IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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ゼヴェル・オーリア
作中に於ける現ローマ法王
大らかな人物であり、心優しい人物。
ウェイルやメルク相手には親戚の叔父さんのように振舞う。
結構な御年であり、孫から贈られてくるビデオレターを見るのがここ数年の楽しみの一つ。
セカンドハウスで過ごしていた最中に、機材が故障し、大慌てになったが、ウェイルの噂を聞きつけ、ダメ元で依頼した。
完璧に修復され、再びビデオレターを楽しめるようになり、大変喜んでいたらしい。
釣りもまた趣味の一つ。
その為、多少過保護になりつつある。

プライベートでは『カイル・ゼヴェル』と名乗っており、ウェイル達もそれを本名と思い込んでいる。
一度だけだが『法王猊下と似ている』と言われたが、「よく言われるんだよ」と背筋に汗を流しつつ苦笑しながら誤魔化しており、ウェイル達はその言葉をも信じ込んでいる。

なお、首相であるガルス・ドミートとは幼馴染の関係。


第79話 言風 隠していた

皆の分の釣り竿も仕上げた頃合いには、ティエル先生から指定された時間になっており、生徒会室へ移動することになった。

呼び出されたのは俺一人の筈だったのだが、当然の如くメルクも一緒だ。

そこになぜか「同伴する義務が在ります」と言わんばかりの態度でティナ、鈴も同行してきていた。

 

「失礼します」

 

そう言って開いた扉の先には…楯無さん、虚さん、簪、1組の布仏女史も集っていた。

…なんで居るの?と問いたいところではあるが、彼女らは生徒会所属のメンバーだろうから居るのは仕方ない。

そしてその奥には…ティエル先生と学園長も居た、暢気に茶を啜っているように見える。

 

「ウェイル君とメルクちゃん…だけじゃないみたいだけど、まあ良いわ、全員座って。

椅子の数には余裕もあるから大丈夫でしょ」

 

そうはいってもパイプ椅子なわけだが。

言われるがままに座れば、即座に虚さんが紅茶を淹れてくれた。

うん、いい香りだ。

 

「さて、ハース君にとっては『暫く振り』と言っておきましょう。

当学園の学園長を務める轡木です」

 

「えっと…イタリア国営企業FIAT企業所属のウェイル・ハースです。」

 

「イタリア国家代表候補生、メルク・ハースです。

今回、詳しい話をしていただけると訊きましたが…?」

 

学園長はお茶を飲みつつ視線を俺に向けてきた。

俺自身、背筋が強張ってきた気がした。

こういう視線にはどうにも慣れない。

 

「織斑君と篠ノ之さん、そして織斑千冬の三人には、君達兄妹に対し『接触・干渉禁止』の命令を出していました。

この事は…おそらくご存じでしょう?」

 

まあ、それに関してはトーナメントの暫く前、教室で大騒ぎしていた篠ノ之の喚き声が廊下の向こう側から響いてきていたからな。

楯無さんが「任せなさい」と言っていた直後の事だったから何かしら刺激していたんだろう。

それからすぐに謹慎処分になっていた筈だというのに、即座に復帰してきていて変な感じがしていた。

そのことを思い出し、俺は学園長に対して頷いて返した。

メルクも同じ反応をしている。

鈴とティナは…2組所属だから俺達よりも、よりハッキリと聞こえていた筈だ。

 

「それは、まあ…。

けどあの二人、そういった指示を出されていたにも拘らず無視して干渉してきていましたが…?」

 

最初は食堂で食事を台無しにされ、そこからも幾度も手出しをされている。

クラス対抗戦の際にテロリストが襲撃を仕掛けてきた際には俺のフルネームを開示し、国際問題にもなっていたはずだ。

その問題は今になっても解決出来ていなかった筈だ。

学年別タッグマッチトーナメント前は俺が爆破テロを画策している危険人物扱いしようとして無実の罪を着せられ、噂が学園全体に拡がった。

それが更には先日のトーナメント戦でも、VTシステムとやりあう際に、俺が切り刻まれて殺されるのを楽しんでいるかのような言い草だった。

アンブラにその会話データも残っているから後で提出しておいたが、それも考慮してくれているのだと思っておこう。

 

最後は今日の朝食時だ。

織斑教諭が解雇された件、実家が火事で焼き尽くされた件、その両方を俺の仕業だと言いがかりをつけ、『テロリスト』『放火魔』などの謂れも無いデタラメを言われるハメになってしまった。

しかも、大勢の生徒が集まっている朝の食堂でだ。

疑いの目を向けているものは殆ど居ない…と思いたい、切実に。

…酷く迷惑だけどさ。

 

「思い返してみれば散々だな…」

 

「その点に関しては心中お察しします」

 

「私達は彼らに何か手出しをした覚えとかは在りませんが、なぜこうも私達が被害を受けることになるんですか?」

 

言いたいことはメルクが切り返してくれた。

正直、俺も疑問に思っていた。

俺達が自ら手出しをした試しは無い。

試合でアイツのISを切り刻むくらいはしたけどさ、それもあくまで試合の結果でしかないだろう?

いや、八つ当たりを含めていたのは…否定できないけどさ。

 

「それが彼の本性だからよ」

 

言葉を返したのは楯無さんだった。

こっちはこっちで頭を抱えている、何か苦労する点もあるのだろう、同情はするが、それ以上は踏み込まないでおこう。

 

「先日、メルクちゃんが千冬さんに対してしていた評価を覚えているかしら?

『他者の気持ちを利用し、他者を動かし、自らは動く事も無く、自身の目的を達成する』、それは千冬さんだけでなく、織斑全輝君も同じ行動理念なのよ」

 

「そうやって追い詰められた人間は結構居るものよ。

私もその被害者の一人ってわけ」

 

鈴も被害を受けていたのか…。

相手は誰でもいいとかそんな感じか?

無差別だろうと相手を選んでいようと迷惑なことこの上ないけどさ。

そして俺もメルクも狙われる理由が全く見当たらない、初対面だろうと背後から頭を木刀で殴ろうとするなんざ正気の沙汰ではないことだけは理解出来ている。

 

「…あれはまさか日本人特有のコミュニケーションか?

根本的に戦闘民族なのか…?」

 

そう思ってしまうのも無理もない予感が脳裏によぎる。

 

「そんな訳が無いでしょう」

 

鈴に頬を抓られた、そんなに痛くないのは手加減をしてくれている証拠だと思っておこう。

 

「更識君」

 

「はい。

さてウェイル君、彼が君達に対して、そして鈴ちゃんにも危害を加えていた理由だけれど、有り体に言えば『気に入らない』からよ」

 

「…はぁ?」

 

これはティナの呆れ声だった。

詳しく知っておかなければ誰だって同じ反応をしただろう。

そこで楯無さんが、ファイルから一枚の用紙を取り出した。

記されているのは…見覚えも無い人物が何人もリストアップされていた。

 

「一学期の間に私としても彼の素行調査をしておいたのよ。

ここにリストアップされた人物達は、彼によって追い詰められた人達よ」

 

俺もメルクも記された人物をざっと斜めに見ていく。

俺達と同年代の人物ばかりだな。

 

「色々と調べてみた結果、最近のウェイル君と同じように謂れも無い誹謗中傷に、無実の罪を着せられ、在りもしない噂を流布され、進学先にまで噂を知られ、塞ぎ込んでいる人物ばかりだったわ」

 

あの野郎…他人の将来を潰して平然としてやがるのか。

しかもその動機が『気に入らない』からってのは外道じゃねぇか…。

そんな人を掃いて捨てる程に出しているようだった。

 

「で、今は俺かよ…しかも篠ノ之の奴はテロリストに俺の名前を開示しやがって、何考えてんだ…?」

 

「篠ノ之さんですが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな返答を返してきたのは虚さんだった。

 

また碌でもないことを聞いてしまった。

 

何も考えていないって獣同然だろうに…。

見ろ、俺の両隣のメルクも鈴も呆れているぞ。

多分、頭上でティナも絶句しているようだった。

そして俺も呆れている、だから頭の上に感じる水風船のような感触は無視だ無視。

 

「今度はこちらのリストを見てねぇ~」

 

虚さんが先程のリストを一瞬で片付け、布仏女史が新たなリストを拡げていく。

ただ、ページがグチャグチャになってるが…。

一先ず、俺も手伝って、リストのページを直していく。

うん、これで見えやすくなったぞ。

改めて、リストを再度ざっと斜めに見ていく、これまた年齢は同年代だが、先ほどのリストに比べれば、人数が多い。

 

「これは篠ノ之さんから『暴行を受けた』人物のリストになります。

そのすべてが『喧嘩』や『諍い』で済む話ではなく…その全てが『将来を絶たれて』います」

 

「………はぁ?」

 

またもやとんでもない話になってきたぞ、オイ。

もう一度リストアップされた人物の詳しい状態を見てみる。

大阪府にて、野球のピッチャーを務めていた少年は肩を壊されて野球人生を絶たれる。

北海道にて、弓術少女は眼球破裂により失明し、弓道を断絶。

鹿児島県にて、バイオリニスト少年は手首を壊され、弓を持てなくなった。

山梨県にて、サッカー少年は膝を壊され、グラウンドを去った。

香川県にて、陸上少年はアキレス腱を壊され、もう二度と走れない体に。

千葉県にて、コーラス部の少女は、声帯を潰され、もう二度と声が出なくなった。

三重県にて、ボクシング少年は、下半身不随になりリングから降ろされた。

新潟県にて、新体操少女は腰の骨と骨盤を粉砕骨折させられステージから去った。

その全てが篠ノ之の暴行によるものだ。

殆どが、相手の生涯や目標にとって、致命的に至るような部位ばかりを狙って攻撃しているようにも見受けられる。

なんというか…もう確信犯に思えてならないな。

書類には続きの文面がある。

 

えっと、なになに…?

『背後から攻撃を当てて転倒させてから、木刀を振り下ろした』と記されてるな。

要は、背後から奇襲をして動けなくなったところで、攻撃をしたってことか?

陰険な奴だな。

だが思い返してみれば、俺もそんな形で奴に襲われたんだった。

どうやらそれがアイツの攻撃パターンか。

俺の場合は、脳天に木刀、脳天に金属バットだったが、初手から殺す気だとしか思えない。

それでいながらあの平然とした態度?

どう考えたところで刑務所にでも放り込んでおくべき案件の山じゃないか。

 

「ですが、篠ノ之さんに関しては、身内の人物が問題になっています」

 

「篠ノ之 束博士、ですね」

 

これは流石に俺だって名前は知っている。

参考書を何度も読み返しているからな。

そんな人物が身内か、で?

 

「その篠ノ之博士の何が問題なんですか?」

 

「篠ノ之博士っていうのは気まぐれな人物なのよ。

それに作り出す技術は殆どがオーバーテクノロジー同然よ」

 

答えを返してきたのはティナだった。

 

「そんな現代のオーパーツ、ISの創始者でもある人物が力にものを言わせて仕返しなんてしたら、そうなったらどう思う?」

 

「それは…」

 

オーバーテクノロジーで作り上げられた技術によって侵攻なんてされたら、それこそ成す術など無いかもしれない。

 

「日本政府が恐れているのはその点よ」

 

ティエル先生が重く口を開いた。

 

「どこかで聞いているかもしれないけれど…、篠ノ之はこの学園に正式な試験を潜り抜けて入学してきたわけではないわ。

日本政府が無理やりねじ込んできての…悪く言えば裏口入学ね」

 

「はいコレ」

 

言ってる隣から布仏女史が俺に無理矢理手渡してきたのは…わぁお、篠ノ之の成績一覧だ。

俺も劣等生であることを自負しており、人のことを言えた義理ではないが…篠ノ之は理数系、技術系は壊滅的な成績をしている。

だからと言って得意分野の科目が…在るわけでもなさそうだな、強いて言えば体育系だけらしい。

学園編入直後の実力テスト、GW終了後の中間テスト、6月の確認テストその全てが赤点だらけ、総合成績はというとワースト1だ。

って、こんなものを他人に見せても良いのかよ…?

 

「どう見ても受験した学生とは思えないわね」

 

「ウェイルを下回った成績の劣等生じゃん」

 

「この学園生徒の枠を一つ無駄に消費しているわね」

 

俺の左右と頭上からも酷い言い草が拡がっている。

だが俺としても返す言葉なんて無かった、そもそも庇う義理も無い。

落第しても当然の成績だと思う。

それが編入…じゃなかった、裏口入学してから今まで続いているらしい。

 

「それで、この成績と篠ノ之さんの過去の経緯も含め、日本政府は篠ノ之さん織斑君に対しての処罰の軽減を図り続けています」

 

「このIS学園で国際問題を起こし続けている点もまさか…?」

 

「察しているでしょうけど…『篠ノ之博士による報復を避ける為』、その言葉で他国を黙らせているわ。

それでいながら対策も何もせずに、ね」

 

早い話が『放置』という問題の先送りか。

俺でもわかるような問題からの回避方法って…。

 

「それで、今までに篠ノ之博士の報復ってあったのお姉ちゃん?」

 

簪もリストを見て思ったことを言い始めた。

思えば更識の家は暗部に通じていたとか言っていたし簪も鋭い点に気付いていたみたいだな。

 

「いいえ、ただの一度も無いわ」

 

「『懲罰を軽減することで、報復を避けられた』、そのお題目が今まで通ってきた。

確か以前にそう言ってましたっけ」

 

俺の一言に楯無さんが頷いた、それも溜息をつきながら。

そりゃあ頭も痛くなるだろう、何かやらかすたびに懲罰を押し付けても、そのお題目一つで懲罰など殆ど役目も成さない状態で野放しになっているんだから。

他者に危害を与え続けることが判明している犯人を捕らえても、無罪放免の扱いと同様にして街の中に放り出されているのとそう変わらないだろう。

 

「警察のお世話になったとかも中には在ったわ。

そこでも暴れて怪我人多数、果てには通報された報復に夜道で襲撃して相手を失明させた、なんて報告も挙がってきているわ。

やってることが悪質なマフィアだな、とか思わないかしらウェイル君?」

 

「そこで俺に同意を求めないでくださいよ、マフィアなんて身近に要るような存在じゃないんですから返答しようが無いですよ」

 

マフィアとはいっても、俺は言葉を耳にしたことがあるだけで、身近にそんな人物なんて一人も居なかったからな。

ボランティア団体の団長さんなら身近に居たけど。

釣り場で会ったガリガさん、元気にしてるかなぁ、ボランティア団体を率いるとか大変そうだよなぁ…。

 

「尤も、彼女が狙っていた人物とは別人を誤って襲い、病院送りにした、障害者にしたという話も珍しくないわ。

それも含めて怪我人は少なくとも50名を越えているわ」

 

悪質な通り魔だな。

 

「けれど篠ノ之博士の名をお題目にし続けたのが原因で、彼女は懲罰も収監も出来ずに日本全国を津々浦々と転々としていたのよ」

 

「それで行った先でも問題行動起こし続けている、そういうわけですか?」

 

俺の疑問に対しては学園長が頷いた。

もはや人の姿をした災害か何かだろう、到底マトモな人間ではない。

アイツも他人を人間として見ているのか怪しいけどさ。

 

「そして、その二人の素行を早々に調査した国がありました」

 

「へぇ、凄い調査力を持った国があったもんですねぇ」

 

白けた視線が前方からいくつも俺に突き刺さってくる。

アレ?

俺何か変なことを言ったかなぁ?

メルクに視線を向けるも、首を傾げるばかり。

 

「どうやら君達は本当に何も知らないようだね」

 

学園長が懐疑的な目を向けてくるが………?

はて?

再度考えるが、どうにも思いつかない。

 

「…それが、イタリアよ。

君が編入してくるよりも前に、このような文書が送られてきたのよ」

 

ティエル先生が懐からUSBを取り出し、モニターに展開してくる。

そこには…

 

「…は?何、コレ?」

 

もう今日だけで何度目の驚愕の声だか自分でも判らない。

イタリアの首相とバチカンの法王猊下の直筆のサインが記された文書だった。

そこには、織斑と篠ノ之の二人、そして織斑教諭からの接触・干渉を禁止させるように命じたものが記されている。

俺もメルクも、首相や法王猊下とは面識も無いんですよ?

なのになんでこんな凄い人達がバックアップめいたことをしてくれているんですか?

しかも最後の方には、『(たが)えた際には報復を執り行う』とか物騒な言葉まで記されている。

 

「……織斑教諭はイタリアに何をしでかしたんですか?」

 

…メルクの声と視線が冷たくなった。

まあ、そうなるよなぁ…。

俺が編入してくるよりも前に『報復』なんて物騒な言葉を記していた以上、事前に織斑教諭がイタリア本国に何かをしでかしていたのではないかと疑いを向けるのは当然だ。

 

「それに関してはこの文書よりも俺とて気になるんですけど。

俺からも問いたい、あの人はイタリアに何をしていたんですか?」

 

「それに関しては…本人は最後まで口を噤んでいました」

 

少なくとも黙秘し続けるような何かをしていた事にはなりそうだな。

そして黙秘したまま立ち去った、と。

 

「少なくとも、我々はこの要求全てを快諾、織斑君達と君達のクラスは別々にし、接触・干渉禁止を命じましたが…」

 

「命令を聞かなかったのは間違いなく彼等の非ね。

絡め手まで使ってくるほどの悪質性、更には大勢の前であろうと暴行を振るう幼稚さ。

更には、目的の為には、どれだけ多くの人を巻き込んでも構わないという狡猾さ、こっちとしても頭痛が絶えないわ。

日本政府も『学園内の問題』『国際問題』よりも『篠ノ之博士の報復』を恐れてこちらが下した処罰内容に干渉してくる始末だからね…」

 

「けど、未だイタリアからは報復がなされたという動きは認められていないのよ。

少なくとも、今回の織斑先生の自宅の全焼がソレかと思ったけど…」

 

ティエル先生の言葉にメルクの視線がより一層冷たくなる。

失言だろうなとは思う、我が国がそんな姑息な事をするわけないだろうとの言葉が視線に混じっている。

少なくとも、これからイタリア本国は国際問題を引き起こす学園側に糾弾くらいはするだろうなとはボンヤリと考える。

 

「ごめんなさい、失言だったわ」

 

先生達には同情しておく、中では問題が立て続けに起こり続け、外からは干渉され、国境の外からは糾弾され、本当にご苦労様です。

気のせいか、目の下に隈が見える気がした。

 

「君達兄妹がこの書面の存在も知らなかった事は…更識さんからは聞かされていたけれど、真実だったみたいね」

 

「そりゃ勿論、首相や法王猊下とは簡単に会えるような人じゃありませんし」

 

けどゼヴェルさんといえば、レコーダーの修理を頼まれた人とは同じ名前だったよなぁ、たぶん偶然だろう。

似た名前の人だって少なからず居るだろうから、気にするような問題では無いはずだ。

イタリアが報復措置に何をしでかすのかは…考えるのも恐ろしいな。

 

「では改めて、織斑全輝君はその悪質さにより『自室での謹慎6カ月』とし、篠ノ之箒さんは同じく『自室で無期限謹慎』。

ですが、コレは仮決定であり、後々に正式な懲罰を決めていきます。

まず手始めの懲罰として毎日反省文50枚提出を命じます」

 

絶対進級出来ないな、むしろ無期限謹慎って学園側からの退学処分が出来ないから、自主退学を促すためのものかも。

それであの連中の顔を見ずに済むのなら良いけどさ。

しかも今回の謹慎処分はまだ仮決定だ、本決定になれば謹慎に追加しての懲罰が課されるらしい。

 

「学園の中であれば、優等生も居れば、劣等生も出てしまうのは致し方ありません。

個人によって得意分野、逆に苦手分野が違っているのですからな。

ですが、教育者とはそれを把握し、伸ばしていくものであると考えています。

見て見ぬ振り、問題の先送り、事なかれ主義とは問題の放置をしているのと同義です。

今回織斑先生には数々の疑いが生じており、もはや我々としても擁護できるものではありませんでした。

家が火事によって失われたようですが…」

 

「暗部から報告が入っています。

現在は警察に逮捕されるよりも前に、日本政府によって身柄を保護されていると」

 

うわぁ、悲惨だな…。

帰る場所が無いって…この先どうするんだか…。

まぁ、それに関しては俺が出る幕も無いな、我関せずが一番良いだろう、そうしよう。

 

「それでは今日はコレで解散としましょう」

 

学園長がその言葉を最後に、湯呑に残ったお茶を一気に飲み干し解散となった。

 

「あ、色々と情報が錯綜していたけれど、来月には期末考査があるから頑張りなさいね」

 

テストは嫌です、とまでは言わないでおこう。

期末考査の分だけでなく、余分な課題が追加で出されてしまう気がした。

なので

 

「…はい…」

 

それが最良な返答だったと思っておこう。

 

 

会議が終わり整備室に戻るが…情報で頭がパンクしそうだった。

篠ノ之が巻き起こし続ける問題行動にその隠滅、織斑が『気に入らないから』というフザけた理由で他人を排除しようとする非道。

それが奴らの本性だというのだから、奴らを排除するまで問題は無くならないだろう。

俺としては回避し続けたいというか、絶対に関わりたくない。

連中は自室謹慎となり、織斑教諭は学園から自ら去ったらしいから当面は大丈夫だとは思うんだが…問題は日本政府がどう干渉してくるか、か。

 

「はぁ、頭がおかしくなりそうだ…こういう時には…」

 

部屋に置いているあれを思い出す。

 

「メルク、アリーナに行くぞ」

 

「どうしました?」

 

「気分転換、プロイエットを使おう」

 

「はい!!」

 

走って気分を改めよう!

 

そういって俺達は部屋へと向かって歩き始めた。

これまた当然と言わんばかりに鈴とティナも一緒に。

それを横目に確認しながら思う。

 

俺を誰だと思ってるんだか。

吹けば飛ぶような小市民、どこにでもいるような小市民で、勤労学生に過ぎないんだぞ。

そんな俺が、マフィアも法王猊下も知り合うなんて絶対に無理だっての。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

会議が終わった後、私は生徒会室に残っていた。

暗部から届いた情報としては、千冬さんは警察に逮捕されるよりも前に日本政府に身柄を保護されている。

国際問題が山積みになっているというのに、よりにもよって政府による保護を受けているのが不思議でならなかった。

 

「…誰かの手が確実に巡ってきているわね」

 

あまりにも早く、そして確実に。

我々暗部の目でも触れることができない形で侵食してきている。

 

「『火災保険』もデータが抹消され、保険金も下りない。

それどころか、不審な国外への出金(・・・・・・・・・)もしている、しかも銀行には千冬さんが引き出しと送金をしている姿が監視カメラに収められている…?

いったい何がどうなっているの…?」

 

私が見ているのは、先程の会議では敢えて出さなかったデータだった。

そのいずれもが会議に挙がっていた千冬さんの末路。

今年に入ってから何かと不運と不幸に見舞われ続けていた彼女だけれど、学園から追い出された直後も不可思議でならなかった。

カードは止められ、自宅の保険もデータが抹消されて保険にも頼れない。

不思議でならないのは、銀行の監視カメラに写っていた彼女の姿だった。

 

「…学園長に追加で報告しなくてはならないわね」




グラディウス
イタリア製第一世代型兵装
テンペスタに搭載された両刃の長剣型兵装。
古い時代、コロッセオにおいて戦いを続けていたとされる剣闘士達が使用していたとされる剣をモデルにして作られたとされる。
その為、肉厚で重量があり、勢い任せにふるう形で搭乗者たちに使用されていた。
ウェイル・ハースが考案したウラガーノの実装配備により今では旧世代の型落ち兵装として扱われ、使用している搭乗者は殆ど居ない。

これを改良し、刀身を伸ばし、片刃にしたものが後のクラウディウスとなっている。
黄昏をイメージしたカラーリングとのことで、刀身は紅蓮に染まりながらも、柄には黄金の装飾が施された。
その試作品である『クラウディウス・シルヴァー』は白銀色に染まっており、後輩であるヘキサに手渡されたといわれているが、ヘキサもウラガーノを愛用しているので最近では出番がない。
その為、メルクに受け継がれているが、メルクもミーティオに搭載されているレーザーブレードを使っているため、使用頻度がほぼ無い。

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