IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q,『ラニ・ビーバット』の名称ですが、これもまたイタリアの言葉か何かですか?
P.N.『匿名希望』さんより

A.いえ、イタリア語ではなく、ただ単純なアナグラムです。
カタカナ表記で文字の順番を入れ替えると『ラビット』『バニー』の二つから構成されているというわけでした。

今回もまた新しい兵装が登場します。
先にも名が出ていた『ミネルヴァ』の御開帳!


第73話 梟風 散り舞う

「はい、判りました。

ではご指示通り来賓席で試合を見させていただきます」

 

唐突に来訪したというウェイルのお姉さん、ヘキサ・アイリーンさんは話の判る人物のようで、2回戦以降は学園がアリーナに設置している来賓席に向かうことにしたらしい。

ティエル先生も話を通してくれただけ柔軟性に富んでいるらしく、今回のトーナメントにおける来賓シャットアウト制度の中で、ヘキサさんとクロエはあっさりと案内に従って来賓席へと歩いていく。

 

「それで、クロエって娘は何者なのかしら?」

 

「俺達としても本当に初対面だから詳しいことは知らないよ」

 

先に説明してもらった『ラニ・ビーバット博士』なる人物に関しても胡散臭いことこの上ないし、あのミステリアスな雰囲気はどうにも首を傾げざるを得ない。

でも、悪い人物ではない…とは思いたい。

底が見えないから判らないけど、その点は信用しておこう。

 

「じゃあ、俺とティナはそろそろ試合だから行ってくるよ」

 

「ボーデヴィッヒさんにどれだけ匹敵できるかは賭けだけどね!」

 

はいはい、応援したげるわよ。

ウェイルの白衣をメルクが預かると、それ以外の衣服は燐光と一緒に拡張領域へ収納される。

燐光が収まるまでの0.1秒でウェイルはISスーツへと着替え終わっていた。

制服の下にISスーツを着込むのは私でもしてるけど、一瞬で衣服を収納させるのは容量の有効活用とも言えなくはないし…兵装を多く入れる人からすれば好まないと聞くけど…ウェイルはそこのところはさして深く考えてないのかしら…?

授業でも何回か目にしているけど、ウェイルのスーツはダイバースーツのように全身をくまなく隠している。

オーシャンブルーのスーツから肌が出ているのは、指と首から上だけ。

そして左胸には『FIAT』のエンブレムが刻まれている。

 

「で、メルク…アンタは何をやってるのよ?」

 

私の隣に立つメルクは…ウェイルの白衣をまるで自分のもののように羽織っていた、このブラコンめ。

 

「えっと…手に持っていくより、こっちの方が良いかな、なんて…」

 

「いろいろと工具を突っ込んでいるからな、確かに手にもって移動するより着たほうが軽い…か?」

 

「ウェイル君、そこは確信をもって言おうよ…」

 

ばつが悪くなったのか…

 

「来てくれ、嵐影(テンペスタ・アンブラ)

 

ウェイルは機体を展開する。

暗い紫の装甲と、目元を覆うバイザーによって表情が見えなくなった。

多分、表情を隠すためだけに展開したわね。

ふ~ん、都合が悪くなったら表情を隠すのね…ウェイルの新しい一面を見られたかも。

それでもさ、自分の服を自分以外の誰かが着てることを笑って見過ごせるってどうなんだろう?

ここは試しに

 

「鈴もウェイル君の白衣を着てみたいの?」

 

そこのホルスタイン!私の心の中を読むんじゃない!

 

「駄目です!」

 

そしてメルクは私が返答する前に拒絶するんじゃない!

変なところでコンビネーションを見せるんじゃないわよ!

 

「仲が良くて結構だが…ティナ、そろそろ試合の時間だ。

用意をしてくれ」

 

「ハイハ~イ♪」

 

ティナもテンペスタⅡ訓練機4号を身に纏い、両手にアサルトライフルとサブマシンガンを握る。

昨日の対戦時と同じく射撃メインでの予定らしい。

フォーメーションとしては、ウェイルが近接戦闘を行い、ティナが援護射撃を行う。

そんな所だと察した。

ティナはウェイルが考えた策で、全輝を圧倒していた。

第二世代機が第三世代機を超える事が出来ないと言われていたのに、作戦を用意し、潤沢な手札を使い、全輝を打倒した。

ウェイルが全輝を打倒したのは今回で二回目。

だけどウェイルはティナに花を持たせるために冒頭と最後の一撃をティナに任せていた。

ティナが国家代表候補生を目指しているのを知ったから、功績を作ってあげたんだろうとは思う。

 

まあ、最後の辺りは切り札を使ってまで切り刻んだんだから、それなりの鬱憤が溜まっていたんだろうけど。

 

そんなことを考えていたらティナ達はピットから飛び立っていった。

 

「…相手はドイツ製の最新鋭第三世代機、ウェイルは勝てるのかしら?」

 

「勿論です」

 

「根拠が無いのに自信満々ね、第二世代機で第三世代機で超えるのは難しいのは知ってるでしょ?

あんな作戦はそう何度も…」

 

「機体の世代型ではなく、作戦や兵装、その使い方にも色々とありますから♪」

 

先ほどまでティナとウェイルが整備室で話をしていた『ミネルヴァ』とかいうのがそれなんだろう。

けど、兵装の一つだけでそこまで圧倒できるものなんだろうか?

 

「ねぇ、あのデカい盾のようなもので一体何を…?」

 

「あれはですね、最新の『対人(・・)兵装』です」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

俺達がアリーナ中央の宙域に到着する頃には、既にボーデヴィッヒは待ち構えていた。

その後方にはシャルロットがサブマシンガンを両手に握って控えていた。

 

「待ちかねたぞ、お前との試合を」

 

「…タッグ制ってのは理解してるよな?

隣に居るティナは眼中にもないのか?」

 

「……よく見てみろ、私のパートナーと談笑に走っているぞ」

 

…は?

 

言われてから視線を向けると、なるほど確かに。

シャルロット相手に何やら談笑に浸っている、…筈なのだが…笑顔で火花散らせてないか?

何を話しているんだ、この二人?

 

「碌でもないことになってなければ良いんだが…」

 

まあ、望みは薄いだろうなぁ。

そう思いながら聞き耳をたててみる。

 

「紅茶がコーヒーなんかに劣るだなんて思わないけどなぁ、コーヒーなんてそれこそドブ水みたいなものじゃないか」

 

「コーヒーの旨味の深さがわからないなんて舌が貧相ねぇ、苦みと美味しさと香りの三位一体は紅茶じゃ味わえないのね、お子様舌は」

 

コーヒーと紅茶のはどちらが上かの論争か。

これはこの舌戦が終わりは無さそうだ、もう勝手にやっててくれ。

 

「ウェイル君はコーヒー派よね!?」

 

「ラウラは紅茶派だよね!?」

 

かと思えばこっちに火種を投げつけてきやがった。

思い返してみる、父さんはコーヒー、母さんは紅茶を愛飲していた。

そして姉さんとメルクは…

 

「「ミネラルウォーターだ」」

 

俺とボーデヴィッヒの返答が見事に重なった。

そうか、お前も同じなのか。

俺は火種を大きくされても困るから妥当な返答をしただけだったが、まさか同じ答えを用意してくるとは思わなかった。

 

「飲食と言ってもな、栄養を最低限度接種できればそれで良かろう?」

 

「先日日本のお菓子を食べまくってた人のセリフとは思えねぇ…」

 

ハムスター状態のボーデヴィッヒを思い返すだけでも、同じ人物とは到底思えないぞ。

 

「ボーデヴィッヒ、以前から思っていたが、お前は食生活を見直せ」

 

「むぅ…」

 

なぁんか、試合の直前とは思えぬほどに空気が白けてきたな…。

 

「気を引き締めなおすか」

 

「それもそうだな」

 

俺は両手にウラガーノを展開し、リング型のグリップを握る。

ボーデヴィッヒは両手の甲の部分からブレードが出力される。

なるほど、あんな兵装が存在するのか、あれなら兵装を新たに展開する必要もなく、兵装の重量に悩まされる事もないだろう。

文字通り、手の延長線として扱えるのだろう。

遠目で見た感じだとナイフでも持っているのかと思ったが…。

 

いや、相手は第三世代機だ、油断は出来ない。

 

「シャルロット、舌戦はそこまでにしろ」

 

「ティナ、気を静めろ、時間だ」

 

試合開始時間の3秒前だ

 

2

 

1

 

ゼロ!

 

『ミネルヴァ』は…もう少し後で使う予定だ。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ウェイル・ハース

話は評判と悪評の両方を幾度も耳にした。

会話は幾度か繰り返した。

その結果、分かったのは、平凡な人物ということ。

そして技術者になると決めており、学園に在籍している間からいろいろと機械に触れて回っているとも耳にした。

本人は気付いていなかったかもしれないが、私も幾度か目にしている。

 

悪評に関しては真偽を確かめようとしてみた事もあったが、所詮噂は噂でしかなかった。

そしてその噂を流していたのが織斑全輝でウェイルに対しての悪意を以ての行動だということも理解した。

それに比べて、眼前で槍を振るうこの男は…どうにも真っすぐだ。

 

「やっぱり強いなぁ、ボーデヴィッヒは…!」

 

「ふん、この程度では私には届かんぞ?」

 

プラズマ手刀で槍の穂先を弾き、掌をテンペスタⅡに向ける。

とたんにウェイル・ハースは一気に距離を開いた。

 

「…AIC(慣性停止結界)のことは理解しているようだな」

 

「ああ、映像で何度も見たからな。

合同授業の時には敢えて使ってなかったんだろう?」

 

…正解だ、合同授業で見せてもよかったのだが、あれを使えば他の生徒の学ぶ気も失せると担任からウンザリするほどに言われてしまっていたからな。

だから、こういうトーナメントのような公式戦、そして強者といえる相手にのみに限定した。

私の力を見せつけるために、他者の可能性を踏み潰すのも良くなかろう。

そう思い至ったからだ。

 

「当然だ、だが本気を出していないのはお前も同じだったろう?」

 

槍が変形し、左手の槍はアサルトライフルに変形、右手の槍は、籠鍔からハンドガンの銃身が飛び出す。

そこから鉛弾が吐き出されるが、AIC(慣性停止結界)の前では無力。

私の掌の少し前で運動エネルギーが失われ、その場に浮いたままになり、それで終わりだ。

 

「本気を出していなかったんじゃない、本社から使用許可が出なかったんだ」

 

「それは…建前(・・)だろう?」

 

表情はバイザーに隠れて見えない。

だが、これは私としては確信でもあった。

なら、今回のトーナメントになってから使用したのには別の理由があるはずだ。

 

「まあ、それはそうなんだがな…本当は隠していた(・・・・・)だけだ。

メルクの為にってことでな」

 

身内を理由にしたか。

まあ、今回はそれで納得しておくとしよう。

 

だが奇妙だ。

この試合が始まって以降はまだあの副腕を一度も展開していない(・・・・・・・・・・)

 

ドォンッ!ドォンッ!ドォンッ!

 

「ちぃっ!爆発弾か!手数が多いなお前はっ!」

 

「悪いね、正攻法では勝てないと思っていたから手を変え、品を変えていくしかなかったんだよ!」

 

確かにそうだろうな。

正攻法だけで、真正面から打ち合うだけで私を倒せるなどとは思ってもいないだろ

 

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ――――…………

 

「っ!?」

 

突如として耳を劈く不快な不協和音。

それのより私の集中力が落ちた。

 

「な、何の音だ…!?」

 

AICを発動させながらも周囲を確認する。

 

コンッ!

 

それは、私の足元に転がってきた。

 

ボシュンッ!

 

「煙幕かっ!」

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

 

銃撃音が前方と真上から聞こえてくる。

 

「シャルロット!」

 

「判ってる!」

 

弾幕が片方だけ途切れるのが判った。

もう一方からは銃声と…なんだ、この音は…?

 

牙を剥け(・・・・)!」

 

嫌な予感、ただその直感に従ってAICを両手で(・・・)展開させる。

 

ドォンッ!!!!

 

刹那、煙幕を突き抜けながら襲ってきたのは真紅の槍(・・・・)だった。

 

「クゥッ!このぉっ!」

 

慣性停止結界で止めた…筈なのに…

 

「…!?…なん、だ…コレは…!?」

 

両腕の装甲には既にパワーアシストが全開で振るわれている筈なのに…結界で止められない物など無いはずなのに…止まらない…!

ありえない、AICによる慣性停止は作動されているはずだ!

なのに、なぜこの槍の推進が止まろうとしない!?

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「ラウラ!」

 

手を変え品を変えの戦法に翻弄され続ける。

普段の授業でもそうだけど翻弄をするのは僕の側なのに、ティナ・ハミルトンに翻弄され続けていた。

 

「行かせないわよ!」

 

ラウラと合流しようとした瞬間に回り込んできてまで射撃を繰り返す。

合流は本来作戦の中には含まれていなかった。

それを見越していたのか、ティナ・ハミルトンは射撃の途中に幾つかの手榴弾(グレネード)をラウラに向けて投げた。

一つ目は音響手榴弾(ノイジー)、二つ目は発煙手榴弾(スモーク)

そんな骨董品のような兵装を使うだなんて思わなかった!

 

「どんな作戦を立ててるのさ!?」

 

「勿論、学年最強と言っても過言では無い、ボーデヴィッヒさんを打倒するための作戦よ!

私の今回のお仕事は牽制だったんだけど♪」

 

ガチッ、ガチッ

 

ハミルトンさんの両手の銃の弾丸が切れた!今が好機!

ブレード『パン切包丁(ブレッドスライサー)』を右手に、左手にはシールドピアースを構え、一気に肉薄する!

 

「勝たせてもらうわよ!」

 

両手の銃を指先で一回転、そして

 

ドォンッ!ドォンッ!

 

「なッ!?」

 

「これもウェイル君が用意しておいた秘策の一つってね♪」

 

手強い…!

今までフランスの中に閉じ籠っていたから、世界の広さを知らなかった。

こんなにも強い人が居るだなんて…!

 

「まだまだ行くわよ!」

 

右手のアサルトライフルから着弾と同時に爆発する弾丸が、左手のサブマシンガンからは通常の鉛弾が。

それは理解できているけど、そろそろ物理シールドが耐えられそうにない!

 

「あと何発耐えられるかしら?」

 

「このままやられるくらいなら!」

 

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ――――…………

 

…ッ!?

また、音響手榴弾!?

 

「盾じゃ、音は防げないのは判ってて…!」

 

まずい、平衡感覚が…!

 

「防音設定を予めしておかないからそうなるのよ」

 

ドドォンッ!

 

爆発弾は盾でギリギリ防げた…!

右手の銃は…ダメだ、破損してる。

だったら次の銃を…!

 

ドゴォッ!!!!

 

背中からの衝撃

 

「カハ…ッ!?」

 

見えたのは、深紅の槍(・・・・)だった。

ありえない、この槍はラウラに向かって投げられた筈。

それがどうして…

 

「すまんシャルロット!止めきれなかった(・・・・・・・・)!」

 

…嘘でしょ!?

あの投擲槍(ジャベリン)、どれだけ推進力があるのさ!?

 

「チェックメイトッ!」

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!

 

両手の銃が一気に鉛弾を吐き出してくる。

ボロボロにされたシールドは一瞬で粉々にされる。

背面からは食い破ると言わんばかりの投擲槍、真正面には乱射狂(トリガーハッピー)って…!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「予想外だよ、『クラン』の軌道を反らすだなんてな」

 

音響手榴弾と煙幕の奇策、そこに狙って放ったクランの一撃。

とっておきの奇策だったんだけどな、それでもボーデヴィッヒはAICでクランを受け止めた。

慣性停止結界を両手で展開したが、それでもクランは勢いを止めなかった。

結界を食い破るといわんばかりに推進力を見せてくれた。

止め切れないと判断したのか、ボーデヴィッヒは仰向けに体を反らした。

それによってクランの軌道角度がわずかにそれ、その先に居たシャルロットに喰らいついた。

ここまで計算されていたのかは知らないが、それでも兎も角、シャルロットはSEが枯渇して戦線離脱となったのは重畳だ。

 

「驚いたぞ、あのような兵装も、授業でも使ったことがなかっただろう?」

 

「当たり前だろう、とっておきの槍だったからな」

 

「だが、私とてまだ切り札は…出し切ってなどいない!」

 

右肩のリボルバー・カノンの砲口が俺に向けられる。

それを視認した直後

 

「ティナ!『ミネルヴァ』起動!」

 

「了解!」

 

真上方向への瞬時加速(イグニッション・ブースト)

一瞬後、俺が立っていた場所で爆発が起きる。

 

怖ぇ、あんな威力が出る代物だったのかよ!

だが、ここからはこちらから…圧倒してやるよ!

 

「なん、だ…コレは…!?」

 

ボーデヴィッヒの周囲を莫大な数のソレ(・・)が飛び回っていた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「やっぱり、最後の切り札を使うことになりましたね」

 

ティナさんの両腕に新たに展開されたマガジンから大量のソレ(・・)が次から次へと射出されていく。

ボーデヴィッヒさんはAICで対抗しようとしていますけど、その間にも背面から取りつかれていく。

 

「な、何よあれ…?」

 

やっぱり鈴さんも驚いてますね。

 

「我が国は、先の対抗戦以降テロリストが国内へ侵入しようとしていました。

国境線上でギリギリ食い止める事は出来ていましたが、万が一、国内に侵入されてしまった場合のことも考えていたんです」

 

「そりゃぁ、そういうことも考えるわよね…」

 

左ひじの関節に貼り付き、そのまま動きが封じ込められる。

プラズマ手刀で一つ、また一つと切り裂きますけど、そんなものでは到底間に合わない。

 

「万が一、それもさらに最悪なパターン、民衆を巻き込んだ暴動になってしまった場合、それを鎮圧をするのは物理的には難しいです。

だから、それが出来るようにする方法が命題になったんです」

 

お兄さんもまた槍を手放し、ティナさんと同じようにマガジンを展開し射出していく。

射出されたソレ(・・)は、既に400近くにまで数を増やしている。

足の動きを止め、関節を固め、ワイヤーブレードすら絡めとり、その射出口を塞いでしまう。

リボルバー・カノンの弾丸装填部位を塞ぎ、ラウラさん自身の動きすら封じ込めてしまう。

 

「先にも言った通り、あれは『対人(・・)兵装』です。

その固有名称は《暴徒鎮圧用電磁吸着ブーメラン『ミネルヴァ』》」

 

ローマ神話に伝わる『知慧の神』の名前を借りているのは少々大げさかもしれませんけどね。

でも、これなら広範囲に一斉に拡大させ、極力無傷で暴徒を捕獲が出来ます。

そして、開発コストも高くなく、量産も可能であり、替えが効く。

 

「すっご…あのラウラが簀巻き状態じゃん」

 

両腕を固められ、リボルバー・カノンも銃口と回転弾倉が塞がれ、ワイヤーブレードも絡めとられ、背面スラスターも完全に塞がれてしまい、もはや行動不能。

それにもかかわらず、次々とフクロウの軍勢の如く飛び交い、吸着していく。

それでも、あの兵装にも欠点が生じているのも事実。

ミネルヴァを使用するにあたり、お兄さんは今回はアルボーレの使用を断念している。

ミネルヴァの照準補正のために、アルボーレに使用する情報演算処理リソースを全てミネルヴァの為に費やし切っている。

クランの軌道が反らされてしまったのも、クランのための照準補正を切っていたからでした。

 

「お兄さんがラウラさんを打倒するにはコレを使う以外にありませんでした」

 

「いや、充分でしょ…」




暴徒鎮圧用電磁吸着ブーメラン『ミネルヴァ』
ローマ神話に登場する名高い知慧の神の名を冠する特殊兵装。
殺傷力は殆ど無いが、それを補って余りある捕縛能力を有する。

分類としては『対人兵装』になる。
大型の楯のような筐体は、電磁吸着ブーメランを収納する為のマガジンとなっている。
照準補正、行動演算に関しては本来は大型特殊車両に搭載させたスパコンを使用するのだが、今回はそれをISの演算処理リソースの全てを使い切っている。
なお、今回のトーナメントに限ってはティナに花を持たせるために、テンペスタ・アンブラの演算リソースをティナのために幾分か融通し、ティナが使用するミネルヴァの性能向上に貢献している。
その為に、ミネルヴァを展開している間はアルボーレの展開と使用が出来なくなっている。
逆に、アルボーレを起動、展開すればミネルヴァの筐体を投げ捨てる形となり使用不能に陥ることになる。
本来の使用用途を鑑み、正式な分類は『特殊車両搭載型対人兵装』になる。

運用システムについては、イギリスから押収されたBTシステムを改良されたものを使用している。
『ISは女性のみ稼働可能』
『BTシステムを使用出来る人間は限られ、使用法も搭乗者に依存する』
この二点から、このシステムは『あらゆる兵装運用システムの下位互換でしかない』と判断され、『汎用性に富んだ』現在のシステムに切り換えられた。
その反面、特殊車輌への搭載など、外部筐体を要求される事にはなっているが、今後は筐体小型化の開発計画が推し進められている。
なお、後年に汎用性に富んだものが、ある目的で使用される事にもなる。

考案者はウェイル・ハース。
飛行機の翼を見て思い付いたというのが本人の談。
それをFIATとビーバット博士により改良されたのが、今回の代物となっている。

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