IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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いろいろとセリフを突っ込んでみたかっただけなんです…


第65話 思風 告げる

調整が終わった直後、俺はティナに手首を鷲掴みにされ、ピットへと走る羽目になった。

 

「お、おい、そんなに勢いづけて走ると転ぶぞ!」

 

「だったらもっと調整を早く終わらせてよね!!

もうそんなに時間がないんだから!ほら、走って走って!」

 

ティナの身長は俺より少しだけ小さいくらい。

だがメルクよりは大きい…だから、やや長身の女子という分類には入るだろう。

だいたい166センチといったところか。

そんな女子に手首をつかまれて走るのは流石に見栄えが悪い気がする。

 

「そんな風につかまなくても走れるって!」

 

「道程はわかってるの?」

 

ほかのアリーナだって構造は然程変わらないだろう。

であれば、前回の対抗戦の時と走るコースは同じだ。

ティナが手を放し、俺もようやく自分のペースで走り始めた。

ティナ本人は無意識ったのかもしれないが、ISスーツ姿のまま眼前を走っていると流石に目のやり場に困る。

姉さんも同じような事をしていた覚えもあるが、今になっても慣れないのは仕方のない話だと片付けておく。

 

「おっ、ウェイル君も結構な健脚ねぇ」

 

「それは普段の特訓の頃から知っているだろう。

けど、この程度で息を切らすなよ?

もうじき試合なんだからな」

 

「誰のせいだと!?」

 

いかん、話が堂々巡りになってきた。

なのでさっさと切り上げ、ペースも上げていく。

走っている最中、簪ともすれ違い、軽く手を振っておく。

次に見かけたのはティエル先生だった。

行き先を指さしてくれるので、それを頼りに階段を上り、目的地へとたどり着いた。

俺の到着から4秒後にティナも到着した。

 

「ようやく到着しましたね、試合時間まで残り少しですよ」

 

「はぁい、フロワ先生!」

 

息を整えたティナが応答して返す。

それを見て思い出す、2組との合同授業で幾度か見かけた担任の教諭だったな。

 

「ハミルトンさん、ウェイル君のサポートを頑張りなさい」

 

「勿論!」

 

いや、どちらかというと俺がサポート側だと思うんだけどな…。

 

「これで準備よし!」

 

ピットに鎮座しているのはイタリア製第二世代型量産機テンペスタⅡ。

学園に配備されている訓練機で、これはその4番機だ。

(デフォルトカラー)のテンペスタを身に纏い、右手にトゥルビネ(アサルトライフル)、左手にネロ(サブマシンガン)を握る。

訓練の時と同じ高機動による射撃特化型の戦闘方法をとるようだ。

 

「調子はどうだ?」

 

「万全♪

今までの訓練で集積させておいたパーソナルデータも入力したから問題無いわ!」

 

早朝、放課後、そして夜間に訓練を積み、そのデータをサンプルに。

テンペスタ各機にも多少の癖があり、一番馴染んだそれを繰り返し使い、戦闘データを繰り返し集積。

ティナ本人が好む戦闘方法と、普段はあまり使わない戦術も頭に入れてもらった。

それらを全て集積し、自動補助(セミオート)のデータを書き換えた。

これによって、ティナがテンペスタⅡ訓練機4号に搭乗した際に使用できる専用のプログラムが完成したというわけだ。

その作成に徹夜までした日だってある。

その戦闘用プログラムを利用して今回のトーナメントに挑み、その戦果と集積したデータをアメリカ本国に提出し、次回の国家代表候補生選抜試験に挑むらしい。

目標を叶えられる様に彼女には頑張ってほしい。

 

「来てくれ、嵐影(テンペスタ・アンブラ)

 

俺のコールに応え、暗紫色の装甲が展開される。

コールから展開完了まで0.2秒、平均的なタイムに少し安堵した。

 

「さて…」

 

両手に長槍轟音(ウラガーノ)を握る。

もともとは俺が考案、デザインした代物ではあるが、それはかつてはプロトタイプとして既に開発されていた。

そこに、ルーマニア支部からの発想を取り入れ、ようやく完全な品へと姿を変えた。

それだけでなく、イタリアのテンペスタⅡに於ける標準兵装として新規実装された。

現在イタリアでは長剣型兵装グラディウスの生産は完全に途絶し、ウラガーノが主流だ。

言ってしまえば…言い方は悪いが、ティナ右手に握っているトゥルビネは1時代遅れてしまっているものだ。

ウラガーノはイタリアで実装されてはいるが、この学園にはまだ導入されていない最新兵装になるのだろう。

 

「ハース君?その兵装は?」

 

「…ただの槍ですよ」

 

無論、コイツを知っている教諭は多くない。

知っているとすれば俺の担任のティエル先生と学園長だけだろう。

この点についてもそうだ。兵装は担任には公開する必要はあるが、他クラスの教諭にまでは伝える義務が無い。

普段の授業では隠し続けていたから知られていないのは当たり前だ。

そしてそれは特製弾丸『暴君(カリギュラ)』も含まれる。

 

「それに、普段腕に搭載していた細い杭も見当たらないけれど…?」

 

「イーグルは外しています、今回は使いませんよ」

 

モニターで時間を確認する。

試合の定刻まで残り2分を切った。

 

「ウェイル君、この初戦におけるフォーメーションは理解してるよね?」

 

「ああ、全部頭に叩き込んだ」

 

ピットの扉が解放される。

本来であればすぐにでも飛び立つところだが、今回は特殊な作戦を考案された。

 

試合のルールとしては、定刻にブザーが鳴って試合開始となるが、それまでにフィールドに間に合わなければ失格処分とされる。

そう、定刻までに突入してしまえば(・・・・・・・・)試合開始に応じられるということだ。

今回この作戦を執るために、使用するピットを東側を要望した。

それは時間的に太陽の光が入り込みにくく、ピット内部の俺たちの姿を捉えにくくなるからだった。

光学カメラによる確認をしてしまえばそこまでだが、試合一つのために使うことはないだろうというのが今回の作戦。

 

「3♪」

 

ご機嫌なティナによるカウントダウンが始まる。

背面スラスターを稼働させるも、放出はまだしない

 

「2♪」

 

方向を微調整。

ティナは織斑へ向けて、俺はもう一方の打鉄に向けて突撃準備を完了させる。

 

「1♪」

 

両手の握る力を強める。

そして

 

「「ゼロ!!」」

 

扉の陰から飛び出し、フィールドに突入すると同時に試合開始時間を告げるブザーが鳴り響く。

だが、試合時間遅刻を告げる通告はされていない以上は試合続行が認められる。

もうこの時点で俺もティナも連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション)での吶喊だ。

これこそ大旋嵐(テンペスタ)の真骨頂!

 

ドゴォンッ!!!!

 

二つの轟音が響き渡る。

 

ティナの機体制御も今では見事なもので、速度そのままに回し蹴りを叩き込み織斑を蹴り飛ばしている。

かくいう俺も、双槍での突撃を成功させ、打鉄を吹き飛ばした。

 

「やり過ぎたかな?

いや、試合なんだ、まだまだ行くぞ!」

 

可変形式銃槍(アサルトブージ)、ウラガーノの見せ場はまだまだこれからだからな!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

ウェイル君と一緒に考えた作戦は大成功だった。

試合開始時間ギリギリに突入し、その速度そのままに相手への奇襲。

これによって対戦相手を吹き飛ばし、それぞれ各個撃破の陣形をとれた。

 

「クソがぁっ!」

 

濛々と立ち込める土煙の中、白い機体が姿を現した。

この試合における脅威はあの機体。

だから、先ほどの一撃でSEを一気に削る必要があった。

本来なら、一度は勝利しているウェイル君に任せておきたかったけど、それは甘えになるだろうからと、「SEを半分削るまでは私が相手をする」と言ってのけてみた。

ウェイル君はあっさりと納得してくれたけれど、メルクは渋い顔をしていた。

それは私だって納得している。

第二世代機で(・・・・・)第三世代機を超える(・・・・・・・・・)のは非常に難しいとされている。

だけど、ウェイル君はそれをやってのけた。

そして、今回それを私が実現するための作戦を一生懸命、一緒に考えてくれたうえで、私に任せてくれた。

なら、その信用に応えないとね!

 

「悪いけど、しばらく付き合ってもらうわよ!」

 

「へぇ、量産機で俺に勝とうっての?

随分と甘く見られたものだなぁ!」

 

「それこそどうかしらね!」

 

私の狙いは勝利じゃない。

あくまで削り続ける事!

両手の引き金を引き、大量の弾丸が発射される。

それでも回避される、でもそれも想定範囲内!

背面スラスターを逆放出!

 

「当たらないわよ!」

 

横なぎに振るわれるブレード回避!

勢いを維持したまま上方向に向けて後退瞬時加速(バックイグニッション)

急制動に体への圧迫を強く感じる。

これはメルクが「使わない方が良い」と言っていた技法。

なるほど、確かにこの制動はあんまり繰り返し使えそうにない。

でも、これをウェイル君は安全機構(セーフティ)を解除させてまで繰り返し使っていた。

だからと言って、国家代表候補生を目指す私がその程度成功させないで、目標にたどり着けるか!

 

「撃ち落す!」

 

再び両手のトリガーを引き、方向転換途中だった織斑に弾丸の雨を叩き込む。

背面スラスターを停止させ、姿勢制御に持ち込み、再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)

着地し、脚部装甲で地面を削っていき減速。

停止させる間もなく右翼の出力を最大に、左翼だけを姿勢制御に使い、織斑を中心に円を描くように地を駆けながら全周囲から弾幕を浴びせる。

脳裏に思い返されるのはウェイル君が言っていた言葉だった。

 

「織斑の戦法は、接近してブレードを振るう、それ一つだけだ。

そしてそれは単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を使用した際も変わらない。

だから、織斑の間合いで戦おうとするな、射撃一辺倒の戦闘をしたいのなら猶更だ。

試合開始同時の奇襲を最初で最後にしたほうがいい、それで大幅にSEを削ってしまうのが理想的だ」

 

「理想的ってどういう事?」

 

「織斑の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)は無償で使えるものではないって事だ。

直撃すればこちらのSEを大幅に削られるが、自身のSEを削り続ける。

尚詳しく言えば『発動し続けている間は(・・・・・・・・・・)』自身の機体のSEを代償にしているんだ」

 

「なるほど、最初の一撃で大きく削っておけば、発動させることに関して自身のSEの枯渇を危惧させ続けるってことか。

接近して直撃させようとすれば、瞬時加速でもSEを削るんだから二重消費にもなる」

 

「そういう事だ」

 

こうして織斑を相手にする際のマニュアルは構築されていった。

内容が結構単純だけど、それでも、同じ作業を繰り返して行えるように機体の調整も力を入れている。

私が学園から借りたテンペスタも、私の操縦技量に付け加え、小型の追加スラスターも導入し、姿勢制御も緻密性を自動制御してもらえるようにしてある。

 

「この程度の奴に俺が負けると思うなぁっ!」

 

「言ってくれるわねっ!」

 

振るわれるブレードの軌道は見えている。

横なぎに振り払われるであろうその間合いから後退瞬時加速(バックイグニッション)で事前回避。

その間にも両手に持ったアサルトライフルとサブマシンガンを一斉掃射!

 

…いける!

 

ウェイル君との作戦会議では50%削ったところでフォーメーションを交代させるということだけど、

 

「私の事を『この程度』とか言ってたわね」

 

「……?」

 

両手に持った銃の引き鉄を引くけれど、カチャカチャと乾いた音が響く。

どうやら弾切れらしい…だけど!

 

織斑が私の弾切れを察したのか一気に突っ込んでくる!

それを見越して私は両手の銃を指先だけでクルリと一回転させ、再びグリップを握る。

 

「どの程度までが…『この程度』なのかしら!」

 

再び引き鉄を引く。

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

銃口から再度弾丸が一気に発射され、白い機体のSEをガリガリと削っていく。

 

「嘘だろっ!?」

 

これが、ウェイル君の作り出したプログラムの一つだった。

特定のモーションを入れる事で、自動的に弾倉そのものを自動交換させる。

これによって弾倉を手作業で交換する必要もなく、弾倉を装填した兵装を拡張領域から取り出す手間も省く。

自分にとって使い慣れた銃を手元に置いたまま、使い続ける戦法を取れる。

更には弾倉を大量に登録させることでメモリを余すことなく使えるようになり、大型の大火力兵装登録によるメモリ圧迫も回避ができるようになった。

これもまたウェイル君の発想らしい、プログラムの名称はまだ命名されていないらしいけど。

いわば、発想の転換による『飛翔する火薬庫』の発展型。

 

「ティナ、そっちの調子はどうだ?」

 

唐突にウェイル君からの通信が入り、

 

「絶好調!」

 

と返す。

実際、ウェイル君が通信を入れてくるよりも前に織斑のSEは残り40%の所まで削ることには成功している。

そもそも、ウェイル君の技術と助言、作戦のおかげで私のテンペスタは85%残っている。

うん、この圧勝っぷりには私も気分がいい

 

「なら、そろそろ」

 

「オフコース!相手の交換ね!」

 

再び後退瞬時加速(バックイグニッション)

ウェイル君とすれ違う瞬間まで射撃を続け、数舜後にはスラスターが自動で姿勢制御してくれる。

 

「Hey!Ms.谷本!残りの時間は私が相手をするわね!」

 

「…むぅ…」

 

両手の銃を構えようかと思ったけど、相手の観察を先にする。

相手の機体は『打鉄』、右手にブレード、左手には物理シールドを携えている。

守りながらの戦闘方法を好んでいたらしいけれど、そのシールドはすでにボロボロの状態。

ウェイル君も派手にやっていたらしいわね。

視線を移動させ…容姿を含めて観察、頭のてっぺんから顔、肩…うん、細いわね。

そして肩から下に視線を移し…その部位を見て私は腕を組んで見せつける。

 

「…フフ…」

 

「…その挑発、敢えて受けて立つ!」

 

おっと、気にしてたみたい。

鈴と同じところに導火線を持っていたみたいね。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

織斑の機体を観察してみる。

モニター上では残存するSEは38%、ティナは大金星を挙げていたらしい。

 

「俺の相方には散々苦戦させられていたらしいな」

 

「うるせぇよ、そういうお前は奇襲をしてこないのか。

それとも策が尽きたのか?」

 

さあ、それはどうだろうな?

 

「そもそも俺は相手が悪かっただけだ!

近接戦闘を交えるお前ならタカが知れてるんだよ!」

 

へえ?俺はまだお前相手に全ての手の内を見せた覚えは無い(・・・・・・・・・・・・・・・)がな。

 

織斑が一気に間合いを詰めてくる。

だが単一仕様能力を無為に発動させてくることはなさそうだ。

俺は両手の轟音(ウラガーノ)を構える。

 

ギャギィッ!

織斑の一刀と俺の双槍が咬みあう。

槍の懐に入ればブレードが届く、そう考えているらしいが、その程度の事は俺だって自覚はしている。

だから、懐に近づいたとしても入れてやる気は無い(・・・・・・・・・)

 

「オラァッ!」

 

力任せの一薙ぎ、それを後退瞬時加速(バックイグニッション)で事前回避。

だが、追撃と言わんばかりに肉薄してくる。

 

「…かかったな」

 

「…なにっ!?」

 

肉薄してくる瞬間には、両手の槍の変形(・・)は完了していた。

左手の槍は長柄の中心点にあるリング型グリップを中心に二つ折りとなり、穂先がスライドして展開し、その中央部からは銃口を覗かせている。

右手の槍は二つ折りにはならず、リング型グリップから直接銃身を飛び出させている。

 

言わば、左手にはアサルトライフル、右手にはハンドガンが握られた状態だ。

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

ドガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

二つの銃声が鳴り響く。

 

「さあ、いくぜ『暴君(カリギュラ)』!」

 

左手の銃を一回転させ、音声を込めた弾倉自動装填。

狙いをつけ…発射!

 

ドォォォォォォォォンッ!ドォォォォォォォォンッ!ドォォォォォォォォンッ!ドォォォォォォォォンッ!ドォォォォォォォォンッ!

 

着弾と同時に小規模の爆発が織斑を襲う。

 

「クソッ!」

 

これ以上撃たれるのは嫌なのか、はたまた散らばもろともと考えたか、瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に距離を詰めようとしてくる。

 

「お、上手く飛び出してきたな。

威力は良いが、土ぼこりまで起こしてしまうな、例の無銘の弾丸よりかはましだが、威力については要相談だな」

そして、俺の右側から寄ってくる。

 

「前回のお前との対戦で!お前の癖は見抜いてんだよ!

お前は…右側からの反応がのろいってなぁっ!」

 

「それがどうした?」

 

そんな悪癖、自分でも自覚しているし、それを埋めるための用意もしてあるんだよ。

大上段から振り下ろされるブレードをギリギリで避ける。

少しだけ後退して様子見に移る。

肉薄すれば確かに暴君(カリギュラ)の弾丸は使えない。

 

下段からブレードを振るわれる。

脚部装甲拘束解除!

 

「オラァッ!」

 

「そらよっ!」

 

ブレードと俺の脚部から突き出された杭が衝突し、甲高い金属音が響く。

これも前回使用した際の使い勝手から色々と考察していた。

兵装の仕様からすれば、これは視覚外からの、そして近接距離からの奇襲にも使えるのではないのかと。

その為、この兵装の直径をさらに細く、軽量にすることで、素早く、より鋭く動かせるようになった。

副次効果ではあるが、『振り上げる』形での攻撃に対し、速度を殺すことで完全停止もできるようになった。

今のこの時のように…まるで、俺が織斑のブレードを踏みつけるような形に拮抗させられるほどに。

 

「で?もう終わりか?」

 

「テメェ如きが…俺を見下ろすな…!」

 

「お前が下にいるんだ、それを見下ろして何が悪い?」

 

偶然か、あの時の皮肉を繰り返した。

 

「お前には随分と迷惑を被ったんだ、倍以上に返してやると決めていたんだ」

 

「なんだと…!」

 

もののついでに言っておいてやるか。

 

「この学園には専用機所持者が数名いるが、その中でもお前は一番弱いだろうぜ」

 

「勝手なことを言ってんじゃねぇっ!」

 

ブレードを振り払い、刺突の形で突き出してくる。

だが、突き出した先には俺はもう居ない。

瞬時加速のスピードで体を縦に回転させて回避。

内臓が圧迫される感覚に襲われるが、歯を食いしばって耐える。

左足のアウルを突き出し、奴の手元を襲う。

 

ガキャァッ!

 

「理由を教えてやるよ」

 

俺の背後に回ったであろう織斑に視線だけ向ける。

 

突き出されたアウルは奴に掠めた。

左手のマニピュレーター、その小指を。

 

「ティナに今回の戦術を考案したのは俺だよ」

 

「それが何だってんだ!」

 

ゆっくりと、余裕をもって振り返る。

奴の双眸が見えるが、そこに余裕がない、滾っているのは憎悪の類だろう。

 

「織斑、お前の戦術は、接近してからの近接格闘、そして単一仕様能力だけだ。

中遠距離射撃戦闘をする相手、実弾兵装を使用する相手にはほとほと無力だってことだ。

それを、今回ティナが実演して見せた、俺が考案した戦術でな。

お前が射撃をしてくれば話は別かもしれないが、今の状況のようにチームメイトから射撃兵装を借りられないように分断してしまえばそれも防げる」

 

この瞬間になって織斑が別方向に視線を反らす。

どうやら今になって相方の場所と距離に気づいたらしい。

それでもすぐ視線を戻すところ、俺に集中しておきたいらしい。

 

「更に言っておけば、その戦術を多くの生徒に公開したことによって、お前への対策手段に走る一般生徒も多くなるだろうさ」

 

ギリ、と犬歯を剥き出しにしてまで俺を睨んでくる。

以前はこの様子を見れば一歩引いていたが、今の俺にはあの時のような胸騒ぎはしなかった。

相方や家族が心の支えになってくれているんだろうか。

 

「その程度が何だってんだ」

 

「まだ判らないか?

今後は生徒はお前の機体の速度に追いつけるように、いや…お前が追えない速度で対応出来るように技術を磨く。

お前が踏み台といった機体『テンペスタ(・・・・・)』でな」

 

そう、奴の機体に追いつき、そして追いきれない速度に至るには、打鉄ではなく、テンペスタであるほうが有利になる。

追加でスラスターを導入し、射撃戦闘に特化するようになる。

ブレード一振りだけの戦闘など『時代遅れ(・・・・)』でしかないのだと。




いつから、切り札が一つだけだと勘違いしていた?

とまあ、今回のコンセプトは『備えあれば憂いなし』でした。

以下、今回登場した兵装の説明

ウラガーノ
イタリア製第二世代型量産兵装。
『轟音』の銘を冠している。
長槍を模した兵装であり、『槍剣』『銃剣』の可変系システムを有したもの。
『ハンドガン内蔵式』の二種類がある。
これまではテンペスタⅡでは、
長剣型兵装である『グラディウス』、3点バースト式アサルトライフル『トゥルビネ』を標準兵装とした戦闘が主流だったが、ウラガーノの試験稼働後に、新たな標準兵装として更新され、イタリア国内に於けるテンペスタⅡに更新、配備、実装された。
ウェイルの場合は、その両方を同時使用という他に類を見ない戦法を好み、速度と技量を活かしている。
稼働試験後にはルーマニア支部からの修正も入り、現在のように籠鍔を導入し、変形機構がよりスムーズになった。
なお、本国では可変形式のものが搭乗者からは好まれている様子。

なお、初期の考案、設計はウェイル・ハース


カリギュラ
月光に魅せられた狂皇の銘を冠した起爆機構を兼ね添えた弾丸。
着弾と同時に起爆し、より大きな損害を相手に与えるという奇抜な仕様になっている。
アサルトライフル式、ハンドガン式の弾頭が開発されており、その性能から見れば最早『銃とミサイルの中間』とも言える。
先の戦闘でも使用された無銘の爆発弾から改良されたものとなっている。

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