IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q,束さんの両親達は現状どうなっているんでしょうか?
P.N.『匿名希望』さんより

A.今回紹介しますので、そちらをどうぞ。

今回も新しい兵装も出てきますのでお楽しみに。
元ネタを察する事が出来る人はどれだけ居るやら。


第68話 剣風 刃

「出なさい、試合の時間よ」

 

軟禁に使っている控室の扉を開かれ冷たく言い放つ。

その先には暗い視線を向けてくる篠ノ之が居る。

あれから色々と試されたがが、篠ノ之は頑として教師陣の言葉を聞き入れなかった。

相変わらず、全ての責任をウェイル・ハースに押し付けようとし、周囲の全ての人がハースを庇っているようにでも聞こえてしまっている。

 

「ハースはこの学園を壊滅させようと企んでいます。

それは千冬さんだって理解している筈です、私達はそれを未然に防ごうとしているだけです!」

 

「黙ってついてきなさい」

 

真耶の言葉も冷たく、視線はそれ以上になっていた。

言うべきことは最低限、それも淡々と事務的に。

 

「千冬さんはどうしたんですか!何故ここに来ていな」

 

バシィィンッ!

 

バーメナの手が振るわれ、乾いた音が響く。

手加減されていようとも、後ろ手に手錠をされた状態で耐えられず篠ノ之は倒れる。

鬱憤を晴らすわけではなく、これは必要な処置であると言わんばかりに冷たい視線が突き刺さる。

 

「貴女に危険物を渡していたということで織斑教諭は謹慎処分になっています。

何度同じことを言わせる気ですか、黙ってついてきなさい」

 

篠ノ之の背後からバーメナが手錠を掴んで無理矢理歩かせる。

時代遅れな話ではあるが、まるで罪人をさらし者にしているかのようにも見られてしまうだろう。

だが、それでも二人は構わなかった。

そのためにも、わざわざ正反対方向にあるピットへ向けて歩いていく。

これを今日この段階で二度目となっている。

多くの生徒達の目に晒され、冷たい視線で突き刺される。

古い時代の日本には実在していた行いだ。

こうでもすれば篠ノ之も少しは考えを改めるかと思った。

 

「なんで私が、こんな事に…それもこれも全て奴のせいだ…!」

 

やはり、堪えてないどなかった。

それほどまでに、この彼女は自覚も罪悪感など無い、今まで責任を負わされるよりも前に逃げ続けていた。

それは過去の記録から誰もが理解していた。

幾度も事件を起こし、周囲の人間の可能性や夢や希望を根底から奪ってはその場から繰り返し逃げ続けた。

それにより必ず逃げられる(・・・・・・・)という思考が精神に染みついている。

責任を負った事が無いから『自分だけは悪くない(・・・・・・・・・)』『自分だけが正しい(・・・・・・・・)』と自己完結を繰り返すようになってしまっている。

その結果、出来上がったのがこの…化け物なのだろう。

 

事を起こしたとしても、必ず日本政府が干渉してきては懲罰内容の減少を命じてくる。

「今この時さえ潜り抜けられれば良い」「何か起こしても、咎められる事は無い」という考えが精神の奥深くにまで刻み込まれている。

 

「ウンザリしてきましたね…」

 

真耶のその呟く言葉は、後ろの箒に告げた言葉か、それとも自分自身に向けた言葉か、今となってはよく判らなかった。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

求めた情報はマトモに手に入らず、とうとう試合時間が訪れた。

クロエに呼び出されたらしいウェイルはというと、濡らしたハンカチを左頬にあてながらピットに到着していた。

何があったのかはよく判らないけど、気まずそうしている楯無さんを見るに、なんか変なことでも言っていたのかもしれない。

この人達には何があったのやら…。

 

「メルク、作戦はわかってるわね?」

 

「勿論です、まずは分断してからの各個撃破です」

 

対戦相手を見て、すぐにどちらを撃破するのかは決めていた。

そしてその手段をメルクが持っていることも言っていたから、問題はなかった。

そのためのシミュレーションを繰り返していたようで、その通りにできれば、完封による圧勝はまず間違いは無い。

 

「来なさい、甲龍(シェンロン)!」

 

マゼンダの装甲と、背面の非固定浮遊部位(アンロックユニット)が展開される。

両手に握るのは青龍刀『双天牙月』。

使い慣れた兵装だけど、今回は学園の格納庫からアサルトライフルを借りている。

使う機会があるかはわからないけれど、念には念を入れてのものだった。

 

「来て、嵐星(テンペスタ・ミーティオ)!」

 

隣でメルクも見慣れた銀色の機体を展開する。

よく見れば、脚部装甲側面に双剣がマウントされている。

あれがウェイルと話していた『フィオナローズ』なんだろうと思う。

だけど、それだけじゃない。

剣を納めているであろう鞘の下には折り畳まれた筒のようなものが身受けられる。

あれは…

 

「メルク、それに鈴、頑張って来いよ!」

 

「はい!勿論!」

 

「任せときなさいって!」

 

ウェイルが喝を入れてくれ、返事をすると同時に私たちは飛び出した。

反対方向のピットからは日本製第二世代型量産機『打鉄』が2機。

その搭乗者のうちの一人には見覚えがあった。

篠ノ之 箒だ。

かつて、一夏の右腕を骨折させた女。

ウェイルに何度も危害を加えた女。

流れてくる話では、今でも全ての責任をウェイルに押し付けようと叫んでいるとか。

 

「1年2組クラス代表、中国国家代表候補生、凰 鈴音よ。

アンタは?」

 

「1年1組図書委員の夜竹さゆかです」

 

名乗り返すってことは結構礼儀正しい子みたいね。

だけど悪いわね、アンタは速攻で撃破すると決めてるのよ

 

「1年3組クラス代表、イタリア国家代表候補生、メルク・ハースです。

今回はよろしくお願いします」

 

「貴様がぁ…っ!」

 

メルクが名乗った途端に篠ノ之が憎悪を目にたぎらせてメルクを睨んでくる。

ああ、やっぱり話に聞いたとおりだった。

 

「貴様があの男の身内かぁっ!」

 

完全に怒りがトサカに来ているらしい。

話が通じない相手って居るものね。

 

「鈴さん、それでは予定通りに」

 

「え、あ、うん、判ってる…」

 

なんかメルクの声のトーンが下がってる気がするんだけど…?

気のせい、よね?

 

そして、試合開始を告げるブザーが鳴り響く

 

「だあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

篠ノ之が突っ込んでくる。

それを見てメルクは、足で(・・)私の腕をつかんだ。

そのまま瞬時加速(イグニッションブースト)で篠ノ之の攻撃を余裕もって回避。

肩が外れそうなスピードだけど、そこは歯を食いしばって耐える!

 

「この!逃げるな卑怯者!」

 

離れた距離は既に30m以上。

その距離でメルクはというと

 

「行きます!」

 

「判ってる!」

 

勢いよく私を夜竹に向けて放り投げた(・・・・・)

悪いわね、夜竹さん。

何の恨みもないけど、これが私たちの作戦だから…速攻で倒す!

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「行きます!」

 

「判ってる!」

 

勢い任せにアウルでつかんでいた鈴さんを放り投げる。

そのまま私は方向転換し、篠ノ之に向き直る。

そして…体が圧迫されそうな圧力を感じながらも二重瞬時加速を発動させる。

 

「撃ち落とす!」

 

両手にレーザーライフル『ファルコン』を展開、即座にそれを連結させる。

 

「吹き飛べっ!」

 

ドオォンッ!

 

連結させたバスターライフル『レイヴン』から野太い閃光が迸る。

それは遠慮もなく篠ノ之を飲み込み、吹き飛ばす。

 

「貴様あああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

閃光が途絶えた後、彼女がブレードを振りかぶるのが見えた。

それでも私からすれば脅威にもなりえなかった。

バスターライフルの連結を解除させ、射撃の構えを取る。

けれど、すぐに引鉄を引く事はしません。

大上段から振るわれるブレードを回避。

再度振り上げるブレードは右斜め上段の袈裟斬り。

繰り返し、今度は左斜め上段の袈裟斬り。

そこからまた大上段から。

その全てを見てからも回避は容易く、態々ミーティオの最大速度を出す必要も無いです。

 

「このっ!逃げるな卑怯者!」

 

「逃げてませんよ、避けてるだけです。

この間合いで当てられないのは貴女の技量不足が原因でしょう?

見てからも避けられるんですから、貴女が遅いだけです」

 

「五月蝿いっ!

あの薄汚い男が卑怯者なら、どのみち貴様も同類だろうが!」

 

「その言葉、鏡のようにそっくりそのままお返しします。

貴女達こそ薄汚く姑息な卑怯者でしょう?」

 

振るわれるブレードは私から見ても、とても遅い。

お姉さんが振るうブレードや、お兄さんが振るう槍に比べれば数段下。

 

「貴様あああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

怒りの形相、ここに極まれり。

 

「この大罪人風情が!口を開くなあああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そのまま大上段からブレードが振るわれる。

動きは極めて単調そのもの。

そのまま私は、間合いから動かず両手のライフルを上空に放り投げた(・・・・・)

それと同時に、事前に投入していたプログラムを起動させる。

それは、お兄さんが冗談半分で作製したモーションプログラム。

 

バシイィィンッッ!!!!

 

「…な…っ!?」

 

大上段から振るわれたブレードを、両手で挟んで受け止めた(・・・・・・・・・・・)

こんな動き、何を見て思い付いたのかは判りませんが、確かに中々にユニークかもしれません。

けど、今は試合の最中。

 

「隙だらけです」

 

ジャコンッ!

 

両腰に搭載されたそれが跳ね上がるようにその砲口を目の前の対戦相手へと突き付けられる。

そして

 

ドオォンッ!

 

ほぼ0距離からの砲撃を受け、彼女は声も無く吹き飛ばされる。

私の手元にブレードを残したまま。

私はそれを適当に放り捨て、落下してきたライフルを掴み取り、そのまま収納。

そして

 

「…フィオナローズ、抜刀」

 

レールカノン上にマウントされた鞘から双剣を抜刀する。

 

「そこっ!」

 

交差したのはそれこそ一瞬でした。

右手に握る紅の剣は打鉄の両腕の装甲を斬りつけた。

SEに与える損傷率は少ない、だけどこれで終わりです。

 

「この、卑怯者が…」

 

反応が遅い。

怒りが頭に血を上らせているから反応が出来ていないみたいですね。

私の眼前では篠ノ之が両腕の装甲を持ち上げられていない。

 

「貴様、何をした!?答えろ卑怯者!」

 

「答える義理は…ありませんよ!」

 

この相手にはすでに瞬時加速を使う必要もない。

余裕をもって背後へと回り、左手の金色の剣で背面スラスターへと切りつける。

この二撃でSEへ与える損傷率は多くはないです。

それでも、もう終わりです。

 

「何を言っ」

 

ドォンッ!

 

打鉄の背面スラスターが突然稼働し、篠ノ之が地面に倒れ伏す。

そして…倒れ伏してもなお、背面スラスターは絶える事無く激風の噴射を続ける。

 

「さて、合流しますか!」

 

「ま、待て!貴様何をしたぁっ!?」

 

地面にめり込み続けていく彼女を完全に無視して放置し、私は鈴さんと合流するために上空へと飛んだ。

合流した先では、鈴さんが圧倒を続けていた。

夜竹さんは物理シールドで耐えていましたが、鈴さんの機体のハイパワーに押し負けている。

 

「え!?嘘でしょ!?もう合流するの!?

篠ノ之さんは何をやってるのよ!?」

 

「連携なんて期待してなかったんじゃなかったっけ?」

 

「それは!…それは…そうかも…!

せ、せめて善戦しておかないと!」

 

すみません、このまま二人掛かりで一気に決めさせてもらいます。

鈴さんと練習しておいた連携を絶え間なく続け、SEをがりがりと削り、20秒足らずでSE枯渇へと追い込んだ。

 

「酷いぃぃぃ~!」

 

SEが枯渇し、ゆっくりと下降していく夜竹さんに再び心の中ので謝り、篠ノ之が居るであろう方向へと振り向く。

地面にめり込んでもなおスラスターは噴射を続けている。

 

「どういう状況よ、アレは?」

 

「的にするのに好都合じゃないですか」

 

「それもそうね」

 

自分の声が普段よりも冷たくなっているのを理解しながら、私は双剣を両手に握り、それを連結させる。

鈴さんも両手に双剣を握って構える。

 

「じゃあ、後は適当に!」

 

連結した私の双剣、鈴さんの両手の双剣と衝撃砲が連続で打ちのめしていく。

技術も何も無く力任せに叩きつけられる剣と砲撃に絶え間なく晒され、打鉄のSEはすさまじい勢いで削られていく。

 

ガァン!ドガァッ!ドゴォッ!ガシャァッ!ズゴォッ!

 

「フザけるな貴様ら!

動けない相手に一方的に攻撃するなんて卑怯だぞぉっ!」

 

「アンタが言える台詞じゃないでしょ」

 

「特に貴女は背後からの奇襲ばかりしてましたから、殊更ですね」

 

聞く耳持ちません。

悪罵を喚き散らし続けるその人を完全に無視して攻撃を続行します。

IS戦闘の華でもある空中戦ですらない。

うつ伏せの姿勢で地面にめり込み、動けない相手に背後からの一方的なまでの、そして技術すら持ち合わせない力任せに刃を叩きつけるだけの攻撃………いえ、暴力。

 

「だからこのまま袋叩き続行」

 

「自分の技量の無さを怨んでください」

 

そのまま私達は暴力を続行し、彼女が悪罵を吐き続ける限り剣を振り下ろす。

訓練機のエネルギーが枯渇するまで、そこまで時間は掛からず、精々20秒程でした。

ブザーが鳴り、試合終了が告げられる頃には、彼女は土埃にまみれ、薄汚い様になっていました。

それを一度だけ視認、私たちはピットへと飛び立った。

 

さあ、お兄さんに勝利を報告しないとですよね!

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

予定通りの圧勝する様子にティナも呆気にとられていた。

試合時間は3分も要していないからだ。

 

「ねえ、メルクのあの剣って何なの?」

 

「FIATアイルランド支部から届けられた最新兵装『フィオナローズ』だ。

凄いだろ?

右手の紅の剣には、切りつけた場所へのエネルギー流動遮断。

左手の金色の剣には、切りつけた場所へのエネルギー過剰投入。

それぞれの効力を発生させる浸食兵装ってわけだ」

 

「つ、つまり…?」

 

楯無さんも驚いて反応が出来ていない。

こういう時には技術者として自慢したくなる。

 

「『沈黙』と『暴走』、二つの現象が生じる双剣ってことだよ」

 

これの真骨頂となるのは、織斑が扱う単一仕様能力『零落白夜の完全封印』だ。

エネルギー遮断を行えば、機体全体を覆うエネルギー無効化フィールドは発生したとしても、零落白夜による攻撃が出来なくなる。

エネルギー過剰投入を行えば、刀身を覆う零落白夜に使用されるエネルギーが過剰に発生し、SE枯渇を急加速させるに至る。

結果、『零落白夜発動』という手段自体を完全封殺してしまえる。

 

「今回メルクは、打鉄の腕部装甲を斬りつけ、腕部に発動されていた、パワーアシストをカット。

背面スラスターを斬りつけ、スラスターの駆動暴走を引き起こした。

だから、ブレードを握ることはおろか、腕を持ち上げることもかなわない。

スラスター制御も出来なくなり、地面に衝突し、そのままスラスター噴射が続行されて地面にめり込み続けていたってことだ」

 

よし、説明終わり!

欠点があるとすれば、それこそ近接戦闘に持ち込まなくてはならない点だろう。

俺が使っていた時には槍の形状をしており、投擲による奇襲も出来ていたんだが、これが剣を使う際の弊害かな。

 

「待ちなさい、アレに対抗する手段は何かあるの?」

 

対抗というか、対策手段になるか。

確かに無いとは言い難い、実際にメルクがイタリアで実践していたし、姉さんもいとも容易くやってのけていたか。

 

「両腕の装甲の展開を解除して収納、それからマニュアル操作を行いながらOSの書き換えだな。

浸食された部位での現在使っているエネルギーバイパスを破棄、それから新しいエネルギーバイパスを作り直す。

そして、そのエネルギーバイパスへの浸食を防ぐためにファイアウォールのプログラム作成、とかだな」

 

「そんなの対応出来る人って居るの?居ないと思うんだけど…」

 

ティナも声が掠れている、楯無さんはもう『呆れた』と言わんばかりの視線を向けてくる。

はっきり言って無理無茶無謀に近いと思うが、メルクは時間をかけながらも成功させている。

姉さんは口笛吹ながらやっていた。

それに引き換え俺は…ここは割愛しておこう。

 

「だけど、この学園の訓練機には無理だ(・・・・・・・・・・・・・)

理由としては、この学園の訓練機の拡張領域には、個人で使う兵装をその都度登録させるためにも、それと奪取されるのを防ぐためにも機体本体の収納を登録させていない(・・・・・・・・・・・・・・・・)からだ」

 

この学園の訓練機を使う搭乗者が、あの剣を受けてしまえば、その部位の装甲を投げ捨てるしかないだろう。

それが嫌ならその場でOSの書き換えをしてもらうしかない。

できる人がいるとすれば、整備課や技術に詳しい人だろう。

 

「兄妹揃ってなんてものを使ってるのよ…」

 

楯無さんは絶句している。

うん、講釈した後の驚いた顔を見るのはなかなかに優越感が感じられるな。

ティナは…

 

「じゃあ、メルクがやっていたあの砲撃は…?」

 

「メルクが使っていた二連装レーザーライフル『ファルコン』は連結させることで、威力と射程距離を大幅に伸ばす事が出来るんだ。

ロングレンジバスターライフル『レイヴン』、それがその正体だよ」

 

あの砲撃も久しぶりに見た気がするな。

威力には驚かされたよな、あの時には。

 

そうこう言っている間に二人が戻ってきた。

 

「戻りましたぁっ!」

 

機体の勢いの…多分、半分くらいの勢いでメルクが飛びついてくる。

慣性の法則に従って倒れそうになるが、ここは男の意地と、兄としての矜持で無理矢理耐え抜く!

 

「おかえり、メルク。

試合はしっかりと見ていたぞ、完封していたな」

 

「私との連携あってこそでしょうが!」

 

飛びついてきたメルクを引っぺがそうと鈴が引っ張っているが、全然剥がれない。

それでもなおもメルクを引っ張り続けているが、いつまで続くのやら。

本人達の好きにさせておこうか。

 

それにしても見事な連携、対戦相手となった人には同情しておこう。

篠ノ之は…どうでもいいや。

正直、もう関わりたくもない。

そう思ったのも、もうこれで何度目になる事やら。

 

モニターを展開し、時間を確認してみる。

ちょうど昼食時だ。

 

「驚くのももう充分だろう?

そろそろいい時間だ、観客席のみんなも移動を始めているみたいだし、食堂に行こうぜ?」

 

そう言ってピットから廊下に出た瞬間だった、その人と出会ったのは。

 

「あら、お昼休みにいくのかしら?」

 

「お昼以降はレポート作成の為に自習時間になっているから忘れないようにね」

 

我らが担任のティエル先生と…2組のフロワ先生だった。

しかし…レポート作成か…苦手なんだよな…技術者だけどさ…。

 

そうして二人の教諭の視線が俺に向かう。

俺がレポートを苦手としているのが見破られたかな、そんなに表情に出ているのだろうか?

 

「頬が腫れているけれど、何かあったの?」

 

…あ、そっちか。

見れば楯無さんが逃げ出そうとしている、何やってんだアンタは?

思い返せば俺の言葉遣いが悪かったかもしれないが、問答無用でビンタを炸裂させられたのは理解は出来ていても納得までは出来てないんだよな。

ここはその分の借りを返しておこう。

詳しい状況説明も押し付けてしまえ。

なので

 

「あの人にブッ叩かれました」

 

指さしながら遠慮なく楯無さんを売り飛ばした。

 

「…ヒェ…!?」

 

一気に顔を青ざめさせていく様はもはやチアノーゼを起こしているみたいだった。

そのまま怒り顔のフロワ先生と、怒り肩のティエル先生にお持ち帰りされていった。

あとは詮索しないでおこう。

さぁて、昼食にしよう。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

イタリア、ロンバルディア州ブレシアに私はその二人を招いた。

 

「偽造パスポートで遠路遥々ご苦労様。

県境どころか、国境をも飛び越えた遠方への旅路はどうだった?」

 

なんて事を言いながら、本当はわかっている。

見てくれの通り、二人は完全に疲弊しきっていた。

保護されている場所に行われていたのは杜撰な形だけの警備。

その虚をついての脱出だったとしても、この二人の素人めいた動きでもやり遂げてしまっていた。

 

その後はヘキサちゃんと合流し、二人を変装させて、偽造パスポートで飛行機に乗ってもらった。

シンガポールを経由し、たどり着いた先がこの国。

そこからはイタリア暗部に動いてもらっての護送をしながらブレシアにまで到着した次第だった。

 

「ああ、多少は周囲の目を気にしなくてはならんが、数年ぶりの…自由だ。

なんとも心地良いな、なあ…(かなえ)

 

「そうね、広い空を悠々と見上げるのも何年振りかしら?」

 

「まだ夜明け前なんだけど?」

 

私の前にいるのは一組の夫婦。

………私の(・・)両親だった。

 

これからはこの国で生活をしてもらうために、私が秘密裏に保護しておいた。

もう、日本で窮屈な思いはせずに済むように。

私がかつての本名を使わず、ウェイ君のために働き続けることを条件に、アーちゃんを説得し、この二人の永住権を掴み取った。

これから私はウェイ君の影として生きることになる。

それは百も承知していた、もう二度と『篠ノ之 束』という人間が世界に何かをする事も無い。

そして、この二人も本名を捨てて生きることになる。

 

父は『ジェラール・アイオン』

母は『ネルディア・アイオン』

 

その名前を背負い、この街で生きて行ってもらう。

イタリア語の習得も大変だろうけれど、その点はアーちゃんが手配してくれている。

住む場所と、資産の用意は私がしている。

働く場所も今後は探していく予定になっている。

 

そして日本政府は…いまだに動いていない。

警護も、保身のために隠しているのかもしれない。

自分の都合だけで生きている人間が多過ぎない?

 

「それで、この国へ渡る決意をしたというのなら、例の件に関しての意志は変わってないと見ていいんだよね?」

 

「当然だ」

 

決意は非情だったのか、それとも断腸の思いだったのか。

それを問う気は私には無い。

今の私にとって、この二人はともかくとして、あの愚者など…路傍の石にも劣る。

切り捨てたソレ(・・)に対しての感慨などそこにはもう無いのだから。

 

今の時間は早朝4時頃、ようやく東の空がわずかに白く染まり始める頃だった。

日本で使われていたマンションよりも、さらに広いそこは、二人で使ってもお釣りが出るほど。

遠くない未来には、養子をどこかから貰い受けるかもしれない。

そんな未来があっても別段なにもおかしくはないだろうなと思う。

そうなれば、この二人のいる場所に、私の居場所は無い。

それでも構わない、『ラニ・ビーバット』『コニッリョ・ルナーレ』の偽名を使って生きることを決めた瞬間から、私はこの二人とは一生涯訣別して生きると決めたから。

 

「束、お前はいつここに帰ってくるんだい?」

 

だから、辞めてよ…。

今になってそんなことを言われたら、今になって決意が鈍るから。

 

「さぁね、私は気まぐれだし、いつになるか判らないよ。

じゃぁね!」

 

私は窓から飛び降り、外套に仕込んでおいたハングライダーを起動させる。

片手だけでも起動させられるように仕込んだそれは私の体重を風と一緒に支え、夜明け空を飛翔する。

冷たい空気が眠気を吹き飛ばし、東へと進路をとる。

今回のことはアーちゃんに包み隠さず話しておかないといけない。

事前に話しておいたとは言え、事後の報告も怠らないようにしないとね!

 

やるべき仕事はまだ残っている。

私の手元にはビザがある。

もしかしたら、そんな可能性ではあるけれど、これをある人物たちに発行する事にもなるだろう。

そんな未来が来なければいいと思いながらも、私は初夏の夜明け空を飛び続けた。

 

「くーちゃんから次々とデータが飛んでくるなぁ。

まったく、私は今夜も徹夜になっちゃったよ☆」

 

さぁて、拠点に戻って紅茶でも飲もうっと!




剣を学ばせるため、重さを知るためにに真剣を渡す。
善悪判ってないような子供に持たせたり渡すのは流石に、ね。
現況だけでなく過去の経緯からもかんがみて千冬さんは事情聴取の後に謹慎処分になってました。
これには両親方も頭抱えたかも…。
そんなわけでその二人は束の手でイタリアに亡命です。


以下兵装紹介。

フィオナローズ
FIATローマ本部とアイルランド支部にて共同開発された双剣型兵装。
『フィオナの2輪の薔薇』の銘を冠する。
もともとはウェイルに稼働試験を頼まれていたが、稼働試験後にメルクが使うことも考慮し、槍から剣へと鍛えなおされた。
その際に籠鍔が搭載され、内部にトリガーがセットすることで浸食現象のオンオフの切り替えが可能になっている。
それぞれ紅色と金色の二色になっており、それぞれが『エネルギー流動遮断』『エネルギー過剰投与暴走』の現象を発生させる、言わば『相反する二つの浸食現象』を引き起こす魔剣となった。
なお、これによる浸食減少が引き起こされる時間に関しては、使用者のシンクロ値によって上下する。
メルクの場合であれば現状は5分程度。
なお、作中でも記されているが、浸食された場合はその装甲の展開を解除、収納をした後にOSの書き換えを戦闘中に行う手間を生じさせる。
『現状使っているエネルギーバイパスの破棄』
『新たにエネルギーバイパスを作成』
『エネルギーバイパスへの浸食を今後防ぐ為のファイアウォールを作成』
『インストールおよび装甲の再度展開』
『各部位の装甲へのOSの再度インストール』
ここまでのマニュアル作業を戦闘中に要求させる。

なお、連結させてダブルセイバーの形状での使用も可能となっているが、この際には新たにレーザー刃が出力され、射程距離はさらに伸びるが、浸食現象を発生させられないデメリットもある。
だが形状として、扱いは槍に近いものであると推察が可能。
言わばこの兵装は『槍でもあり剣でもある』と言える。
常時は両腰に新たに搭載されたレーザーカノンの上部に鞘がマウントされている。

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