必死になって石をため込んだのに…。
そのために、育てていたキャラ達の強化クエストを温存させておいて一気に攻略までしたというのに、なんだこの引き運の悪さは…。
なお、粘りに粘って55連まで行きました…。
現状
剣
ジークフリート
鈴鹿御前
ラクシュミー・バーイー
弓
エミヤ
アタランテ
アシュヴァッターマン
エウリュアレ
婦長サンタ
ロビンフッド
アルテミス New!
槍
クー・フーリン
秦良玉
カルナ
フィン・マックール New!
騎
メドゥーサ
アキレウス
マルタ
オジマンディアス New!
術
ナーサリー・ライム
エレナ・ブラヴァッキー
エジソン
アナスタシア
狂
ダレイオス3世
ランスロット
殺
佐々木小次郎
不夜城のアサシン
青燕
裁
アストライア
讐
Sイシュタル
何度、何度、悲鳴のような金属音が響き渡っただろう。
俺の槍と彼女の刃が交錯し、火花が散り、その都度操縦悍を握る手に振動と衝撃がビリビリと伝わってくる。
だが、決して不愉快なものじゃない。
「アンタ、まだ何か隠してるでしょ?
悪いけど隠し玉が在っても出させないわよ」
八重歯を見せながら不敵に見せるその笑み思わず惹かれ…って何やってんだ俺は⁉
「そうかよ、予定前倒しで使おうかと思っていたけど残念だ!」
やはりと言うか、何と言うか、アウル、ウラガーノ、アルボーレのお披露目はまだしばらく先になりそうだ。
今はまだトゥルビネとクランだけで何とかしておかないとな。
だけど、流石に手札が尽きそうだ。
唯一の勝機に近いものがあるとすれば、武器の重量だ。
まともにぶつけ合おうとすれば吹き飛ばされる。
それだけ彼女の剣は重い。
それに比べて俺が現在振るっている兵装、真紅の二槍、『クラン』はやや軽量方面の兵装に分類される。
だけど、軽量ならば、それを利用したラッシュを狙えるというわけだ。
だが、彼女も馬鹿じゃない。
それを見越して剣を楯にされたらその守りを貫くことも難しくなってしまう。
そうなれば投擲に絞られるが、そうなれば俺の手元には銃だけだ。
俺の機体に搭載されている銃は実弾だ、弾数もある程度は把握しておかないとうっかり弾切れになれば笑うに笑えない。
念には念を入れて弾丸はたっぷりと用意しているが、弾丸だってタダじゃないからな…。
とっておきの特製の弾丸にもなると製作コストも高いし、試射もしていないから使い時を考えないと。
「とはいえ、今はクランだけでなんとかしないと…」
他国の代表候補生を馬鹿にしているつもりは無い。
そこまでに上り詰めた努力だって半端じゃないし、ポッと出の俺に比べれば遥かに格上なのは理解している
俺はメルク専属の技師になるつもりなのだから、俺が機体に搭乗してデータを集積しているのは今後のためのものだ。
だから、勝敗なんてどうだって良かったというのも在るし、代表候補に勝てるわけもないだろうと思っていたのも確かにある。
それを自覚していたのに…俺もどこか負けず嫌いの節があったらしい!
「「まだまだぁぁっ‼」」
だけど、その瞬間だった。
「鈴!離れろっ!」
「キャァッ⁉」
悪いとは思うけど蹴り飛ばし、その反動と背面翼による急制動で後方への後退瞬時加速を行う。
刹那、野太い閃光が上空から落ちてきた。
ズドオォォォォォンッ‼
アリーナの上方に常時展開されていると授業で聞いた覚えのある電磁シールドに閃光がぶつかり、拮抗は…ただの一瞬だった。
そのまま閃光は…大出力レーザー砲撃はアリーナの地面に突き刺さった。
そこから周囲に衝撃と土ぼこりが走る。
「嘘でしょっ⁉
アリーナの電磁シールドが破られた⁉」
一応授業でも出てたけど、このアリーナを囲う電磁シールドというのは結構な出力で、かなり頑丈なのだそうだ。
それを破れるものはそうそう無いと聞いている、超音速の隕石をも防げるとか噂で聞いたような気がしないでもない。
なのに…それが破られてしまっている。
「アレは…?」
破られた電磁シールドの向こう側には、見覚えのあるような機体が存在していた。
思い出した、フランス製第二世代型量産機『ラファール・リヴァイヴ』だ。
この学園にも訓練機として導入されたが、世の中の風潮によって、使用頻度が極端に低くなり、倉庫の中で埃を被っている予備パーツ扱いされているものだった筈。
それが同型が合計5機。
そのうちの一機がやたらとでかい大型砲のような兵装を構えている。
どうやらあれによる砲撃が先程の閃光の正体だったらしい。
というか、ロックオン警報が聞こえたわけだから俺を狙っていたという形になるぞ…。
「あのエンブレム…両手に剣と銃、それに八枚の楯…。
国際テロシンジケート、『凛天使』みたいね…!」
俺も数年前は奴らに迷惑かけられたよな…。
あの時にはテスターの人が、FIATの社員も何人も亡くなった。
姉さんが討滅してくれたらしいけど、組織全体から見ればまだまだ末端だったんだろう。
「ウェイル、アンタは下がってって聞いてくれないわよね…?」
「アリーナにはまだ観客席に生徒が沢山居るんだ。
俺が引いたら凰さん一人だけで対処を強いられることになる。
それはキツイんだろ?」
「だったら作戦提案、あんな砲撃してくるような奴がいるとなると観客席の生徒が危険に晒されるわ。
だから、奴ら全員の視線を絶対に下に向けさせないこと!」
了解、と返す。
両手の槍を握りなおす。
それと同時にマニュアル操作で一気に加速させる。
これ以上電磁シールドを破られるのは危険。
そして視線を下に向けさせるわけにはいかない。
だから俺たちは電磁シールドから飛び出す。
「私たちの理念のために!
世界の正義のために!あの男を殺せ!」
正義、か。
姉さんに『正義』という銘の罪を教わってからその言葉が嫌いになった。
正義なんて、そんなものは言った者勝ちでしかない。
口にすれば大義名分にも出来る。
『正義が勝つ』?
反吐が出る、『勝った奴が正義を名乗れる』の間違いだ。
そしてその勝者が正義の定義を勝手に書き換える事が出来るだけだ。
銃弾が降り注いでくるのを予期し、俺と凰さんはその射線上から離れる。
高度を奴らと同じ視線に合わせた。
「一応確認。
第一に時間稼ぎ、生徒達の避難が完了して、教師部隊が突入してくるまでコイツ等の視線を私たちに集約させる!
無理に撃破までは考えなくても良いから!」
「判った」
「それと、あの大型砲の破壊も忘れないで!
あんなものがある限り、学園全土が危険に晒され続ける!」
「じゃあ…作戦開始!」
そこからは難航な作業の始まりだった。
射撃兵装を構えようとする者に、こちらも射撃で牽制して、中断させる。
というのは簡単かもしれないがコイツら、近接戦闘を避け、射撃兵装ばかり使ってくる。
『お兄さん!加勢します!』
突如として開かれるプライベートチャンネル。
交戦を始めて遅れて5秒後には楯無さんをひきつれたメルクも合流してくる。
これで数は5機対4機、少しは楽になってくれればいいんだがな!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
またテロリスト。
私達兄妹は、かつてイタリアはローマに存在するFIATでも彼女達に襲われた。
その時の目的は、ISコアだったのかもしれなけれど、その過程に於いて何人もの人が虐殺された。
私たちはシャッターを下ろせるスペースに作業員の人と一緒に隠れることで何とか難を逃れることが出来た。
お姉さんも奮闘し、沈静化出来たとは聞いても現場は私たちは目にする事は出来なかった。
それはそれで仕方なかったのかもしれない。
それでも…笑いながら銃を乱射して殺人が目の前で行われる瞬間は…最近になっても悪夢となって見ることはあった…。
願わくば、もうあんな人達と出会わないでいられたらと思っていたのに…!
「お兄さん!加勢します!」
「頼むぞ!」
同行を申し出てくれた楯無さんの手を放し、両手に武器を構えた。
『気を付けて!
あの人達のターゲットは恐らく君よ!』
『判ってますよ!』
プライベートチャネルで交わされた通信に、そこに秘匿された意味を悟る。
これに秘められているのは、『以降の連携は通信を行いながら』、という意味。
そしてもう一つの意味は、お兄さんの名前をテロリスト達に知られないように秘匿するように、という意味合いだった。
オリムラの方面に関しては、世界中に知られてしまっているため今更。
けど、お兄さんの場合はイタリアの国家の思索によって、顔も名前も極力公にならないように秘匿しようとしている。
最悪、名前と素顔のどちらかは情報が漏洩しているかもしれないけれど、それ以上は情報が繋がらないようにはしていた。
実際には学園の内部では顔も名前も知られているから不安は拭えないですけど。
お兄さんが両手に握るのは
かつては自分にどうにも合わないと言っていたものが後々改良され、3点バースト式になり命中性と牽制にも優れるようになり、お兄さんの訓練にも導入された。
最初こそ銃の取り扱いには慣れていなかったけれど、時間を重ねれば、素人とは思えぬほどに成長している。
「メルク、アレを使うぞ!注意してくれ!」
トゥルビネに装填したのは普段から使う鈍色の弾倉ではなく、お兄さんのセンスで暗い紫色にカラーリングされた弾倉だった。
アレって確か…!
「ちょっ⁉」
「何⁉何をする気なの⁉」
一番の狙いは何なのかは理解している。
それは最も危険な大型砲の破壊。
あれがある限り生徒が危険にさらされる。
『楯無さん、テロリストはどうなっても仕方ないよな?』
『出来るの?』
『それの検証も含めて』
『いいわ、殺しに来ているんだものね。
負傷程度の覚悟はあるでしょうからね!
他は私が受け持ちます!
あの大型砲を破壊できる目途があるのなら頼むわよ!』
『了解!』
『メルクちゃんはウェイル君のサポートを!』
プライベートチャネルで交わされた通信越しに返答を返し、私も両手に二連装レーザーライフルを握り、競技用リミッターを解除させる。
それでも、長時間かけると互いに周囲にどんな被害が出てくるかわかったものじゃない。
ここは可能な限り早々に!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
ウェイル・ハースの実力は本当に凄いものだと思った。
何よりも恐れるべきものは、その集中力と観察眼。
私の甲龍の第三世代兵装である衝撃砲を早い段階で見切ってしまっていた。
更には互いの武器の重量差を欠点にしない為の二振りの槍を用いての途方もないラッシュ。
テンペスタ特有の高い機動性を損なわせる危険性のある攻撃方法だというのに、それを理解しながらも飛び込んでくるというとんでもない度胸。
そして、そのラッシュに終わり無いと言わんばかりの高いスタミナと、こちらの隙を常に探し続ける洞察力。
それら全てを誰が与えたのかは今になっても判らない。
ウェイルが言う『姉』なのかもしれない。
流石に妹があそこまでに実力を兄に叩き込む様子は想像できないし。
「私だって戦わないと…!」
訊きたいことは山ほどある。
でも私情の優先は出来ない。
こういう場合は多くの人を守るために体を張らないといけない。
「さぁ、始めるわよ!」
一機のラファール・リヴァイヴへと攻勢に撃って出る。
左右両肩の衝撃砲を起動させ、一気に距離を縮める。
相手が銃を構えてくるけど気にしていられない。
右後方からの発砲音が聞こえる。
ハイパーセンサー頼りに広がった視界の一点でウェイルが右手の銃を連射してきていた。
「援護射撃をしてくれてるっての?
借りができたかな…なんて言ってる場合でもないか!」
衝撃砲の最大出力を撃ち込み、怯んだ隙に。
「なっ⁉」
ラファールのテロリストの顔が驚嘆に歪む。
それを視認しながらも一切の加減なく両手の剣を振り下ろした。
更に続けて衝撃砲を左右交互に撃ち込みながらも左右の剣を叩き付ける。
「な!なんで攻撃してくるのよ⁉
私たちは!世界の絶対的正義の為に…!」
「うるっさい!アンタらはただのテロリストだろうがぁっ!」
最後の一撃、剣ではなく、拳を撃ち込む。
甲龍のパワーアシスト全開での鉄拳は絶対防御を否が応でも発動させ、SEを完全に削り切った。
そのままそのラファールは搭乗者最終防護機能を発動、搭乗者を強制的に気絶させ、墜落していった。
しばらくは放置しておいても大丈夫だろう。
「まずは一機…!」
見れば生徒会長らしき人が2機のラファールを相手に平然と立ちまわっている。
メルクも既に1機を撃墜し、残るのは大型砲を構えた1機と、それに追従する2機になっていた。
その追従する2機は先程からメルクとウェイルに牽制され、攻撃が不充分に見受けられる。
それは絶対的な好機だった。
「二人とも!加勢するわよ!」
そう言った直後に通信ではなくプライベートチャネルを開く。
少しばかり距離が離れているため、少しでも正確に情報を把握しておきたかった。
『メルク!あれを使うぞ!』
『ちょっ⁉』
見ればウェイルは牽制するための高速旋回をしながら銃に弾倉を再装填している。
何か切り札めいたものを使うつもりらしい。
『メルクちゃん!ウェイル君のサポートを!』
『了解!』
『鈴ちゃんも頼むわよ!』
初対面の人にいきなりファーストネームで呼ばれた…。
ちょっとショックだけど、それはこの学園では二回目だった。
ルームメイトでもあり、クラス代表補佐をしてくれているティナには、そう呼んでも構わないと伝えた。
それ以降はクラスメイトでも同じような呼称で呼んでくる。
けど、クラス外にもなると話は別だった。
クラスの垣根を越えた交流と言えば、合同訓練授業程度だけど、結局あたしは同じクラスの生徒の面倒を見るばかりだったから。
中でも1組との合同授業は年間を通して避けられるようになっていた。
何回も騒ぎを起こし続ける生徒とか、国際問題寸前のことをする人がいたら仕方ないのかもしれなけど。
その筋については私も話は聞いた。
イギリス代表候補生が国際問題発言を堂々とした、とか。
全輝とその追従する生徒が食堂で他の生徒を巻き込んで大騒動、とか。
その追従する生徒ってのが、日本刀で私に斬りかかってきた女子生徒、とか。
イギリス代表候補生がイタリアで発見された男性搭乗者に暴行を働いた、とか。
同じくイギリス代表候補がISを纏ってすらいない一般生徒がいる現場で射撃攻撃をした、とか。
『話題に尽きない』というよりも『騒ぎが尽きない』といえるレベルだと私でも分別はついた。
まあ、それは別の話として。
ニックネームで呼ぶ生徒は今日此処にも現れた。
イタリア出身男性搭乗者、ウェイル・ハース。
試合の最中は私のことをファミリーネームで呼んできていたけれど、あの強力な砲撃が襲ってくる瞬間、私を蹴り飛ばしたその刹那、確かに『
『鳳さん!頼むぜ!』
なのに、試合のあの瞬間とは打って変わってまた苗字で呼んでくる!
後でその件に関してもキッチリと話を着けるからね!
深呼吸して見渡す。
「ああ…そういう事ね…!」
よく見ればあのラファールは初期の位置からあまり動いていない。
それに砲撃も連続しているわけでもない。
あれだけデカい砲塔を両肩に担いでいるから機動性の殆どが失われている、更には連続射撃ができないほどエネルギーをバカ食いしているって事か。
だから追従している機体は動けない機体の代わりに周囲の攻勢守備をしている、と…。
ソレを見抜いて切り札まで用意するだなんて本当に…恐ろしいほどの観察力だわ…!
「さあ、行くわよ!」
両手に剣を握るだけでなく、予備の双天牙月を連結状態のまま展開して投擲。
周囲を衛星のごとく旋回させ続ける。
その瞬間には生徒会長は相手取っていた2機の内1機を撃墜させていた。
「ブッ潰す!」
「どけ邪魔だぁぁっ!」
突っ込もうとする私の眼前に鈍色の機体が飛び出してきた。
見覚えのある機体、それも授業毎に。
それは、日本製第二世代量産機『
しかも高機動パッケージ『
その搭乗者は…声からすれば考えるまでもない…!
「お前ら雑魚共はすっこんでろ!」
全輝だった。
こともあろうにウェイルに向けてブレードを振り回してくる。
恐れる必要なんて無い。
私も剣を振るい、それを受け止める。
「何を考えてんのよアンタは⁉
どういう事態なのか理解してんの⁉」
「当たり前だろ、あの連中を堕とせばいいだけだろ。
オレ一人だけで充分だって言ってるだろう!」
このバカ…!
アンタは以前から潰してやりたいって思ってたけど…!
「だからって何で味方側に攻撃してんのよ!?」
ハイパーセンサー頼りにあの兄妹を探す。
兄妹ならではと言えばいいのか、乱されはしたものの再び上手いこと連携しては翻弄をしている。
でも、ウェイルは後方からの援護射撃の場面が多い。
誰かに鍛えられているらしいけれど、元々は一般人だったらしいから、命がかけられた『実戦』は未経験というのは察してとれる。
そしてそれを理解しているのか、メルクもサポートを決して忘れていない。
銃と剣と槍の乱舞で、決して視線を下に向けさせないように気遣い続けている。
それでも、先ほど言っていた決め手の何かを使える状況になかったのは、二機のラファール・リヴァイヴが防衛にあたっているからか。
「俺が誰にも勝てないだと⁉
馬鹿にしてんじゃねぇよ!
俺はお前らのような凡人共とは違うんだよ!
ここで証明してやるよぉっ!」
「この状況でアンタはっ!」
ああ、そんな事も言ったかしらね…!
だからって、こんな状況で私闘をやろうだなんて何を考えてんのよ!
全輝と刃を咬み合わせながらも下を見てみる。
生徒の避難状況は然程良好とは言えそうにない光景が見て取れた。
パニック状態が続いているらしいわね…!
男子生徒二人ともが出場するというのがこの状況を悪化させてしまったのは頭の片隅で予想してしまっているけど、今はそれを考えている場合じゃない。
目の前のバカをどうにかして、ウェイル達のサポートを…!
その瞬間だった。
「全輝ぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
下からの大声が響き渡る。
聞き覚えがあった。
あの時、切りかかってきた女の声…!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「溺れてなさい!」
ナノマシンを操り絶対防御内部の待機…水に干渉させる。
ミステリアス・レイディお得意の水の操作で作り出したのは…
「「!!??」」
水で作ったボールだった。
ただし、出現させる場所は当然露出している頭部。
急に現れた水、しかもそれに頭を包まれたのなら判断能力は著しく落ちる。
寧ろ何も判断出来ないみたいだった。
これで出来上がるのは、空中での溺者二名だった。
「えっと…ラファール・リヴァイヴのコア収納箇所は、と…」
さっさと装甲を剥いでコアを回収する。
どこの国のコアなのか調べておく必要性がありそうだわ。
「さて、ウェイル君はと…」
メルクちゃんとコンビを組んでいるけれど、些か決め手に欠ける。
先程言っていたとっておきの弾丸は…射線状に誰か割り込まれているから撃てないらしいわね。
ここは私も加勢に加わって…
「全輝ぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
その声が聞こえた。
それも、アリーナから。
「ちょっ⁉何、今の声は⁉」
私は驚きながらも視線を下に向ける。
その間にも声は響き渡った。
「その程度の敵!お前なら倒せて当然だぁぁっっ!
貴様等はそれを邪魔するなぁっっっっ!!」
篠ノ之 箒だった。
「そこの卑怯者は引っ込んでいろ!
聞いているのかぁ!ウェイル・ハース!」
あろう事か、ウェイル君の名前をフルネームで知られる事にまでなった。
その瞬間、レーダーが機体反応を告げる。
探知可能な範囲の端の端、それこそ探知可能範囲ギリギリだった。
望遠システムをすぐさま起動させる。
「収音用アンテナ…!?」
とたん、1機のラファール・リヴァイヴが戦域を離脱しようと踵を返す。
「行かせない!」
槍に仕込まれたガトリング・ガンを掃射する。
それでも、射程距離の遥か外、牽制射撃にもならず、追跡をするにも追いつけるわけもなかった。
追加のスラスターでも搭載していたのか、一気に距離を引き離され、完全に離脱していくその背中を眺めるほかになかった。
頭が痛い。
これで、テロリストたちに、ウェイル君のフルネームを知られることになった。
急いで一般回線を開く。
繋げる先は
「虚ちゃん、彼女は何処に居るの?」
「あちこちの拡声器から彼女の声が聞こえます。
恐らく…いえ、十中八九実況室です」
最悪の場所だった。
放送室は、生徒たちが避難しているのに使用している出入り口のすぐ上。
「何あのガキ?」
「耳障りだから殺せば?」
「フルチャージ出来てないけど、まあ良いか」
そんな囁き声をセンサーが拾う。
テロリストの連中の声だと判断するまでに一瞬逡巡した。
「まずい!」
大型砲がウェイル君や織斑君でもなく、下に向けられる。
あのまま撃たれたら
「そのタイミングを待っていたんだ!」
砲口の眼前に紫色のテンペスタが飛び出す。
そして…例の弾倉が装填された銃の銃口を向け、引鉄を…
ドガァァァァンンッッッッ!!!!!
空に、紅蓮の大輪が出現した。
色々と詰め込んだら中途半端な事になってしまった…。
続きは近日公開予定です。