いや、例の魔剣の性能がエゲツナイ類なんですがね。
では読者からの投稿です
Q.例の魔剣の性能ですが相手に「接地圧が逃げるのなら、合わせりゃいいんだろ!(キレ気味)」を強要させるわけですか?
P.N.『匿名希望』さんより
A.はい、その通りです。
今回の場合は「エネルギー流動量が異常値になっているのなら、調整し直せばいいんだろ!(キレ気味)」になっていたでしょうけど、相手が相手、そして機体の都合で出来なかったわけでした。
なお、メルクやアリーシャは機体にバックアップデータを用意しておいたので、それの再インストールとファイアウォール設置という裏技を使っていましたが、ウェイルはそれに気付かず、戦闘をしながらマニュアル操作でOSを書き直したという裏設定でした。
彼もバックアップデータを備えている筈なんですがね…。
Q.ウェイルが使っている槍型兵装『ウラガーノ』ですが、リング型の籠鍔に、ルーマニア…。
もしや、公王『黒のランサー』の槍を参照に…?
P.N.『匿名希望』さんより
A.おっとバレたか…はい、その通りでした。
それを可変系システムを搭載したりとなかなかなカオスな槍に仕上がりました。
お昼休みを境に、トーナメント初日は一旦終了となった。
午後からは本日分のレポートを記すための自由時間となっており、俺はレポートを記すという地獄のような作業に追われていた。
毎度毎度これには苦労しているような気がする。
メルクは早々と終わらせ、俺の隣でニコニコと笑っている。
こうなった原因は俺にある。
レポートよりもメルクの機体『テンペスタ・ミーティオ』のメンテナンスを最優先にした以上、面倒なレポートへの集中力が出ないというわけだ。
「面倒ごとは先に片付けろとは、姉さんが時折言っていたのに、何やってるんだか、俺は…」
今頃クラスメイトの皆も自室に籠ったりしてレポート作成に苦労しているのかもしれないなぁ。
かくいう俺は企業に送るレポートの半分の半分程度しか打鍵が進んでいない。
今の内に片付けておかないと、試合の中の興奮も冷め切ってしまい、記憶もボンヤリとしてきてしまう。
それはかつてFIAT本社への見学をした際のことで覚えがあった。
記憶を記録として書き記すのは、やっぱり難しいものだ。
こうやって後悔する度に、「先に片付けてしまえば良かった」という思いが際限なくあふれ出し、記憶の中の映像再現の邪魔をしていく。
終わりの無い地獄とはまさにこれだろうな。
そしてメルクは俺が一人で表情を変えている様子を見るのがそんなに楽しいのか、片時も離れずニコニコと見つめているという奇妙な状況に陥っているというのだから…。
オマケと言わんばかりに虚さんがフルパワーの土下座を披露しに来たこともその遠因になっているかもしれないな。
「さっさと終わらせよう」
そこからレポートを書いて、終わったのは1時間半が経過した頃だった。
軽い頭痛を抱えながらも、俺とメルクは気分転換のために屋上へと向かった。
「先客が居るみたいですね」
そこに居たのは、ラウラ・ボーデヴィッヒと
「シャルル…いや、シャルロットか」
「試合、凄かったねウェイル」
わざわざ称賛するために待ち構えていたのかと疑問に思うが、ここは素直に称賛を受け取っておこうか。
「こんな所でどうしたんだ?」
「それこそお互い様だ。
我々はレポートを記し終わったから此処へ来た。
軽い尋問をする必要もあったからな」
尋問とは穏やかじゃない、そう思ったが、それをする相手が居るのを忘れていた。
シャルル・デュノア改め、シャルロット・アイリス。
デュノア社社長夫人からの命令で、俺を名指しにしてまで殺害を企てていた産業スパイだった。
その素性がバレてしまえば本人の意思も汲みとられる事も無く孤立してしまうと思い、お節介の特盛でラウラにタッグを組むように頼んだっけか。
だけど、ラウラはそれを『監視の為』と思い込み、どうやら今日に至ったようだった。
「つい先程、フランスのニュースが流れたんだけど、知ってるかな?」
「いえ、知らないです。
つい数分程前までレポートをつくっていましたから」
作っていたのは俺だが、それ言うのは野暮だな。
「そっか、これを見て…」
シャルロットが端末を見せてくる。
そこには…『デュノア社倒産 国際テロシンジケートとの繋がりが発覚』と新聞の記事が出ていた。
「欧州全土で新聞記事の一面が大急ぎで刷り直されている。
フランスはこれより、二度目の氷河期を迎えることになるのは確実だ。
それも、上層部も腐っていたのが判明し、逃亡を図っているのを悉くが取り押さえられたそうだ」
ボーデヴィッヒもまた端末を見せてくる。
そこには『フランス上院議員を半数以上を逮捕 国家予算を懐に』と出ていた。
「シャルロットの証言から始まったのか?」
「ドイツに移籍した際に、いろいろと伝えたのは事実だよ。
でも、此処には僕だって知らないことが色々と出ていたんだ」
へぇ、それじゃあ民衆のクーデターでも起きたかな?
『フランス革命再び』といった具合に…いや、不謹慎だな。
「その実績は『
このシステムは、欧州全土に広まっているのはお前達とて知っているだろう」
思い返せば姉さんがそれを授業で言っていたな。
その時の記憶を引っ張り出しながら、ボーデヴィッヒに頷いて返す。
「『欧州連合に所属している国家に対し、監視も担い、危険因子を摘発する活動を許可するものとみなす』、ですね」
「その通りだ、イギリスに続き、『フランスもその危険要素を内包している』と見なされた。
これにより組織によってフランスへの問答無用の監査が入った」
うわぁ、結構な強権を持っているんだな。
だが、情報提供者による裏付けが行われていたが、それによるものか。
「それで判ったのは、デュノア社社長夫人個人が、国際テロシンジケート『凛天使』と個人的に繋がり、拠点と資金を与えていたことだったんだ。
でも、検挙された拠点はすでに蛻の殻、少なくとも半月近くは空っぽだったらしいんだ」
次々と判明するフランスの闇
だがそれを一般人が知っても大丈夫なんだろうか…?
「デュノア社社長夫人がお兄さんの名前をフルネームで知っていた理由は凡そ察しました。
お兄さんの殺害を望んでいた理由は何なのですか?」
ああ、それだそれ。そればかりは俺も知っておきたかった。
ケンカを売った覚えもなければ、恨みを買った覚えもないのだから疑問ばかりだった。
「FIATはすでにイタリア国外にも手を広げている。
それに比べてデュノア社は思うように経営が出来ず、存続するのが限界だった。
そこに君が姿を現した、それとFIATの業績が一気に拡大していたのが重なっていたんだ。
だから、企業発展のカギは君だと考えたんだ。
そこで考えたのが、自社の再生復興よりも、他社の足を引っ張ることだったんだよ」
とんでもない迷惑話があったもんだ。
妄想と邪推を重ねて憎悪した挙句の蛮行か、篠ノ之を思い出してしまう。
なんでこう、妄想をしただけで自分を制御できなくなるような暴走機関車が、厄介な地位に居座っているんだ。
もう少し人選を考えてくれよ。
そんなことを言ってもフランスは数年前から零落しており、ラウラが言うには二度目の長い氷河期に晒されるという具合だ。
「多分、国は分裂するか解体されるかな。
あちこちで内紛が起き、数世紀逆戻りしたような国になってしまうかと僕は思っているんだ」
「故郷に思い入れが無いのか?」
「勿論あるよ。
でも、もうブルゴーニュへ帰れないと判っているのなら、これから先を見据えたいと思うんだ。
それに、母さんもすでにドイツに改葬してもらっているから、寂しさは…少しはまぎれると思うから」
なら、ここから先は俺が踏み入るべきではなさそうだ。
メルクに視線を向ければ、同じ事を考えているのか、頷いて返してくる。
「これを以てデュノア社は正式に倒産。
第一世代機『ラファール』、第二世代型量産機『ラファール・リヴァイヴ』の生産は完全に終了。
これから開発されていくかもしれなかった第三世代機開発は根底から失われた。
もともとシェア率も低くなっていたし、発注も少なかったからね、この学園に搬入されている機体も、今後は解体されてジャンクパーツか、予備パーツ群にでもなるだろうね」
「組立解体の練習用の機材としては使えそうだと思うんだけどな…」
技術者としては予備パーツの増加は嬉しい話だが、今後の授業や訓練でも、あくまで機材としては使えそうだとは思う。
ISコアはイタリア製第二世代型量産機『テンペスタⅡ』に搭載されなおしているから、動く心配も無いだろう?
「君は変わってるね」
「たまに言われるよ」
どこが変わっているのかは理解出来てないんだが。
髪が白い点か?
それとも度が入っていない眼鏡を愛用している点か?
制服を白衣のタイプにしている点か?
さあ、どれだ?
それこそ人に向かって「変わっている」だなんて、他者への理解が追い付いていないからなんだろうけどさ。
「ともかく、今のシャルロットやフランスの内情について教えられるのは此処までが全てであり、知識の共有は出来た。
次に共有するのは私自身についてだ」
そう言ってラウラは自身の胸に手を当てる。
眼帯には覆われていないその左目には何か強い意志が見えた気がした。
これは…素直に聞いておいたほうがいい気がする。
「私が織斑教官の教え子であることは先日にも伝えた通りだ。
そして私は…男性搭乗者という存在に対し…粛清するために来ていた」
ジャカッ!
重い金属音が背後から聞こえた。
一瞬、それこそ一瞬にしてメルクが銃を両手に構えていたからだった。
銃口が向けられた先は…ボーデヴィッヒの額と心臓だ。
狙いをつけるのが早ぇ…。
とはいえ、粛清というのはどう考えても物騒な話だ。
実際には俺はボーデヴィッヒに恨みを買った覚えがない、喧嘩を売ったところで返り討ちにされるのが、先の見えた現実だ。
「だが、それがただの八つ当たりだというのを悟ってな…」
「そこに至るまでの考えは…聞かないほうが良いか?」
「早い話が、憧れによる偶像化、だな。
だから、その周囲にいる存在が疎ましく思えていたという事だ。
お前達と少しだけ話をしてから考えたんだ、私こそ人を人として見ていなかったのだと」
自嘲めいたように乾いた笑いを零す。
それを見て何となく何かを思い返す。
姉さんも人から偶像のように見られていたかもしれないと思った。
ブリュンヒルデの名の重み、普段の生活態度を考えれば、人は憧れに人の内面ではなく表面しか見てなかったんだろうなと。
「憧れと現実の差をハッキリと見てしまい、私は偶像への崇拝を辞めた。
そして、あの人の真実の姿を知りながらも、なおもそれを汚そうとする者に…八つ当たりをしてきた」
してきたのかよ。
物騒なことをしてきたもんだなぁ…。
なんでこんなにも血の気が多いんだ?
「それで、どうしたんだ?」
「織斑千冬に対しての現実と真実を知り…訣別した。
私はもう、あの人への恩義はあるが、憧れや尊敬は切り捨てた」
そうか…そこにどんな逡巡があったのかは察した。
メルクが構える銃に手を当て、それを下ろさせる。
どうやらボーデヴィッヒはイタズラに他人に敵意を向けることは無さそうだ。
「叶う事なら、織斑全輝は私が試合で叩き潰したかったのだがな」
「代わりに試合で俺を潰すとか勘弁してくれよ?」
ボーデヴィッヒの試合の運び方についても情報は入っているが、対策手段は揃っていない。
勝利できるかと問われても、無理だと答えるのが素直な反応だ。
だがボーデヴィッヒの反応はといえば…。
「精々知恵を絞れ、そして私を驚かせて見せろ」
そう、胸を張って堂々と答えた。
皮肉めいた微笑みを浮かべ…ハッキリといえばドヤ顔で。
ははは…後でいろいろとティナに頼んで備品を発注させとこう、いろいろとシミュレーションをしておかないとな。
精々悪あがきしてやるさ。
「僕とラウラの次の対戦相手は、君のタッグだよ、ウェイル」
…時間がなさそうだ。
無い知恵を絞らないと悪あがきも出来ないな。
「まあ、なんとかやって見るさ、善戦なんて期待しないでくれよ?」
限られた時間で用意出来るものを使って挑戦してみるかな。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
『おかけになった番号は、現在使われておりません』
そのアナウンスを耳にし、私は携帯端末を置いた。
おかしい、もう何度も電話を掛けた。
転居している場所は全て反応がなかった。
「柳韻さん達が転居する場所は日本政府に全て教えてもらっていたが、何故その全てに反応が無い…?」
どこかに移動している最中だったとしても、個人の携帯端末へすら繋がらないなどということは過去にも無かった。
何かの事件にでも巻き込まれたのだろうか?
そう考え、別の個人端末へとかけなおす
『おかけになった番号は、現在使われておりません』
束の番号にすら反応が無かった。
異常事態が起きつつある、そう考えるが確信などつかめないのが現実だった。
「…チッ!」
今は下手に動けない。
私もまた監視下にあり、下手には動けない。
この寮監室の備え付けの電話もまた履歴を調べられるだろうと思い、監視を受けるようになってからは使わないようにしていた。
個人の携帯端末なら大丈夫だろうとは思うが…
「いや…、
情報を生業としている更識が私を敵視している以上、私が使った番号は過去のものを含めて照会とて容易くやってのけるだろう。
味方であれば頼もしいが、敵となってしまえば音を立てず、気配もさせずに喉元に刃を突き付けてくる。
生粋の影に生きる人間だ。
この半年にも満たぬ時間の内に、私の悩みはあまりにも多くなりすぎた。
相談できる相手など誰一人として居ない。
私を慕っていた真耶は冷たい目を向ける監視者に、懐刀としていた更識は離反した、ラウラ・ボーデヴィッヒもまた訣別を突き付けてきた。
私のそばに居るのは、抑制も叶わぬ暴走を続ける身内二人だけ。
「…小鳥?」
窓枠にその小鳥が居た。
夜になり、こんな所にでも迷い込んできたのだろうか?
鳴きもせず、私を見つめてくる。
やや薄気味悪く思うが、小鳥相手に何を思っているのだろうか私は。
「コーヒーでも淹れるか」
キッチンに置いてあるインスタントコーヒーのパウダーをマグカップに投入し、給湯器の熱湯を注ぎこむ。
途端にコーヒーの香ばしい香りが広がってゆく。
最近は、この香りを楽しむこと程度しかストレス解消法が無い。
昨今、職場に行くのも怖く思えてしまう時がある。
誰もが私に冷たい視線を向けてくる。
誰もが私を悪く言っているように見えてしまう
悪いことなど何もしていない、ではなく『身内の非』が私にも向けられている。
懲戒免職もそう遠くないうちに言い渡されるかもしれない。
だが、今の私には他の職種に就けるのかと考えても、見当たるものが存在しない。
もしかしたらそれは全輝も箒もそうかもしれない。
もしも、この考えが現実になってしまったらと思うと、背筋が寒くなる。
それに、この際限の無い泥沼からも…
「逃がす事が出来れば、良いんだがな…」
不思議なことに、窓枠の小鳥は未だにそこに居て私を見つめてくる。
だが、何を思ったのか急に飛び立った。
飛び立っていく先の場所を見つけたのだろうかと思う。
だが
あの小鳥の眼前で、その言葉を呟いた事を後に私自身…
一生涯後悔するなどとは、この時には欠片も思わなかった
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「ちょっとティナ、なによコレ…」
翌朝、整備室に居たルームメイトの様子を見て流石に驚かされた。
運搬台車の上に乗せられたコンテナを見て驚かずにいる方が無理な話だった。
本気で戦争でも始めるつもりなのかと疑いたくなる。
「ボーデヴィッヒさんを相手にする際に必要なんだってさ。
それでも無茶苦茶な量よね。
シミュレーションするにしてもどんな戦い方をするんだって言いたいけど…判らないでもないのよね」
ラウラがする戦い方は、『完全封殺』。
仕組みは判っていないけど、相手の動きを完全に止めてしまう。
『
物体が動く力を完全に停止させるもの、というのがその本質らしいけど、簡単に言ってしまえば、囚われたら対処不可能。
それに尽きる。
けど、ウェイルは何か閃いたのか、朝から整備室に飛び出していったらしい。
「ちょっとウェイル、どういう作戦を思いついたのよ?
勝算はあるの?」
「勝算は無い。
けど、現状としては可能性は見つけてる」
そう言って、モニターとの睨み合いを続けては考え事をしている。
かと思えば、別のモニターを用意しては必死にデータを入力する。
その直後には更に多くの手榴弾を発注したりと見境がなくなってきている。
何をするつもりなのかはわからないけど、明日の試合ではあんまり無茶をしないでほしい。
「メルク、この様子を見てアンタは何も思わないの?」
「一生懸命頑張ってますから、邪魔なんて出来ませんよ」
いや、そうじゃなくて…
運んできたコンテナの手榴弾が燐光と共に次々と姿を消していく。
ウェイルの機体の拡張領域に次々に登録されては収納されていくんだろうけど、搭載しすぎじゃない?
容量にも限界があるはずだけど、ウェイルは兵装の数を絞っているのかもしれないから余裕があるんだろうと勝手に納得しておく。
「それから、ティナの機体には…」
「え!?そんなの着けるの!?あ、うん、まあ、良いけど…」
ちょっと待ちなさいよ、何やら不穏なことを考えてない!?
「鈴さん邪魔しないでください」
「邪魔するつもりは無いけど…ちょっと心配になってきたわね…。
杞憂であればいいんだけど…」
それでもメルクの言葉には考えさせられるものがあり、私はその場では潔く引くことにした。
それから私が向かったのは5つほど離れた整備室。
ここで私たちは機体の整備と作戦会議をする事になっていた。
私の『
ウェイルとティナのタッグとも戦ってみたいとは思ったけど、それよりも先に私たちの対戦相手に集中しないといけない。
「相手は…5組の…一般生徒みたいね。
使用する機体は二人とも打鉄か…スタイルは、前衛の近接戦闘と、後衛からの視線射撃。
参考書にも書かれているオーソドックスな戦法ね…」
正直、敵でも無さそうだった。
「警戒すべきは更にその先です、簪さんですよ」
ラウラはすでに憧れという偶像崇拝から決別しています。
原作よりも先に一歩だけ前へと進んでいるかも
それはそれとして、
やっぱり嬢ちゃんは魔猪の氏族だったか