IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第39話 離風 予兆

「……ふぁ…もう朝か…」

 

陽光がカーテンの隙間から零れ、その眩さに目が覚める。

ベッドではなく、机に突っ伏したままの状態で寝てしまっていたらしい。

家でこんなことをしていたらシャイニィがペチペチと叩いてくるのだが、極東の学び舎には彼女は居ない。

 

「5時半か…普段通りだな…」

 

背後のベッドのほうからも物音が聞こえてくる。

どうやらメルクも起きたようだ。

 

「お兄さん、またベッドに入らずに寝てたんですね…」

 

起き抜け早々に苦笑された。

まあ仕方ない、パッと思いついたものが在れば、さっさとスケッチしておかないと翌朝には忘れてしまうからな。

 

「ちょっと書類をまとめてみたんだ。

例の弾丸の威力が高すぎて使用禁止になったからさ、威力をもう少しばかり控えておいてもらわないといけないし、トゥルビネもオーバーホールの必要性が出てきて本国に送り返さないといけない。

そういった関連の報告書さ」

 

一週間前のクラス対抗戦の結果は最終的には無効になった。

更に言うと、デザート半年間無料のパスもお預けだ。

 

テロリスト襲撃という緊急事態の中、アリーナに集まっていた生徒は一部を除けば無事だった。

この際の『一部』とは、ある女学生に殴り倒され気絶したまま放置されたり、場所が悪くて気絶したまま他生徒に踏みつけられた生徒のことだ。

それをやらかした女子生徒は現在は懲罰房にて謹慎処分を受けている。

それとアリーナ内の格納庫に収容されている機体とパッケージを無断で取り出して、緊急事態にも関わらず私闘をおっ始めようとした織斑も懲罰房にて謹慎処分を受けているらしい。

 

敵勢力による襲撃の最中、民間人の避難を妨害、対応に追われている戦闘班への執拗な妨害、その全てが何と言ったっけ…思い出した、『利敵行為』だとティエル先生が教えてくれた。

メルクからは軍内では除隊だとか軍法会議ものだとかになるらしい。

もしくは会議をすっぽかして営倉入りとか。

『営倉入り』というのがよく判らなかったが、これにもメルクから『禁錮』とそう変わらない扱いのことだとも教えてくれた。

俺も技術者の端くれとしても、機体を無断で持ち出されるということに関してはそんなにいい気分はしない。

 

そうそう、クラス対抗戦のさなかに起きたことは家族には軍事関連の話にもなり、直接には話せないので、報告書に記して国に転送した。

姉さんを始め、本国は今頃どうなっているだろうか…?

 

そうだ、『アルボーレ』は市井でも便利な道具として扱われているのはヴェネツィアでもちょくちょく見かけた。

車椅子の人でも、これを使えば歩行訓練に近いことが一般家庭でもできるようになる可能性も見いだされ、開発に追い風が出来ているそうだ。

現在目標としては、持ち運びが容易な、折り畳み式…?もしくは手持ち鞄サイズにするとか。

ルーマニアという国家からも注文が来た以上、このまま加速していくんだろう。

ちょろっと訊いた話だが注文してきたのは、ルーマニアのユグ…何とかの凄い姓名の大貴族様だとからしい。

 

『アウル』は機体脚部の兵装としてメルクが使ってくれている、ヘキサ先生もだ。

『ウラガーノ』はヘキサ先生が大層気に入りテンペスタⅡに搭載、俺もテンペスタ・アンブラの兵装として搭載しているが、学園のスケジュールのおかげで今はまだ出番がない。

次回の大型対戦でもある『学年別個人トーナメント』で漸くお披露目になるだろう。

むろん、それまでの間にも授業とかがあるから個人訓練の時だけ使用するように使用頻度も控えておく必要性があると姉さんからも言われている。

 

「メルク、早朝訓練に行く前に寝癖を直しておけよ」

 

「ふぇぇぇ!?」

 

頭の天辺に一筋、髪がチョロリと重力に反抗していた。

クローゼットからヘアスプレーやらヘアブラシをもって洗面所へ走っていく妹の様子を見ながら俺も動きやすい服に着替えるのだった。

 

普段通りの髪形にまとめた妹が洗面所から出て来たのは、その数分後だった。

俺もその後に洗面所に入り、洗顔をして眠気を吹き飛ばす。

部屋ではメルクも動きやすい服装に着替えているだろう、こういうのはタイミングを計っておくべきだろうなというのは俺も熟知している。

病院に入院していたころに着替えを行うタイミングで、メルクが病室に入ってきたこともあるから、悪いが反面教師にさせてもらっている。

 

「お兄さん、もう良いですよ」

 

「ああ、判った」

 

洗面所から出ると、メルクも動きやすい服装…というかトレーニング用の服装になっている。

もちろん、この服の下にはISスーツも着用している。

基礎運動をした後には、ISを用いた戦闘訓練も予定されているからだ。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はい!」

 

鞄と着替えを放り込んでいる手提げをもったまま第7アリーナに向かう。

早朝から訓練をする人はそう多いほうではないが、極力人の居ないところで訓練をしたい俺達は普段から人気の少ないアリーナを選んでいる。

 

「えっと…トゥルビネはオーバーホールで本国送り返し…クランは…まあ、俺の手でメンテナンスは出来るかな。

こっちも無理なら、普通のランスを使うっきゃないけども、耐久性は比較的良かった筈、後は…」

 

そんな事をボヤきながら扉を開く。

 

「…あ…」

 

そこに彼女が居た。

いや、シャイニィではなく、勿論人だ。

けども何故か姉さんやシャイニィを彷彿とさせた。

 

「凰さん、か。

これから早朝訓練かな?」

 

相手は、2組クラス代表にして、中国国家代表候補生である凰 鈴音さんだった。

 

「ええ、そうよ。

毎日これくらいの時間に起きては訓練をしてるのよ」

 

一瞬、切なさそうな表情をしたように見えたが、すぐに表情が引き締まる。

思えば先日の試合に関しては引き分けという形だった。

邪魔が入ったからそれはそれで仕方ないかな、と考える。

メルクもそうだが、代表候補生というのは早朝訓練を日課にしているのは共通なのだろうか?

 

「ねぇ、この前の勝負のケリ、キッチリと着けたいんだけど良いかしら?」

 

「驚く程に好戦的だな…でもパスだ、兵装の幾つかを本国に送り返すことになってるから万全の状態にどうしても届かないんだ」

 

これはブラフだ。

熱くなりかけてる彼女には悪いが水を差す。

クランもトゥルビネも俺の本来のスタイルには使用しない兵装ではあるけど、手札を晒すわけにはいかないだろう。

 

「ありゃ、そうなの…う~ん…フェアじゃない勝負は好きじゃないし…あ、なら基本訓練を一緒にやらせてくれる?

イタリア式の訓練内容にも興味があるのよね」

 

「って事らしいけど、どうするメルク?」

 

「それなら大丈夫…だと思いますけど…」

 

「決まりね!

先に第7アリーナに行って貸し切っておくから!」

 

活発的な性分でもあるらしく、風のように駆け抜けていった。

で、メルクは何があったのか知らなけれど、少しばかり歯切れが悪いな…?

 

 

 

基礎訓練にグラウンドでのランニングを始める。

ストレッチをこなしたら、それから生身で兵装を持っての戦闘訓練になる。

メルクはレイピア、俺は槍だ。

で、凰さんはというと…反りの入った肉厚の剣…かな、あれは…?

 

「青龍刀っていう名称よ、生身で扱うサイズのものも登録させているの」

 

試合で使っていた機体の兵装にも近い印象だな、とか思う。

 

「そうなんですか…なんだか綺麗な剣ですね…」

 

「そうかな…?まあ青龍刀なんて半分芸術品みたいなものだからね」

 

そしてそれを両手に…二刀流か…。

なら俺は二刀流ならぬ二()流なんて事になるのだろうか。

そう思いながらも俺も両手に槍を握る。

そのまま白兵戦に持ち込む事になった。

とはいえ俺から凰さんに喧嘩を売ったわけじゃない。

 

「軽く手合わせしてくれるかしら?」

 

その一言で試合が始まったわけだった。

先日も思っていたけれど、凰さんはどうにも強い。

二刀流という手数に、あの剣そのものも存外重い。

俺の槍の間合いにも怯むことなく突っ込んでくるから、すぐにクロスレンジに持ち込まれる。

その為に、俺は後退しながら間合いを調整して、同時に防衛線を繰り広げることになった。

 

「獲った!」

 

俺の撤退戦は15分にも及んだ。

まったく…研究一筋の技術者相手に代表候補生が大人気無いにも程が有るぜ。

なんて言おうものなら怒るだろうから胸の内側だけに留めておく。

 

「驚いたよ、メルク以外の国家代表候補生とは初めての試合経験だったけど、完敗だ。

やっぱり世界は広いな…ヴェネツィアだけが俺の世界の限りだったからか猶更そんな風に思えるよ…」

 

「もしかしたら私の実力は既にメルクも超えてるかもしれないわよ」

 

「お言葉ですけど、私は筆記試験も実技試験も主席合格してますからね!?」

 

「じゃあ、早速試してみる?

参考書の中身だけじゃない過激なやり方だって存在するって教えてあげるわよ?」

 

ああ、このままじゃあ俺の頭上で言い合い喧嘩ではなくガチの戦いが始まりそうだ。

 

「はいはいストップストップ!」

 

まあ、メルクと凰さんもどちらが強いかなんて現状計れないだろう、そもそも戦い方も違うし兵装も違う。

舌戦では何一つ決着は着かないだろうし、そもそもデンジャラスな内容とか勘弁してくれ!

 

「荒っぽいのは無しで頼む、戦闘能力じゃなくて、せめて運動能力程度にしといてくれ。

あんまり派手なことになったら騒ぎになりそうだ」

 

ただでさえ、巻き込まれる形でトラブルに見舞われているんだ。

オマケにテロリストからも命を狙われ続けることが確定した身だ。

これ以上は堪忍してほしい。

今更になってヴェネツィアの平穏な雰囲気が懐かしい。

 

両親や姉さん達と一緒に居る光景を思い浮かべる。

平和的な光景だ。

 

御近所さんから頼まれる機械修理をしていた頃を思い浮かべる。

平穏な光景だ。

 

シャイニィと遊ぶ瞬間を思い浮かべる。

楽しい光景だ。

 

釣りが好きな近所のオッサン達と肩を並べて釣りをする光景を思い返してみる。

う~ん、本当に平和的な光景だ。

 

「はぁ…故郷が懐かしい…」

 

五月の連休には、ヴェネツィアへ帰ろう。

以前から決めていた事だけれど、再度心の中で強く念じるように考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝からの訓練を終え、シャワーを浴びて汗を洗い落とす。

食堂で朝食を摂る事になったのだが…。

 

「やっぱり、直ってないな…」

 

食堂の中心部付近から一角に向けて、壊された机や椅子、投影機も撤去され、不自然にポッカリと空いている。

あの日の出来事を思い出すなぁ…。

何故、奴が絡んできたのか。

あの女子生徒は初対面の人間相手に『言葉よりも先に暴力』なんて物騒な事をしたのか…。

オルコットとか名乗っていた女子生徒も同じだけど。

 

「さてと、朝食は何にしようか…」

 

モーニングセットにしようか。

 

食事としての内容は、カリカリになるまで焼かれたトーストに、ホットミルク、それからフレッシュサラダとハムエッグと軽めのメニューだ。

ホットミルクはメルクの要望で紅茶と取り換えたものだ。

何を思ってのことかは知らないけれど、よく注文している。

それのおかげでガリガリだった俺も多少は骨太に慣れているんだろうけどさ、たとえそうだとしてもオリムラみたいに神経図太い方面にはなりたくないな。

 

「…いや、アイツの事を考えるのは辞めておこう」

 

右手にはメルクが俺と同じモーニングセットを、左手側にはオムライスを頬張る凰さんが居る。

 

おっと、二人に見とれてないで俺も朝食にありつこう。

トーストに塗るのは、トマトジャム。

メルクはイチゴジャムがお気に入りで、母さんの場合はブルーベリージャム、父さんであればマーガリンだった。

姉さんは自作しているらしいリンゴのジャムをよく使っていた。

マーマレードは、柑橘類の匂いを嫌うシャイニイに配慮して使わなくなっていた。

 

そのまま食事の最中は沈黙が続いていた。

喋りながら食事をするのも行儀が悪いだろうし、ここはファーストフード店でもないから仕方ないだろう。

んで、食事が終わってからは、ホームルームの時間の少し前まで談笑をすることになった。

それでも、メルクの表情が硬いのがどうにも気になったけど、それについては聞き出す事は出来なかった。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

朝食もかなり早めに切り上げ、私たちは生徒会室に来ていた。

私達二人にはそれだけ重要視している件があった。

 

「…ねぇ…虚ちゃん…どう思う…?」

 

私が口にしたのは、しばらく前に互いに調査をしていた人物に関してのことだった。

調査対象は『織斑 一夏』君。

織斑先生のもう一人(・・・・)の弟である人物だった。

 

「ネット上での彼の評判は…いえ…悪意を以ての貶めにしか見えません…。

多くの人が、無作為に…そして…」

 

「明らかなまでに害意を持っている…」

 

虚ちゃんが持ってきてくれた資料に載っているのは、どこかのホームページのBBS板をそのまま印刷したものだった。

けれど、そこに記されている投稿は明らかなまでに『織斑 一夏』を対象にしてどれだけの悪意をぶつけたか、どれほどの暴力を振るったか、どれだけ死の目前に放り出したかなど…純粋な悪意の掃き溜めにされている場所だった。

これほど酷いものは見たことがなかった。

最初に見た時には、洗面所に胃袋の中身をそのままブチ撒けた、吐く物が無くなっても、それでも吐き気が止まらなかった。

落ち着きを取り戻してからの二度目の目通しでも、寒気が止まらなかった。

 

「でも、『悪意』『害意』を持ちながらも『殺意』には至っていないんです」

 

「傷つけ続け、それでも殺さず、それを繰り返そうとしていた、という訳ね…」

 

そんなの、人間がする事じゃない。

『イジメ』だとかはそれこそ子供達が集う学校という環境では、必ずどこかで発生しているものだと私は認識している。

動機は様々だけれど、意見の特色から目立つのは『自分達と違うから』というもの。

相手の個性を認めず、自分達こそが標準で、それから外れたものを除外したがるという極端なまでの視野狭窄。

『仲間外れ』という行為はいつしか差別や偏見に繋がり、いつしかそこに暴力までもが起きることもある。

それがやがて当たり前になる(・・・・・・・)

 

けれど、その対象になってしまった側からしたら堪ったものじゃないだろうというのも察する事が出来る。

 

そう、出来る筈(・・・・)

でも誰もそれを理解しながらも、辞めようとしない。

今度は自分がその対象になってしまうという保身の為に。

己が身の可愛さに、他者を犠牲にする事を良しとする人も居る。

己が身の可愛さに、他者が虐げられているのを見て見ぬ振りをする人も同じだと思う。

 

けど、出来る筈のことを知りながら、辞めようともしない人も居る。

他者を虐げることを『娯楽』とする人も、人の中には…居るのだと。

その類の人は、他者を傷つけることを厭わない。

何かと理由を付けては自己正当化し、虐げられている側だけが悪いのだと言い張り続ける。

自分が他者を否定しているのに、自分が他者から否定されるのを極端に嫌がるタイプがその類なのだろうとも思う。

このBBSに記されている物も、その類なのだろうと思うことがある。

 

でも、もっと並外れた人間も居る。

それは、他人を利用するタイプ。

人の気持ちを利用し、邪魔者を虐げさせ、自分から手を下さず、そのうえで目的を達成し、自分は罪悪感も後悔も感じず、平然としているタイプ。

これが最も悪質だと思う。

なにせ特定がし難いだけでなく、害を与える人間を先導し、周囲から見ている人間の目を反らさせる。

時には、周囲に良い顔をしながらも、本心は何処に在るのかが全く判らない。

 

暗部に所属しているからこそ、自分はこれでも多くの人間を見てきたつもりだった。

だけど、今回のこれは極端なまでに悪質だった。

『害意を持っていながらも殺意が無い』とはよく言ったものだと思う。

この連中は織斑一夏と呼ばれている人間を、どれだけ虐げたのかを娯楽にして、自慢しあっているというものだった。

死の直前に放り込んだ人間はこれを大層自慢をしているかのように書き出し、周囲はそれを面白がる。

『迫害』や『暴行』を『娯楽』にしている類のタイプなのだとすぐに理解できた。

 

そして、それを繰り返し続けることを楽しんでいる。

 

「許せないわね…ここまで人間は醜くなれるものなのかしら…?」

 

「よく耳にしますよね…虐げられた子が自殺をしたのを知っても『そんなつもりじゃなかった』と言って言い逃れしようとする人は…」

 

「でも、此処の連中は悪質醜悪極まるわ。

此処の連中、織斑一夏君を娯楽の題材にし続けるつもりのようだものね」

 

「それで、お嬢様のほうは調査の程は?」

 

おっと、そうだったわね。

虚ちゃんの調査内容があまりにもショッキングだから出端をくじかれたわね。

 

「私も織斑一夏君のことを調査したけれどね、『故人』だという事は判っている」

 

無論、これは虚ちゃんも知っているし、周知の事実。

6年前の秋頃から消息がパタリと消えている。

それから数週間後に、死亡判定が下され、故人として扱われた。

 

「でもね、少し興味深いことがあったのよ。

織斑一夏君の死亡判定が下されるよりも前から、そして今もまだ彼の捜索を続けている人が居るのよ」

 

「それはその人物の家族、織斑先生や、あの問題児ですか?」

 

「不思議な事にも、その二人は一切の捜索活動をしていないわ。

捜索活動を自主的にやっているのは極僅かな人数だけよ。

捜索活動の内容としては、訊き回り、張り紙だとか、自分の足で行ける範囲なら何処まででも。

でもね、その活動をしているのは、私たちと同年代の男の子なのよ」

 

それから察する事は少ないけれど在る。

その子達は、一夏君の数少ない友人なのだろうという事。

迫害の嵐の中でも、その子にはすがれる希望はわずかにでも存在しているという事。

そして…今に至っても手掛かりに至れていないという事だった。

 

「…お嬢様、その方々に会ってみませんか?

私達では知りえていない情報も…身近に居たからこそ知っている情報も何かあるかもしれません」

 

「そう、ね…。

私も気になる事が在るから、それも良いかもしれないわね…」

 

ウェイル君のことに関しての調査はしてみようと思ったけれど、ほんの僅かな必要最低限の情報しか引き出せなかった。

なにせイタリアという国そのものが私たちに睨みを利かせてきたから。

その時点で危険性が高いと判断して調査は急遽取りやめさせた。

たとえ、国の政府の命令だったとしても。

諜報員という名目ではあるけれど、多くの人間を雇っている以上は彼等の生活をも守る義務が私達にはあるのだから。

 

それを理解したうえで、今度は織斑一夏君の調査に回ってみれば、今度は頭打ちになった。

それは、国家機密を含めた情報として扱われ、十重二十重にプロテクトが厳重に施されていたから。

『織斑 一夏』と呼ばれる子供の死亡扱いに関して、国が必死になってまで何かを隠しているのは明白だった。

 

「…折角のGWだもの、行ってみましょうか、えっと場所だけど…」

 

懐に入れていたメモ帳を取り出す。

それと同時に虚ちゃんはスケジュール帳を取り出してきた。

 

「あ、在ったわ、お店の名前は『五反田食堂』よ」

 

「お店、ですか…?」

 

そう、個人営業だけど地元では結構な有名なお店らしいのよね。

お薦めメニューとして野菜炒め定食とか出しているとかなんとか。


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