IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q.マヤやんが、チッフーに対して何やら冷たいですが、何か経緯があったのでしょうか?
P.N.『ペルルティア』さんより

A.勿論、監視役を仰せつかっただけではありませんとも。
それに関しては次回以降にて


第47話 厳風 想いは何処に

GW期間中、五反田食堂で情報交換を続けたけれど、最終的に結局何も進展はなかった。

鈴ちゃんもお手上げだったのか、私としても食堂で食事をしてから立ち去った。

 

「それで、何か判った事はあるかしら?」

 

「はい、やはりウェイル君のフルネームが露見した以降はあちこちで不穏分子が動き始めているようです。

この事に関しては、織斑先生も既に把握していますが、今は特に動く様子はないようです」

 

あの人は何か在ってから動くという事か。

それとも、事前に動く私達を信頼してくれているのかは判らない。

やはり、訣別しておいたのは間違いでは無かった。

 

「…で、あの二人は?」

 

「相変わらずです。

それが判っているのか、本音曰く、クラスメイトからも敬遠されている、と」

 

謹慎処分を受けている間に事情聴取はしたけれど、反省の色は殆ど無かった。

 

「あいつらがやるよりも、俺が出ていた方が確実に倒せたんだ!」

 

「そうだ!悪いのはそれを邪魔した奴らだ!」

 

彼らにとっては、『人命』よりも『功績』こそ優先されるものなのだと判った。

 

「私達はその言葉を信じるわけにはいかないのよ。

あの時に優先されるべきは、観客席にいた生徒たちの安全確保。

それと同時に大型砲の無力化か破壊よ」

 

「だからそれを俺が!」

 

「黙りなさい。

相手は複数、先んじて制空権を奪われていた。

その状態で後から飛び出し、尚且つ学園に在籍している生徒を背後から斬りつけようとする理由は何かあるのかしら?」

 

「それはあの男が邪魔だったからです!

いつまでもいつまでも相手を打倒しないような輩!

対処をする中でも邪魔でしかない!

だから全輝は奴をあの場から退かせるために!」

 

「見当違いも甚だしいわ。

生徒達が避難をするために時間を確保してくれていたのよ。

私が2機を請け負い、メルクちゃんと鈴ちゃんのペアで1機。

そしてウェイル君は、残る1機と大型砲を持つ1機を同時に相手にしていたわ。

膠着状態に持ち込んでいたのはそれこそ時間稼ぎの為。

大型砲の射撃方向が変えられるのを悟ったら、その直線上に敵機をおびき寄せ、砲撃が出来ないようにしていたのよ。

相手からしても味方諸共に撃ってこないと判断したうえでね。

相手に過剰に自身を警戒させたうえで」

 

それを指示したのはメルクちゃんだった。

きつい役回りではあったけれど、生徒たちが避難する時間を少しでも多く稼ぐ為の作戦だった。

 

「そんな面倒な事をせずとも、さっさと敵を倒せば勝っていた筈です!

それをあの男は悠長に…」

 

「まだ勘違いしているようね。

あの場でウェイル君は勝つことを目的にしていたんじゃないわ。

繰り返し言うけれど、生徒の避難する時間を稼ぎ、教師部隊が突入するまでで良かったのよ」

 

「…は?あいつ、勝つつもりも無かったのかよ…?」

 

後々に来るであろう教師部隊による増援を待っていた。

それは後に彼から聞いた話だった。

 

「そんな奴が戦場に居るだなんてそれこそ邪魔です!

さっさと引っ込ませておくべきだったんだ!

だから私は…」

 

その先は言わせなかった

 

バシィィィィィィィンンッッッ!!

 

私が全力で頬を引っ叩いたからだった。

手が痛むけれど、そんなことは言っていられない。

 

「その愚考の果てがあの愚行?

貴女は避難を促そうとする生徒、避難途中の生徒を幾人も殴り倒したまま放置。

あまつさえ、放送設備を勝手に使用し、ウェイル君と交戦途中だった相手の注意を生徒達に引き付けた。

それどころか、イタリアが秘匿しようとしていたウェイル君の情報をテロリストに露見させた。

それで今後がどうなるか判っているのかしら?

いえ、感情だけで動くケダモノ同然の貴女には判らないでしょうね。

すでに各地でテロリスト集団が動き始めているわ。

彼の命を狙ってね、そのテロにこの学園に在籍している世界中から集った学生達も巻き添えにされる危険性が高いと言っているのよ、理解出来る?」

 

「は、ははははは!

アイツがいるから危険になるというのならアイツをこの学園から追い出せば万事解決…」

 

織斑君の言葉、その先は言わせない。

蒼流旋の穂先を彼の喉元に突きつける。

 

「テロリストに常識は通じないわ。

ウェイル君が学園に居ても居なくても、この学園が巻き込まれるのは既に見えているのよ。

仮にウェイル君が学園を去るとしても、極秘事項として部外秘となり、テロリストはその事情の有無に拘らず学園を狙ってくる。

そして、イタリアに居るであろうウェイル君の家族ですら既に危険に晒されている可能性が高いわ。

イタリア政府、企業、軍、民間からも日本に莫大な量の抗議文が届いているわ。

勿論、イタリアだけでなく世界中の多くの国家からもね。

これは君達が招いた事態、どうやって解決するつもりなのかしら?

意見が在るのなら言ってみなさい?」

 

我ながら意地の悪いことを言っている自覚がある。

これは既に国際的な問題、そこに個人が解決できるような場面なんて在りはしない。

 

「奴さえ居なければ…!」

 

箒ちゃんがお門違いなことを言い出している。

だから

 

「違うわね。

判らないのなら言ってあげるわ。

今回の事態は…何もかも(・・・・)君達が悪い(・・・・・)のよ。

責任を他人に吹っ掛けるような事はしないで。

そして、今後は何もしないで。

君達が動く度に周囲に迷惑が掛かっている事を忘れないで」

 

「違う!私たちは何も悪くない!

悪いのアイツだ!」

 

言っても無駄と断じた。

いえ、これは以前から判っていたことかもしれない。

 

「今後、貴方達には相応の処罰が待っているわ。

懲戒処分は下されるけれど反抗しないように、常に監視の目があることを忘れないように」

 

 

 

 

これがGW前の出来事だった。

二人は懲戒処分というか、処罰は受けているけれど、基本的に、そこに自由は無い。

精々が食事をする時間と、懲罰房の中だけ。

入浴だとかは、懲罰房の中に簡易シャワーがあるだけ。

外界との接触は禁止されているから情報のやり取りはほぼ無い。

懲罰内容にしても、織斑先生には関与させないようにしているから緩和は無い。

 

GWがもうすぐ終わるけれど、あの二人には…反省の色は無かった。

 

GW前だって、昼休み中にはウェイル君とメルクちゃん、それにくっつく形で鈴ちゃんも一緒に来て、お弁当を食べたり、ウェイル君の勉強を見てあげていたりする。

食堂で食事を一緒にする時もあるけれど、織斑君達とは干渉しないようにしているけれど、視線を向けられるのを感じ取っているらしい。

実際、憎悪を込めた視線を向けているのを私も確認していた。

 

織斑先生は副担任に降格してから久しいけれど、監視員が増加しているためか、大っぴらに動くこともない。

山田先生だけでは手が足りなくなった時には手を貸しているけれど、それだけね。

そして、千冬さんのクラスは、他のクラスとの合同授業の機会が完全に失われている。

原因はあの二人にあるのと、織斑先生の信頼どころか信用までもが地に堕ちたからだ。

私達暗部としても手を切ったのは間違いではなかっただろう。

 

実際、山田先生も織斑先生には既に敬意を向けていないらしい。

あの二人が破損したものの損害賠償を山田先生も一部分とはいえ担保させられたのだから理不尽に思っているのかもしれない。

 

さてと、1組での話はここまでにしておこう。

ウェイル君に関しては、常にメルクちゃんが傍らに居続けているから、一応は護衛が可能らしい。

今後は私にも声をかけるようには言っているけれど、鈴ちゃんもいれば大丈夫かしらね…?

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

岐阜県のある山の麓、そこにある住宅。

私はそこに来ていた。

事前に連絡を入れておいた事もあり、その二人は私を出迎えてくれていた。

 

「久し振り、父さん、母さん」

 

数年振りに見た2人は、少しだけ痩せて見えていた。

篠ノ之 柳韻、篠ノ之 (かなえ)

私達姉妹の両親だった。

 

「束、お前は…その腕は…どうした…!?」

 

両親が揃って私の風貌に両目を大きく開く。

まあ、確かに仕方無いよね。

あの日、私は利き()腕を斬り落とした。

それ以降は義手の一つも着けようとはしなかった。

でも、それはお互い様だった。

 

「父さんだって私の事は言えないよね、もう二度と剣を握らないようにする為に自分で小指を(・・・)切り落としたんだから」

 

小指は剣を持つ際に重量を支える重要な部位。

それを失った以上、剣士としては死んだも同然だった。

永久に(・・・)

 

「これは私の罪科だ」

 

いっくんが利き()腕を折られたあの日、父さんは自分の小指を斬り落とした。

それも両手とも、だ。

そして、道場からも姿を現さなかった。

 

「一夏君の事は今でも残念に思っているわ。

それも、あんなニュースまで……」

 

モンド・グロッソが終わってから、いっくんの死が報道で流されている。

全ての責をフランスに負わせる形で。

でも、真実は違う。

あの子はまだ生きている。

『ウェイル・ハース』として。

その真実を知っている人は世界中で見渡しても数少ない人だけ。

でも…それで良い。

知らない方が良い真実だって、この世には掃いて捨てる程に存在しているのだから。

だから、この二人にも、あの子の生存を教えなかった。

 

「二人がいっくんの事に今も苛まれているのは判ったよ。

私だって同じだから……」

 

腕を切り落とした場所を…肩の断面に触れてみる。

あの日の痛みは今だって忘れない。

それでも…答えは得た。

後悔は在る、やり直しなんて、何度望んだか判らない。

(ウェイ君)の幸福の為に手段は選ばない。

ウェイ君には私と同じ道を歩ませない。

血でまみれた道を歩むのは、影に生きるものだけで良い。

ウェイ君が学園で害を受ける度に、報復としてあのクソガキの取り巻きになっていた人物に制裁を下し続けた。

無論、これは私が独自に動いていることでもあるが、私の代わりに刃を握った人がいるのも心苦しいと思っている。

クロエ・クロニクル。

ある経緯から私が養子として引き取った子。

あの子は私の事を知り、ウェイ君の事も知り、影で生きるようになり、今回は私の代行者として刃を振るい続けている。

かつては、いっ君に害を与え続けた者から夢と可能性を奪うという形で…。

 

 

次の話題に移らせてもらう事にした。

 

「でも、互いの後悔の話はここ迄にしよう。

此処からは、これからの話をしよっか」

 

ホロモニターを幾つも起動させる。

空中に幾つもの情報が浮かび上がる。

そこに映し出されているのは……全て愚妹の情報だった。

 

各地で刻み続けた怨恨、禍根という爪痕。

 

足を失った子供が居た。

 

指を失った子供が居た。

 

夢を失った子供が居た。

 

光を失った子供が居た。

 

声を失った子供が居た。

 

多くの子が、夢と可能性を失った。

今となっても、希望を見出だせない子だって居る。

 

こんな案件が…呆れる程に発生していた。

それらの全てを放置し、今に至っている。

ただの一つも解決もしないままに。

 

そして…

 

「…いつまで放置する気?」

 

禍根を、ではなく、あの愚妹を。

 

「私達もほとほと困っているわ、先日だって…」

 

そう、爪痕は今も刻まれ続けている。

でも、今度は規模が違う。

今度の件は国家存亡に繋がり兼ねない、そして欧州を揺るがす国際的大問題だ。

それをあの愚妹は引き起こし、開き直っている。

 

「何故、あんな風になってしまったのか………」

 

両親揃って憔悴している。

当然だろう、あの愚妹は他者を傷付ける事に躊躇いが無い。

その上で、悪びれる事が無い。

『間違っているのは自分だ』と考える事が一切無い。

『暴力』と『正しさ』が頭の中で同じになっているから。

『相手を黙らせた』と『自分の主張が正しい』がイコールで結ばれてしまっている。

だからあれは、他者を傷付ける事以外に脳の無い本物の木偶の坊。

正真正銘の人間としての出来損ない(・・・・・・・・・・・)

 

いっくんもその犠牲になった。

あの頃、いっくんは剣道から離れようとしていた。

野球に魅力を感じていた、強く惹かれていた。

だけど、始めるよりも前にその道を絶たれた。

(利き)腕を折られて。

 

「このまま放置すれば、これからも被害を広げるばかり。

それこそ際限も見境も無しに暴力行為を続けるばかりだろうね、あの馬鹿は。

やってる事はテロリストと同じ(・・・・・・・・)なんだから」

 

その言葉に二人は表情は曇っていく。

もう、限界だ。間違いなく。

その表情は数秒続き、その双眸が閉じられた。

 

「………一夏君は、義務教育を終えた後の将来を決めていたのだったな……」

 

この二人は、いっくんの将来の予定を知っている。

当然だった、私から事前に伝えておいたから。

それを知り、成せなかった事を、支えられなかった事を今もずっと悔やんでいる。

そして、愚妹だけでなく、織斑 千冬、織斑 全輝をも軽蔑していた。

後者の二人に姿を見せないように振る舞っていたのも、それが理由だった。

 

「この決断をするのはあまりにも遅かったかもしれん、だがそれでも…」

 

昏い焔が、そして冷徹な決意が、父さんの目には宿っていた。

母さんに視線を移せば、静かに頷いている。

その決意の程を私も理解していた。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

「どんな料理に使ったものか…」

 

GW最終日の朝、部屋にやってきたウェイルが渡してきたこのシーフード詰め合わせを見て、私は頭を抱えていた。

GWに入り、あの二人がイタリアに発ったあの日にしていた発言を本当に現実にしてきた様子にさすがに頭痛がしてしまっていた。

 

「律儀で、約束を守ってくれて、その上に優しいときたもんだ。

更に更に企業所属だから将来は大物に至る線も濃厚。

ふふ~ん♪鈴にとってはウェイル君は優良物件なんじゃないの~?」

 

うっさいわよ!そこのルームメイト(ホルスタイン)

 

「こんな形で約束を守られても対処に困るってのよ!」

 

鱗は取ってくれてるけど、魚本体はそのまま!

しかも貝も入ってるけど、殻の処理だって困るのよ!

 

「え?でもでも~♪笑顔で頭撫でてくれてたじゃん?

鈴だって満更でもなかったんじゃないの?」

 

「どーせ飼い猫のことでも思い出してたのよアイツは!」

 

以前だってそうだったから、それくらい理解してるのよ!

まったく!律儀な点でも!人を猫同等に扱う点でも!いろんな意味で!困るのよ!

 

1時間半かけて捌いて捌いてウンザリしかけた頃…

 

「切り身だけで冷凍庫がいっぱいになった…限度を考えなさいよウェイル…」

 

これ、全部消化するのに一か月以上はかかりそうな気がした。

お弁当を作るにしてもバリエーションを広げないといけない。

学食使わなくて済むのはいいかもしれないけど…処理に困るわね…。

それと、アムール貝って何に使えば良いの?

 

「あ、鈴。

近い内に編入生が来るのは教えたわよね?」

 

「え?うん、訊いたわよ。

なんでもドイツとフランスから来るらしいわね、それがどうしたの?」

 

ドイツと言えば、あの女(織斑 千冬)が第二回大会の後で一年間教官役を担っていた国だってことは理解してる。

そこからくる編入生が居るのだとすれば、その関係者かもしれない。

 

フランスはといえば、第一回大会での事件を把握しながらも放置した結果、全世界から『人命軽視国家』と後ろ指を指され続けている国。

そこから編入生を送り込んでくるとか正気の沙汰じゃない。

それが罷り通っているということは、学園上層部や国際IS委員会に潜入工作員が居るのかもしれない。

 

「3組の情報通(ミリーナ)から知らせが来たのよ。

で、フランスの編入生は2組に、ドイツからの編入生は5組に入るそうよ」

 

「……は?」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

夕食時、お兄さんがシーフードリゾットを作っている間に私はイタリアに繋ぐための回線を用意する。

どちらかが夕飯を用意する場合は、手が空いている側がこの役割を分担するようになっていた。

食事をしている風景だけであったとしても、家族との会話を楽しみたかったから。

ただ、

 

「う~ん、いい香りね♪」

 

この人が居たら話は別ですけど。

今日は家族との連絡は食事の後にした方が良さそうです。

 

「それで、今日は何の用なんですか、生徒会長さん?」

 

どこかお兄さんの声が冷たかった。

 

「イタリアでの土産話を訊いてみたいと思っていたのよ。

これじゃ理由にならないかしら?」

 

「プライベートを詮索されるのは嫌ですし、企業機密も抱えている身ですからお断りです」

 

「あら冷たい」

 

正直、私はまだこの人を信用しきれていなかった。

初対面の事も含め、風のように常にフラフラとした態度を崩そうともしないこの人を。

 

「お姉さんからもいい知らせを届けに来たんだけどなぁ☆」

 

そう言って…制服の胸元を緩め、下に着用していたらしい水着と素肌を露わにさせながら胸の谷間に覗くUSBを見せつけてくる。

その格好でお兄さんに近づこうとして…

 

「あ、もしもし虚さん。

はい、俺たちの部屋にまたもや痴女が出まして…はい、防犯ブザーを鳴らしておけばいいですね」

 

「ちょっとやめてウェイル君!そんな事されたらとんでもない事になっちゃうからぁっ!

判りました!今この場で口頭で言うから堪忍してぇっ!」

 

…私達は今後、この人にどれだけ振り回される羽目になるんでしょうか…。

 

その1分後、服装を改めさせ、床に正座させてから話を伺うことにしました。

勿論、この人にお兄さんの手料理をご馳走させる気はありません。

回収に出向いてくれた虚さんにはキッチリと用意させてもらいましたけど。

 

「へぇ、織斑と篠ノ之の二人は更に監視強化、織斑先生は給与差し押さえ、ですか…。

世知辛い世の中ですね…」

 

「この判断に関しては弁明の余地すらありません。

あの二人の問題児は自身が起こした問題を放置、賠償請求を無視していましたので私物の押収によって弁済請求を行っています。

請求金額には届いていないので、今後も押収を続行します。

本人達は不服そうにしていましたが、これは既に本人達の意思など関与できるレベルではありませんから。

剰え、個人情報をテロリストに開示するなど、この学園始まって以来の大惨事です。

これに関しても、政府に猛抗議が入ってきており、学園長も頭を抱えています」

 

虚先輩も頭を抱えており、憔悴しているようにも見受けられた。

実際、イタリアがいの一番に抗議を入れていたでしょうけど、それは当然の話。

後先考えない愚行で、国民が、ましてや国内唯一の存在が永続的にテロリストの危険に晒され、その家族すら命を狙われ続ける日々に陥ってしまったのだから。

 

「それで、日本政府は俺達の為、イタリアの為、どう動くつもりなんですか?」

 

「政府上層部の一部は、ウェイル君を日本政府で身柄を保護すべきだという意見も出ています」

 

「けど、その案は却下されたわ。

その上層部の一部というのが、利権団体と密接に繋がっていたのが判明したから」

 

「早い話が、『保護』とは名目でモルモットにでもしようとしていた、と?」

 

メルクの冷たい返しに、床に正座している生徒会長さんが頷く。

もうこの国もテロに加担してると考えた方が良いんじゃないだろうか?

極一部かもしれないけども。

……日本に来なければ良かったかもしれない。

こちら側に来て良かったと思える事なんて、友人が出来た程度かもしれない。

鈴は……この国に来たことをどう思っているのだろうか?

いつか話を訊かせてほしいと思う。

 

「この国の上層部って本当に人間なんですか?」

 

メルクの言葉が凄い冷たい。

そして人間扱いしてないとか尋常じゃないな、普段の様子から比べても驚愕だ。

とは言え同情出来ないのも確かだ。

 

「で、お兄さんの情報をテロリストに開示したのは日本本国ではどのように扱われるのですか?

法律に触れるなどはしないのですか?」

 

「勿論、法に触れます。

情報を開示し、テロリストの行動を故意に誘導し、多くの人を、国家を危険に晒そうとしていますので、『外患誘致』と言う重罪に値します。

問題として、日本政府はここまでを把握しながら一切のアクションをしていません。

上層部には例の組織と癒着している人物が潜んでいると考えて間違い無いかと思います」

 

「でも、問題はそれだけじゃないのよ」

 

そこで床で正座させられている楯無さんが口を開いた。

 

「箒ちゃんだけど、過去にも大量の暴行事件を起こしているのよ。

更に頭が痛いのは、その事件に関して彼女は一切の謝罪もせず、責任も負わず、解決しないまま今に至るのよ」

 

「うわ、完全に危険人物じゃねぇか。

なんでそんな危険人物がこの学園を態々受験してまで在籍してるんだよ…」

 

なんなんだ、その『暴力』という言葉が人の姿をして服を着て歩き回っているような人物像は。

今更だが、あの女子生徒の危険性、それを見て見ぬ振りをしている織斑と、織斑教諭に嫌な予感を感じさせられた。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「残念ながら、その子は受験なんてしていないわ。

IS開発者の身内だからということで、特別入学をしているのよ」

 

「それって…裏口入学とか呼ばれるものじゃありませんか?」

 

メルクちゃんが冷たい視線が私に突き刺してくる。

確かに、昨今そういうのは問題にはなるものね…。

ウェイル君は…あ、同じような視線を私に突き刺してきてる。

あれ?私って何か悪いことは…あ、相応にしてるわね。

 

言い訳にはならないとは思うけど、さっさと両手を挙げて降参の意思を示しておく。

私が悪いわけじゃないのに…。

 

「篠ノ之 箒さんですが、確かに裏口入学ともいえるかもしれません。

先にも説明した通り、彼女はIS開発者である人物の身内だからという事でこの学園に受験無しに入学しています。

ですが、それ以前にも日本全国各地で傷害事件を起こしており、被害届が出されていますが、国家がそれを黙殺しています」

 

そうなのよね…。

数え上げるのも嫌になるくらいの被害が出てきているというのに、なんでこの学園に入れたのやら。

 

「…危険過ぎます。

この学園はISを通じて、兵器や武力がものを言うような場所でもあるんですよ。

力を持つ者には、それ以上に責任が問われます。

なのに、他者に向けて暴力を振るうことを厭わない人をこの学園に入れるだなんて何を考えているんですか!」

 

メルクちゃんの怒りも御尤も。

その人物のせいでウェイル君は国際犯罪シンジケートに命を狙われ、二人の家族までテロリストに狙われる危険性が発生してしまっている。

文句なんて言いたいだけ言っても、なお言い足りないのは当然ね。

 

「俺もメルクと同意見です。

外患誘致、しかもイタリア、そして世界各地から生徒が集っている学園にテロリストを差し向けるような事を平然と行い、反省もしないような奴はこういう学園に在籍させとくべきではないと思うんですけど。

生徒枠を一人分食いつぶしてる時点でもったいないでしょう」

 

それに関しては私も同感なのよねぇ。

これには国家上層部が動くかと思ったけど、対応としては『静観』だけ。

日本政府が各国の生徒に対して『緘口令』を命じたけど、あっさりと一蹴されたのが気に入らなかったのか、それ以降の対応をしないどころか、拿捕したメンバーの半数を行方知れずにする始末。

その構成メンバーは今もどこかに潜伏しているのだろうけれど、未だに見つかっていない。

ああ、頭が痛いなぁ…。


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