IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第57話 猜風 敵対心に

篠ノ之が懲罰房に収監された翌朝、彼女のここ6年間の経歴を再度見直してみる。

何処に転校をしていたのか等は見ていたが、より詳しい点にはあまり目を通していなかった。

以前の職員会議でも話は挙がっていたが、確かにこれは幾らなんでも問題が多すぎる。

暴行を多く繰り返し、傷痕が一生涯残る事になった子供が居た。

半身不随や麻痺が残り続ける子供が居た。

中には声を失った子供、失明をした子供も居る。

そう言った子供を数え上げれば、数十人単位にまで上っている。

これら全てを篠ノ之箒が繰り返してきたのかと、流石に疑ってしまった。

だが、確かに事実なのかもしれないとすら今更ながらに考えなおす。

今日、確かに…3組の生徒を巻き込みながら、篠ノ之は襲い掛かったという事実がある。

 

「あいつは…何処で道を間違ったんだ…。

それに、私もまた……」

 

あの後すぐに学園長に呼び出され、叱責を受けた。

それだけで済む話ではなく、私もまた自室謹慎を命じられた。

『ハース兄妹への接触・干渉禁止』を厳命され、尚且つ口外禁止も言い渡されていたにも関わらず、それを生徒に知られてしまったからだった。

結果、篠ノ之は1組の生徒だけでなく、ほかのクラスからもとうとう『テロリスト予備軍』のレッテルを貼り付けられてしまっている。

 

「何故、こうなってしまったんだろうな…」

 

厄年、とでも言ってしまえば楽かもしれないが、今年に入ってからはどうにも散々だ。

今回ばかりは目撃者も多く、言い訳など出来る筈も無い。

イタリアも本腰を入れ、なんらかの報復行動にも出る可能性が高い。

 

「…どうすれば良かったんだ、私は…」

 

何もかもが指の間からすり抜けていくようで、何もかもが手元から失われていってしまう。

そんな感覚に似ている。

 

両親が揃って蒸発した。

 

大切な弟であった一夏を喪った。

 

そして今…全輝と一緒に信頼をも失おうとしている。

 

「あの二人と、話をしておかなくてはならんか」

 

……願わくば、あの二人と理解し合える事を………

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

都合が巡ってきた。

織斑教諭と織斑全輝が自室謹慎処分になって、多少は接触しやすくなった。

フランスからは相変わらず『一刻も早くウェイル・ハースを殺せ』と繰り返される。

『フランスの再生とデュノア社の発展の為に』とだけ社長夫人は僕に告げる。

『ウェイル・ハースがフランス失墜の原因』

『ウェイル・ハースがフランス再生を妨げている』

『所持しているデータを殺して奪え』

『ウェイル・ハースが生きている限り、フランス国民が飢え続け、苦しみ続ける』

 

その言葉が僕の脳裏に焼き付けられる。

 

『救済』と『殺戮』

相反する命令に、矛盾を感じながらも、僕は………

 

「アンタ、なんて顔してるのよ」

 

 

「………え?」

 

気が付けば、外は朝を迎え、時計を見ると時間は既にSHRを終えた時間だった。

 

「……うわっ、もうこんな時間!?」

 

い、急いで準備をしないと!

今日は朝から授業で訓練するようになってたのに、なんでこんな時に限って徹夜で考え事をしてるんだ僕は!?

 

クローゼットから急いで着替えを取り出し、寝間着を脱いで……

 

「………あ………」

 

突然の事にパニックになり、すっかり忘れていた。

僕にはルームメートなんて居ないのに、今のは誰の声だったのだろう、と。

 

「…正直、疑っていたから今更驚いたりなんてしないわよ」

 

そこに居たのは、クラスメイトでもある中国国家代表候補生、『凰 鈴音』だった。

今もまだ、疑うような視線を僕に突き刺している。

 

「予想してたって…いつから…?」

 

「編入してきたその日からね」

 

僕が、性別を偽り、男装をしてまでこの学園に訪れていた事が、全て無意味に……。

いや、まだだ…まだ、理由までは…

 

「今は授業が始まる直前だから、話なんてしてる時間が無いわ。

だけど、そうね…昼休みにでもしっかりと話してもらうわよ。

それと…事と次第じゃタダでは済まさないから、逃げられると思わないでよ」

 

それだけ言って部屋を後にする姿を僕は見送るしか無かった。

少なくとも、容易に人に話すつもりが無い事だけは確かだろうけど、もう僕には逃げ場なんて残されていなかった。

ここで逃げれば、彼女は全てを人に話す危険性が高い。

でも僕には…先を考えれば、僕には……

 

アリーナには、クラスの皆と、合同で授業に参加している3組の人達が揃っていた。

 

「デュノア君、遅刻は良くないわよ」

 

「すみません、目覚まし時計が電池切れで…」

 

咄嗟に用意した典型的な言い訳をしながら列に紛れ込む。

ウェイルの姿は…正反対側に見えた。

相変わらずと言うべきか、妹さんのメルクも隣に並んでいた。

社長夫人から命じられたのは、彼の殺害とデータの奪取。

それでフランスは…救われる…。

 

「では、稼働訓練は何度も繰り返しているので、早速だけど今日は実戦訓練をします。

そうね…では、デュノア君と…」

 

「先生、私が立候補します」

 

「……え?」

 

指名された直後に名乗り出たのは…凰さんだった。

 

「な、なんで…?」

 

僕の問いに彼女は答えず、機体を展開する。

それを確認したのか、他の皆は早々に観客席へと退避していく。

已む無く僕も機体を展開し、両手にアサルトライフルを握る。

深呼吸をして集中し、合図に備える。

 

「では、試合開始!」

 

そして…僕はすぐに降参(リザイン)しなかった事を、本気で後悔した。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

試合運びに於いて重要なのは、相手に主導権を渡さない事。

だから私の一手目は…

 

「ては、試合開始!」

 

「吹き飛べ」

 

ドォンっ!!

 

衝撃砲での開幕だった。

 

「うわぁっ!?」

 

怯んだ瞬間に一気に肉薄。

剣を両手に力強く握り、全力で振り下ろす。

右手の剣を叩きつけた一瞬後は左手の剣を。

甲龍の特性は、その腕力と低燃費によるパフォーマンス。

それを今此処で見せつける。

 

シャルル・デュノアに怨みや怒りは特に無い。

だけど、わざわざ性別を偽ってまで学園に編入し、ウェイルに近づいていたのは何らかの意図が有ってのものだと考える事は私にだって出来る。

今朝、寮の部屋で見た姿には何か異様なものを感じさせられた。

それを敢えて言うなら『予感』と言えばいいのかもしれない。

だけど、それは悪い意味合いでのそれだった。

この予感が外れていれば良い、それでも悪い予感が的中した場合を考慮すれば…。

だから、この場を使って徹底的に叩きのめす。

力ずくで来たとしても、それを叩き潰せる者が居ると心に刻み込む。

それを理解させた上で、話し合いの場を作り、こいつの都合を自ら話させる。

 

「これで…終わりいっ!」

 

投擲した双剣、拳、衝撃砲。

その三つを利用した連続攻撃を叩き込み、トドメに踵落としをガードの上から更に打ち込む。

派手な衝突音と共に、バーミリオンの機体は地面に叩き付けられる。

土煙が晴れた後、そこにはシャルル・デュノアが気絶していた。

 

「そこまでっ!

だけど凰さん、やり過ぎよ」

 

「すいません、つい全力を出しちゃって…。

ほら、起きなさいよ」

 

肩を掴んで前後に揺らすとものの数秒で目を覚ます。

 

「………ひぃっ!?」

 

その反応はちょっと傷付く。

 

「昼休み、生徒会室に来なさい、話が在るから」

 

こっそりそう言っておく。

頷くかどうかは確認しない。

少なくとも生殺与奪は私の手の中にあるから。

 

「凄い戦い方をしてたなぁ、鈴」

 

「でしょう?スペックを活かせばこういう戦術だって…こら、撫でるなぁっ!」

 

ああもう!

いつもいつも猫扱いするんじゃないわよ!

 

「お兄さん、その辺にしとかないと鈴さんに爪で引っ掻かれますよ」

 

「アンタも悪ノリするんじゃないっ!」

 

ウェイルは無意識でやってるのか、それとも一種の悪癖なのか、どうにも判断が着かない。

一夏本人なのか、それとも思い過ごしで、本当に他人なのか判断が相変わらず出来ないでいた。

けど、こういう友人としての触れあいも心地良いと思わせてくるから始末に終えない。

 

思えば、一夏を探し出す為にこれまでの時間の全てを使いきっていたのに、今になって青春を謳歌するなんて皮肉よね。

女の子としては、友達を作ったり、絆を結び、思い出を刻み、時には恋に心を燃やす事ものなのに、私はそれを全て投げ捨てていた。

力を身につけ、情報を求め、日々を走り続けた。

こんなの、青春だなんて言えないかもしれない。

でも、私は自ら決めて、時間の全てを擲った。

きっと、きっといつかは…そんな言葉で自分を叱咤して、ようやく希望が現れた。

だから……絶対に無駄にはしない、してやるもんか!

 

「ほら、さっさと授業に戻るわよ。

先生が課題を増やすだなんて言い出したらどうすんのよ!」

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

お昼休みの時間、鈴ちゃんが金髪のクラスメイトを連行したのには正直驚かされた。

普段はウェイル君とメルクちゃんの二人と一緒に来るのに、今日に限っては様子が妙に見える。

けど、要件はだいたい察していた。

早速、生徒会室の前には『立入禁止』の札を提げ、申し訳ないけど人払いもしておく。

 

「さて、それじゃあ腹の探り会いを始めましょうか。

シャルル君……いえ、シャルロット(・・・・・・)・デュノアちゃん?」

 

「……な、なんで……」

 

「気付かれないと思ってた?

メルクですら察していたし、多分ウェイルも怪しんでるわよ?」

 

「そ、そんな……」

 

思わぬ所でもボロを出していたみたいね。

だけど、これなら話はトントン拍子で進められそうだわ。

シャルロットちゃんは上手く誤魔化していたつもりだったらしいけど、違和感は以外にも出ていたものね。

 

「それでシャルロットちゃん?

性別詐称をしてまで学園に潜入してきた理由を正直に話してもらうわよ?」

 

念には念を入れ、左手には兵装『ラスティーネイル』を握っておく。

不測の事態に陥っても即座に動けるようにしておこう。

鈴ちゃんも察しているのか、腕部だけを部分展開させているようだし大丈夫そうね。

 

「僕は…デュノア社長夫人に命じられて、此処に来ました」

 

「で、目的は?」

 

「命じられたのは、『ウェイル・ハースの殺害』です」

 

その瞬間に私達は動く。

鈴ちゃんと私の剣は、揃って彼女の首筋に突き付ける。

これは最終警告、『場合によってはこの場で討つ』という意思表示に他ならない。

でも、それをするだけの理由を彼女は口にしていた。

 

「穏やかじゃないわね、フランスは何を思ってウェイルを殺そうとしているのよ?

恨み辛みでもある?それともウェイルがフランスに何かしたって言うの?」

 

鈴ちゃんの激昂するのは理解が出来る。

かつて6年前、フランスは自身らの沽券の為だけに一夏君が誘拐された事件を黙殺、隠蔽した。

それにより、織斑一夏君は表向きには『死者』として扱われた。

日本政府も片棒を担いでいたけれど、その主犯はフランス。

そんな国が今になって再び暗躍をしようとしているのだから、鈴ちゃんも気が気じゃないだろう。

身近な人を、特定の何者かによって失うだなんて、二度と経験したくないだろうから。

 

「嘘は言わない方が身のためよ?

後々に調べれば判る事だからね、その点については抜かりは無いわよ?」

 

「さっさと言いなさいよ、それとももう一度叩き潰されたい?」

 

あ、一度はもうやってるのね。

それこそ本気出してそうな気がするわ。

 

「私からも忠告よ。

この学園の生徒会長のもう一つの(あざな)は『学園最強』。

私は鈴ちゃんよりも強いから、突破出来るとは思わない事ね」

 

この点に関してもキッチリと逃げ道を塞いでおく。

正面には私、背後には鈴ちゃん。

実力、機体のスペックは勿論だけど、刃を突き付け、精神的にも逃げ場は与えない。

虚偽を吐こうとも、それすら許さない。

ましてや、この学園内での殺人など許容など出来る筈もない。

だから、今この場で全てを吐かせる。

シャルロットちゃんも恐怖して歯を鳴らしているようだけど、その様子も悉く無視する。

 

「デュ、デュノア社は…存続が難しい状況に立たされ…痛っ!?」

 

鈴ちゃんの剣が薄皮を僅かに裂いた、相当イライラしてるみたいね。

だけどその分、本気であるという事が伝わってくる。

シャルロットちゃんも顔を青ざめさせているけど、こっちもこっちで……

 

「デュノア社を貶めて、経営を傾かせているのはウェイル・ハースだって…だから、その報いに彼を殺してデータを奪い取れって、僕は命令されたんだ!

そうすれば…フランスの国民も皆が救われるって…みなし児や、貧困で苦しむ人も居なくなって、皆が救われるって…」

 

「……フザっけんなぁっ!」

 

鈴ちゃんが剣を振りかぶる…でも、その手はその時点で止まった。

ある程度は察しているのかもしれない、此処でシャルロットちゃんを討っても、第二第三の同様の人員が刺客として送り込まれる可能性が在ると。

でも、こんな破綻した理由で送り込まれてくるというのは流石に納得出来るわけがない。

 

「理由がメチャクチャね。

ウェイル君個人が諸悪の根源のように言っているけれど、絶対的にそれは成立しないわ」

 

そう、彼がフランスの経済を崩壊させるような事は出来ない。

 

「彼は企業所属の一介の技術者。

本人が言うにはアルバイトをしているだけの者よ、そんな彼が企業や国家間の均衡を崩す要因にはなれない。

そもそもメリットも無いものね。

そして…フランスが崩壊しているのは、デュノア社とフランス政府がそもそもの原因よ」

 

「……それって、どういう………」

 

そこから説明しないといけないか、仕方ないわね。

鈴ちゃんに視線を送り、剣を収納させる。

けれど、私は剣を持ったままパイプ椅子に座った。

そしてシャルロットちゃんが大人しくなったのを確認し、話し始めた。

 

「全ての要因は6年前の9月、国際IS武闘大会モンド・グロッソに起きた事件から始まるわ」

 

私は話し始める。

その事件についてを。

織斑一夏君が誘拐され、フランス政府が自身らの沽券の為だけに事件を黙殺、隠蔽し、大会を敢行した事を。

それが後に露見し、全世界からバッシングを受け、経済制裁を受けた事を。

日本政府も関与していた件は、話がややこしくなってしまうから、この際伏せておく。

 

「なお、フランス政府が最終的に事件隠蔽をしたけれど、その中にはデュノア社社長夫人も居たわ。

より正確に言うのであれば、隠蔽黙殺を真っ先に言い出した人物、ね」

 

「……社長夫人(あの人)が……」

 

「追い討ちをするのなら、フランスが全ての責任を負う事になった矢先に国外逃亡をしようとして失敗していたわ。

今でもデュノア社に居座っている理由としては、金銭目的かしら?」

 

鈴ちゃんも嫌そうな顔をしている。

世界の黒い事を知れば、どうしてもこうなるわよね。

 

「って事は、一夏が行方不明になったのは、デュノア社社長夫人が諸悪の根源って事よね。

金銭目的なら、国の沽券云々とかは関係無さそうだけど、なんで事件を黙殺したのよ?」

 

愚問ね。

確かに金銭さえ獲られれば良いと言うのであれば、事件に口出ししなくても良かったかもしれない。

だけどね鈴ちゃん、思っている以上の事が世の中には存在しているのよ。

 

「あの人は…『利権団体』に属しているんだと思う。

だから、黙殺するんだとしたら、被害者の人命を軽視していたんじゃないかな…」

 

「実際、その通りなんでしょうね。

データ奪取に付け加え、ウェイル君の『殺害』を命令したと言うのなら、まだ浮かんでくる可能性が在るわ」

 

「可能性……なんの話?」

 

これには鈴ちゃんも首を傾げる。

尤も、私が提示する可能性と言うのは、それこそ『最悪の可能性』の話。

今のところはまだ確証も無く、言い掛かりにも等しいでしょうから、あまり口にはしたくないけれど、この際には言っておきましょうか。

 

「ラウラちゃんはともかくとして、シャルロットちゃんは転入する前、フランスに居た時点で社長夫人からウェイル君のフルネームを教えられていたわ。

イタリアがウェイル君の事に関して、情報封鎖をしている中で。

そこから結び付けられる可能性、それは『デュノア社とテロ組織(凛天使)は繋がっている』と考慮も出来るわね」

 

厄介なのは、デュノア社を通してフランス政府が一夏君を見捨て、事件を揉み消そうとした点。

フランス政府がウェイル君のフルネームを知らないとしても、その存在に気付いているのは断言出来る。

なら、『ウェイル・ハース=織斑一夏』と言う可能性にも至っている筈。

そう考慮していれば、『織斑一夏が事件について覚えているかもしれない』とも判断する危険性も考え付く。

前回は『沽券』の為。

今回は『保身』の為。

デュノア社社長夫人は『利益』と『鬱憤晴らし』の為。

容易く命を奪いに来る未来が簡単に想像出来てしまう。

 

「その点についてはどうなのよ?

デュノア社はテロ組織と繋がってるの?」

 

「……僕はそこまでは知らない、教えられていないんだ」

 

厄介ね、必要以上の情報を教えられていないか。

 

「教えられたのは先に話した事が全部だよ。

『フランスの零落と貧困の原因はウェイル・ハースの仕業』、『ウェイル・ハースを殺害し、データを奪取すれば、フランス全土が救われる』、『国民救済の為にウェイル・ハースの死が必要』と言われたんだ」

 

挙げ句の果てに酷い洗脳をしていたものね。

平然と他者の命を踏みにじり、全ての責任を他者に押し付け命を奪う。

そしてその行為を他者に押し付け、自分は手を下さず、利益だけを得ようとする。

無責任な無能が人の上に立つ事がどれだけ危険な事かを体現している。

 

「それで、アンタがこの前の授業の模擬戦でウェイルに殺気を向けていたのはそれが理由だったの?」

 

「……うん、そうだよ…。

…でも、本当は判ってたんだ、フランス政府が過去に何をしたのか…昔、ラジオで聴いていたから…。

僕は…ウェイルを殺したとしても…何の意味も無いのに…」

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

見た感じ、目の前の女からは敵意が失われているようには見えた。

いくら他人から植え込まれたとは言え、ウェイルに向けていた害意は本物に近く見えた。

でもこれでそれが摘み取れたと言うのであれば一安心しておきたいところ。

 

「で、アンタはこれからどうするの?

性別詐称してまでこの学園に潜入してきたわけだけど、それが卒業まで続けられると思ってる?」

 

「思ってないよ………。

……叶うのなら、フランスでは過ごせなかった青春を謳歌してみたかったな…」

 

意味がよく判らなかった。

楯無さんに視線を向けて、その疑問を訴えてみれば

 

「6年前、フランスは全世界からバッシングを受けて、経済崩壊を起こしたわ。

もしかしてその被害を受けたのかしら?」

 

「はい、6年前から学校にも通えなくなったんです。

僕みたいな子供は大勢居ましたよ…」

 

一夏が行方不明になった事件を切っ掛けに、フランスは経済崩壊して学校にも通えない、か。

無責任な大人が、沽券と、保身の為に、その場凌ぎの愚策を押し通して、大勢の人がそれに巻き込まれる。

いつまでこんな事が繰り返されるんだろう……?

 

「一時的にとは言え、一つの案件の答えが出たわね。

ちょっと考えが在るから、放課後にこの生徒会室に集合しましょうか。

今度はウェイル君達も一緒にね♪」

 

……なんか、妙な予感がするんですけど


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