IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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ニラ・ビーバット
イタリアにて突如として現れた技術者であり、FIAT専属として契約を結んだ異才の外部技術者。
自らの技術力をFIATに売り込み、企業専属技術者としての地位を数日で築き上げたとされる人物。
無理矢理に事業拡大を狙うことも無く、企業方針にのっとって活動しているらしいが、彼(彼女?)の姿を知る人は殆ど居ない。
チラリと姿を見たという噂が独り歩きしているが真偽の程は性別含めて定かではない。
ただ、『隻腕の人物』と言う話だけが、いくつもある噂話の中で共通している。


第43話 翠風 思いもよらぬ

イタリアに帰省した翌日からは、新しいテストパッケージがアイルランド支部から届けられ、メルクや姉さんと一緒に訓練をする事に。

俺の得意な得物が槍だと判ったからか、アイルランドはまたもや槍という形にして送ってきた。

 

「ヤケクソになってないか、アイルランドは?」

 

メルクも姉さんも、新しいパッケージを見て苦笑していた。

とは言え、だ。

俺に合わせて槍の形状にしてくれたのは正直嬉しい。

クランとはまた違うそれに、俺だって目を奪われていたからだ。

このパッケージは、来月にあると言う学園内でのトーナメント戦までに使えるようになりたい。

 

「こういう新しい装備を優先的に使わせてもらえるのは、テストパイロットの特権サ。

使い勝手や、微調整とか、そう言った類のデータは開発側も求めているから、その意味ではギブアンドテイクになってるって事サ」

 

姉さんの説明では、そんな感じらしい。

前回のクランでのデータ集積もあって、アイルランド側では、俺はテストパイロット同等の扱いをしてくれているらしい。

俺としては、いずれメルクが使う物を先んじて使わせてもらっているだけなような気がしていたけど、そこは気にしなくても良かったようだ。

 

その日の訓練も全て終え、FIATの開発品の性能試験会場にて、俺はその真ん中に立っていた。

手には靴のような形状をした試験開発品。

企業の中ではいつも履いている作業靴の上からそいつを履いてみる。

靴の上に靴を履くという奇妙な感覚を覚えながらも外部の留め具を固定してみる。

 

「まさか、飛行機を見てパッと思いついたものがこうも早くに実装されるとはな…」

 

俺達が不在にしていた一か月間にて、FIATに自信の腕を売り込んできた技術者、『ニラ・ビーバット』という人物が興味を持ったらしく、ものの数日で作成してくれたらしい。

 

「ヒャッホ~!」

 

視界の端では普段ならあげない絶叫をしているヘキサ先生がいるが無視だ無視。

あの人のイメージが壊れてしまう。

 

「えっと…説明書は端から端まで読んだけど、スイッチを、と」

 

腕に巻つけてる端末のボタンを操作してみる。

靴底の車輪が回転を始め、徐々に加速していく。

体感的には、ジョギングするようなペース。

それから徐々に加速させ、自転車並みのスピードに。

 

「よし…、行くぞ!」

 

次第に加速させ、スピードは一気に時速20km程に。

これでもヘキサ先生には追い付けていない。

なんか悔しい感じがするから更に25kmまで加速させてみる。

 

「…はははッ!こりゃ凄い!」

 

更に加速していき、時速30kmに。

これでヘキサ先生との距離が変化しなくなった。

生身で車並みのスピードになっているという前代未聞の性能の靴というわけだ。

その名称もそのまんま『プロイエット(弾丸)』だ。

 

FIAT内部だけであるが、わずか3日でブームになっているのか、休憩時間に遊んでいる人もいるらしい。

このまま量産体制に移ったりしたらどうなるのだろうか。

従業員の皆さんには申し訳ないが残業過労死覚悟とかなったりして…いや、まさかな…。

 

「けど、これって本当に凄いよな…」

 

既にプロイエットを試して試験会場を5周している。

社員も娯楽にしているのだが、数が足りていないのか、悔しそうにしている人もちらほらと…。

けど、この数日で15機も開発しているらしいビーバットと呼ばれる技術者は何者なのだろうか…?

聞いた話だと、工場の一角に自身の専用工房を作って籠りっきりだとか何とか。

普段から物凄く忙しいらしく、俺はまだコンタクト出来ていない。

人手が足りないからと、廃材でアルボーレを作ってそれで人手を賄っているらしい。

そんなに忙しいのに、これだけの数のプロイエットを作るとか、技術の天才は何を考えているのか全然判らない。

 

「まあ、いいや。

俺もそろそろ終わろうか」

 

腕に巻き付けたパネルに指示を下し、ローラーの回転を低下させていく。

あとはここまでくれば容易だ、普通のローラーブレードと同様の感覚で出入り口の方向へと走っていけばいい。

 

「まあ、こんなものかな」

 

貸し出させてもらったブーツを脱ぎ、所定の位置に置けば、充電が開始される。

そこに一緒に右腕の端末を置いてしまえばこれで片づけは終わりだ。

純粋にこれを開発してくれた開発者は尊敬する。

 

「けど、自分で作ってみたかったなぁ…。

まあ、ストレス解消には調度良いかもしれないけどさ…」

 

技術者の端くれとしては、さ。

それと、飛行機を見て思いついた品のもう一つは現在どこかのドックで建造中(・・・)との事だ。

こっちもこっちでテスターはヘキサ先生がしてくれるのかもしれない。

 

「お、メルクも試してるみたいだ」

 

ヘルメットからこぼれる桜色の髪からメルクだと察した。

その隣には姉さんの姿も見えた。

二人とも俺よりも早くに慣れてしまったのか、ものの数秒で最大速度まで出している。

 

「凄いな、あの二人は…」

 

視界の端には

 

「ひゃっほ~!」

 

うん、あの人も実はスピード狂だったんだな…。

先日のプレゼンの後に即日作るビーバット氏…いや、女史か?その人も凄いと思う。

 

その日、自宅に帰ってからも

 

「貰ってきてよかったのかな…?」

 

「そ、そうですね…でも折角の贈呈品ですし…」

 

夕方、企業からの帰り道、俺とメルクと姉さんの手にはトランクケースが提げられている。

中身は企業から贈呈されたプロイエットが入っている訳なのだが…。

いいのか、本当に…?

 

「まさか私までもらえるだなんて…」

 

「まあまあ、学園じゃ釣りの一つも出来ないって聞いてるしサ、多少はこれでストレス解消も出来るだろうサ」

 

そういう姉さんの手元にも同じトランクケースがぶら下がっている。

俺達三人は揃いも揃って企業からプレゼントを貰ってきたというわけだ。

とはいえ、イタリアで過ごせるのも今日が最後、明日には再び飛行機で飛び立たないといけないわけだ。

まあ、釣りができないのならコイツでストレス解消も出来るのなら悪くないのかもしれない。

だけど、考えようによってはストレスを発散できるのなら最上だろう。

 

「にゃぁん」

 

「ただいま、シャイニィ」

 

家に帰れば、こうやってシャイニィが待ってくれている。

胸元に飛び込んでくるのを受けとめ、頭を撫で、耳元、背中と手を滑らせる。

今日も毛並みはツヤツヤだ。

そうやっていると、今度はメルクの肩へと飛び乗る。

シャイニィと居ると癒されるよなぁ…。

 

「よし、ブーツも荷物に加えるかな」

 

もしかしたら俺もスピード狂になったりして…いや、まさかな。

けど、気分転換やストレス解消にはよさそうだ。

ああ…今になって思いだした。

鈴に土産としてシーフードを用意するって話だったんだけどなぁ…。

この後、メルクに付き添ってもらって商店街に行くことにした

引きつっていた苦笑に、心の内側には吹雪が吹きすさんでいた。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

日がまた昇り、その日のお昼前には私達は鈴ちゃんの居る五反田食堂に出向いた。

来た途端にお見合いモードの虚ちゃんと弾君は放置し、数馬君と鈴ちゃんと情報を交換をしていく。

昨日もすり合わせた情報も綿密に読み解き、今までに見えていなかった箇所が無いか、今まで見てきた情報に誤りが無いかを精査していく。

緘口令が敷かれているイタリアとバチカンの名が記された書面については無論秘匿しておかなくてはいけない。

けれど、それもイタリアの計算通りの状況なのだと思う。

今年の四月から、織斑先生と織斑全輝君の内情も今まで以上に把握出来てしまっていた。

更識内部での結論からすれば、『織斑千冬からの訣別』だった。

多分、それもイタリアの読み通りなのかもしれない。

 

「そう、一夏君への迫害の諸悪の根源は全輝君だったと…」

 

本人を知っている人達だからこそ見えてくる点もある。

いい加減にこちらも腹を割らないといけないのかもしれない。

だけど、すべてを見せるにはまだ足りない。

 

「そう、よく判ったわ…」

 

「それで、日本政府の飼い犬さんは何を教えてくれるの?」

 

彼女は私達に対しての蔑視を持っている。

それは仕方のない話、かつてはと言っても織斑先生の懐刀として在り続けていたのも確かな話なのだから。

 

「…多分、貴方達の心を根元から裏切る言葉になると思うわ…」

 

彼女達は、私たちに有益なことをいくつも教えてくれた。

なら、私達の非を見せる。

 

「6年前、第1回モンド・グロッソ終了後に於ける、織斑一夏君の捜索活動は…実施されていなかった(・・・・・・・・・・)のよ…」

 

「……は…?」

 

そう、捜索活動実施だなんて、真っ赤な嘘。

その実態は、情報の隠蔽に徹していた期間と符合している。

犯人グループによる織斑一夏君の誘拐事件は、大会開催期間には日本政府の中で情報として浸透していた。

そして下された決断は…放置したうえでの利益の確約。

世界中のISの中で最初に単一仕様能力の覚醒に至ったとされる伝説の機体『暮桜』。

その力であれば搭乗者である織斑千冬の優勝が確実であると判断され、不安要素となりうる誘拐事件の情報は握りつぶされた。

目的としては織斑先生は優勝と、『世界最強(ブリュンヒルデ)』の称号を手にした。

その後、事件の内容を知ってからの落胆ぶりは酷いものであったと聞き及んでいる。

けど、日本政府は狡猾だった。

自分たちと同じタイミングで、同じ情報を把握している国家を見つけたからだ。

それが『フランス』、世界中を見渡しても零落の激しかった国はそんなに無いだろう。

 

フランスが情報隠蔽に躍起になっていると暴露したのは何処からの情報だったのかは今になってからは調べる事も出来ない。

あれからのフランスの失墜と零落は酷いものだった。

全世界から一方的に非難された。

そして非難する側には日本も居たからだった。

自分達は利益の為に国民を平然と見殺しにしたうえで、そのすべての責任を他国に放り投げた。

その時点で捜索活動というものの期間は終わりを告げた。

無論、日本政府が情報を把握していたという真相は徹底的に隠蔽され、情報にはセキュリティが施されて。

それが、6年前の真相だった。

 

「…つまり、何…?

一夏の行方不明には…アンタ達も一枚噛んでるっての…!?」

 

「当時は私は情報関係には関わってないのよ。

あの時には私の父が関与していたわ。

けど、父は彼を見殺しにすることに関しては極度に反対していたけれど、政府はその意見を完全に無視。

最終的には父は引退を決意して、当主の代を引退。

それから数年間は更識は政府に人事を好き勝手にされてね。

その間にあった出来事の一つによってイタリアに弱みを握られたのよ。

その辺りだったかしらね、これ以上好き勝手にされないようにってことで私が党首の代を継承したのは」

 

けど、すべては手遅れだった。

更識は牙の多くを失ってしまっている。

その上でイタリアは今回の機を狙って、織斑先生と我々を分断させた。

更には日本政府とも関係を絶たせようとしている。

 

「けど、関与をしていた、というのであれば否定はしないわ」

 

「それを告白した本当の理由は?」

 

「少なくとも、貴女たちから信頼をしてほしいから。

蔑視されていることは把握しているし、それは甘んじて受けなくてはならないのは理解しているわ」

 

卑怯なことは理解している。

それでも、そうまでしてでも情報が私達には必要だった。

 

「……もう良い。

それがアンタなりの誠意だってのは理解した。

アンタが、他者を踏み台にするような奴じゃないってのは理解した、今はそれで良い」

 

そのタイミングで店主がまたもやお昼ご飯を持ってきてくれた。

はい、美味しくいただきました。

 

 

 

「で、情報整理ね。

一夏くんの行方不明後に鈴ちゃんは独自に情報を集めようとしていたけれど、その進捗は?」

 

「日本に居る間はまるで集まらなかったわ。

まともに情報が集まったのは中国に帰ってからね、当時のことについて触り程度には知れたって感じ。

その内密の情報は今ここで、そんな感じね」

 

つまり…何一つ進歩してないってこと…!?

 

譲歩的利益があったのは私達だけということ。

こちらからは鈴ちゃんに与えられる情報は何一つなかったということになるらしい。

ギブ&テイクもあったもんじゃないわね…。

 

「で、ウェイルについては何か調べたの?」

 

「イタリア出身の二人目の男性IS搭乗者という事と…残る情報は鈴ちゃんが知っている情報と大差は無いわ。

私達更識は、イタリアに目をつけられているから余計な事が出来ないのよ」

 

「アンタ達何をやらかしたのよ…」

 

それに関しては当然黙秘。

 

「プライベート方面でも何か引き出せないかなぁ、なんて思ってたけど思った以上に口が堅いし、メルクちゃんのガードも堅いし。

仕方ないから余計な事をされないように近くで目を光らせているだけなのよ」

 

「余計な事って…あぁ…」

 

そう、織斑先生だとか全輝君だとかが居るんだもの、それと箒ちゃんね。

本当に…余計な事をしでかさないでほしいわ…。

 

「じゃあ織斑全輝君の情報について教えてくれないかしら?

はいはい、そんな嫌な顔をしないで、蘭ちゃんも!」

 

耳に届いたのか弾君もいやそうな顔をしていた。

そんなに嫌ってるだなんてね…この人は一体何をしたっていうのかしら?

ああ、彼らの幼馴染である一夏君を迫害し続けていた連中の親玉だったわね。

そこからさらに情報をもらうことになった。

それから割り出せた人物像は…まあ、割愛しておきましょうか。

 

「それで、鈴ちゃんがウェイル君とよく一緒に居るというのは…やっぱり…?」

 

「ウェイルが一夏じゃないのかって思ってる。

それで時間があれば訓練だとか一緒にやってるのよ。

まあ、今のところは収穫はゼロ、疑い続けるも辞めるも難しいくらいかしらね」

 

簡単な話は昨日も聞いている。

そして、それに対しての覚悟も、信念も。

『やり直す』のではなく、『新しく始める』為に。

…織斑先生は何を思っているのかは知らないけれど、離別したのは正しい判断だったのかもしれない。

 

「ウェイル君はイタリアに帰省中なのよね…もうちょっと彼本人にも話を聞いてみたいわね…流石に無理かな…。

まあ、そこは鈴ちゃんの方が訊き出せそうではあるわね…期待してるわよ」

 

「…善処はしてみるわよ」

 

これで私達なりの情報交換は終わった。

有益な情報はそんなに多くはない、けれど私たちなりの収穫は確かにこの手にある。

 

午後の3時を過ぎたあたりで解散することになった。

五反田食堂を後にして、今後の方針を決定することになる。

 

「今更だけど今後の方針は決まったわ。

一つは、ウェイル君の護衛を続けること。

イタリア政府に弱みを握られているから、というのもあるけれど、国が傾いてしまうのは防がないと。

国内の過激派も抑え込む必要性が出てきたわね。

もう一つは織斑先生への監視体制の続行ね、あの人の勝手な行動次第では私たちの行動に支障が出かねないわ。

そして全輝君や箒ちゃんの動向の監視体制も続行よ」

 

「承知しました、では各員に通告をしておきます」

 

もののついでに監視対象にされている二人の情報も入手が出来た。

 

織斑 全輝は悪質な扇動者。

人を扇動し、相手の気持ちを利用し、自分は動くこともないまま目的を果たす。

しかも姉である織斑千冬からは信頼されており、欠片たりとも疑われていないらしい。

彼の見えざる手によって、織斑一夏君は学校全体から虐めを受け、同時に街からは迫害を受けていた。

 

篠ノ之 箒は知能も責任能力も無い子供。

暴力以外に何も持っていないだけの木偶の坊。

幼いころに全輝君に助けられた事があったらしいけれど、それは暴力を介しての事だったらしい。

そこからね、暴力を用いれば事の解決に当たれると思うようになったのは。

暴力が通じない論争になれば、姉の名前を持ち出し、都合が悪くなれば『姉は関係ない』と宣う。

姉妹の仲は…良好なのか険悪なのかは判らない。

 

どっちにしても厄介すぎる人物が背後にいるというのだから面倒なことこの上ない。

 

そう言えばウェイル君にも姉がいるらしいけれど、その人がどんな人物なのかは今になっても判らない。

交友関係を調べた、なんて口にしてみたけれど、あれは実際にはハッタリだったわけだし。

『メルクちゃんの兄』、それ以外の情報は今になっても一切不明。

本人が自供してくれたプロフィール以外に参考になるものが無いのよねぇ…。

気になるのは本心だけれど、そこから先はこれからの護衛業の中で手に入ればいいんだけど。

 

「…けど、そんなに悪い人には見えないわね、ウェイル君は…」

 

学園ではメルクちゃんに勉強を教えてもらっている他には、訓練に一生懸命になっている光景を思い出す。

それだけでなく、機械いじりが好きらしく、故障したと思われて諦めかけていた機械設備なんかの修復作業や、メンテナンスにも手を出してくれているお陰で、評判はとても良かった。

それに何より、初対面同然だった簪ちゃんのために、上級生に躊躇せずに頭を下げて回っていたことも私の手元に情報が来ている。

セシリア・オルコットの件に関してもウェイル君は一方的な被害者だったわけだし。

物のついでに言えば、彼には裏が無いのが私にはわかっている。

()品の臨床試験に私を利用したという点に関しては異議を唱えたいけれど。

 

「今頃は何をしているのかしらね、彼は…」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

「さてと、私は散歩に行くとする、か…」

 

二人の勉強を見て終わった後、私は気分転換のためにヴェネツィアの街並みの中を散策していた。

思い返してみればこの街に引っ越してきてから随分と時間が経ったと思うサ。

この街の街並みもすっかり見慣れ、夜間の散歩も偶には気分が良い。

今日は相棒のシャイニィはウェイルとメルク達にべったりで少しばかり寂しい

 

ただし

 

「おしっ!いいぞ!そこだ坊主!」

 

「あの槍凄ぇなっ!まるで流星だぜ!」

 

「いけいけいけ!白いのをたたんじまえ!」

 

「油断するなよウェイル君!もう少しだ!」

 

…あのオッサン共が居なければ…。

夜釣りの筈が、ここ数日は競馬でも見ているかのような熱狂振り。

実際に見ているのは、IS学園で執り行われたというクラス対抗戦でのウェイルと織斑のクソガキの試合の映像。

そしてそれを見ている…えっと…マフィアの大頭目、新聞社社長、警察長官、ローマ法王、FIATの代表取締役社長、ローマ市長、イタリア首相、ヴェネツィア市長、漁業組合長、空軍元帥、陸軍元帥、海軍元帥、国際裁判所裁判長。

更に追加して『緋の釣り人(シェーロ)』と『碧の釣り人(クーリン)』も居る。

 

「フハハハハハハッッ!!!!」

 

更に更にあそこで高笑いしているのがウェイルが言うところの新参である『黄金の釣り人(ギース)』とかいう人物だろうと思うサ。

あの光景を見ると頭と胃が痛くなってくる。

あの連中が集まっているのは間違いなく、ウェイルを介して…と言うよりも釣りを介して集った仲サ。

私の所に届いた映像をあのアホウサギがポロッとどこかから出したらしい。

今度会ったら皮を剥いで海に叩き落してやる。

 

「なんでウェイルの周囲にはあんな変な釣り人共が集まるのか、まるで理解出来ないサ…」

 

今回は企業での報告やISを用いた訓練の追加、地元の連中との顔合わせもあり、ウェイルは釣りが出来てない。

とはいえ、あんな連中と顔を合わせたくないという点もあったりする。

その代わりに娯楽の一環として企業がウェイル考案の試作製品であるプロイエットを提供したわけだし、今回ばかりは我慢をしてほしいと思うサ。


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