IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第63話 色風 確かめる

とうとうトーナメント当日がやってきた。

訓練の成果を全て出し切ってやろうと朝から豪勢な朝食をとろうと思って先んじて席を確保しておいたけど…

 

「ふ…ぁ…」

 

私の左隣にいる男子生徒は呑気に欠伸をしている。

こんな調子で大丈夫だろうかと疑ってしまう。

そしてその傍らにいるメルクは苦笑いをしている。

 

「ちょっと、ウェイルに何があったのよ?

かなり眠そうだけど、そんな夜遅くにまでメンテナンスでもしていたの?」

 

「あ、いえ、その…。

夜分遅くになってから大使館からメールが届いて…、本国からお兄さん宛てに渡すものが届いたと…」

 

ウェイル宛に荷物でも届くっての?

そんなタイミングで?

時間を考えなさいっての。

 

「で、その荷物を受け取りに日本本土側にまで渡ったのかしらパートナー君?」

 

ティナも会話に入ってくる。

しかも眠そうにしているウェイルにそっとコーヒーを差し出しながら。

角砂糖は3つとウェイルの味覚まで把握してしまったのかと思うとちょっと気分が複雑だわ。

 

「いや、今日この後に学園本土側に来訪する予定になっている。

あんな時間だったからな、ティエル先生に急遽連絡をして学園長にまで話を通してもらったんだ。

来訪者用のライセンスカードも急遽発行してもらったんだけど、もっと話を早くしておきなさいと先生からちょっとお小言を言われたんだよ」

 

うわぁ、少しばかり同情する…。

門限時間を過ぎた以降にメール送ってくるとか本当に時と場合を考えてほしいわね。

 

「で、その人ってどんな人なのよ?」

 

「なんでも、企業専属特別顧問技術者……だったかな、そんな聞いたこともない肩書を持っている人が居るんだけど、その人物の助手だそうだ」

 

怪しい、露骨なまでに怪しすぎる。

なによその長ったらしい胡散臭い肩書を持った人物は?

そして今回のそのゲストはその人物の助手ってどういう事?

 

「本当のことを言えば、私達も会った事が一度も無いんです。

噂は独り歩きしていますけど、その技術者の方は噂ばかりが流れていて…」

 

完全に不審者と言っている事が変わらないんだけど…?

 

曰く、性別、年齢、容姿、経歴が一切不明。

『少年』『成人女性』『壮年男性』『老婆』など噂に統一性がまるで無い。

ただ、『隻腕の人物』という話だけが、数ある噂の中で共通しているとか。

そんな『不明』ばっかりの胡散臭い履歴書なんて子供にだって用意出来るわよ。

見てみなさいよ、ティナだって頭を抱えているわよ。

 

「…まるで霞を食って隠居している仙人みたいね…」

 

自分で言っててこの評価が正しいのかさえ分からなくなってしまってきた。

というか、そんな怪しさと胡散臭さ以外に何一つわからない人物を雇っていて大丈夫なんだろうかイタリアは?

 

「けど、技術は間違いなく本物だよ。

俺が考案した『プロイエット』を開発して実装までした経歴だって持っているからな」

 

「ふ~ん…え、マジで?

私も使わせてもらったけど、アレを!?」

 

私もそうだけど、ティナもプロイエットを使わせてもらった。

最初はローラーブレードと大差ない速度しか出せなかったけど、今では乗用車並のスピードで走っても平然としている。

私も何度か楽しませてもらった。

先生も今後はISの速度に慣れさせるため、今後の授業に導入を考えているとか。

だけど授業に導入できるほどの数を仕入れるだなんて本当に出来るのかは判らないけどね。

 

「で、来訪者はその胡散臭い肩書の人の助手一人だけ?」

 

「いえ、護衛に軍の方が一人同行してくださるそうです」

 

「ああ、俺たちの教官役を担ってくれた人なんだ。

俺の槍の腕はその人から叩き込んでもらったものなんだ」

 

ウェイルの師匠、その言葉に強く興味を惹かれた。

思わぬ僥倖だと思う、ウェイルに近しい人物が向こう側からやってきてくれるだなんて…!

情報が少しでもほしい私としては是が非でも接触をして話を聞き出しておきたい。

 

「その人、なんていう名前なの?」

 

「『ヘキサ・アイリーン』教官だよ、それがどうしたんだ?」

 

絶好の好機…!

なにがなんでも接触しておかないと!

 

「それにしても、俺に渡しておきたいものって何だろうな?

しかもこのタイミングだろ、俺にはさっぱり心当たりがないんだが…?」

 

「物資や兵装ではなく、データとかかもしれませんね」

 

「ねぇねぇ、新しくプロイエットを学園に搬入しに来た、とかじゃないの?」

 

「それだったら俺に渡す必要は無いさ。

わざわざ俺とメルクをご指名なんだから、その時に聞いてみればいいよ」

 

そう言ってティナから差し出されたコーヒーを飲み干す。

温かいコーヒーで完全に目が覚めたのか、皿の上のホットサンドに齧り付く。

私も中華セットを食べ進めることにした。

 

「それはさておき、トーナメント表ってどうなってるのかしらね、鈴?」

 

「このタイミングでも通知されてないって事は、ギリギリまで伏せる予定じゃないの?」

 

願わくば、ウェイルとは早めに対戦したい。

訓練の成果を試すのに最適かな、なんて。

純粋にウェイルの実力を見てみたいという好奇心もあるのも確か。

メルクとの連携も色々と試してみたいと思う。

 

「私は…お兄さんとは別のブロックが良いですね。

そうすればお互いに応援が出来ますから」

 

「メルクは本当にブラコンよねぇ」

 

ティナのその言葉に皆が微笑んだ。

こういう憩いの時間がいつまでも続けば良いと思うけれど、時間は無情にも流れていく。

食事を終わらせた後、正面玄関へと向かうウェイルとメルクを追いかける事にした。

届け物をしに来た人は誰なんだろうか、だとか、久々に会うヘキサという人について楽しそうに語り合うその姿に毒気を抜かれてしまう。

二人のうち、一人は会った事さえ無いらしいのに…ちょっと能天気だと思う。

 

「お、もう到着してたな」

 

大橋に繋がる守衛門に、その人は居た。

腰にまで伸びる亜麻色の髪が風に流れるその様に思わず息をのんだ。

なに、あんな美人な女性とウェイルは知り合いだっていうの?

あの人が専属技術者とか言ってた人なんだろうか?

 

「È tanto tempo che non ci vediamo, entrambi.」

 

「è molto tempo che non ci si vede.Signor Hexa」

 

唐突に始まるイタリア語での会話に完全に蚊帳の外に…。

イタリア語なんて私は修めているわけもないから、何を話しているのかがさっぱり判らない。

多分…社交辞令だとか、挨拶だとかその類だとは思うけど…。

そのまま暫くはイタリア語での会話が続いてイライラしてくる。

あー、ちょっと暴れたくなってきた。

 

「紹介するよティナ、鈴」

 

そして唐突に日本語が返ってきた。

 

「この人がヘキサ・アイリーン。

俺達の姉さん(・・・)だ」

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

È tanto tempo che non ci vediamo, entrambi.(久しぶりね、二人とも)

 

è molto tempo che non ci si vede.(ご無沙汰しています)

Signor Hexa(ヘキサ先生)

 

この人も日本語は嗜んでいるはず。

なのに、唐突に出てきたのは私達の母国の言葉だった。

となれば、周囲の人に聞かれたくない話をするつもりなのだと察した。

 

Qualcuno sta cercando di (君達とアリーシャさんとの) scoprire la relazione tra te e Alisha.(関係を探っている人がいる)

 

以前、お兄さんがうっかり家族構成をあの人に教えた際に、うっかり『姉』の存在を口にしてしまった。

これはその為のカバーなのだろうと私は理解した。

 

Quindi, mentre sono qui, (だから、ここに私がいる間は)'Rappresentatemi male come mia sorella'. (私が姉だと誤魔化しなさい)

 

È un ordine di tua sorella?(それは、姉さんからの指示なのか?)

 

笑顔で首肯された。

それで思い出したのか、お兄さんも頭を掻きながらため息を一つ。

 

inteso.(判りました。)

Se è così, parliamone(そういうことなら話を合わせますよ)

 

私も頷き、了承の旨を見せる。

そしてお兄さんは振り返り…。

 

「紹介するよティナ、鈴。

この人がヘキサ・アイリーン。

俺達の姉さんだ」

 

「話は伺っているわよ!

弟妹が普段からお世話になってるってね!」

 

お兄さんはともかくとして、ヘキサさん…フランク過ぎます…。

 

「それで、私はいつまで放置されるのでしょうか?」

 

女の子の声が聞こえ、私は再び振り向いた。

銀の長い髪は、何故かラウラさんを彷彿させる。

年齢はさほど変わらないけれど、どこか彼女よりもほんの少しだけ大人びて見えた。

もっとも特徴的なのは、閉じられた双眸に、白い杖。

 

「そんなに驚かないでください。

別に見えていないわけじゃありませんから」

 

「え、あ、はい…」

 

「では…初めまして、イタリア企業FIAT専属特別顧問技術者『ラニ・ビーバット博士』の助手、『クロエ・クロニクル』と申します」

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

生徒会室に通された二人を見て流石に私も頭を抱えた。

イタリアからのゲスト、しかも二人同時ときたものだから…誰が予想しろっていうのよこの状況!

一人は企業の専属技術者の助手を名乗る女の子。

もう一人はその護衛として同行している女性…しかも、ウェイル君とメルクちゃんの『姉』だという。

 

「…予想が外れたわね」

 

ハース兄妹と親しく話をしている様子を見ながら私はポツリと呟いた。

ハース兄妹の『姉』と称される人物はイタリア代表選手である『アリーシャ・ジョセスターフ』女史だとばかり思いこんでいたから…。

けど、実際には二人の教官役がそれだった。

鈴ちゃんも『予想が外れた』と言わんばかりにため息を一つ。

 

その様子に気付いていないのか、話題の4人はイタリア語で会話を続けている。

もう少し人目を気にしてくれないかしら?

 

パンッ!

 

尽きない話題に終止符を打つために手をたたいて大きく音を鳴らす。

そこでようやく思い出したのか、ウェイル君たちが視線を私に向けてきた。

 

「楽しいおしゃべりは一旦後にして。

それで、ミス・アイリーン、そしてミス・クロニクル、本日はこのIS学園に何の御用かしら?」

 

「イタリア本国の企業FIATから、ウェイルさんに渡すものがあり、ここへ参りました」

 

腰にまで届く長い銀髪を揺らしながら、女の子、クロエ・クロニクルがさも当然のように言い放つ。

この少女は企業専属技術者を名乗る人物の助手、ということらしいけれど…どうにもラウラちゃんに似ている気がする。

姉妹だといわれてしまえば、それで納得するほどに。

 

「俺に渡すもの、というのは?」

 

「こちらです」

 

胸元のポケットから差し出されたのは……猫のミニチュア?

じゃなかった、その口を開けばUSB端子が…つまり、渡したいのはデータということかしら?

 

「こちらにはウェイルさんの機体『テンペスタ・アンブラ』用の最新データが入っています。

こちらをインストールしておいてください」

 

「ああ、判った」

 

受け取るや否や早速機体の腕部装甲とコンソールを展開してデータをインストールさせていく。

 

「それと、こっちがビーバット博士が手掛けた、ウェイル考案の最新の兵装『ミネルヴァ』よ。

こちらもインストールをしておきなさいね」

 

「嘘だろう…もう出来たのかよ…?」

 

企業の関係者らしいけれど、こんなにもアッサリとインストールするの?

少しは疑うことも覚えなさいな。

そう思っている間にも、展開されたコンテナがウェイル君の機体に収納されていく。

どんなものかは気になるけど…

 

「さてと、そろそろタッグマッチトーナメントの対戦表が発表されるわね」

 

あいにくと私は参加が認められていない。

なにしろ『学園最強』がトーナメントに参加してしまったら、話にならない。

他の生徒達のやる気を削がないように、私は不参加にしてある。

その分時間が余るから、簪ちゃんの応援に努めておこうかしら。

 

「今回のト-ナメント表は、誰が構成しているんですか?」

 

メルクちゃんからの質問が飛んでくる。

前回みたいに対戦表が操作されていたら嫌だものね。

 

「安心しなさい、今回は完全にランダムよ。

前回のクラス対抗戦では織斑先生が裏で操作していたけど、今回はその権限を剥奪しているからその心配はないわ」

 

「へぇ、この学園ではそういう裏操作が平然となされているのね」

 

どのみち、イタリアからの来訪者に聞かれても痛いことを話したつもりは無い。

この程度の事実は向こうでもすでに把握しているだろう。

私としても千冬さんの杜撰な行動にはウンザリさせられているんだもの。

せっかくだから彼女には、ここまでのことの裏付けを持って帰ってもらうとしておこう。

 

「ええ、私達からしても、とても見過ごす事など出来ないと断じ、彼女からはこの学園内に於ける権限を幾つか剥奪しています。

普段の業務内でも監視をつけ、パソコンなどの履歴も事細かに履歴確認をするように徹底していますので」

 

「ふぅん…でも、その監視は足りているのかしら?」

 

「今後も監視強化を続けていますので。

不正行為や、風評被害を伴うような悪質な扇動などは摘発していきます」

 

こんな言葉を使うのは、すでにそのような事態が起きてしまったことを認めているようなものだと理解している。

後手に回り続けてしまったことも認めざるを得ない、だからその汚名返上のつもりもあるのだと悟らせる。

 

「そう、なら良いわ」

 

そして各自に届けられた対戦表に視線を向けてみる。

 

「じゃあ私は観客席に先に行ってるから、頑張りなさいね、二人とも」

 

「ああ、できる範囲で頑張るよ、姉さん」

 

「私は優勝を目指しますから!」

 

激励とその返答が目の前で交わされる。

その言葉には躊躇がなく、やっぱりというべきか、本当にこの二人の姉なんだなと思わされた。

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

ウェイルとメルクのお姉さんが生徒会室から出ていき、それに続けて二人も出ていく。

その少し後に続くようにクロエって娘も出て行った。

それを横目にしながら私はお茶を一口飲む。

 

「鈴ちゃんはなんだか今回随分と静かだったわね?」

 

「ただ単なる予想でしかなかったけど、その予想が見事に外れたから、かな」

 

ウェイルとメルクの『姉』とは、イタリア代表選手である『アリーシャ・ジョセスターフ』女史だろうという予想をしていた。

だけど、その予想は見事に外れてしまった。

話に入ろうと思ったけど、あの二人があんまりにも楽しそうに話をしているから間に挟めなかった。

だけど、まだチャンスはあると考えてる。

観客席に向かうと言っていたヘキサって人を追いかければ話は伺えるだろう。

 

「なら、諦めるの?」

 

「絶対に諦めないわよ、やっと好機が巡ってきたから…!」

 

それに、時間ならある。

トーナメントでは私は最終ブロックのシードに入っているから、時間がタップリと確保ができていた。

 

「それに、メルクからも話を聞き出す時間も作れているから」

 

どういうわけだか、ランダムで構成された今回のトーナメントは時間確保という意味合いだけで考えれば私にとっては好都合なことこの上ない。

どこからどうやって崩すかを考えるにも、熟考さえ出来る…!

 

「そう、…ところで鈴ちゃんは誰とタッグを組んだのかしら?」

 

「私のタッグパートナーはメルク、私のルームメイトがウェイルと組んだからそういう組み合わせに」

 

本当のことを言えば、ウェイルと二人きりになれる時間を確保したかったけど、これはこれでも好都合。

だけど、パートナーになりたがっていたのはメルクだって同じ。

そのわがままを跳ね除けさせたティナは何を考えてんだか。

それに応えたウェイルも何を思ったんだろう?

私と組ませて勝率を高めさせよう、とかかも。

そう考えるとウェイルも度を越えたシスコンね。

 

「ウェイル君の参加枠は…あらあら、初戦みたいね」

 

対戦相手は…こればっかりは偶然と思いたい。

 

「対戦相手は…1-A谷本 癒子 1-A織斑 全輝。

これはウェイル君が勝ち残るでしょうけど…後半ではメルクちゃんが篠ノ之箒との対戦になる。

今回の抽選は完全にランダムだった筈…これは偶然…?」

 

「ウェイルもメルクもあの二人に負ける光景なんて想像できないし、快勝して見せるでしょうね」

 

「信頼が厚いわね」

 

当然の結果でしかないと思うけど。

 

さてと、時間があるといっても有限なんだから私もそろそろ動こう。

話を伺うべきは二人、クロエって人も含めれば3人、まずは接触しやすいヘキサって人からにしておこう。

 

「じゃあ、私は早速動くからまた後でね」

 

あの人が向かっていったのは観客席。

今回は来訪者を跳ね除ける制度を要していたのに、あの人は例外の来訪者、嫌でも目立つだろうからすぐに見つけられるでしょうね。

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

ウェイルからの要望ということで、私はシャルロットと徒党を組むことになった。

その真意はシャルロットへの監視ということなのだと私は認識していた。

欧州でもフランスといえば『人命軽視国家』『零落』の象徴として語られている。

そして『産業スパイ育成に力を入れている』という話も存在しており、その噂は真実だったことが証明されてしまっている。

その産業スパイとは、このシャルロット・アイリス。

旧姓『シャルロット・デュノア』の事だった。

話を聞けば、社長夫人によってウェイル・ハースへの憎悪を植え付けられ、殺害、データの奪取を命じられていた。

だが計画が杜撰だった。

シャルロットを捨て駒としているのが明白な稚拙な計画だった。

 

「僕達の出番はまだ暫く先みたいだね…」

 

「そうだな」

 

だが、それと同時に大きな謎が残った。

イタリアはウェイルの情報を秘匿し続けていた。

先に開かれていたというクラス対抗戦で襲撃してきたメンバーは捕縛されたらしいが、その構成メンバーの半数が行方知れず。

そして偵察をしていた一人もそのまま逃走して雲隠れしてしまっている。

その人物がリークした可能性が高いとは思うが…デュノア社か。はたまた社長夫人がテロ組織と関係を持っていることが想定できる。

ましてやシャルロットも、洗脳されていたとはいえ、合同授業で過剰な殺意を剥き出しにていた話は私も耳にしている。

暗器や毒物も大量に持ち込んでいた程だ、デュノア社長夫人による悪意の片鱗が伺える。

それを見越し、私が彼女の身柄を引き受け、そのうえで監視をし続けているが、そういった兆候は一切向けられない。

杞憂で済めばそれだけの話、だが最悪の可能性に至ろうものなら、私が実力行使をしなくてはならん。

 

「シャルロット」

 

「うん?何かな?」

 

「お前がデュノア社長夫人から命じられていたのは、『ウェイル・ハースの殺害』と『データの奪取』。

それに相違無いか?」

 

「うん、それだけだよ。

『ISに関する貴重なデータをそんな奴に持たせるのは相応しくないから殺せ』とも言っていたかな」

 

なんとも傲慢過ぎる話だ。

ISに関するデータが非常に貴重なものであることは誰もが理解できる話だ。

だが、それを持つのに『相応しい』などという言葉を使うべきではない。

ウェイル・ハースの場合は企業所属であり、少なからず企業機密も持つ可能性がある。

それを見て国外のものが『ソイツが持っているのは相応しくない』などと言って殺害しようなど、どの口が言うのか。

 

「他に、お前に付け加えて増援を送るような旨は言っていなかったのか?」

 

「特に言っていなかったよ…それを考えてみれば、僕は所詮は捨て駒だったんだね…」

 

やはり妙だ。

稚拙な捨て駒、杜撰な計画、そして奇妙な情報ルート。

シャルロットによる殺害計画が失敗、もしくは離反した場合の補填などをどうやって取り繕う腹積もりでいたのかがまるで読めない。

まさか、刺客一人だけ送り込んだだけで成功するとでも本気で思っていたのか…?

 

「…嫌な予感がする…!」


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