した。

そのまま床に座り、スケッチブックの新たなページを開く。

 

「そのページに描かれているのって『プロイエット』よね?」

 

「ああ、来年からは学園の教材として配備されるかもしれないって噂を聞いたよ…。

でも俺からすれば、更にその先を作ってみたいんだよ」

 

先日、大使館に呼び出された際に教えてもらっていた。

現在でも学園全体で人気を博している『プロイエット』だが、正式に学園の教材として使用したいと打診されたそうだ。

学園に配備されている訓練機には数に限りがあり、貸出を後回しにされる生徒とて実際には少なくない。

そこで、ISを使用する際の加速に慣れてもらうためにも教材として、授業や訓練に使用させてもらいたいと、学園側からイタリア本国に申請が来たとのこと。

 

「水面式『デルフィーノ』、飛行式『チェーロ・ブルー』。

とはいえ、このどちらも反重力制御システムが必須なんだけどな」

 

もしもこのスケッチが現実のものになり、量産が出来るようになれば…人は水面を滑るように駆け抜け、羽ばたくように空を駆けるようになるだろう。

 

「まあ、当面先になりそうだけどな」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「それにしても、本当に燃えちまったんだな」

 

一夏が住んでいた家の前…もとい、全焼した炭の塊を見渡しながら俺はボヤいていた。

この家は一夏が住んでいた場所ではあったけど、帰る場所(・・・・)ではなかったのだろうとは思う。

警察が敷いた立ち入り禁止のテープを踏み越えたいが、捜査している場所だからそれも出来ない。

やむなく、視線だけを現場に向ける。

見渡しても、そこで人が生活をしていた痕跡らしいものは全然見つけられない。

 

「あの場所に階段があって…」

 

間取りは正確に覚えている。

6年前、一夏が居なくなったあの日に俺達は初めてここにあった家に入った。

1階の部屋はくまなく探し、階段を上った先にある部屋を探したのはその後だった。

 

一夏の部屋のことは今でも鮮明に覚えている。

あいつが住んでいた家は光り輝く牢獄だったのだと嫌でも思い知らされた。

あのクソ野郎(織斑全輝)あの女(織斑千冬)という比較対象が一緒にいるせいで、比較され続けていたからこそ。

だから、学校にも、街にも居場所が無かった。

一夏は、もうこの街に居場所を求めていなかった。

アイツは、中学を卒業した時点で姿を消すと画策していたのを知ってしまった。

もしかしたら、偽名をも用意していたかもしれない。

そう思うと、あいつにとっては本当に日常が地獄だったのだと思い知らされる。

 

だからアイツは…自分という人間が居ない場所にこそ、自分の居場所を見出していたのかもしれない。

そうでもなければ机の引き出しにあんな冊子を隠しておく筈がないだろう。

 

「一夏、お前は何処で何をしているんだ…?」

 

こんな家から連れ出してやればよかったと、後になってからも後悔は今でも続いている。

だから、探し出すと決め、こんな家から力ずくにでも連れ出すと決めた。

蘭や爺ちゃん達にも相談し、俺の家で身柄引き受けをすると決めた。

 

「今日も来ていたんだね、弾」

 

「数馬か、…まあそうだな…。

ここで一夏が暮らしていたんだという思いと…こんな家、無くなって清々した、そんな思いも混じってるんだよ…」

 

多分、数馬も同じ事を考えているんだろう。

あの日、この家が燃えているときにあの女(織斑千冬)が帰ってきたが、あの呆然とした表情は驚かされた。

あんな顔もするもんだな、と。

一夏が居なくなった後は一週間そこらで復活したから、今回も似たようなことになるかもしれないが。

 

「出火原因って何だったんだろうな?」

 

「ニュースではガス漏れとか言ってなかったっけ?」

 

「どこで仕事してるのかは知らんが、長期間家を空けてるんだろ?

あのクソ野郎はIS学園に行ってるみたいだし、猶更ガス漏れとは思えないんだけどな…」

 

言ってしまえば、それ以外に外的要因があったんじゃなかろうかとも思う。

だが所詮は素人の考え、証拠も何も見つけられるとは思えない。

足元の炭を蹴り飛ばす、それがもともとは何なのかは知ることも出来ない。

あの日以降はこの家の前には来たが、中には一度も入っていなかったことも思い出す。

あらためて見れば何か手掛かりらしきもの残ってないか、気になっていたが、この様子では無駄足で終わりそうだ。

 

「先日の新宿の事件の事は知ってるよね?」

 

「ああ、どこぞの国際テロ組織が新宿を壊滅させたって話だったな。

目的は…欧州で発見された男性IS搭乗者の抹殺だとか犯行声明をニュースで読み上げていたのも覚えてるよ」

 

たった一人の人間を殺すために大型都市を壊滅だなんて頭を疑う話だ。

死傷者の数は未だに把握しきれておらず、自衛隊による救援が入ろうとしているが、その間にもビルが次々と倒壊し、救護活動が全くできていないのが現状だそうだ。

諸外国からも救援支援活動団体が入ってきており、空港もパンクしているとか。

 

「で、その事件がどうかしたのか?」

 

「ああ、犯行予告が…というより、『殺人委託』がネット上の匿名掲示板に存在していたというのが見つかってね」

 

…はぁっ!?

数馬が態々持ち出してきたらしいノートパソコンを開くと、そこにはその匿名掲示板の投稿が記されていた。

そこに目を通してみると、確かにそれらしき投稿が俺でも理解できた。

名前は『ウェイル・ハース』、以前に鈴が話してくれた搭乗者の名前だ。

しかもその顔写真が二度にもわたって掲載されている。

そして、『討て(殺せ)』と堂々と言いのけているのもだ。

そして、特筆すべきは…『ウェイル・ハースが新宿に訪れる』と記されていることだった。

 

「ちょっと待て、まさか…」

 

「弾の考えている通りだと思う。

この匿名掲示板は誰もが見る事が出来る場所だからね、テロ組織構成員が見ていたとしても不思議じゃない。

あの新宿での爆撃テロはコレが原因だと思ってる」

 

名前がバレ、顔もバレ、居場所もバレた。

そうなっちまったらテロ組織が攻撃してきたと考えても…不思議じゃないって事か…?

 

「だけど、欧州からしたら本人の名前も素顔も秘匿にしておくべき情報だと思うんだ。

だからコレはどう考えても国家機密情報の漏洩だよ、しかも二回も顔写真をアップしているから確信犯。

コレが原因で新宿で凄まじい死傷者を出したと思うべきだろうね。

素人の考えだけど『肖像権侵害』『人権侵害』『外患罪』『外患誘致』『殺人委託』って所かな。

非常に悪質だし、刑罰としても初犯だろうが死刑が妥当だよ」

 

「じゃあ、この男性搭乗者『ウェイル・ハース』って奴は…」

 

「新宿にいたのが確かなら、その人物は死んでる事になるね…ニュースでそんな感じで放送していたけど…その時点で国際問題だよ」

 

何がどうなってんだよ…!?

 

「明確な判断要素とするには情報が不足しているかもしれない。

それでも僕はコレを、警察とイタリア大使館に通報をしておいたよ」




『プロイエット』
【弾丸】の銘を冠したイタリア製バッテリー式高速機動シューズ。
ウェイルが考案し、FIATが実現、販売を始めたブーツ型製品。
最大速度は時速80Kmまで可能。
なお、一般に販売されているものに関しては最高速度は時速25Kmとなっている。
イタリアでは警察や軍に配備が始められており、バイクやパトカーのような大型筐体を必要ともせず、入り組んだ場所への突入も可能になっているため、国内では非常に高い評価を得られている。
なお、速度のことも鑑み、プロテクター等の防具もしっかりと着用する必要性がある。
IS学園からは訓練機の数の都合も鑑み、また、ISの出せる速度に慣れていけるように、学園の教材として正式に採用したいと打電が届いた。

『デルフィーノ』
【イルカ】の銘を関した水上走行シューズ
発案者はウェイル・ハース
現段階では、構造すら完成していない。
反重力制御ユニットを搭載させることで、ホバースラスターの代わりとし、水面を滑るように走行できるようになるだろう、との事。
まだまだ問題は多い。

『チェーロ・ブルー』
【蒼空】の銘を冠した飛行シューズ
発案者はウェイル・ハース
現段階では、構造すら完成していない。
デルフィーノよりも特化させた反重力制御ユニットで身体を疑似的なフィールドに包み込み、地球の重力を利用して滑空や飛行を自在に行えるようになるだろう、との事。
はっきり言って、ISの下位互換ではあるが、老若男女を問わずに多くの人に使用して貰える事を想像している。
まだまだ問題は多い。

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