IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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レイ・L・コーネティグナー
欧州統合防衛機構総長を務める人物。
いわば、ヨーロッパ全土に於けるISの管理扱い責任者であると同時に、イグニッションプランの頂点に君臨する御仁。
急遽、救援部隊を新宿に派遣するが、娘の訃報が届き、頽れた。
また、傾いた鵞鳥のデフォルメ画が記された差出人不明のメールが届き、兼ねてより立てていた計画を始動させる。
娘の仇を討つためにも、憤怒と憎悪を巻き上がらせながら立ち上がった。

今後の学園の方針について
各国に話を通し、それが完了次第に各生徒達に帰国、帰省を促そうとしている。
新宿に家族が在住していた生徒達には国内の自治体に話を通し、集団住宅地を宛がう予定にしている。
また、学園に配備されているISは自衛隊に預ける方針が決まっているが、自衛隊は新宿への救援にその人数を割いており、作業自体は進んでいない。
その全てを成した後、学園は当面休校にする予定だった。

なお、学園が自衛隊にISを預けようとしているのは、学園が狙われるのを防ぎ、尚且つ、新宿における人命救助と復興を促すためでもある。


第85話 夜風 ひとときの

俺とメルクに割り振られた部屋は、ポーランド出身でもある担任のティエル先生と同室となっている。

その担任の先生が俺達の眼前でその美貌を引き攣らせていた。

俺達が持って帰った釣果の量に驚いているらしい、もしくはその大きさに驚いているのだろうか?

 

「…ちょっと待ってなさい、旅館の従業員の方々に伺ってみるから」

 

魚の殆どは贈呈することで話は決めていたが、この量、大きさだ。

なかなか話は決まらないかもしれない。

そんな俺達の横では

 

「疲れた…」

 

「多過ぎるよ…」

 

「重かった…」

 

ティナもシャルロットもラウラも今は旅館のソファに身を転がしている。

メルクと簪と鈴はというと、他の先生達と一緒に外で遊んでいる生徒たちの招集に手を貸している。

GW以降はイギリス出身生徒が強制退学処分になった以降でも2組から5組までの生徒の総数はそれでも150名以上になる。

その全員を集めるのも一苦労だろう、だが俺は旅館との交渉があるので手を貸せない。

 

「話が決まったわ。

ウェイル君が乱獲してきた魚は今夜の食事から、消費されていく形になるそうよ。

旅館のスタッフの方々は大喜びしていたわ」

 

「乱獲って…もうちょっと言葉を選んでほしいんですが…」

 

「あら、あれだけの量よ?

他に良い言い回しは有るかしら?」

 

困った、言い返せない。

だがまあ、あれだけの量を鑑みれば仕方ないか。

なので言い返すのは諦めて白々しく視線を外すのが精一杯だった。

 

「それにしても、学園の付近にもここと同じ様に釣れる釣りのスポットがあれば…」

 

「それは辞めなさい、学食のスタッフが倒れるから」

 

そりゃ残念。

サングラスを仕舞い、普段の眼鏡に付け替える。

うん、やっぱりこっちの眼鏡のほうが落ち着くな。

ボートに載せていたマグロも渡すが、渡したその瞬間に息を吹き返して大暴れしたのはつい先程の話、やれやれ驚かされた。

活け〆にしたつもりだったんだが、大きさがあったから不足していたかな?

まあいい、解体ショーをするとも伺ったし、そのシーンを楽しみにしておこう。

今回は本当に大漁だったんだ、また後日に釣りができる時間があればいいな。

 

「旅館の冷凍庫が限界量に達したらしいから、今回は釣りはこれで切り上げなさいね」

 

世の中、なかなかに世知辛いなぁ…。

 

「そんな、気分的にも物足りないんですが…」

 

「保管する場所が足りないんだから仕方ないでしょう。

従業員の賄いに使っても消費が追い付かないとか言われているのに、これ以上釣ってどうするの?」

 

どうする………?

ふむ、ならば折衷案として

 

「…そうですね…学園生徒全員へのお土産に…」

 

「いい加減にしなさい!」

 

叱られた、つくづく世の中世知辛いなぁ…。

久々に釣りが堪能できたとはいえ、気分的には物足りない。

だが、これ以上はただの我儘になってしまうか。

なら、今回はこれで切り上げになるかなぁ。

だがこの後に待ち受けているであろ露天風呂と海鮮料理を楽しみにしておこう。

でもまた釣りをしたいなぁ…。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

昼前に旅館『如月荘』到着して以降、1組の生徒は旅館の一角で通常授業を続けていた。

それは、1学期初期から続く問題行動に対しての連帯責任という実態だった。

これが今回の旅行に於いて連日、朝食後から夕食前まで延々と続くともなると、そのクラスの生徒は誰しもが殺気立ってくる。

「私は関係ないのに」という思いを誰しもが抱え、苛立ち、放出出来ない怒りとなりながらも、ストレスという形で抱え込まなくてはならなくなる。

だが、殺気立ち、その視線がある二人へと遠慮もなく突き刺さる。

視線が憎悪と憤怒に染まるのは、今回同伴している教師陣の人数が増えているのも要因の一つだった。

先の新宿の大規模テロによる精神面が不安定になっている生徒も居る点が考慮され、2年生、3年生の担当教諭の半数が今回は駆り出されていた。

彼女達の手腕があれば、メンタルヘルスカウンセリングだけでなく、女子高生程度の暴動など容易に抑え込める、それを如実に感じさせられているからこそ、少女達は行動に移せないでいた。

だから、出来る事など何も無い。

 

自分達以外のクラスの生徒達が浜辺で、海で、部屋で悠々自適に思い思いの旅行気分でいるのを察する事が出来たとしても、感じながらも、黙々とページを繰り、ペンを走らせる他に無かった。

 

「はい、ではここで10分間の休憩を入れます」

 

昼には40分間の食事時間が設けられる事になっているが、それでもこの授業用の部屋での事だった。

それ以外は50分の授業を行い、10分間の休憩を入れるというカリキュラムが徹底されており、トイレに行く以外の自由時間など何一つ無い。

割り振られた部屋に行って戻る、その程度の往復する程度が限界だった。

日の当たらぬ北側の大部屋が授業用に提供されていることで、南に臨む海を見ることもできないのが彼女たちのストレスを更に加速させられていた。

 

「はぁ…私達、何を目指してこの学園を目指したんだろう…?」

 

「本当よねぇ…」

 

「誰かさん達が問題行動さえ起こさなければね…」

 

言葉は時に刃となる。

それが現実となり、ある二人を串刺しにし続けていた。

 

「…ッ!」

 

そのうちの一人、篠ノ之箒が睨み返すも、その言葉の刃は数を増すばかりだった。

 

「あの二人、学園への進学希望をしてなかったらしいわよ?」

 

「一人は裏口入学でしょ、それで成績は落第同然で問題行動を起こし続けても野放し。

それどころかこうやって平然と周囲を巻き込むし、災害同然じゃん」

 

「そしてもう一人はたまたま(・・・・)動かせただけ。

第三世代機を貸し与えられてるのに、量産機に完全封殺される程度だものね」

 

「私、搭乗者志望なのに、このままだと希望通りの進路へ進めそうにないんだけど。

授業以外じゃ機体に触れられないし、他のクラスとの合同授業も出来ないんじゃ、実力も上げられそうにないし…」

 

「この責任、どうやって取るつもりなのかしらねぇ?」

 

「本当よねぇ、いっそ退学してくれたらいいのに」

 

「退学じゃ足りないわよ、刑務所にでも収監されればいいのに」

 

言葉による挑発と侮蔑。

それが繰り返されるが、見張りをしている教師陣はそれを聞いても動かない。

実力行使をするほどの状態ではないからだ。

それを理解したのか、彼女達の言葉は休憩時間の数だけ繰り返される。

 

「なんでだ…!なんでこうなる…!?」

 

織斑全輝は机に突っ伏したくなる気持ちを無理矢理に押さえつけながらも、小さく怨嗟の言葉を吐き出す。

手に握るシャーペンを握り潰したくなるほどの怒りだが、それを表に出さないようにするのが彼の限界点だった。

言葉の刃は彼の矜持をズタズタに切り裂き、その疵口をイタズラに拡げていく。

 

「どこで何を間違ったんだ…!?」

 

どれだけ考えても考えても思いつかない。

彼にとって他者など踏み台でしかなかった。

だから、表面上はよく見せても、裏では相手を踏みにじり続けてきた。

気に入らない相手が居れば、自ら手を下す事無く、他者を利用して踏み潰してきた。

それが彼の日常であり、他者に対しての普遍の利用価値。

この学園へ編入してからもその価値観は変わらなかった。

例え、姉の力の分身ともいえる力を手にしたとしても、だ。

 

周囲の人間を利用すれば、これまで同様に気に入らない相手を破滅させ事とが出来ると思っていた。

だが、現実が牙を剥いたのは己のほうだった。

事ある毎に、繰り返し、例外も無く、自身を追いやり続け、冷たい言葉を吐かれる側になってしまっていた。

失敗は無いと思っていたのに…!

 

ならば、力ずくで…そう思ったが、その牙を磨く時間全てを奪われた。

授業以外でのISの使用、展開禁止、対抗戦やトーナメント以外での他クラスとの合同授業の機会の剝奪。

それにより、情報収集も、相手を実力で叩き潰す刹那も全てを、だ。

 

陰謀は悉くが破綻し、その間にも相手は着実に実力を上昇させ、立場を確立させていく。

 

だが自分はどうだ?

全てが覆され、破綻し、冷たい言葉を浴びせられ、白い目を向けられ、唾棄すべき存在のように扱われる。

 

「アイツさえ居なければ…!」

 

今の自分のように扱い続けたかつての弟の姿が自分に重なるなど我慢ならなかった。

否、弟とも見ていなかった。

自分とは正反対の…全てに於いて欠落し、『出来損ない』と蔑み、都合のいいサンドバッグか奴隷の様に見ていた。

そんな奴と同じ場所に堕とされるなど屈辱以外の何物でもなかった。

 

他者に見下ろされるなど我慢ならない、見下されるなど以ての外だ。

 

だから、再び周囲の人間を踏みにじるには、どうすればいいのかを内心で考え続ける。

自分は他者よりも上の人間であり、踏みにじる側であるのが当然である。

今になっても、そう考え続けていたのだから。

 

 

一方、篠ノ之箒は言われたい放題になりながらも睨む以外に何もできなかった。

今この場に真剣も木剣も持ち込む事も出来なかった。

更にはこの場には監視のために増員された教師陣が居る。

彼女達の懐には、拘束用の道具の他にスタンロッドや、電気銃(フェイザー)までもが用意されている。

それが用意されている事で、彼女は動くに動けなかった。

気に入らない事を言う者が居れば、暴力をもって黙らせる。

それでもそれを理解できない相手なら、姉の名を振りかざして黙らせる。

それが彼女の意思表示であり、正義のありようだった。

 

暴力での弾圧が何よりの意思表示のやり方であると幼少の頃から自らに刻んだ彼女は、それを振るう事に躊躇いが無い。

どれだけ相手を傷つけようと、倒れようと、それは『相手が間違っているから』だと本気で思い込んでいた。

だからこそ『暴力』と『正義』の二つを自身の中で直結させている。

『自分だけは絶対に間違っていない』という考えが今に至るまで存在している。

だから、自身に対して悪罵を吐くクラスメイトを殴り倒すべきだと思っても…

 

「…ッ!」

 

周囲の監視の目が邪魔で動けなかった。

自分が扱えない遠隔攻撃型の武器を用意している相手が複数存在し、包囲されている。

「死角から、遠距離攻撃をしてくるなど卑怯だ」と喚くが、監視の目が減ること等無かった。

今まで、他者に対し、真っ向からも殴ることはあった。

それと同じ数だけ夜襲や奇襲をしかけて重傷者を出した事も有った。

人違いで無関係の第三者を襲った経験も在った。

だが、決して悪びれる事も無く、謝罪の言葉など、ただの一度も口にしなかった。

そんなことまで調べられている事も彼女は把握していなかった。

 

「では、授業を再開します」

 

苛立ちとストレスを抱えながらも、彼女は授業に取り組む。

だが、その内心では授業への集中など出来ていなかった。

この現状を作り出したであろう誰かが、自分たちを濡れ衣へと追い込んだのだと信じて疑わなかった。

その対象こそが『ウェイル・ハース』だと今でも思い込んでいる。

先の大事件が起きた日には新宿へと向かうという話を聞きつけ、ネットワーク上に本名だけでなく容姿を写真で公開した。

それを使い、『ウェイル・ハースを討て』と記したが、彼はどういうわけか傷一つなく生き延びた。

そして、大事件によって数えきれない数の死傷者が出たことなど彼女にとってはどうでも良かった(・・・・・・・・)

ウェイルが傷一つ無く帰ってきたことがよっぽど許せなかったのだから。

 

「アイツだ…!なにもかも全てアイツが悪いんだ…!」

 

自分達の現在の境遇も、幼馴染である全輝の失墜も、数少ない理解者だと信じてやまない千冬が学園から排除された事も、何もかも全ての非はウェイル・ハースに在り、彼こそが何もかも全ての諸悪の根源であると思い込む。

自分こそが正しいのだと、その自分が納得できない状況にあるのなら、自分以外の全てが間違っているのだと、本気でそう思い込み続けた。

そうでなければ、自分が正しいのだと証明できないとして…。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「今回のこの旅館での食事に使用されているお魚は、3組のウェイル・ハース君が釣り上げ、提供されたお魚が使われています!

皆さん、充分に感謝しながら食べましょうねぇ!」

 

その掛け声で誰もが驚愕する。

それは無理もない話だと思う。

この旅館でもシーフードは事前に用意されていただろうが、それを一蹴したかのように、旅館に宿泊しに来たお客さんから新しく提供されたというのだから。

非常識というか、驚愕というか、頭を疑うべきか、私としても結構迷う。

 

「ウェイル君が提供ってどういう事!?」

 

「もしかして海に漁に出ていたとか!?」

 

「流石は海の街の出身者!」

 

私の隣に居るウェイルへの賛辞の言葉が凄い。

色々と確かめたい事が在ったけど、結局収穫は何一つ得られなかった。

だけど、何一つも逃すようなものがあってはならないと思い、この席を3組の生徒相手にお菓子で買収して席を奪った。

その甲斐があってこうしてウェイルの隣の席にこうやって居るわけだけど。

 

「はは、釣りをしたんだよ。

近くに釣りのスポットがあったから、そこで釣りを堪能してきたんだ」

 

「本当ですよ、お兄さんは釣りの名手ですから!」

 

「いや、名手って盛り過ぎじゃないの?」

 

思わずメルクの言葉に突っ込みをしたけどこればっかりは本音。

まだ16…じゃなかった、15歳で『名手』は盛り過ぎだと思う。

 

「俺もそう思うよ」

 

メルクの頭を撫でながらの苦笑いを見せる様子に「やっぱりか」とも思う。

メルクはウェイルを立派な人として見せたいとか思ってるのかも。

ウェイルは謙遜してるから基準がよくわからないわね。

 

「だけど、大半以上を釣り上げたのは本当にウェイルなのよね。

ってウェイル、何処に行くのよ」

 

突然ウェイルが立ち上がり、不自然に開かれた部屋の中央へと歩いていく。

そこに従業員がデカ過ぎるマグロと、大きな包丁を用意してくる。

それを見て大体察しがついた。

 

「マグロの解体ショーを皆の見ている眼前で披露するらしいからさ、こういうのは最前列で見ておかないと損だろ」

 

「何ソレ!?」

 

滅多に見られないそんな出し物を目の前でしてもらえるなんて、それこそ見ないと損でしょ!?

メルクは当然ついてくる。

ティナも簪もラウラもシャルロットも駆け寄ってくる。

なかなかに見られる機会の無い解体ショーに誰もが注目し、食事そっちのけになっていたのは…まあ、どうしようもないわよね…。

切り開かれた大トロだとか中トロを皆で堪能し、握り寿司に炙り寿司、マグロのステーキ、鉄火丼や鉄火巻きなどが凄まじい勢いで作られては100名以上の生徒に消化されていく。

そして最後に…数多くの魚を寄贈してくれたウェイルに、感謝状と金一封と旅行券が手渡されるまでが食事時間の様子だった。

1組の生徒は…それぞれ自室での食事になってるとか、マグロのお刺身とかは提供されたと思うけど、そこはまた後日に本音に聞いてみようかな。

 

「はあぁ、いいお湯でしたね…」

 

食事の後は露天風呂だった。

時間は限られているけれど、この旅館の露天風呂を心から満喫した。

更衣室で隣のロッカーを使っていたメルクが、満面の笑顔でそう言葉を溢していた。

イタリアでもこういうのを満喫した事があるのか、それでも日本の露天風呂を随分と気に入ったらしい。

 

「確かに、海も見えて、星空も見られるからね…たまにはこういう所にも来てみたくなるわね」

 

「ローマの露天風呂だって負けていませんよ、サウナももっと大きなものが設置されていましたから」

 

「ウェイルはサウナは使うのかしらね?」

 

「お父さんと我慢比べをしていた時もありましたよ」

 

わぁ、親子で競い合ってたんだ。

 

「二人とも我慢強くて、お姉さんも苦笑していたほどでしたから」

 

この前、トーナメントの時に来訪したヘキサさんだったかな。

本当はもっと話をしてみたかったんだけどな。

そうしたら、もっと色々とウェイルの事が判りそうだったのに、その点を考慮すれば充分に話せなかったことが悔やまれる。

 

「過ぎたことを悔やんでも今はどうしようもないわよね。

さてと…これにしようかしらね」

 

「鈴さん?どうしました?」

 

「温泉が終わった後はコレでしょ!」

 

更衣室備え付けの冷蔵庫の中から取り出したのは、キンキンに冷えた牛乳だった。

お風呂の後はコレよね!

 

「何種類かあるみたいね、メルクはどれにするの?」

 

「う~ん…じゃあ、コレにします!」

 

私が選んだのはコーヒー牛乳、メルクが選んだのは…フルーツ牛乳。

…フッ、味覚がお子様ね。

冷たい牛乳を飲み干す、食道を通って流れていくのを確かに感じ取れた。

 

「さて、温泉も牛乳も堪能したし、私はお兄さんと部屋に戻りますね!」

 

「ちょっと待ちなさい!アンタ、まだ髪が乾いてないわよ!」

 

メルクの髪は私に負けず劣らず、結構長い。

自分の事よりもウェイルの事を優先しがちなメルクの悪癖なのか、充分に髪を乾かさないで更衣室を飛び出そうとしていた。

浴衣の帯をつかんで鏡の前に座らせ、乾いている新品のタオルで丁寧に水気を切り、そこからドライヤーで風を当てる。

この時に熱風を浴びせたら髪が痛むから、使う際には冷風を当てる。

きめ細かいメルクの髪は、触れていてもかなり手触りが良い。

髪を洗う時には丁寧に洗っている証拠だと思うけど、乾かす際にはそこまで手を入れていないのかもしれない。

お姉さんの影響かしらね、ヘキサさんを見習っているらしいけれど、こういうところは真似なくていいと思う。

 

「まだかかりますか?」

 

「髪が長いと手入れがかかるのよ、もう暫く我慢しなさい」

 

私だって早めにお風呂を切り上げて髪を入念に乾かしているんだから!

こうやって髪の手入れをするのは女の子としての所作の一つなんだから、今後はメルクにも教えておいたほうが良いかもしれない。

 

「鈴さん、なんだか手馴れてますね?」

 

「まぁね、代表候補生選抜試験の合宿の時にも髪の手入れがガサツな人が居たし、親戚にも似た感じの人が居たからかしらね。

それにルームメイトのティナが丁寧に手入れしてくれたりするから」

 

そういう経験が今になっても活かせるなんて、人生何が得になるか判らないわね。

今くらいの手先の器用さがあれば、あの日にはもう少し包帯もうまく巻けたんじゃないかな、なんてね。

 

「さあ、出来たわよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「『髪は女の命』なんて格言もあるくらいなんだから、もう少し手入れの方法くらいは覚えておきなさい。

判らないなら、私がしっかりと教えてあげるから」

 

「お姉さん、お兄さんに髪を梳いてもらう事はしてもらってるんですけど…」

 

…………今、何て言った?

ウェイルに手入れをしてもらう時が有るの?

何やってんのよこのブラコンとあのシスコンは!?

 

改めて驚かされるし呆れさせられた、いつ見ても飽きないわね、この兄妹。

 

「それで、部屋は何処なの?」

 

「教職員用の一室です、ティエル先生と同室ですよ」

 

ふ~ん、じゃあ私もお邪魔しますか。




凛天使
自身等を『女性達の権利を守るための慈善団体』と称している。
だがその実は目的のためには手段も標的も選ばないテロリスト集団。
国連によって国際手配されている国際犯罪テロシンジケート。
神出鬼没に現れては市街地であろうと構わず爆撃をも行う。
国連と国際刑事警察機構が捜索と捕縛を行おうとしているが、国際IS委員会がなにかと苦言を言い出しては捜査妨害に会い、捜査が進行していない。
国際IS委員会上層がテロ組織と結託しているのではないかと疑われているも、証拠が見つかっていない。
現状、イギリス政界、王家の緊急用国庫を奪取。
それに付け加え、フランスの国庫、デュノア社の予算をも奪取し、多額の金銭を入手している。
これにより、各地から兵装を大量に仕入れており、電磁シールドを貫通した大型砲撃兵装を量産し、新宿への無差別爆撃テロ攻撃を行った。
この組織は強盗行為を『正当な徴収』、テロ攻撃を『聖戦』『征伐』と称し、メディアに犯行声明を出すことがある。

現在、その組織の実働部隊の殆どが日本国内、関東地方、千葉県に潜伏しており、次の作戦の為に既に暗躍を始めている。

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