IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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不定期更新はまだまだ続く。
それはそうと、『痛みの森』軽くクリア
ミッションも全部クリア出来たぜ。
要約するとドッペルゲンガー装備はチートです。


第6話 微風 姉心

「ウェイルの周辺に妙な連中?」

 

ウェイルがとんでもない大物を釣り上げてから半年、久々に国家元首に呼び出され、領事館に訪れてから言われたのはその一言だった。

この部屋の周囲には人払いはしている。

窓も扉も閉め、更には盗聴器の類がないかも徹底的に金属探知機まで使ってからの会談。

疑われるものがあるとしたら、私の右腕ブレスレットとなっているテンペスタくらいだろうけど、今はステルス状態にしているから、外部への情報流出はそれこそあり得ない。

これは私とこのオッサン(国家元首)の二人だけでの話し合いなのだが、妙な話が出てきたもんサね。

 

ウェイルの周囲に妙な連中。

 

釣り人御一行の事が思い浮かぶが即座に除外。

それを言ったら目の前にいるこのオッサン(国家元首)も当てはまる。

自分で自分を『不審者』なんて名乗るやつが国家元首なんてしてられるわけもない

オマケにあれ以降、芋蔓式に釣り人御一行という銘のオッサンが増えてきていて私もメルクも引いている。

 

他に考えられる奴は…まさか…あの女(織斑 千冬)が追手か何か差し向けてきたか?

いや、仮にそうだとしても、なぜイタリアを疑った?

 

あの大物を釣り上げた記事が日本にまで渡ったか?

だとしたら早急に対応を考えないといけないサね。

だがあの場にいたオッサン(国家元首)オッサン(新聞社社長)に言いくるめて写真の掲載は圧力をかけて辞めさせた。

近日中に販売された週刊誌だとか新聞にもウェイルの記事はあったが、写真は掲載されていなかった。

だとしたら、あの時には直接見られてしまっていたってことか?

だが遠目に見て、白髪の少年がウェイルと気づくか?

ウェイルが織斑 一夏(イチカ オリムラ)だと気付くものサね?

 

いや、目の前にいるオッサンは識っていた。

同一人物であることを事前に。

だから私にウェイルの護衛を頼んできていたんだ。

そして気づくことができるのは、あとは…あの天災兎か。

どちらかというと味方を気取ってはいるようだが、その内心までは図れないから厄介サね。

 

さてと、今後の事をいろいろと考えないといけないサね。

 

 

「あ、アリーシャ先生、いらっしゃい」

 

「お邪魔するよウェイル、メルク」

 

「いらっしゃいです!」

 

今日も今日とてこの兄妹は元気だ。

外で嵐がおきそうになっているのにも気づいていない。

だけど、これでもいい。

この子達には穏やかな風の中で生きていてほしい。

 

「ん?なんか焦げ臭いサね?」

 

「ちょっと失敗しちゃって…」

 

ウェイルもこういう日もあるらしい。

いや、珍しくもない、かな?

 

ウェイルが中学に途中編入してからもうしばらくで半年。

キースやクライドのような友人もできて年相応の日々を過ごしている。

成績は…やっと人並みといったところ。

はたから見れば劣等生と言われる程のもの。

 

何も知らない輩が見れば『無能』だとか言うかもしれない。

だけど、私たちはそうは思わない。

 

報われないのだと判っていても、ウェイルは努力を辞めない。

評価を得られなくても、立ち止まらない。

少しずつ、少しずつだけどウェイルは歩き続けている。

だから…ウェイルに人に負けない才能があるのだとすれば、それは『努力』と断言できる。

その努力を重ねているから、ついつい手を貸してあげたくなる。

 

「何を作ろうとしてたんサね?」

 

「ピザです」

 

窯の中には焦げた丸い生地が。

…火加減でも間違えたサね?

 

努力は積み重ねている。

だけど、時にはこんな失敗もやらかす。

 

だけど、料理とかの家庭向きの技術に関してはウェイルは人一倍力を入れている、というか成果を出してる。

それはお袋さんのジェシカのお陰。

 

機械関連に関しては親父さんのヴェルダのお陰。

 

釣りは…黒の釣り人(ノクティーガー)の影響。

それと周囲のオッサンたちのお陰だろう。

釣りにハマってるオッサンの面々が妙だけど、今のところはそれは思考しないでおく。

ウェイルはオッサン達の素性は知らないみたいだし。

 

「ピザのトッピングにはサーモンに野菜か…アンタ魚介類が好きサねぇ?」

 

「毎週末は爆釣日和ですから」

 

「それで余らせてたら元も子もないだろうに」

 

こういう計算ができないのが悲しいところというべきか、ウェイルらしいと笑うべきか。

 

「さて、それじゃあ新しく作ろうサね。

厨房へ行くよ、今度は先生が手本を見せてあげるよ」

 

「にゃぁっ!」

 

シャイニィ、アンタはテラスで待ってな。

 

 

 

 

お手本を見せ、もう一度やってみたいというウェイルをそのままに、私とメルクはシャイニィを連れてテラスにて佇むことにした。

 

 

「お兄さんの周囲に、不審人物、ですか?」

 

「そう、周囲への警戒は私も徹底的にしているし、伝手も利用することにした。

けど、それをかいくぐろうとするバカが居るのサ。

まあ、そういった方面は私に任せときな、絶対に邪魔させたりなんてしないからサ」

 

(メルク)(ウェイル)を守るのは()の仕事サ。

 

 

私は、お前(織斑 千冬)とは違う。

守ると決めたものは命がけで守る。

命で足りないのなら、身をも賭けて守る、魂さえも。

自分の周囲にあるものを代償として支払ってまで栄光の座に就いたお前とは違う。

 

だから、私に干渉するな。

私の家族に手出しをするな。

 

 

「アリーシャ先生、ピザが焼きあがりましたよ」

 

「待ってたサねウェイル、じゃあ早速頂くサね!」

 

「ピザカッター持ってきますね♪」

 

いいタイミングサねメルク。

ピザカッターで切り分けてから早速食べてみる。

うんうん、チーズのトロリとした触感にサーモンのほくほく具合がいい感じ♪

お袋さんもいい仕事するサね!

そしてそれができるようになったウェイルもいい仕事振りサ♪

うんうん、美味しい!

 

気づけば三人でピザ一枚をペロリと平らげていた。

メルクが用意してくれた紅茶を飲んでから一服。

ごちそうさま。

 

洗い物はメルクが片づけてくれるらしく、今度はウェイルと二人きり。

だから思い切って言ってみることにしてみた。

 

「なぁ、ウェイル。

イタリアでの日々には慣れたサね?」

 

「ええ、勿論」

 

ティーカップをソーサーに戻すウェイル。

カチャリと音がかすかに聞こえた。

 

「母さんも父さんも色々と教えてくれる。

メルクも俺を慕ってくれています。

キースやクライド、ほかにも友人は多少は出来ました。

それにアリーシャ先生もシャイニィも居る。

釣りの事をいろいろと教えてくれるおじさん達も居る。

正直、とても居心地がいいんです。

ここが俺の居場所だ、そう思えるように。

そう、胸を張れるほどに」

 

そうか、そんな風に思ってくれるほどになってたか。

なら、私も命がけで守らないとね、そのあたたかな居場所を。

 

「そうだ、それと…」

 

「うん?まだ何かあるのサね?」

 

「えっと…」

 

ウェイルがポツリ、ポツリと語りだしたのは、夢の話だった。

たまに見る、繰り返し見る、不思議な夢。

 

真っ暗な闇の中、女の子が一人。

メルクではなく、多分…知らない女の子。

その女の子が泣きながら、自分ではない誰かの名前を呼びながら、泣き続けている。

必死に手を差し伸べてくる。

それでもウェイルは、手を伸ばすことができなかったらしい。

 

「…ウェイルは、その女の子が誰かは知ってるかい?」

 

「…いいえ、判らないです。

でも、俺を見て、誰かの名前を呼んでいたというのが…」

 

その女の子が誰なのかは私もメルクも識っている。

識っているからこそ、話せない、話したくない。

今のこの場所から離れてほしくない、という依存もあるのは否定しない。

 

浅ましい、かもしれないサね。

 

だから、ゴメンな、ウェイル。

赦してくれ、なんて言わないよ、凰 鈴音。

 

「その女の子に逢ってみたいと思うかい?」

 

「…それも、判らないです。

そもそも、どこかで見知った人なのかどうかすらも…。

でも、その子を笑顔にしてあげたいって思うんです…」

 

夢の中に現れてまで、鈴音って子はよっぽど私の弟(ウェイル)に惚れてたんサね。

でも、悪いことをしてるのは自覚はしてるよ、アンタとは逢わせることは今はしたくない。

 

…ことさらに泣かせてるのは私たちのせいかもしれないね。

隠し事をするのって、存外にもつらい話サね。

生死にかかわってる話だと、尚の事…。

 

日本では、織斑 一夏(イチカ オリムラ)は故人として扱われている。

第一回 国際IS武闘大会モンド・グロッソ。

その第一回戦の…最終試合だったか、織斑 千冬が出場したその日、織斑 一夏(イチカ オリムラ)の誕生日だった。

その日の朝に誘拐され、モンド・グロッソがあの女の優勝で終わってからしばらくして、実弟の葬儀が身内や近親者だけで執り行われた。

その情報もすでに私は把握している。

 

そう、情報は徹底的に調べ上げた。

細かく、詳しく、より詳らかに。

どんな環境を生きてきたのか、どれだけの逆風に切り裂かれてきたか。

あの女よりも深く識った。

どれだけあの女が不干渉を貫き、どれだけ無関心なのかも識った。

 

誰よりも深く識った。

実兄こそが、迫害を巻き起こし、煽り続けていたのだと。

 

だけど、私は違う。

あの女とは違う。

 

「アリーシャ先生?

なんか、怖い顔になってますよ?」

 

「女性に向かって怖い顔とは言い過ぎサウェイル?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

言うだけ言ってウェイルはテラスから厨房へ走っていく。

どうやらご両親が仕事から帰ってきたらしい。

 

「…私はそんなに怖いサねシャイニィ…?」

 

「にゃぁ?」

 

コンパクトを開いて自分の顔を見てみる。

普段と変わらない顔が映っていた。

…今後は気を付けるとしよう。

 

 

そのまま夕飯も美味しく頂き、一緒に食器洗いもしてから私はハース家を後にした。

 

ちょっと寒くなってきたこの時期、気まぐれにいつもの釣り場に視線を向けると居るわ居るわ…。

見慣れたオッサン(国家元首)オッサン(マフィアのボス)オッサン(警察長官)に追加して、オッサン(新聞社社長)オッサン(小学校校長)オッサン(国家元首補佐)オッサン(国家元首宰相)オッサン(ヴェネツィア市長)

ウェイルに釣りについていろいろと教えたらしいオッサン衆が勢ぞろい。

飽きないんサねぇ、あのオッサン共。

 

夜釣りにワイワイ騒いでいるオッサン共を無視し、私はあの日にも気まぐれに通った通りへと足を向けた。

 

「どうせ見てたんだろう、アンタは?」

 

ポツリと一言。

風がざわめくのを確かに感じた。

それは、あの日と同じ。

 

「うん、見てたよ」

 

この声を聞くのは二度目。

私の目の前で、自らの右腕を斬り落とした女の声だった。

 

「どこの回し者サね?

鼻が効きすぎだろうサ」

 

「日本の暗部、悪気は無いらしいけど、知りたがりらしくってね。

でも情報は何も掴ませなかったから」

 

この天災兎め、仕事が早いサね。

 

「お礼は要らないよ、あの子の笑顔が見れたから」

 

「だけど、それは私たちの罪科でもあるのは自覚してるサね?」

 

「うん、識ってるよ」

 

たった一人の笑顔のために、誰かの笑顔を奪い、絶望と悲嘆を押し付け、幸福を踏みにじっている。

私たちのやっている事はエゴの塊でもある。

あの女と、その弟がやっていることそのもの。

 

だけど、迷いは無い。

 

これは、私たちがやり遂げると決めた道だから。

 

「同じじゃないよ。

少なくとも、誰かに不幸を押し付けているのは同じかもしれないけど、それをみて嘲笑ったりなんてしていないし、する気にもならないから。

罪を罪として受け入れ、自分の胸の内に刻み続ける。

もしも真実を知られようものなら、命を以て贖う覚悟もしてる」

 

「それくらいは私だって自覚はしてるよ。

だけど、『守る』ってのは、『命を差し出す』ことじゃないだろう。

『命で支払う』ってことでもない。

『共に在り続ける』ってことサ」

 

「それもそうだね。

…じゃぁ、またね」

 

一応、これで一時的には脅威は失われたと見るべきかもしれない。

あの天災兎め、行動が早いというべきか、暗部は知識欲が貪欲と言うべきか。

これからも警戒は続けておこう。

 

「さぁ、行くよシャイニィ。

せめて後始末くらいしとかないと、姉としてみっともないからサ」

 

「にゃぁん♪」

 

遠路はるばるご苦労サね。

だけど、後悔しな。

 

「行くヨ、大旋嵐(テンペスタⅡ)

 

周囲に気配を隠そうとしている奴が幾つか。

まとめて海に放り込んでやるとするサ。

 

そうだ、私はあの女とは違う。

同じになっちゃいけない。

私は弟も妹も守る。

大切だから、失いたくないから、家族だから、私が姉だから。

 

「識ってるサね、織斑 千冬?

何故、兄や姉が先に生まれてくるのか?」

 

私はその答えを見つけている。

だから、その答えを魂に刻み込んだ。

 

右手に刃を、左手に銃を。

他者を傷付け、命を奪う以外に使い道の無い兵器だ。

だけど、滅ぼす力も、盾にして使える。

アンタはそれを辞めた。

そこが私とお前の違いだ。

 

「叩き潰す!」

 

夜風を浴びながら、私は羽ばたいた。

 

 

 

 

「お、やってるやってる、関心サね」

 

市内のプール施設は、この時期には温水プールに切り替わっている。

その端でウェイルがクロールで泳いでいるのが見えた。

泳ぐペースは一応人並み。

50m泳ぎきったらしく、レーンを仕切るロープに寄りかかって荒い息を繰り返す。

メルクは…隣接するレーンを泳いでいるのが見えた。

 

「本当に…頑張ってるサね」

 

息が整ったらしく、壁を蹴ってまた泳ぎだす。

さて、私も泳いでみるか。

 

軽く準備運動をしてからプールに飛び込む。

20m程で追い付いた。

ちょっとからかってみたくなって、潜水をしてからロープをくぐる。

真下からウェイルと視線を重ねてみた。

 

「ぶぼぉっ!?」

 

あ、一気に息を吐き出した。

 

 

 

20秒後。

 

「げほっ、げほっ、ごほっ!」

 

水を飲んでしまったのか、かなり噎せてた。

メルクもすっ飛んできて、ウェイルの背をポンポンと叩いている。

 

「何やってるんですか、アリーシャ先生」

 

「ちょっとした遊び心サ…そこまで反応するとは思ってなかったサね」

 

ウェイルはまだ背を向けたまま。

反省はしてる。

真面目にしてる人をからかうのは良くないね。

 

「アンタも泳ぎが上手になったサね。

同じ学年でも、あれだけの距離を一気に泳ぎきる人はそうそう居ないサ」

 

「私もお兄さんも、まだまだアリーシャ先生には追い付けないですよ」

 

メルクも謙遜し過ぎサ。

おや?メルクの視線が少し冷たいサね。

 

「市営のプールにそんな水着を着てくるなんて…」

 

その呟きに自分の体を見下ろしてみる。

 

さて、私の姿と言えば、髪に合わせて茜色のビキニ。

自分でも比較的に気に入っているものだけど

 

「ちょっとキツくなってきたサね…?」

 

胸が。

 

「私だって…私だって、あと何年かすれば…!?」

 

メルクの呟きと、ウェイルのひきつった顔が印象的だった。

その後はと言えば、私のコーチングで二人に水泳の指導。

ウェイルは体力と筋力も付き、同級生の間でも筋肉質になってきている。

 

メルクはと言えば、体が引き締まってきている。

代表候補生に近付いてきてるだろうサ。

 

「まだまだぁっ!」

 

「私だって負けません!」

 

二人して泳ぎで競争になってきてるのは…まあ、いいか。

アンタ達、無茶はするんじゃないヨ。

 

クロールからバタフライ、背泳ぎから平泳ぎと、随分とフリーダムな競い方だね。

…海でも平然と泳げそうサ。

 

そんな無茶な事をしていたからか、夕方には二人揃ってヘロヘロだった。

水着やタオルケットを入れた鞄を肩に、ウェイルはメルクを背負って歩いていた。

 

「俺やメルクと一緒に泳いでたのに、なんでアリーシャ先生はそんなに平気でいられるんですか?」

 

「鍛え方の違いだろうサ。

ウェイルも同じようには成れると思うサね」

 

「だったら良いな…」

 

とはいえ、ウェイルにとっては水泳は趣味の範囲らしいし、本格的になれるかは努力次第だろうサ。

けど、体を壊すような事はさせたくないね。

 

うーん、それはそうとして…

 

「ウェイルは、胸の大きい女の子が好きなんサね?」

 

「な、何をいきなり訊いてくるんですか!?」

 

メルクが自分の胸に手をあてている時、ウェイルは顔がひきつっていた。

私と視線が重なると目を反らす。

これが男の子の反応ってものだろうサねぇ、シャイニィ?

 

「す、少なくとも、大小で女性の良さが決まるものじゃないかと…」

 

「ふぅん?」

 

「そ!そもそも!

俺はそんな事、考えた事が無いですから!

一般論ですよ!一般論!」

 

ふぅん、一般論ねぇ。

 

こういう事で狼狽えるとは、ウェイルはウブだねぇ。

メルクは…本当に眠っているらしく反応もしてない。

 

「俺はバカなんですから、そういうの訊かないでください」

 

「ウェイル個人の話を訊いてみたかったのサ」

 

この場で一般論を言えただけでも、男の子としては標準的なのだろうか?

露骨な反応してたら…ビンタの一発はしてたかも。

流石に子供にそれは理不尽か。

自分の事をバカなどと言ってるみたいだけど、それは辞めてほしい。

アンタは努力家なだけだろう。

 

「なら訊かせてもらうけど、…私のスタイルはどう思う?」

 

「…えっと…」

 

答えに困ってるらしい。

露骨に反応してないだけよろしい。

 

ちょっとお姉さん振り過ぎたサね。

 

「あ、アリーシャ先生らしいかと…」

 

悩みに悩んでその答えが漸く捻り出せたサね。

ふぅむ、私らしい、ね…?

曖昧な言葉だけどそういう年頃なんだろうサ。

ウェイル程の男の子には難しいかね。

でも、何年か経ったら頼り甲斐が出てくれればいいサね、期待してるよウェイル。

 

「じゃあ今日の夕飯はアリーシャ先生が作ったげるよ。

メニューは何にしようサね、テリーヌも良いし、シュー・ファルシにもしたいサね。

ウェイルは何が食べたい?」

 

「じゃあ…ミネストローネを」

 

ミネストローネ、野菜や豆類なんかを入れたスープ。

簡単に出来るけど、なんでそのメニューなんだろうサ?

私が簡単な料理しか作れない安い女、とか見られてるのなら怒るよ?

 

「入院していた頃、普通の食事が漸く出来るようになって、初めて食べたのが、アリーシャ先生が病院で作ってくれたミネストローネだったんです。

スープでも、格別に美味しく思えたから、またご馳走になりたいと思ってたんです」

 

「嬉しい事を言ってくれるサね。

なら、気合いを入れて作らないとね」

 

弟妹(きょうだい)の為なら、存分に腕によりをかけよう。

 

その日の夕飯はハース家で、鼻唄混じりに料理を作った。

お袋さんも色々と教えてくれて、あの頃よりも美味しいミネストローネを作れたと思う。

ついでにコトレッタも作ろう。

カプチーノは親父さんからも絶賛、シャイニィも御機嫌そうサね。

これからも気紛れに料理を振る舞ってみるのも悪くなさそうサ。

 

「こういうのも、やっぱり悪くないサね」

 

ウェイルとメルクは私が作ったミネストローネを夢中で食べてる。

でも、やっぱりウェイルのほほえみはどこか硬い。

どうやったら固まった表情筋をほぐせるんだろうね…。

 

 

 

その夜、私は二人のおふくろさんに推しきられて泊まることになった。

シャイニィは、ウェイルによるブラッシングを受けている。

よほど気持ちいのか、目を細めてる。

 

「ウェイルは、将来どんな仕事をしたいのか、考えたことはあるかい?」

 

「将来、ですか…。

メルクがISの搭乗者として、国家代表になったら、そのサポートをするエンジニアになりたいと思ってます」

 

うん、それは知ってる。

その先駆けの一歩としてか、この家の中では扇風機を直したり、テレビのリモコンを直したりと家電修理にいそしんでる。

釣りの腕?どうでもいいサね。

海鮮料理のレパートリーが広がって、お袋さんが大喜びしてるけど爆釣も大概にしてほしい。

 

「…ISって何のために開発されたものかは、知ってるよね?」

 

「…えっと…宇宙進出の為…でしたっけ…?」

 

うん、大雑把に言ってしまえばそんな感じ。

 

「今、ISがどんなふうに開発されているか、それも覚えてるかい?」

 

「…はい」

 

スポーツだの競技だのと名目はされてはいるが、その実態は兵器。

自分と他人を傷つける以外に能の無いものだ。

『誰かを生かす』などという選択肢を持たないような輩が跳梁跋扈しているのがこの時代だ。

世界中の人間は、生まれる時代を間違えた。

事強くいうのであれば、ウェイルはそれに輪をひっかけて生まれる場所すら間違えた。

 

「兵器はどんな風に使われるのか、考えた経験は?」

 

「…ぁ…」

 

私もその力を先日使ったばかり。

『守る』と言っても、結局は『暴力』だ。

『誰かの代わりに自分がやった』という免罪符を利用しているに過ぎない。

 

「よく考えてみな」

 

「…はい、でも、俺はバカだから答えが見つかるかは…」

 

「なら、答えを見つけることを生き甲斐にしてみればいい」

 

この言葉は、一つの生きる道をつぶしてしまうことになったりするかは不安だ。

もしも、なんて都合のいい言葉になるかもしれない。

それでも、この子たちには自由に未来を選ばせてあげたい。

 

「IS、か…一人で飛べるから、沖合に出て釣りとかできたら楽しそうだし、平和的だと思うけどな…」

 

……………ISで釣り、か。

また妙な形になりそうなことを考え付いたもんサね。

メルクの専属スタッフにでもなったら釣竿を持たせようとして不安になるのは何故だろうねぇ。


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