IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第66話 想風 最善解

ブレード一振りでの戦闘など、『時代遅れ(・・・・)』。

近接戦闘と射撃戦闘の両方を兼ね添えた兵装がこれからのIS戦闘の需要を掌握するようになる。

そして、奴が『踏み台』と称したテンペスタが奴の天敵となる。

これ以上の皮肉は無いだろう。

普段ならここまでは言わないが、織斑にはさんざん迷惑を被ってきたんだ。

なら、ここで辛い現実を見せてやっても構わないだろう。

 

「ティナに授けたのは戦術だけではなく、プログラムもそうだ。

お前の動きに連動して事前回避できるように何度もシミュレーションを重ねて、制動させるようにプログラムを作り上げた。

弾丸の自動装填システムもそうだ、その全てを組み上げたんだ」

 

実際には俺とメルクの共同で作ったものではあるが、そこまで言う事も無いだろう。

 

「だから何だよ、それは以前の俺との対戦でのデータを使って組み上げたものだろう!

あの頃よりも俺は数段強くな」

 

「そんな訳が無いだろう。

連日、お前の戦闘データは収集しておいたんだ。

それこそ、クラス対抗戦の前から、今日にいたるまで、な」

 

事実だ。

多少欠けている日こそあるが、奴の映像から戦績や戦術の多くは手元に流れてきていた。

聞くところによると、織斑を快く思わない人物は1年1組にも居るらしく、その人物を仲介し、楯無さんへ渡り、俺に横流しされてきている。

1年1組の誰なのかまでは教えてもらってはいないが、それこそ些末な話だ。

 

情報は頼んでもいないのに横流しされ、それに対する対抗用データが緻密に組み込まれ、天敵ともなれる機体と戦術の需要が一気に跳ね上がる。

…専用機所持者だけでなく、全生徒の中でも最も弱い存在になりかねないな。

まあ、それは俺の預かり知る話ではないな。

 

「そんな事が出来る筈が…!」

 

「できてるから、今のお前はその状況なんだろう。

ティナがやり遂げた、それこそが何よりの裏付けであり証明だ」

 

だが、俺はそのプログラムをアンブラにインストールはさせているが、起動させていない。

この試合が始まってからも、普段通りのフルマニュアル操作のままだ。

その俺にすら拮抗しているのならな……。

 

「だったら…専用機所持者最弱の汚名はお前が名乗るんだなぁっ!」

 

レーザーブレード形態に切り替えた。

だが、単一仕様能力を起動させていないのを見るに、まだ冷静さを失っていないようだ。

 

「残念、そもそも俺は搭乗者ではなく技術者志望なんだよ!」

 

右翼3機を最大出力!

瞬時加速(イグニッションブースト)の速度で真横方向へ回避!

返す刃が振るわれるが、右手のウラガーノの長柄で受け止める!

 

「だったら…俺の道を遮るな雑魚がぁっ!」

 

脚部のアウルを突き出す!

右手の甲の装甲を多少掠め、火花が散る!

 

「ほら見ろ!テメェは致命的な欠点を抱えてるだろうが!

それが原因で、お前はオレに負けるんだよ!

それが真実だろうがぁっ!」

 

振り払い、姿勢制御をするが、その間にも織斑は切りかかってくる。

また俺の右側から振るってくる。

 

「この程度でしかないお前如きが!

どれだけ本気になろうと、オレに届くわけが無いだろうが!」

 

「この程度?…どの程度までが『この程度』だ?」

 

 

 

 

織斑、お前は致命的なことを忘れているぞ。

 

 

 

 

お前は本気を出せば、と言ったな。

 

 

 

 

そもそも、だ。

根本的な事を勘違いしている。

 

 

 

 

「いつから俺が、本気を出していたなどと錯覚していた?」

 

 

 

 

俺は本気を出すどころか、本来のスタイル(・・・・・・・)を使っていなかったんだからな。

 

 

 

 

「起きろ、『夜明け(アルボーレ)』」

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「何、アレ…」

 

ウェイルと全輝が拮抗して数秒後、見たことのないソレが現れた。

少しだけ不気味に思えたけれど、それでも何故かアレがウェイルが全輝程度に負けることなんて絶対にないと信じられた。

 

「あれが、お兄さんが考案し、実装されたもの…『アルボーレ』です。

しっかり見ていてください鈴さん」

 

「目に焼き付けておきなさい。

アルボーレをISに搭載して、戦闘にまで導入したのはウェイル以外誰一人として居ないのだから」

 

「今回渡したプログラムで、それが更にアップデートされています。

ここから先は、ウェイルさんにとっても驚愕するレベルですから」

 

イタリアから来た三人が順番に返答を返してくる。

色々と驚くようなことばかり言われている気がするけど、今はそれどころじゃない。

 

「アレが、ウェイルの本来のスタイル…。

狡いわよ、私にまで秘密にするなんて…」

 

それを先に見せてもらっていたであろうティナと楯無さんに少しだけ嫉妬した。

そして…ウェイルの隣に立てなかったのが…少しだけ悔しかった。

 

「全力で、本来のスタイルを見せ付けるっていうのなら…私と戦うまで、誰にも負けるんじゃないわよ!ウェイル!」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

お兄さんが今まで隠し続けてきたアルボーレをとうとう解放した。

今日この日まで隠し続けていたそれを出したからには、負けるつもりが無いという宣言なんだと私には察することが出来てました。

布仏さんが横流ししてくるデータを参考に織斑への対策用データを緻密に作り上げ、時には夜間戦闘訓練の後も徹夜をした日もありました。

その状態で、あの兵装をも解放したのなら、織斑にはもう勝ちの目なんて無いのは同然。

 

「お兄さんが今回イーグルを外しているのは、アルボーレを使用する際には動きを制限してしまうという弊害が生じてしまうからなんです」

 

「って事は…ウェイル君は本気なの?」

 

「いいえ、イーグルを使わず、アルボーレとウラガーノを使用するのが本来のスタイルということです」

 

楯無さんの疑問にも答えておく。

ここまでくれば、秘密にする理由なんてない。

それにあのアルボーレを秘密にしていたのはそれだけが理由ではないから。

 

「お兄さんが普段、機体をフルマニュアル制御にしているのは、お兄さんの反応速度に合わせるためでもあるんです。

そして…セミオート動作などの自動制御演算システムを、アルボーレの制御のために全てのリソースを費やす為だったんですから」

 

だから、アルボーレは、アンブラに搭載されておきながらも、唯一、お兄さんの制御を受け付けておらず、機体そのものが全自動で動かしている。

 

この勝負、お兄さんの勝ちです

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「何だ、アレは…」

 

管制室から放り出され、一般控室のモニターで私は試合を見ていた。

全輝ではハースには勝てないかもしれない………そんな事をどこかで思いながらも、試合を見続けていたが、ここから全輝の圧倒的な劣勢が始まっていた。

翻弄され、的にされ、貫かれ、薙ぎ払われ…

 

顔は上半分が隠されているが、白い髪を靡かせながら、嵐を名乗る機体は駆け抜けていた。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「起きろ『アルボーレ(夜明け)』」

 

その音声入力で、右肩に新たな兵装が展開される。

それは鋼仕掛けの多関節式の外装腕だった。

肩から伸びるその腕は俺の頭を超えた高さの辺りで折れ、腰の辺りに腕の肘にあたる部位を持つようになり、腕の先、いわば手は俺の足元にまで届いていた。

 

「何だよ…それは…!?」

 

「イタリア企業、FIAT製の外装補助腕『アルボーレ』。

今では…フランスとイギリスは除かれているが、欧州全土に広まっている技術だ。

災害復興、人命救助、工事現場、医療現場、技術開発研究所などでも多く出回っているものだ。

ISに搭載しているのは俺以外には誰も居ないがな」

 

アルボーレが勝手に両刃の長剣(グラディウス)を展開させて握る。

これがこの腕の特徴だった。

一度展開させれば、あとは全自動制御(フルオート)で動作を開始する。

機体制御用の演算システムのリソースを全て(・・・・・・・・・・・・・・)この腕に費やしているから、それは当然だが、この腕の反応速度は俺自身を超える。

右側の反応が遅いのは俺自身でも理解しているが、そんな欠点など気にする必要など一切無いと言っても過言ではない。

 

グラディウス

 

「一刀」

 

アウル・プロトタイプ・クローモード

 

「二爪」

 

俺自身とアルボーレ

 

「三腕」

 

ウラガーノとアウル・プロトタイプ・ランスモード

 

「四槍」

 

そして背面翼

 

「五翼」

 

久しぶりに使う本来の俺のスタイル。

やはりこれが一番体に馴染む。

練習し、模索し、時間を削り、その果てに見つけたのがこの答えだ。

 

「これが俺の本来のスタイル…これが俺のテンペスタ・アンブラ。

これが、今の俺が導き出せる限りの最善解だ!」

 

それでも、何物よりも優れた更なる最善解は幾つもあるのかもしれない。

だからこそ、模索を続ける価値がある。

きっと、そこには『完璧』なんてものはきっと無い。

視線を織斑に再び向けてみる。

 

「まだ試合の途中だぜ?

呆気にとられるようなら…程度が知れるというものだ!」

 

今度は俺が一気に肉薄する。

機体をバレルロールしながら左手のウラガーノでの射撃を叩き込む。

一瞬後にはアルボーレが袈裟斬りにグラディウスを振るう。

バレルロールを続けながら今度は右手に握られた銃弾を叩き込む。

そこで怯む織斑を見逃さないと言わんばかりにアルボーレが脳天に刃を振り下ろす。

 

「まだまだ!」

 

両手の銃を掃射。

続けて左足のアウルを突き出し織斑の姿勢を崩す。

グラディウスを手放したアウルがクローモードへと変わり、引き裂くように薙ぎ払う。

ここまでの連撃で織斑は完全に対応出来ていなかった。

その証拠に、すでに織斑は20m程離れた場所で息を荒げている。

 

「対応出来ないだろう?

これが俺の本来のスタイルだ」

 

「…………」

 

ウラガーノをランスモードに切り替え、そのまま腕を交差させる。

アルボーレもクロー形態から、アームモードへと切り替わり、再びグラディウスを握っている。

 

「お前は俺を雑魚だの言いたい放題だったが、その実はどうだ?」

 

「………」

 

返答は返ってこない。

まだ息が荒いようだから無理もないだろう。

見ればSEも残存22%になっている、単一仕様能力も使う暇は今回の試合の最中には無かっただろう。

とは言え、本来のスタイルは見せたんだ、もうとっとと終わらせてしまおう。

 

全ての背面翼にエネルギーを叩き込む。

 

「この…雑魚がぁっ!」

 

レーザーブレードが金色に染まる。

どうやらその一太刀で決着をつけようと考えているらしい。

大した度胸だと思う。

枯渇までの時間が短いであろう状況で単一仕様能力を使ってくるとは思わなかった。

だが…遅い(・・)

 

連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション)を発動。

織斑の機体を超えた速度で大気を貫きながら駆け抜ける。

 

「これが!お前の欲した真実だ!」

 

両手のウラガーノと、アルボーレが握るグラディウスが同時に振るわれる。

 

ガギャァァァッッッ!!!!!!

 

力が拮抗…したのは一瞬だけだった。

いや、そもそも刃同士がぶつかる事など無かった。

俺の刃は、織斑のブレードの鍔を狙っていたからだ。

そこに内蔵されている出力装置は衝撃に耐えられず、鍔と一緒に崩壊した。

レーザー刃が消失、そこにアルボーレが握るグラディウス、そしてウラガーノの刃が一斉に襲う。

絶対防御の範囲から出ていたであろう背面翼をも切り裂き、3つの刃が振りぬかれた。

 

刃は圧し折れ、背面翼も失われたのと同時にSEも完全に枯渇…まではいかなかったらしい。

 

奴の周囲には、まるで爪で引き裂いたような痕跡が三つ記され、歪な三角形を記しているかのようだった。

その中心点に織斑は居る。

 

背面翼は斬り落とされ、腕部、脚部装甲も破損し、その奥には操縦桿を握る腕が見えた。

だがそれでも反重力生成ユニットは生きているらしく、機体はかろうじて浮遊している。

そうだな…あの状態になっても殴る程度は出来るかもしれない。

 

「まだだ、まだオレは負けてない…!」

 

「大人しく降伏(リザイン)しておけ、これ以上の機体破損は深刻なレベルになるぞ」

 

「うるせぇェッ!テメェ如きにオレが負けると思うなぁっ!」

 

降伏勧告はしておいた。

これ以上俺が手を下すまでもない、その必要も無いだろう。

俺には今回は頼もしい相棒がいる。

言うだけ言ったし、俺は織斑に背を向ける。

相手にする必要もなければ、これ以上俺が手を下すのも嫌だった。

俺が背を向けたことで隙だらけだとでも思ったのだろう、織斑が右手の装甲の展開を解除し、素手で殴りかかってこようとする。

 

「視野狭窄も甚だしい」

 

上空からの激しい推進音が鼓膜を叩く。

俺からすれば普段から聞きなれた音。

 

「その天辺に……!」

 

テンペスタの稼働音もそこには混じっている。

俺の相棒がこの数日間で死に物狂いで身に着けた技術、連装瞬時加速(リボルバーイグニッション)独特のそれだ。

 

「メテオドラァァァァァァァァイブゥッッッ!!!!」

 

ドッゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッ!!!!!!

 

ただでさえ世界最速と名高いテンペスタの、しかも随所に追加スラスターを導入しての連装瞬時加速(リボルバーイグニッション)による超速度。

それが質量を伴ってのダイブアタックともなれば、もはや隕石同然かもしれない。

太陽を背にしていれば相手からは回避運動も判断もしていられる暇など無かっただろう。

今しがたティナが炸裂させた速度でのキックに織斑は当然耐えられるわけもなく、吹き飛ばされアリーナの壁面に激突。

絶対防御が発動されたが、それで終わりだった。

かろうじて残った装甲も見るも無残な状態となり、展開維持が不可能になったのか、燐光と一緒に消え去った。

 

『SE消失確認』

 

そのホロウインドウが現れると同時にブザーが鳴り響き、試合は終了した。

 

「負けた…?俺が…、また、あの量産機如きに…どうして…?」

 

「何もかも事前に準備しておいたからだ」

 

俺の言葉に織斑は俺に視線を向けてくる。

それを不愉快に思いながらも丁寧に答えることにした。

 

「情報を収集し、データをくみ上げ、危険要素があればをそれを使わせないように配慮し、戦術を組み、不意を突き、間合いを図り続け、タイミングを計り、何度も何度もシミュレーションを繰り返した。

万全と言えるであろう状態になっても尚も緻密に組み上げなおした。

お前を相手にする場合のことを考慮し、どんな状況になっても優勢に立てるように、自身が決して不利にならないように、幾つも幾つも策を用意してきたんだ」

 

「……は……?」

 

「情報は幾つも手に入った、それでも不足していると考え、それでもなお考えて策を用意し続けた」

 

呆気にとられて動けないのか反応できないのか、それとも思考放棄をしているのか、それはよく判らない。

 

「試合なんだ、誰だって負けたくないだろう。

だから準備を整え、策を用意する。

そんな事、誰だってやってる事だろう(・・・・・・・・・・・・)

 

俺がタッグの申請を悉く保留にし続けていたのは、それを考えるためでもあった。

クラス対抗戦以降、あいつの事は頭の片隅に追いやり、視界にも入れたくなかったが、先に手出しをしてきたのは織斑だった。

だから、コイツとまたどこかで衝突するという嫌な予感があった。

その日のためにも、コイツとの戦いの日のためだけに全てを費やし続けた。

 

「お前も何か考えがあったんだろうが、俺はそれも考慮していたさ。

思わぬ横槍もあったりしたけど、それが続く日々も考えてな」

 

「お前に、そんな事が出来る筈が…」

 

「誰かさんのお陰でそれも杞憂に終わったから良かったけどな。

お前に出来るのはその程度だって事だろう」

 

ありもしない話で人から疑われ続ける日々というのは本当に嫌で仕方なかった。

冤罪が証明されてよかったぜ。

 

「お前ができることはその程度、今ではお前がその人災を巻き起こした人物として白い目で見られているわけだ。

策士策に溺れるとか言ったか」

 

織斑が鋭い視線で俺を睨んでくる。

ティナも満面の笑顔で合流してくる。

 

「お前のやり口は嫌になるほど教えてもらっているんだ。

それに対してもこっちは先に用意をする必要があるんだ」

 

「…く…!」

 

さて一言余計かもしれないが言っておこう。

 

「1から10まで手を潰された程度で、万策尽きたか。

だったら、もう二度と俺達に手出しをするなよ」

 

そろそろ背後からの視線が不愉快だ。

飛んでくる最中のティナと合流し、ピットへ向かおうとしたが、そのティナが余計な事を言い始める。

 

「でも良いの?二人とも私がKOしちゃったけど?」

 

「ああ、構わない。

ティナは代表候補生を目指すためにもデータが必要になるんだろ?

だったらティナのためにそのデータは最優先で集積させる必要があったんだ。

俺はアルボーレのお披露目とそのデータの集積、ティナは目標を目指しての多くのデータ集積。

その為にも、量産機で専用機を打倒する(・・・・・・・・・・・・)程度のデータは最低でも必要だ。

今回は相手に恵まれたな、そのためにもサンプルデータが採れた」

 

視線を再度ピットに向ける。

ピットにはメルクが両手を大きく手を振って待ってくれていた。

さて、帰ろうか。

 

視線の先には笑顔のメルクと、微笑んでいるヘキサ先生に、クロエ女史の姿。

そして背後には歪な三角形の中央で睨んでくる織斑の姿が。

…あの状態ならまだ何かやらかしてくるかもしれない。

さっさと何か次の手を用意でもしておかないといけないかもな。

 

「ああ、疲れた」

 

「この後も快勝目指して頑張ろうね!」

 

この後というと、一般生徒との試合になっていたな。

でも、その前に少し休みたい…。

あ、でもメンテナンスとかしておかないと…。

技術者は忙しい…!

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

試合が終わり、私は観客席に訪れていた。

弟は試合では完封されて惨敗。

機体も、前回以上にコナゴナに切り刻まれている様子に、開発元とへ送り、オーバーホールをしなくてはならないと考えるが、その惨状によって頭痛に苛まれていた。

白式は両翼が斬り落とされ、ブレードは鍔から真っ二つに圧し折られ、脚部装甲も大破というありさま。

更にはマニピュレーターも数本折れ、挙句には腕部装甲そのものが輪切りにされ、粉砕された。

むしろ、無事な場所といえばコアくらいかもしれない。

 

「またか…」

 

視線の先では頭痛の種である篠ノ之 箒がクラスメイト全員、そして監視をしているバーメナの手で取り押さえられていた。

 

「離せぇっ!

奴を!あの卑怯者は絶対に斬らなくてはならないんだ!

貴様等は何故それが判らないんだぁっ!」

 

あろうことか、その手には刀を…真剣を握って叫んでいる。

 

「千冬さん!

行かせてください!

ここで奴を討たなくては、またどんな卑怯な事をするか判らないんだ!

あんな奴を放置していたら…!」

 

「いい加減にしなさいよアンタは!」

 

「卑怯者はアンタでしょう!」

 

「そうよ!織斑が噂話を作っていたのは誰だって知ってるのよ!

蔓延させたのはアンタでしょう!」

 

バーメナが居る以上、この話は学園長にも即日伝わるだろう。

それを篠ノ之は理解していない。

 

「それがなんだ!

奴を排除するには、そうする必要があったんだ!

奴がそうするであろう事くらい考えられない事じゃないだろう!」

 

いや、理解を拒んでいるのだろう。

こうやって取り押さえられているのも、それこそ他人のせいにする事だろう。

 

「織斑先生、どうするつもり?

学園長も見ているのよ?」

 

「………そうか………」

 

バーメナが白い目を私に向けてくる。

伝わるどころか、既に見られているのか…。

 

「…今回は事前に取り押さえられ、未遂で済んでいる。

篠ノ之の試合の時間まで控え室に軟禁しておけ」

 

謹慎処分には出来ない。

今回のトーナメントはタッグ制だ。

ここで篠ノ之が棄権扱いになればタッグを組んでいる谷本も棄権扱いとなり、成績にも影響するだろう。

 

「真剣をこんな所に持ち込んでいた問題から目を背けてない?

次に何か起こればクラス全体での連帯責任になると事前通告されていたのよ」

 

……ああ、判っている。

 

「それだけじゃないですよ」

 

管制室から戻ってきたであろう真耶も冷めた視線を突き刺してくる。

 

既に、事が起き、把握されてしまっているのも…。

何故、篠ノ之はこんなにも自身を抑えられないのだろうか。

 

バーメナに手錠を嵌められ、連行されていくのを横目で見送る。

 

「私は何も悪くない!

私を捕らえるくらいならウェイル・ハースを討て!

奴が何もかも全て悪いんだ!」

 

最後の最後まで憎悪と悪罵を喚き散らしていた。

何があんな風に人格を歪めてしまったのだろうかとさえ考えてしまう。

 

「彼女が叫んでいるのはテロリストの思想です。

この思想を払拭できなければ、他の生徒達への思想汚染にもつながります。

そうなれば、無期限謹慎処分、或いは退学を検討の必要もあるのを忘れないでください」




またもや色々ととセリフをブッ込んでいきましたねw
元ネタを知っている人はどれだけ居ることやらw

試合の結果は皆さんの期待していた通りのティナによるダブルノックアウトでした。
え?予想できない?こいつは失礼しました。

以下、兵装紹介

アルボーレ
イタリア企業FIATによって開発、実装、販売されている特殊外装腕。
事前に投影されたプログラムによって決められた行動を行うタイプ、使用者が直接あるいは遠隔操縦するタイプの二種類があり、イタリアを中心とした欧州全土に広い地域で使用されている。
小型に作られているものも健在であり、医療現場、工事現場、人命救助などに多くが渡され重宝されている。
初期考案、設計はウェイル・ハース。
ハース家のクルーザーに取り付けられた初期開発品はの贈呈主は不明。

アンブラに搭載されているものは、機体の右肩から追加搭載されている。
稼働させる為のデータとしてはメルク・ハースのものがそのまま投影されている。
理由としては、機体の操縦に合わせ、この外装腕操縦は操縦系統がこれ以上とないほどに複雑となるためデータ投影による再現が要求された。
だが、投影された技量をそのまま再現するために、より多くの演算システムのリソースが要求され、アンブラの演算処理リソースを全て費やしている。
これによってテンペスタ・アンブラはセミオートによるアシストのほとんどが失われているが、ウェイル・ハースは自分の反応速度と機体の反応速度が符合していないという理由でセミオートによるアシストをシャットアウトし、機体のフルマニュアル操縦をすることで、要求される演算リソースを全て費やす事に成功している。
無論、このような操縦は誰から見てもイレギュラーだが、機体本体に於ける濃密なデータ集積には好都合となっている為、企業側からは使用方法は黙認されているどころかで宝の山扱いされている。

前述の機体に於けるデメリットもあるため、ISにアルボーレを搭載している搭乗者はウェイル・ハースの他には誰も居ない。

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