ウェイルがあの手この手を使いながらも専用機を相手に同等に近い戦いを見せたことで、訓練機の貸し出し状況は一変した。
イタリア製第二世代型量産機 テンペスタⅡ
学園配備数20機
ウェイルとティナの影響によって貸出申請が爆増しているが、学園にて保管している訓練機の機体数を大幅に超えてしまっているため、貸出申請に対して供給が間に合っていない。
今後、訓練機として新たに機体を搬入すべきかが議題に上がっている。
それと同時に『プロイエット』を学園の教材として採用し、搬入すべきか話し合われている。
日本製第二世代型量産機 打鉄
学園配備数20機
優れた防御性能と汎用性に優れており、訓練機としても使用率が決して低くはなかった。
だが、テンペスタⅡの貸出申請率が一気に増加した影響で、打鉄の申請率が大幅に低下した。
フランス製第二世代型量産機 ラファール・リヴァイヴ
学園配備数20機(コアは無し)
相変わらず格納庫内にてコアを抜き取られた状態で死蔵状態。
整備・点検の練習などに使われる程度。
食事を終わらせてからバスに乗り、目指す場所は本来の目的地であるイタリア大使館だった。
来た事の無い場所、見たことのない景色に色々と目を奪われながらも目的地に辿り着けたのは、楯無さんのお陰でもあった。
鈴が居ればメルクとの会話も弾むようで、道中は退屈とは程遠い時間だった。
そうやってたった4人の短い旅路がとても楽しいとさえ思えた。
でも、ここに来てしまえば、それも終わりになってしまうのだろう、それが少し寂しくもある。
「やっと到着しましたね」
「へぇ、ここが大使館かぁ…私も来るのは初めてだわ」
メルクも鈴もその場所に感嘆しているらしい、少なくとも俺も同様だ。
日本国内に居ながらも、ここから先は国境線が引かれ、区別された場所になるらしい。
俺とメルクは守衛に招待状を見せればなんなく中に入れるが、鈴と楯無さんの二人は話が別だ。
「二人はこの後はどうするんだ?」
「大丈夫よ、付近のホテルでチェックインする予定だから」
との事らしい。
この分だとこの二人は明日も俺達に同行する気が満々なようだ。
「…そうですか…」
メルクはムスッとしているが、この理由は俺にはよく理解ができない。
あの二人との会話を楽しんでいる様子だったが、何か気に障ることもあったのだろうか?
ミネストローネのレシピを要求されたことだろうか、俺にはその程度しか思いつかないんだが…?
「そうか、それじゃぁ…」
「お待ちください」
多少名残惜しいと思った矢先、守衛の人が声をかけてきた。
驚きつつも俺はその声の方向に振り向けば…。
「中国国家代表候補生 凰 鈴音様、ロシア国家代表 更識 楯無様ですね?
総領事から入館許可が発行されております、このまま中へどうぞ」
招待されていたのか?
視線を二人に向けると首をぶんぶんと横に振っている。
…どういうことだろうか…?
今日の午後になってからは疑問が増える一方だ。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
ウェイル君達と別れ、私と鈴ちゃんは別室へと通された。
そこに居たのは、厳つい表情を浮かべた初老の男性だった。
書類上ではあるけれど、私はこの人を知っている。
イタリア大使館、総領事『クラウス・バーダット』…!
「驚かせてしまったかな、すまないねお嬢さん方」
一先ず、日本語での会話は可能、という事は判断出来た。
けれど、その真意まで見透かすことは、未だに出来そうになかった。
「お招きいただき光栄です、私は、ロシア国家代表…」
名乗ろうとした時点で手で遮られた。
「仮初の肩書に関しては言わずとも理解しているとも、
こちらの事は既に熟知しているようね…相変わらずイタリアは手が早い…!
「そちらのお嬢さんは、中国国家代表候補生、凰 鈴音君、だったね」
「は、はい…!」
「
私達が大使館前まで来ると先読みしていた、か。
手があまりにも早すぎる、イタリアはどこまで私達の先を見ているというのよ…!?
ここまではあくまでもイタリア側にとっては予想通り…というか、予定通りという事か…。
「我が国のハース代表候補生、そしてその兄であるウェイル君が普段からお世話になっていると聞いていてね、まずは会っておきたかったんだ」
「本当に、それだけでしょうか?」
相手はこちらの手札を悉く見透かしている。
だったら、膠着状態を維持し続けるのは無意味、むしろ悪手といっても差し支えない。
なら露見した状態の手札を投げ捨ててでも突き込む!
「それは私も気になってます、守衛の人に
「ははは、勘が鋭いお嬢さん方のようだ」
総領事は柔らかく微笑む、だけど、その眼光はいまだに炎を宿しているかのように見えた。
「では問おう、暗部の長よ。
君等はこの先をどうするつもりかね?」
『何を』とは言わないあたり、相当に意地が悪い。
こちらにとっての厄介の種がなんであるのかを完全に国境線の向こう側から完全に見抜いているから尚更に。
確かにこちらは相当に面倒かつ厄介なものを抱え込んでしまっている。
かつては神童などと呼ばれていた悪質な教唆犯『織斑 全輝』
他者を傷つけ害をなす以外に何もしようとしない出来損ない『篠ノ之 箒』
最後に、学園から追い出された挙句に今は政府の厄介になっているらしい『織斑 千冬』
この三人がやらかした問題については、その殆どがウェイル君達からイタリア本国へと情報が伝えられている筈。
そもそも、あの三人は『接触・干渉禁止』の命令が下されていたにもかかわらず問題行動を起こし続けている。
果てはテロリストにウェイル君の名前を開示していることも把握されている。
それでも尚、この三人は飽きもせずに国際問題を起こし続けている。
言わば、イタリアは謂れも無き被害を受け続けている状態だ、こんなのどうしろって言うのよ…!
「その事については、我々も頭を痛めております。
ですが、事が起きてもなお、日本政府は責任追及から逃れており…」
「
…っ!
相当に痛い所を突いてきた。
確かにそっちだって問題よ。
ISが出回り、女尊男卑だなんて頭の悪い風潮が世の中に蔓延し、それは国家の中枢にまで蝕んだ。
今の国政を預かる者については、そういった方面の思考で頭の中を染め上げている者も少なくない。
裏工作、恐喝、賄賂、そういったことをやってでものし上がってきている者もいるのも確か。
それを重ねてきた者達同士で繋がり、結託し、証拠を隠滅までしている。
それだけでなく、報道にしてもそういった者達が好き勝手しているのも事実。
正直、私はそういった者に対しては嫌悪している。
自分達の懐を蓄えるためなら、ほんの僅かな損失すら嫌がり、責任を他者に押し付け、決して対処にも動こうとしない。
排除したいと思うのも確かではあるけれど…!
「頭の痛い話です。
ですが…」
「君が頭を悩ませる者は何人残っているというのかね?」
………は?
言葉の意味が、いまいち理解できなかった。
それに、その言葉の表面上だけであれば…すでに何名もが政治の場から切り離されているとでも…?
だとしたら、なぜそれを総領事が把握しているというの…!?
一気に寒気が走る。
情報が巡るのが早いだけじゃない…歩んでいる場所が遠すぎるだけじゃない…手が早すぎる…!
こちらにとって都合の悪い頭をすでに何名か排除していると…我々暗部でも手を出せなった事をやり遂げていると…!?
「ねぇ、何の話をしてるのよ…?」
「なんて…言えばいいのかしら…?」
「そうだね…苗木の育つ場所が…土壌が悪いのであれば、植える場所を変えようか、という話だ」
「…?」
…あまりにも先を越されすぎた。
私達が手を出すペースを事前に予測されきっており、私達が頭を悩ませている事も把握され切っている。
その上で…私達暗部を日本政府…国家から断絶させようとしている。
『植える場所を変える』とまで言い切った以上、イタリアにはその準備があると手札を見せてきた。
「では、再度問おう。
君達は今後、どうするつもりかね?」
喉がカラカラに渇き、軽い眩暈さえ覚える始末。
私達暗部を千冬さんから離反させ、日本政府からも離反させる。
正直、そこまでは察してはいたけれど、その後の対応として私達を飲み込もうとしている。
アフターフォローのつもりなのかは知らないけれど、どこまで先のことを予定に入れているのよ…!
それでも…正直、暗部の構成員を、その家族の生活を考えれば、イタリアが差し出す手は魅力的だ。
でも、そのためには日本から我々は完全に姿を消すことになり、政治も大きく混乱してくるだろう。
そしてその際には、暗部は手を出す事は出来ない。
遠くから傍観するだけ、復興できる可能性を信じて…
「…今すぐには返答は出来ません」
返せる返答は、それが限界だった。
確かに考えていなかったわけではない、最善の手なのも確か。
だけど、これ以上は足元を見られるわけにはいかない。
「よろしい。
さて、次に凰 鈴音君、君についてだが…」
「は、はひっ!?」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
総領事が私に目を向けてきた。
正直、ちょっとビビった。
先程までの楯無さんとの会話では何を話しているのかも理解が出来ていない。
そんな状態なのに、こんな視線を向けられたら私じゃなくてもビビるだろうとは思う。
「君は、ウェイル君とは仲が良く、普段から訓練も一緒にしていると聞いている。
君の眼から見て、彼はどう思うかね?」
「えっと…粗削りですけど、それでも、搭乗者としてとても強いと思ってます。
いろいろと兵装を使ってますけど、機体制御をフルマニュアル制御していると聞いて驚かされました」
実質、言っていることは本当の事だった。
今のこの時世に機体制御をフルマニュアルでしている人なんてまず居ない。
セミオートにしているほうが圧倒的に制御するうえでは楽だからだ。
実際、私もセミオートアシストを使い続けている。
「そうか、今後の成長についてはどう思うかね?」
「本人は技士を希望しているみたいですから、身を守るための力量は必要かな、とも思ってます。
だから、今後の訓練でも私は」
「では、今の学園の中で起きていることをどう思っているかね?」
プレッシャーが強くなった、そう思う。
初老の人物、そう思っていたけど、それでも大使館を預かる総領事よね。
凡人で在る筈が無かった、楯無さんが緊張していた理由も今になってわかる。
背骨が自然とまっすぐに伸びるのが判った。
「問題ばかりが起きているとは思っています…それもこれも…」
「なるほど、では…」
バアァァンッッ!!
突如として、扉が勢いよく開かれた。
扉が開かれたそこには黒いスーツの人物、職員の人だろうか?
「どうした?」
「歓談中失礼致します!新宿方面で大事件が…テロシンジケート『凛天使』による爆撃テロが起きました!」
…は?
直後、ウェイル達と合流してエントランスへと案内され、モニターを見せられた。
それは、地獄のような光景だった。
新宿の大通りで、突如として数人の通行人がIS、フランス製第二世代型量産機『ラファール・リヴァイヴ』を展開。
一般車両、公共のバス、電車、ビル、施設に対し、次々と攻撃を繰り広げていく。
それこそ、警察なんて役にたつ筈も無い、数秒で制空権を奪われ、上空から、砲撃兵装を…見覚えがある、アリーナの電磁シールドすら貫通して見せた兵装で周囲を薙ぎ払う。
市街地は2分も経たずに地獄のような光景へと変貌していく。
周囲の人達が一時的に避難したであろう新宿駅ですら、次々とミサイルが撃ち込まれ、建物が地下諸共崩壊していく。
電車も新幹線もミサイルの餌食とされ、乗客と一緒に線路から外れ、地上に叩きつけられる。
それでもテロリストは攻撃を辞めようとしなかった。
そうこうしているうちにテロリストは新たに見覚えのある砲撃兵装と共に、更に新たな兵装を準備していた。
リヴァイヴの両肩と、両脚部装甲の側面に追加された兵装、、そこから円筒型のミサイルが豪雨のように発射されていく。
「あれは…拠点爆撃用の兵装だわ…」
周囲のビルへと打ち込み、爆砕していく。
爆撃されたビルは倒壊し、逃げようとしていた多くの人々に瓦礫の雨を降らせ、その質量で圧殺する。
辛うじて潰されずに助かった市民に対しても、執拗なまでに銃弾とミサイルと榴弾砲が撃ち込まれ、殺戮は繰り広げられ続けた。
続く大量の焼夷弾の豪雨により、休日の市街地は地獄と化し、生存者が見つからなくなるまで攻撃がされ、その時点でISはどこかへと飛び去って行った。
それが衛星カメラで記録された最後の映像だった。
Prrrrrrr!
「虚ちゃん、ええ、私は無事よ。
簪ちゃん達は?お台場へと向かっていた筈よ、今すぐに安否確認を。
学園外へ出かけているであろう学園生徒に学園への即刻帰還命令を伝令して。
それから、自衛隊による救援部隊を編成、新宿に今すぐに救難へ向かわせます。
こんな事態よ、防衛省だって黙って見ている筈が無いわ」
楯無さんがテキパキと指示を出している中、私は声が出せなかった。
モニター越しとは言え、眼前で起きていることに頭が回らなかった。
「無差別テロ、だよな…」
「うん、間違いない…。
ただでさえ休日なのよ…?繁華街にどれだけの人が居ると思ってるのよ…?
あのテロリスト共、何の為に…?」
「テロリストの考える事なんて判りません、判りたくもない…!」
メルクがかすれた声で反応をするけれど、どこか怒りさえ感じているようだった。
「俺もメルクも、一度だけだがテロに遭ったことが在るからな、それでも…」
私の頭にウェイルの手が載せられる。
でも、その手もなんだか冷たく感じた。
「総領事、被害を受けた人の中にイタリア人も居ると思われます。
まずは人数把握を」
「ああ、承知している」
思考がようやく現実に追いついてくる。
深呼吸を繰り返し、気持ちを追いつかせる。
ここで私がするべき事は…!
「すみませんが、電話を貸してください。
中国の大使館に急ぎ連絡を取ります、こちらもすぐに動かないと」
事態の把握は最低限度は出来ている、私も大使館への連絡から行動を始めないと!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「ねぇ、向こうの騒音は何が起きてるのかしら?」
簪の案内でお台場と呼ばれる地域に来ていたが、西方向から聞こえてくる轟音に私も視線を向けた。
ビル街では見晴らしも悪く、何が起きているかが把握も出来ず、展望台へと駆ける。
私の後にティナ、簪、シャルロットの順番に続いてくるのを視界の端にしながらも、階段を走り抜けた。
ほかにも多くの観光客がいたが、そんなものには構っていられない。
「ここからなら、見えるか…?」
「すみません、お借りします!」
展望台に居た観光客からシャルロットが双眼鏡を借り受け、覗き込む。
だが、そんな物が無くとも見えるものはあった。
「黒煙…?市街地がある方向だろうが、狼煙でもあげているのか」
「違う、そんなんじゃないと思う」
「どういう事?」
「これを見て」
簪が見せてきたのは生徒手帳、そこに二通のメールが送られてきていた。
一通は『安否確認』、そしてもう一通は
「『即時帰還命令』!?」
私も自分の生徒手帳を確認する。
同様のものが届いてきている、だが一斉にこういったものが通達されるという事は…?
「多分、緊急事態。
急いで学園に帰ろう」
「承知した」
「ショッピングを楽しんでる余裕は無さそうね」
「そうだね、あ、双眼鏡を返しておかないと!」
臨海学校で使用する水着は各自購入をしているので問題は無いが…問題は…
「今日中に帰れるのか?
この場所も混乱と動揺が広がり始めているから、公共交通機関がどうなっているかが心配だが…」
「最悪の場合はISを展開しないと帰れそうにないかもだね…」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
私たちが学園に戻ってこれたのは夕方になってからでした。
大使館での宿泊も考えはしていましたが、学園からの帰還命令もあり、この場でじっとすることも出来ず、大使館から車を出してもらった。
交通の混乱も起きており、想定以上の時間を要し、学園への帰還が叶った。
だけど、学園でも教職員の人達が大騒ぎになっているのが見受けられた。
「安否確認はどれだけ済んでいるの!?」
「9割以上は確認が取れました!
安否が確認出来ていないのは、残り5名!
いずれも外出届が出されている生徒です!」
「通話にも応じません!」
「生徒手帳で探知できた最終ポイントは何処なの!?」
まだ、安否が確認出来ていない人も居ることには、正直背筋が寒くなる。
それだけではなく…
「お母さん…?イヤアアァァァァァァッッッ!!」
「あそこに、新宿には私の兄さんが居るの!どうして!どうしてなのよぉぉぉぉぉっ!」
「離して!すぐに!すぐに新宿に行かないと!妹が居るのよ!助けに行かないと!」
生徒の中でも混乱が広がっていました…。
この国の人なら、家族が居る場合だって考えられる。
だけど…もう……
「想定以上に酷い事態だわ、私はこれから事態の収拾に回るから、食堂で待機しておいて」
楯無先輩はどこかに走り出し、私たちは食堂に残された。
此処は、事態の行く末を見守る事にした方が良さそうですね。
食堂は機能しており、お兄さん達の食事も用意してもらう。
いつものボックス席に入っても、鈴さんもお兄さんも沈黙したままでした。
ようやく出てきた言葉は
「何が起きているんだ、この国で…?」
かつて、テロに遭った事があるからか、戦場での命の脆さを見てしまった。
戦う力を持たない人達の無力さを、迫りくる理不尽さを知ってしまっている。
だから…
「これで反IS団体が調子づくでしょうね…日本政府はこの事態にどうあたるのかしら…?」
「さぁな、いずれにしても、俺達の手の届く範囲じゃないさ…」
「もどかしい、ですね…」
この日ばかりは、夕食もマトモに喉を通らず、夜間訓練もする気になれませんでした…。
そして翌朝、食堂で朝食の時間に、そのニュースが取り上げられていた。
『新宿でISによる無差別爆撃テロ、史上最大級の人災、死傷者の把握は未だ至らず』と報道されていた。
新宿の大通りでの10機のISが突如として展開され、道行く一般人への攻撃、公共交通機関の破壊、避難した人達への執拗な攻撃、ビルへの爆撃による倒壊、それに圧殺されたであろう人達も居た事が大雑把に報道されていく。
死傷者数はどれだけ少なく見積もっても200万人を軽く超える事になるだろうとも言われ、これに並ぶテロ被害は存在しないとも言われていた。
「平和な街の中での殺戮劇、一般人だけの市街地でテロをすればこうなるのかもしれないわね」
同席していたティナさんもそんな言葉を紡いでいた。
「だが、奴らの目的はなんだ?
何を狙って一般人を相手に戦争同然の戦力を注ぎ込んだ?」
ラウラさんも、それを見いだせていなかった。
多分、このニュースを見ている人も、誰も答えを出せていなかったかもしれない。
「前例は在る、少なくともイタリアに居た頃に聞いただけなんだがな」
「前例って?」
「…凛天使のテロ活動を酷評した人が居たが、その報復に凛天使はその人物が住んでいた都市ごと壊滅させた事例があるんだよ」
確かに、私もその話をお姉さんから聞いた覚えがある。
それが、この国にも起きたという事だろうか。
そんな折だった、最悪の報道が流れ込んできたのは
『ちょっと待って、コレ本当なの!?』
モニターに映るニュースキャスターが何か慌てている様子だった。
手には何か用紙を握っている。
『え~、犯行をした組織からの
各所には実名などが出ている為、その点に関しては伏せさせていただきます。
では、読み上げます…』
そして、その最悪の声明が日本全国に報道された。
『我々は凛天使、全世界に存在する女性たちの権利と平等を守るために活動をする慈善団体である。
此度は、ヨーロッパで発掘されたと言われる男性IS搭乗者という巨悪を討つ為、その存在が新宿に現れると言う情報が市民から報告された。
我々はいずれ世界中の全ての女性達に悪影響を及ぼす巨悪となるであろう存在を事前に排除するために今回は活動を行った。
その際、多少の負傷者を出してしまったが、巨悪を排除するための最低限度の犠牲である。
だが、これによって巨悪は討伐された。
我々はこれからも女性の権利と平等を訴えるために活動を続行していく。
…以上になります』
クラウス・バーダット
誕生日8月7日 43歳
イタリア大使館日本支部総領事館。
かなりのキレ者であり、鋭すぎる洞察力を有する。
日本国内に巣くっている汚職議員の行く末を把握しており、暗部である更識を日本政府からの離反を促す。
離反した先の行き場所に関しても言葉を用いずに示しており、すでに楯無からすれば心臓をつかまれているも同然になってしまっていた。
ウェイルやメルクとは面識は無く今回が初対面だが本国から色々と話を聞いているが、一歩引いた場所から見守るようにしている。
本国側にもいくつもの太いパイプを有しており、多くの有識者との面識を得ている。
最近の悩みはイタリアの首相から釣りの魅力を思い知らされながらも、自身は仕事の都合上で釣りに勤しむ事も出来ないというもの。