IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第70話 白風 戸惑う思い

敗北を喫した。

それもこれで二度目の敗北。

その現実に彼の心は荒波のように荒れ狂っていた。

昼休み以降の時間はレポート作成時間ということになっていたが、彼は自室で勉強机に突っ伏していた。

荒れ狂いそうな自分の現状にさえ腹立たしかった。

 

「あんな手を隠していたのか、アイツは…!」

 

クラス対抗戦での対戦を映像化させたそれを何度も繰り返し見続け、『右側からの反応が遅い』という可能性にまで辿り着いた。

そこを突けば勝利に…叩き潰す事にも大きく近づくとさえ思っていた。

だが、それを補って余りある手段を使ってきた……否、事前に用意し、隠し続けていた。

今まで手札を伏し続けていた。

今日、この日まで数ある手札を伏せ続けるその思考までは予想など出来うる筈も無かった。

絶対防御に衝突してもなお推進力を失わず、SEを抉り続けた『クラン』に最も警戒した。

投擲にさえ反応出来ればと思っていたが、それすら出来なかった。

 

問題はそれだけですらなかった。

 

第3世代機が、第二世代型量産機によって遅れを取ったという点だ。

そして、一般生徒にすら手玉に取られてしまったという現状だった。

その情報は既に多くの生徒達に広く知れ渡ってしまっている。

今後は、他の生徒達にも当時の映像データが出回り、全輝と白式に対しての対戦用の資料として多くの生徒達に刷り込まれるだろう。

そうなれば…『もう誰にも勝てない』という現実がそう遠くない現実として彼の心に降りかかる。

 

「このままだと…!」

 

『敗北者』だけでなく『最弱』の汚名が着せられる。

それは嫌だった。

自分こそが他者を踏みしだき、君臨する側であると、それが彼が自身に抱く自身の像だ。

その為に、他者を孤立させて追い込むようなことも平然とやってのけた。

他者を見下ろし、見下し、踏みにじるようなことも笑いながらやってのけた。

だから

 

見下ろされるなど耐えられない

 

見下されるなど、以ての外だ

 

そんな自分が、敗北など認められるわけが無かった。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「まさか、あんな腕を用意していたなんてね」

 

夜間、ウェイル、ティナ、メルクと一緒にアリーナで夜間訓練をしていた。

とうとうウェイルが隠し弾を見せたことで、ようやく夜間の合同訓練を一緒にしても良いと判断してくれたらしい。

 

「楯無さんからの助言だったんだよ。

企業側からの使用許可云々ていうのはブラフだったんだ」

 

そう言いながら、槍を構え対峙する。

鋭い刺突をいなし、次に来るのは右手の槍。

そこからさらに左手の槍で薙ぎ払ってくる。

対抗戦の時に使っていた朱槍と違い、今回の対戦で使っている槍は穂先が剣のような形状をしている。

『ウラガーノ』と呼んでいたその槍は、その真実は『槍剣(ブージ)』であり、アサルトライフルとしての性能も合わさっている。

右手で握っているそれにはハンドガン内蔵式だというのだから、トリッキーだと思う。

左手でライフル、右手でハンドガンって誰がそんな使い方をするんだか。

極めつけは、右肩から伸びている夜明け(アルボーレ)と呼ばれる外装補助腕だった。

 

「で、その腕はどういう仕組みなの?」

 

「これは後付兵装(イコライザ)だよ。

全自動(フルオート)で動くようにプログラミングされているんだ」

 

これもこれで頭が痛い話だった。

これまでウェイルはフルマニュアル操作で機体を巧みに操縦していた。

それは私もティナも知っている話だった、それなのに今ここになってフルオート操作を使用していると来るなんて誰が予想するかっての!

 

「で、何のためにそんな兵装を取り付けたの?」

 

外装腕が振るうブレードを下がって回避。

そこに合わせて下段からの槍による刺突。

ああ、本当に厄介で困る。

近接戦闘においてはウェイルはこの腕を合わせることによって戦闘力が爆発的に向上している。

刺突を避けたと思えば反対方向から爪先に仕込まれた杭が突き刺そうと迫ってくる。

なるほど、ブレード一つの全輝にとっては今のウェイルは完全に天敵(・・)だ。

たった一人だというのに、5倍の手数を使うということか。

そしてその搭乗する機体は『テンペスタ』、世界最速とも呼ばれている機体だから、相手に離脱を許さないって事か。

 

「姉さんが言うには、俺は右側からの反応が遅いらしくてな、それを補うものが必要になったんだよ。

だけど、姉さんが使っている機体もテンペスタだから近接戦闘の距離に追いつかれたら、離脱が出来ない。

そこで必要になるものを考えてみた結果、『近接戦闘が可能』『右側に対して優れた反応速度』、これだけの条件が必要になったんだ。

それで、アルボーレを搭載させたってわけだ」

 

そんな経緯であの腕が搭載されたのか。

しかも聞いた話だと、ウェイル自身の手によって搭載させたっぽいし、技術者としても腕が優れてきているわね…。

 

「姉さんって、今日来ていた『ヘキサ』さんよね?

あの人も搭乗者だったんだ…」

 

ここでいったん休憩を挟む事にした。

今はメルクとティナが対戦していて、量産機であるテンペスタⅡではメルクのミーティオには届かない。

対戦では歯が立たないということが判ったのか、高機動訓練へと趣旨が変わってきているけど、本人たちが楽しそうにやっているから、まあいいか。

私達はグラウンドの中央付近に持ってきたベンチに座って話すことにした。

視線を上に向ければ、星空と…高速で飛翔する2機のテンペスタが飛び回っている。

 

「『だった』と言うよりも『現役』だよ。

俺がアルボーレを搭載した直後には驚いていたよ」

 

そりゃそうなるでしょうよ。

私だってあの試合の中で驚かされたんだから。

メルクは知っていて当然として、多分だけどティナも知っていた筈。

 

「他に知っている人は居たの?」

 

「担任のティエル先生くらいじゃないかな。

楯無さんであればどこかからか情報を掴んでいるんじゃないかとは思うけど、どうだろうな?

だけど、それ以外に知っている人は居ないよ」

 

それだけ秘匿し続けていたってことか…。

今日の試合で誰もが驚いただろうからね…。

 

「それはそれとして、メルクのあの砲撃だって、アレは何なのよ?」

 

「メルクの持つレーザーライフル『ファルコン』を連結させた『レイヴン』か。

単純だけど、それだけに驚いただろ?

エネルギーを収束させて、射程距離と威力を上昇させる機構になっているんだ。

イタリアの最新技術だよ」

 

正直、あの瞬間のあの野太い閃光は『射撃』というよりも『砲撃』と言っても差し支えのないものに思えてならなかったけど、連結式ってそんな兵装を持ってたなんてねぇ…。

でも、まだあの試合に於いての疑問が残っている。

 

「篠ノ之のブレードを両手で挟んで止めたアレは?」

 

こうやって会話をしている間にもウェイルは両手の槍を鋭く振るってくる。

この槍術を叩き込んだ人はどんな人なんだか、…あ、ヘキサさんだと言っていたか。

 

「モーションサポートプログラム、その試作品だよ。

相手の特定動作に対して搭乗者が任意で起動させることで事前に組み込んでいた動きを行うものだ。

メルクが使ったのはそのプログラムの試作品だ。

織斑だけでなく、篠ノ之の情報もリークされていたから、プログラムの組み上げの練習の一環で作ってみたんだ」

 

この兄妹には驚かされるばっかりだわ……。

 

「篠ノ之の動きに合わせてのプログラムを組み上げるのは簡単だったよ。

アイツの場合、攻撃パターンは僅かに三つ(・・・・・・・・・・・・)

『右上段から左下段へ向けての振り払い』、『左上段から右下段へ向けての振り払い』、『大上段からの振り下ろし』だけだ。

水平の薙ぎ払いや、下段から振り上げる攻撃や、刺突の型が無いんだ。

だから攻撃自体は至って単調、対処も簡単だったからな、事前策も用意しやすい」

 

攻撃が単調、攻撃パターンがわずかに三つだけ。

そりゃ確かに事前対策なんて幾らでも用意出来そうよね。

そして用意した結果がアレか…。

まさか銃を上空に放り投げてからの真剣白刃取り…。

そんな動きをさせるプログラムを用意する側も、実際にそれを起動させる側も何を考えているんだか。

驚愕させられ続けるのもこれで終わりになるかなぁ、なんて思ってみるけど、どうせこんな願望は打ち砕かれるだろうと思う。

オマケに侵食兵装ってなによソレ?

機体に触れたら終わりって、ISの天敵のようなものじゃない?

訓練機を使用してる一般生徒が泣くわよ?

 

「だけどまあ、訓練機を使用する一般生徒相手には使わない方針でいるそうだ。

生徒の成長を著しく阻害するような事はしたくないってことだからな」

 

ならメルクは篠ノ之を一般生徒として見なしていないってことよね…?

変な処で苛烈だわ…。

 

「クロエって娘が言っていた『ビーバット博士』って誰なの?」

 

この質問に対してウェイルは…腕を組んだ?

何かあるのかしら?

 

「俺もよく知らないんだ。

イタリアに突然現れて、FIATに対して一方的に自身の技術力を売り込んで企業の協力者となった人物だそうだが…。

だけど、その人物像に関してはFIATの中でも噂話程度しか流れてないんだよ」

 

なんか…ものすごく胡散臭い話になってない?

 

「博士自身、人に姿を見せることが全く無くってな、容姿に関しても酷く曖昧なんだ。

『年若い男性』だとか『老婆』だとか、そんな噂話が流れてる」

 

どうしよう、胡散臭さがどんどん増してきている…。

そんな胡散臭さが天元突破しているような人物と契約しても大丈夫なんだろうか、FIATは…?

 

「容姿に関してはそんな曖昧な話が出回ってきているけど、『隻腕の人物』という点だけが噂話の中で共通しているんだよな…。

素直に言えば、俺も面識は無い」

 

なんか…雲をつかむような話だった。

ウェイルの身の上話に関してもメルクから聞いたけど、曖昧にされている所が幾つもあって、何を信じればいいのかわからないくらいだったし、どうにもどの話も信じがたいことばかり。

オマケに、明確な境界線を敷かれてしまった以上、思うように入り込めなくなってしまっている。

笑顔であんなセリフを言うんじゃないッ!

 

「疲れた…」

 

「お疲れさんだ、ティナ」

 

「お疲れ様です!」

 

テンペスタの高機動訓練はメルクに一日の長があり、ティナが疲弊してるのに、メルクはそんな様子が見られないのは、驚くべきことか、それとも呆れてしまうべきか…。

 

「ティナの操縦技術はどう見てる?」

 

「追加スラスターを導入しているからか、速度も思った以上に出せるようになってますね。

お兄さんとの訓練もあって、動きも悪くありませんね」

 

「あはは、思った以上の高評価は嬉しいけど…ちょっと休ませてね…」

 

メルクの指導が厳しかったのか、そのままウェイルに寄りかかる形でティナは…うわ、本当に寝てるし…。

ウェイルは苦笑いしてるけど、メルクは頬を膨らませている。

シスコンとブラコンがそろうとこんな感じになるのかしらね…?

 

「今日の訓練はここまでにするか?」

 

「それもそうね、ティナも寝ちゃったし」

 

それはそれとして、体のラインが出るISスーツでグイグイと体を押し付けてない?

ティナのスタイルといえば、それこそグラマーなモデル顔負けなのに、そんな風にしてると…。

 

「…ちょっと息苦しいんだが…」

 

その二つの果実がウェイルの胸板に押し付けられてるわけで…それで息苦しくなってるらしい…。

あざといんじゃない、ティナ…?

 

「仕方ないか…」

 

で、ウェイルはそんな状態のティナの背に左手を回し、右手は膝裏へ回してそのまま持ち上げた。

そう、俗に言う『お姫様抱っこ』だった。

それを見て流石に我慢できなくなりそうだったけど、疲れて眠ってしまった人を叩き起こすのも流石に憚られるか。

メルクは頬を膨らませるだけでなく顔を赤くして嫉妬してるらしい。

メルクもこんな表情を見せるもんなのね…。

 

「それにしても、ティナをそんな風に抱き上げるなんてね…実は女の子をそういう風に運ぶのに慣れてる、とか?」

 

ああ、嫌だ嫌だ、私もメルクと同じように嫉妬しちゃってる…。

私にもこんな奇妙な感情が内側に在っただなんて認めたくないのにな…。

 

「まさか、シャイニィくらいだよ。

シャイニィに比べれば、人をこんな感じに抱えるなんて初めての経験だよ」

 

ふぅ、ん…。

初めてだというのなら…もう、こんな考えはやめとこう。

嫉妬で頭がおかしくなりそうだわ。

今だけはティナにはその場所で休んでいてもらおう。

 

「けど、シャイニィに比べるとやっぱり重いな」

 

「そういう事は言わないほうがいいんじゃない?」

 

「そうですよ、お兄さん」

 

なぁんかイマイチ締まらないなぁ。

 

更衣室に置いてある各自の制服を回収し、そのまま学生寮に向かうことに。

その間に一度だけティナがウッスラと目を開いたけど…

 

「疲れてるんだろ、部屋まで運ぶからそのまま寝てていいぞ」

 

そのウェイルのセリフで再び寝てしまった…ように見えるけど、実は寝たフリだということは私は見抜いた。

そうでなきゃ、蛍光灯で照らされた頬があそこまで赤くはならないでしょ。

メルクは…気づいているのか、いないのか…?

 

そのままティナを部屋まで運び、ベッドに寝させてからウェイルは帰っていった。

それを見送ってから…

 

「さてと…、寝たフリはそこまでにしてシャワーくらいしといてから寝なさいよ」

 

「…バレてたんだ…」

 

「まあね、これでも勘は鋭い方だから。

メルクたちは気づいていないと思うけど」

 

「そっか…兄妹揃って鈍感なのかしらね?

ふふぅん♪悪巧みしてみよっかなぁ?」

 

何を考えているのかしら、この乳牛は!?

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

今日のウェイル君の試合の映像を繰り返してみる。

彼は自分の機体の操縦を『フルマニュアル制御』していると過去に断言していた。

にも拘わらず、彼は機体の右側から補助腕を展開し、それすら巧みに操って見せていた

人間には二本しか腕が無い以上、あの補助腕はマニュアル制御ではないことは明らか。

本人が言うには『フルオート』らしいけれど…

 

「本来、機体操縦を補助するためのセミオート機能用の演算システムを全てあの腕の為にリソースを注ぎ込む、か…。

ウェイル君も大胆な事を考えますね、お嬢様…」

 

「考えること自体は悪くはないわ。

でも、それを実行する方が怖いわ」

 

セミオート動作をすべて切り、フルマニュアル制御にすることにより、機体操縦はより難易度が増すことになる。

データ集積という意味合いでは、より濃厚に、詳細に集積できるでしょうから、定期的に提出されるデータとしてもウェイル君の方がデータの価値が高い。

 

「問題なのは、あの補助腕よ。

あれがフルオートで…しかもブレードを使って戦闘に応じていたということは、ウェイル君以外の誰か(・・・・・・・・・・)のデータが使われているのは明白よ」

 

それは一体誰なのか…今となってもウェイル君の素性はプロフィール以上に詳しくは判っていない。

今日、この学園に来たヘキサという人物が『姉』を自称していたけれど、その言葉も真面に信じるわけにはいかない。

そもそも、あの人でさえも素性が知れない。

だけど、調べるわけにもいかない、こちらは踏み込もうとしてもすでに刃を喉と心臓に突き付けられている。

そして…あのクロエという子も正直、恐ろしい。

あの瞬間、突如として平衡感覚が失われ、倒れそうになった。

景色も歪み、自分が倒れているのか立っているのかさえ判らなくなるような『何か』をされた。

 

嘘と偽りで覆われた向こう側には、何かが隠されている。

それが判っているのに、私達は調べるどころか近づく事さえ出来ない。

ウェイル君が何気なく話す内容に対しても、納得ができずとも飲み込むほかに無い。

 

突き付けられた刃がどう動くかは判らないから。

そのまま刺されたらジ・エンドなのだから…。

 

「今更ながらウェイル君が恐ろしいですね…。

彼は一体、何者と繋がっているのでしょうか…」

 

「少なくとも、イタリア政府中枢と、バチカンとは繋がっているのでしょうね…。

だけど、ウェイル君はその自覚すらしていないようだけれど…。

何なのよ彼は…?本人すら知らないところで、とんでもない人脈でも持っているの…?

無意識にそんな人脈なんて持てるはずもないのに、彼の後ろには誰が居るのよ…?」

 

ウェイル君自身は、まるで裏表のない人間だから、彼を疑う標的とする事も出来ない。

それどころか、疑う余地がない。

疑うべきは、彼の後ろにいる誰かであり、もしくはその者達。

幸いなのは、ウェイルくんがその存在に癒着していない事。

 

「……まさかとは思うけど、ウェイル君にとっては只の顔見知り(・・・・・・)、とか……?」

 

それこそまさかね♪無いない♪

いくら何でもその可能性だけは有り得ないわね。

イタリアに於ける重鎮ともいえるような人物たちとご近所付き合いなんて、それこそ自称一般市民にそんな機会なんて巡ってこないわね。

 

「だけど、あの補助腕を稼働させる為のデータはどこから流されてきているのかしらね…?」

 

結局、ウェイル君を覆うヴェールの向こう側には至らず、またも疑問が生じてしまうだけだった。

調べられない何かが眼前に存在し続けるだなんて、思った以上にストレスが溜まるぅ…。

 

「一先ず、接触するのはまた明日にしませんか?」

 

「それもそうね…」

 

彼のあの様子だと彼は裏表はないけれど、何かを隠している。

それもこちらにとっては致命的になるまでの何かを。

それを自覚してもなお隠すということは、口止めされている事になるのだろう。

こちらが予想していたのは『姉』であり『アリーシャ・ジョセスターフ』女史だと思っていた。

今日やってきた『姉』を名乗る『ヘキサ・アイリーン』と言っていたわね…。

彼女には…何か影を感じる。

そして…クロエと言っていた子からは…それよりも深い闇が…。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「シャルロット、フランスの件で話がある」

 

「うん、判ったよ」

 

今のこの時間であれば、欧州は昼を回った頃だろう。

ウェイル・ハースから頼まれてシャルロットのタッグパートナーとなり、監視を続けていたが、今では憑き物が取れたように話にも応じるようだった。

 

「『イタリアにて発掘された男性搭乗者の暗殺計画』を理由に、欧州連合によってフランスは更なる経済制裁が下されたわけだが…」

 

「そう遠くない話だったかもしれないね。

ニュースでも、ほかにも多くの要人暗殺計画を検討していたようだったから」

 

昼休憩後、レポートを記した後に時間に大きく余裕ができた我々は欧州のニュースをくまなく調べた。

すると出るわ出るわ、叩けばそれこそ埃の山だった。

デュノア社長本人は随分と前に床に伏している状態であり、企業に手を付けられない状態。

社長夫人がそれを隠蔽して企業を掌握、独占、支配していたわけだ。

役人はその全てをイエスマンで揃え、企業の資金を横領、着服、癒着、談合。

都合の悪い者が居れば、正義感を振るう者が居れば、目障りに思う者が居れば、その都度消して回っているというのが真相だったというわけだ。

ウェイル・ハースに対しても、それこそ『邪魔』と言うだけで殺そうとしていたのが判明した。

ニュースではウェイル・ハースの名が伏せられているが、裏では知れ渡っているかもしれない。

 

まあ、それはさておき

 

「フランス国内では内戦が想定されている。

上流社会に君臨してきた者達と、搾取され続けていた民衆、それらがぶつかり合う暴動が」

 

「ははは…なんだか何世紀も遡ったかのような話だね…」

 

「欧州連合はそれに対し、静観を決め込んでいる。

デュノア社や、フランス空軍に配備、実装されていたコアは欧州統合防衛機構(イグニッション・プラン)のコンプライアンス違反によって没収されている。

大量の死者が出るだろう、それに対して、お前は何を思う…?」

 

シャルロットは夜空を見上げ…

 

「母さんが亡くなって、デュノア社社員寮に軟禁された状態で過ごしていたんだ。

最低限度の学業は与えられたけど、その分…僕の未来が奪われてた…。

今回の計画でウェイルを殺すことができて、データを送ったとしても、僕自身の安全は図られなかった…。

捨て駒だったんだね…」

 

夜空を見上げながらも何を思っているのかはわからない。

だが、マトモな記憶ではないのだろう…。

 

「ウェイルを殺して法に裁かれて死ぬか、諸共死ぬか、たったそれだけの違いしか無かったんだろうなぁ…」

 

こうして聞いていれば狂った計画だ。

自分は安全な処から命令を下すだけで、見境のない殺戮を他人にさせる、か。

無能な人間が人の上に立つことは恐ろしい話だ。

 

「紛争は…止められないのかな…?」

 

「今もその座にしがみ付く無能な頭を一掃し、国民のために振舞える者こそが必要になるだろうが、難しいだろう」

 

そんな人間が居れば、6年前のモンド・グロッソの事件も早々と公開され、大会中断の選択肢とて出ていただろう。

それをしなかったのは政府中枢に巣くっていた無能と、事件と情報を把握しながらも大会を敢行させたデュノア社社長夫人の選んだ道だ。

 

「そういう人は…居ないのかな…?」

 

「極少数だろうが、政府中枢について詳しくもない民衆からすれば見分けなどつかないだろう。

政府に巣くっていた時点で同罪とみなす危険性もある。

あくまでも可能性だが、その危険性を孕んでいる以上は、国内だけでは収拾などつかないだろう…」

 

だが、可能性があるとすれば…それは、『国外からの干渉』だ。

だが、その先に待ち受けているのは『属国』か『国家解体』だ。




おっと、ティナが悪だくみをしたけれど鈴による牽制でストップがかかったぞ!
猫が豹になれば恐ろしいのでしょうね…。

それはそれとして質問コーナー

Q.ヴェネツィアに居るであろうな釣り人のビッグな皆さんの肩書を教えてほしいです。
P.N.『リールとライン』さんより

A.はい、わかりました。
『緋の釣り人』シェーロ
『碧の釣り人』クーリン
『黄金の釣り人』ギース
上記以外のメンバーとなれば、ざっとまとめてみると
イタリアマフィア『スパルタクス』第13代目大頭目
イタリア首相 宰相 財務大臣 国防大臣 法務大臣 ローマ市長 ヴェネツィア市長 
大病院院長 警察長官 陸軍元帥 海軍元帥 空軍元帥 テレビ局局長 ラジオ局局長 
新聞社社長 FIAT代表取締役社長 ローマ法王 枢機卿 法律事務所所長 
国際裁判所所長 国際裁判所裁判長 中学校校長 高校校長 
造船企業代表取締役社長 民間警備会社社長 民間軍事企業社長
イタリア暗部長官 

学校の校長やバイト先の社長はともかくとして、それ以外の殆どのメンバーが護衛も付けずに正体隠して弟妹達と仲良く和気藹藹しながら釣りをしているんだ。
弟妹達の人間関係にアリーシャさんが頭痛で悩まされるのは仕方ないって…。

なお、その全員が釣りをする際にはルアー派です。
生餌を見てメルクが悲鳴を上げたのが原因だとか。

そして当然ですが、ウェイルにとって彼等は全員が、気の良いご近所さんで、ただの顔見知りです

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