IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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新年あけましておめでとうございます(遅過ぎ)
正月早々とんでもないことになっていますが、皆さん大丈夫でしょうか?
津波、火災によって被害は広がる一方、地震は微弱なものから震度3を超える余震が繰り返し続いているようです。
(執筆時、14時段階で既に200回弱程)
寒さもまだまだこれから続くのに、被災地が心配です。
東日本大震災、中越地震、それ等に続いて今回の震災です。
人間の目に届かぬ場所にて何が起きているのか、被災地の皆さんのこれからも非常に心配です。
どうか早く収まってくれればいいのですが…。


第83話 沌風 視線が

最悪の報道だった。

その直後、食堂に居る皆の視線が俺に突き刺さるのを感じた。

確かに、ニュ-スでは実名は伏せられているが、こんなもの俺を名指ししているのも同然だった。

 

「ねぇ、ハース君…どういう事?」

 

「新宿の事件、ウェイル君が狙いだって言ってるけど…?」

 

「ウェイル君を討つ為だけに、あんなにも犠牲者が出たってこと…?」

 

そんな問いが俺に向けられるのも当然だったかもしれない。

だが、俺に返せる答えなんて無いに等しい。

だから問いに返すのが答えではなく、更なる疑問でしかなかった…いや、言い訳でしかなかったかもしれない。

 

「俺にとっても驚きの話だよ。

そもそも、俺は新宿に行くだなんて、言った覚えは無い。

今日は外出していたのは確かだけど、俺達は別の方向に行っていたんだ。

話を知ったのは、出かけた先で、すでに事が終わった後だったんだよ」

 

煙に巻くしか形しか言える事は無かった。

冷たい視線はそれでも俺に突き刺さってくる。

そんな折だった

 

『1年3組、ウェイル・ハース君。

学園内に居るのでしたら、大至急、学園長室に来てください』

 

教師陣からの呼び出しだった。

これは救いか、更なる尋問が待ち受けるのか。

それでも、こんな冷たい視線に晒される地獄からは逃げられそうな気がした。

渡りに船、というわけでもないが、食事を途中でやめて立ち上がる。

 

「私も行きます」

 

メルクの同行は正直にありがたい。

俺では見えない視点での言葉や証言もとれるだろうからな。

 

「そういう訳だ。

悪い、学園長から呼ばれてるから。

ああ、それと、ハッキリと言っておくが、俺は新宿に行くだなんて一言も言った覚えは無いからな。

それは覚えておいてくれ」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

少しだけ、ウェイルの背中が小さく見えた。

あんな報道があった後で、みんなからは冷たい視線に晒され、辛そうにも見える。

皆は何も知らないから、真実を求めているのは理解できる。

でも、だからと言ってあんな冷たい視線を向けるのは間違ってると私には理解できた。

 

「ねぇ、アンタ達はなんでウェイルにあんな視線を向けてたの?」

 

だから、コイツらの目を覚まさせると決めた。

このままだと、ウェイルは一夏と同じ道を歩んで行ってしまう、そう思ったから。

 

「え、だって報道では…」

 

「ウェイルが新宿に行くだなんて事は一言も言ってなかったわ。

それは私が保証出来る、それに昨日は新宿よりもずっと南にある港区のイタリア大使館に行っていたのよ。

私もその場所に同行していたわ、生徒会長も、ね」

 

「そもそもハースはテロを毛嫌いしている。

そんなアイツがテロを起こさせるようなことをするものか」

 

助け舟を出してくれたのはラウラだった。

なによ、アンタもウェイルを深く理解しているみたいじゃない。

 

「…………」

 

周囲の生徒には混乱が広がりつつあるのは目に取れて見えた。

信用、疑念、戸惑い、そして不信。

 

「それに報道でも言っていたわよね『市民からの報告』が在ったって。

疑うべきはそっちじゃない?」

 

だから、未だ姿の見えない第三者へと矛先を向けることにした。

 

「『ウェイル・ハースが新宿に向かう』、そんなデマ情報を密告した誰かが居るってことよ」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

俺とメルクが呼び出された学園長室には、左右に教諭が大勢そろって出迎えていた。

共通しているのは疑いを向けるような視線だ。

嫌だなぁ…弾劾裁判だとか魔女裁判のようにならなければ良いんだけどな…。

学園長もまた、異様な迫力を感じさせられた。

 

「先程の報道は見ましたね?」

 

「…はい…」

 

「君は今日、何処に行っていたのですかな?」

 

「港区のイタリア大使館です、連絡を取ってもらえれば、裏付けもできます。

大使館に行く前には多少ショッピングもしていましたが、そちらに関しても生徒会長と中国国家代表候補生が同伴してくれています」

 

訝しまれているからだろうか、問われる事に対し、それ以上の返答も返しておく。

 

「なるほど…では、新宿の件については?」

 

「大使館でその報せを聞いて、初めて知りました。

その報せを聞いた時には、既に事が終わった後のようでしたが」

 

「君は、新宿へ向かうとは誰かに教えたことは在りませんかな?」

 

「いいえ、一度もありません。

確かに、新宿に一緒に行こうという誘いは受けたのは確かですが、その際にはしっかりと断っています。

ですがそれでも尚お疑いでしたら、部屋のPC、生徒手帳でのメールのやり取りを確認してくださっても結構です。

履歴は残らずとも、人伝いにもそういったことは一度も口にしていないことはお約束できます」

 

そう言って、俺は学園長が居る机の上に生徒手帳と個人の携帯端末をたたきつけた。

メルクも俺に倣って手帳と個人端末を机上に置く。

これを境に姉さんの存在がバレてしまうかもしれないが已む無しだ、それで信頼を得られるのなら安い話だ。

周囲の教師陣にも混乱が広がるのが目に取れた。

やっぱり、疑われていたのかもしれない、流石にこんな状況で疑われるのは辛いなぁ…。

 

「勿論、人から人へ話が伝わって、どこかで話題が形を変えてしまっていた可能性はあったかもしれません。

ですが、そちらに関しては、私たちの手から離れたことですので、どうする事も出来ません」

 

メルクも言葉を発してくれていた。

いつも隣に居てくれるメルクだ、俺の行動の保証は出来るのだろう。

 

「ですが!必要以上にお兄さんを疑うようなことがあれば、大使館を通じて、イタリア本国から抗議を入れさせてもらいます!」

 

おいおい!それは話を大きくし過ぎじゃないか!?

メルクってここまで派手にやるような人間像じゃなかった気がするんだが!?

 

「その必要性は在りません。

すでにイタリア大使館とイタリア本国からの抗議文が届いています」

 

あっちもあっちで話が早ぇ…。

 

「遠回しにでは在りますが、ハース君が名指しされた事。

報道機関にハース君の実名を知られた事…そして…ハース君が亡き者としての扱いを受けていた点、他にも多くの抗議が届いていますよ。

この数分間でコレですからな、本国が動くのもそう遠くはないでしょう」

 

「そう、ですか…。

では学園長は俺達の話を信じてくださると?」

 

「君は学園内で多くの頼みごとを受けては頑張ってくれています。

多くの人から培ってきたその信用を裏切るような事はしないでしょう」

 

信じてくれているらしい、その事に少し安心した。

これで話は終わりだろうか?

 

「では、これで俺たちは失礼しま…」

 

信頼はされているらしく、生徒手帳と携帯端末の中身も確認されることもなく返却された。

それをポケットに入れ、踵を返そうとしたタイミングで

 

「待ちなさい、もう一つ、訊いておきたいことがあります」

 

「何でしょうか?」

 

「事は、コレで終わると思いますかな?」

 

その言葉がどういう意味なのかは俺には理解が出来なかった。

首をかしげながら考えても、答えは全く出てこない、だから…

 

「判りません、ですが犯行声明文から察すれば、凛天使は俺が死んだと思い込んでいるようにも見受けられますから…。

個人的な憶測…いえ、願望ですが…終わったものであってほしいと思います」

 

本心だ。

俺を標的に…俺を理由にテロが起き、大勢の人達が殺されたという現実が心に圧し掛かってくるのを感じる。

俺のせいで…多くの人が殺された…俺のせいで…!

こんな事になるくらいなら…こんな国に来なければよかった(・・・・・・・・・・・・・・)…!

 

「そうですか…。

詰問は以上です、退室なさい」

 

学園長の言葉の言葉を皮切りに、俺とメルクは退室した。

けど、

 

「盗み聞きか、鈴」

 

扉の前に鈴が居た。

それだけでなく

 

「ラウラさん、ティナさんも…」

 

シャルロット、簪も居る。

それだけでなく、3組のクラスの皆も殆どが揃っていた。

まさかとは思うが盗み聞きしてたんだろうか?

だとしたら行儀悪いなぁ、皆は

 

「わ、バレた!?皆!散開!」

 

そして蜘蛛の子散らすように逃げ出した。

行動力があるなぁ、もっと別の方向に向ければいいものを…。

 

「安心しなさいよ、ウェイルを疑う人は殆ど居ないから」

 

「そうよ、今回はウェイル君の信頼の裏返しなんだから!」

 

鈴とティナの言葉が今だけは有難かった。

少しだけだが胸の内が軽くなる気がする

 

確かに、考えていたんだ。

あのテロは、俺を狙って(・・・・・)起きた。

より言うのなら…俺が原因(・・・・)で起きたテロだと思っていた。

だから、この二人の言葉はほんの少しだけど…確かに救いでもあった。

持つべきは親友だよな、今更ながらにそう思う。

 

だが、疑問が残る。

あの報道が真実であれば犯行声明文の中にあった『市民からの通達』というのが在った。

姿が見えないその人物が、『ウェイル・ハースが新宿に現れる』と密告したことになるが、それは誰だ?

俺の存在をリークしてソイツになんのメリットが生じているんだろうか?

それに、凛天使に流された俺の情報とはどれだけのものだ?

フルネームを知られてしまっていることはこちらも既に把握済みだ。

なら、今回の情報量は?

所在だけか?

顔まで知られてしまっていたら、もう表を歩けないんだが…。

これからは一生涯変装して生きていかなきゃならないのか?

染髪するのも本格的に視野に入れる必要性が出てきたな、またメルクも母さんも泣いてしまうんだが…。

 

「急いで本国に知らせる必要性が出てきたな…」

 

生徒手帳と携帯端末は確認される事も無く返却されてはいるが、部屋のPCを使ったほうがいいだろうか…?

 

「面倒な話になってきたな…」

 

「お話お疲れ様、ウェイル君」

 

面倒な事態に頭を悩ませながらも、部屋の前に戻ってくると楯無さんが待ち構えていた。

広げた扇には『信頼してます』と記されている。

な~んか、更に話が面倒になりそうな予感が…。

 

「学園長室には居ませんでしたね、どうしました?」

 

「あら、労いに来たのよ。

それと色々と伝えることも、ね」

 

仕方なく部屋に招き入れるが…人数が多いな…。

俺、メルクは当然として、鈴、簪、ティナ、シャルロット、ラウラ、布仏姉妹、そして楯無さんと合計10名にもなってしまった。

学園が支給してくれている学生の私室は、1流ホテルの様な部屋ではあるが、此処までくると手狭に感じられる。

メルクが人数分のドリンクを用意してくれ、ようやく話が始まった。

 

「安否確認のメールを学園全生徒に送ったけれど、確認が取れていない人数は残り5人まで絞られたわ。

また、2人は病院に担ぎ込まれた事までは把握済み。残り3人はおそらく、未だに新宿に居るでしょう、最悪のパターンも考えられるわ」

 

最悪のパターン、これは言われずとも俺には理解が出来ていた。

それは『テロに巻き込まれて死亡している』場合だろう。

 

「死者、負傷者の人数はまだ判明していないわ。

休日に於ける繁華街での唐突なテロだから、倒壊したビルや駅にも数えきれない人が居た筈でしょうから」

 

「なら、250万人というのは?」

 

「憶測よ、通常であれば、その場に凡そそれだけの人で賑わっているであろう、という推測だと思ってくれていいわ」

 

それでも途方もない数だ。

狙いは俺一人だけであり、その為に的外れな場所で溢れかえるほどの破壊と殺戮を繰り広げている。

 

「ねえお姉ちゃん、なんでウェイルが『巨悪』扱いされているの?」

 

「彼女達にとって、将来的に自分達の立場を崩されかねない、そんな可能性を感じていたんでしょう」

 

「可能性だけで俺を殺しに掛かってきてるのかよ」

 

よくよく考えてみれば、イギリスとフランスの緊急用国庫の金をまとめて持ち出して兵器なりなんなり仕入れているだろうけど…。

 

「凛天使の攻撃はこれで終わりになるんですか?」

 

俺としても判断しかねることであり、確認しておきたかったことだ。

これでも攻撃が収まらないのであれば、俺はイタリア本国へ送還されてしまう日も遠くはないだろう。

日本に居続ける事が出来なくなるのであれば、それは仕方ないとも思えるけど、それで無関係な人間が殺され続ける事態を回避できるというのであれば…。

 

「現状は不明ね、これで終わりだというのは個人的な憶測であり、願望だけれど…」

 

やっぱり、こればっかりはハッキリとは明言出来ないか。

 

「それに…学園上層部は楽天家しか居ないのかしら?

6日からの臨海学校を通常通りに行えって言ってきたのよ!?」

 

楽天家、というか物事を軽く見ているのか、俺としてもハッキリとは判断出来なかったが、皆の呆れているかのような反応にどういう判断かは察してしまう。

 

「この国の上層部って、頭の中がお花畑じゃないの!?」

 

鈴の反応もまた凄いな…。

ティナも簪もウンウンと頷いているから余程の事だろうと推測できた。

他人のことに対してはどこまでも鈍感なんだろう。

 

「じゃあ、話の続きよ。

生徒の中には、今回のテロで家族を失った、もしくは家族と連絡が出来ないという人も何人も居たわ。

その事態も鑑みて、学園内でカウンセリングを開くことになったわ。

授業も暫くは休校、2年生や3年生には、各自自習とはなったけれど、その実は帰国準備の通告が言い渡されてるの。

今度は学園に砲火が向けられる可能性も無いとは言えないし、電磁シールドを貫通する兵装が量産されていることも把握が出来ている以上は、IS学園は『世界で最も安全な場所』とは言えなくなった。

これから教職員は、それぞれの国家や自治体への話を通す激務に追われる事になるでしょうね。

学園に配備されているISも、学園から自衛隊に管理を任せる事にもなるでしょうし、そっちにも話をしておかないと…ああ、忙しいわ」

 

相当面倒なことになっているみたいだな…。

というか、そんな事態になってこの学園は今後は運営していけるんだろうか?

まあ、そこは俺がとやかく言うところでもないから放置するしかないな。

 

「それともう一つ、1年1組は、これまでの事を鑑み、連帯責任として臨海学校では旅館の中で通常授業を執り行います」

 

うわぁ、折角のバカンスの期間を座学の授業で全て費やすのか。

流石に同情したくなってくる、と思ったが辞めた。

1組といえばあの二人が居る所だったな。

 

そして、続く話では1年生は臨海学校が終了し次第、学園に帰還してからの休校…もとい帰国とかをするようになるらしい。

今から部屋の片付けをしておいたほうが良いかもしれないとも言われた。

 

話は大体それで終わりだった。

虚さんが言うには、新宿と呼ばれる地域ではこれから、自衛隊と呼ばれる組織による救援活動が行われるらしい。

そしてこれは夜間もぶっ通しで行われるそうだ。

これで助かる命が一つでも多くなればいいんだけどな。

 

「ですが問題があります。

新宿駅駅を中心に半径5キロメートル、多くのビルが円を描く形で倒壊し、地上からの侵入が出来ない状態ですので、内部に入るにはヘリが必要になります。

また、市街地の被害は尋常なものではなく、倒れたビルに押し倒され、ドミノ倒しのように連鎖的に崩壊を始めている建物も少なくありません。

そうなれば、被害はより拡大し、復興には数十年単位は要する可能性も否定できません。

また、他国からも救援が入ってくる予定ですので、それで多少は早まるとは思われますが…」

 

大体は理解できた。

だが、気になることはまだ残っている。

 

「『俺が新宿に向かう』、そう凛天使にリークしたのはどこの誰なのかは判明しているんですか?」

 

その人物の所在がハッキリとしていないのなら、そして俺の生存を知られてしまっているとするのなら、新宿のような被害は今後も拡大し続けていくだろう。

そうなれば、死者の数は爆発的に増大していく。

それを根幹から断つには密告をした人物、そして凛天使の根絶をしなくてはならないだろう。

 

「いいえ、現在は不明なままです。

暗部としても今回の件はそれを判明させようとしています」

 

…なら、良い。

その事もイタリア本国に伝えなくてはならないだろう。

紅茶を一気に飲み干し、報告する内容を頭の中で整理し始めた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「……チッ!出ないな、巻き込まれたのか?」

 

彼、織斑全輝は携帯端末を机の上に放り投げた。

ウェイル・ハースが新宿に女子生徒が誘う(・・)話を偶々ではあるが耳にし、嘗ての腰巾着を利用し、ウェイルに暴行を振るわせる予定でいたが、彼にとっても想定外の事象が起き、念のために連絡を取ろうとしていた。

時間を空けながら幾度か電話をかけてみるが、一向に反応がない。

通話に応じられないのか、はたまた電源を切っているのかは定かではなかったが。

また後程に連絡を入れようと考え、端末に視線を送る。

 

視線が向かう先はPCモニター。

そこには新宿の事件が映されているが、それを見て口元を歪ませる。

彼自身の想定としてはかつての腰巾着に暴行を振るわせ、ウェイル・ハースを再起不能にすればそれでいいとも思っていたが、この事件の渦中に居れば生きていないだろうと考えた。

彼にとっては望んでいる形ではなかったが、それでも視界の中に居続けた目障りな存在を排除できたのならそれでいいと思った。

これまでも、目障りだと思ってきた同級生なり転校生をそうやって排除してきた。

多くの人に関心を向けられる人間が『気に入らないから』『目障りだから』というだけで排除し続けた。

その際には、自分が直接手を下す事は無かった。

常に間に人を挟んで利用し、そうやって手を下し、潰してきた。

今回も似たような方法だった。

間に人を挟み、自分の存在を悟られぬように振舞い、上から見下し続けた。

それが最も賢く、スマートな方法だと思っていたから。

 

「だが、どうせアイツもコレで終わりだ。

その無様な姿を見下ろせなかったのは残念だがな」

 

彼の視線には『ウェイル・ハースの死』だけが偶像的に映っているだけだった。

多くの人が傷を負い、また、血を流したことなど見えていない。

そういった事には、彼の目が向かうことではなかった。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「あの二人が無事で良かったサ」

 

真夜中にも拘らずメールが届き、私は飛び起きた。

送り主はあのコニッリョ・ルナーレ(アホウサギ)からだった。

すぐに奴の拠点に向かい、信憑性の有無を図った。

 

「うん、事実だよ。

日本の新宿は壊滅した。

テロ組織『凛天使』による広範囲爆撃テロでね」

 

「被害はどうサ?」

 

「把握不能、少なくとも250万人以上の死者が出てるだろうね。

それと、日本で行われた報道だけど…」

 

それを見て本気で血管が破裂するかと思った。

凛天使のどこが慈善団体だってのサ!?

しかも、ウェイルを名指しで攻撃してこの被害を出しておきながら何が『多少の負傷者』!?

 

「相変わらず頭のネジが外れてるね。

イギリスとフランスの国庫を掠め取って、慈善活動の内容がテロ活動だからね。

これ、欧州連合と欧州統合防衛機構(イグニッション・プラン)にも伝えたほうが良いよ」

 

「ああ、そうするさ。

当然首相にも伝えておくとするサ。

ウェイル達が無事なのは何よりの報せだけどサ、リークしたのはどこの誰サ?」

 

「そっちは私に任せて、今日と明日で調べ上げるよ。

私をここまで本気で怒らせた(・・・・・・・)輩は何処の誰なんだろうねぇ?」

 

イタリア本国に知らされたメールは私も把握したサ。

だけど、これで終わりではないと私の心の内側では警鐘を鳴らし続けていた。

どう転んだとしても、タダでは済まさない。

 

「掴めたらクーちゃんとスパルタクスに伝えるよ。

それまでは連絡を待っといて」

 

「それで、アンタはどうするつもりサ?」

 

デスクの上に乗せられた一枚の書類。

それにはコイツの両親の過去の名前が記されている。

尤も、それはコピーされたものでしかないが、実際には有効になっているものであるとは理解している。

 

「ああ、コレ?母さんと父さんは理解してくれているから、ね。

こっちに関しても任せておいてよ」




向日 葵(むこう あおい)
1年4組所属 新聞部部員
自称、次期新聞部部長のエースジャーナリスト
ジャーナリズムを掲げてはいるものの、半ばパパラッチの領域に足を突っ込んでいる。
7月4日に新宿に向かい、テロに巻き込まれて緊急搬送された。
症状:左足大腿骨骨折により長期入院

綾瀬川 舞華(あやせがわ まいか)
1年2組所属 バレーボール部部員
昨今のブランド、ブームに詳しく、新しいISスーツを作るという目標を立てている。
7月4日に新宿に向かい、テロに巻き込まれて緊急搬送された。
症状:比較的軽症だが意識不明の昏睡状態、長期入院が検討された。

チルティ・ハンミア
1年2組所属 ダンス部部員。
情熱のダンスを好むスペイン出身の生徒。
次期ダンス部部長は確実とまで言われていた。
7月4日に新宿に向かい、テロに巻き込まれて若くして死亡した。
攻撃に狙われた幼い子供を守ろうとしていたらしいが、榴弾砲を撃ち込まれ幼子共々体が真っ二つにされた状態で遺体が発見された。

アナレア・ハンス
1年5組所属 図書委員。
ハンガリー出身の生徒であり、ウェイルと同じ技術者志望。
4組の中では、簪の次に頼られる人物でもあった。
7月4日に新宿へ向かったがテロに巻き込まれ、ミサイル攻撃によって倒壊したビルに押し潰され、即死した。

ネーナ・L・コーネティグナー
1年4組所属 ラクロス部
同じく技術者志望のベルギー出身の一般生徒。
欧州統合防衛機構総長であるレイ・L・コーネティグナーを父に持つ。
7月4日に新宿に向かい、テロに巻き込まれる。
大勢の人を助けようと避難誘導を手伝っていたが、テロリストによって射殺された。
彼女の遺体は爆撃により吹き飛ばされ、倒壊したビル群の外に吹き飛ばされたらしく、即日に発見された。

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