IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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例のイベントまで少しだけ駆け足です。
なお、ストック尽きたので悪しからず。
また、前回表現を抑えていたところも少しだけ描写しました。


第36話 紫風 いつかも君と

ウェイル・ハース

その人物と接触した回数はそこまで多くない。

それこそ本人は知らないだろうけど、私は傍から見ていただけになってた。

まあ、最初に接触した際には彼は教室で寝ていたというわけもわからぬ状態だったし、あとの日数に関しては訓練に費やし続けたから自分から接触する機会はなくなってしまっていた。

もしかしたら…という可能性は捨てなかったわけじゃない。

出来る事なら話をしてみたかったけど、どうにも周囲の生徒から慕われているらしく、多くの人が集まっていた。

聞いた話では家電製品の修理をよく請け負っているとか。

ほかにも聞いた話では生徒会室に出入りしているとか。

更には訓練に明け暮れているとか。

忙しいというべきなのか、やりたいことをやってるだけなのかは判断に迷うところだった。

 

それと、彼の隣には常に妹に当たるらしいメルク・ハースが一緒にいる姿が確認できた。

 

だから…というか、ちょっと話しかけにくい。

結局この日まで会話をする機会が伸びてしまっていた。

 

よりにもよって全輝との対戦で真紅の二槍を振るい、切り結び、そして勝利した彼の姿を追ったけれど、結局あの二人の間には入れなかった。

けど、幸運なのか対戦相手になった。

その間なら話ができると思っていた。

けれど何から言えばいいのか判らなかった。

そんな自分が嫌になってしまってた。

 

 

あなたは私を覚えているの?

 

あなたは私が探し続けた人なの…?

 

あなたは…一夏なの…?

 

けれど、言葉もそう交わす事も出来ず、試合開始のブザーが鳴った。

仕方なく両手に握った双天牙月を構える。

彼の両手に握られたのは先ほどの試合でも使われていた真紅の二槍だった。

何度も打ち合い、理解できたことがある。

彼の槍捌きは我流の物ではなく、誰かに師事してもらったもの。

もしかしたら先の試合でポツリと呟いていた『姉』によるものかもしれない。

この予想が当たっていたとしたらその人物が何者なのかも判らなくなってくる。

 

「戦術を変える気…?」

 

左手に槍、右手に銃を握り、ジッとこちらを見てきている。

その間、攻撃に転じることもない。

 

「何を考えてるか知らないけど!」

 

妙なことをされるよりも前に倒す!

 

ブレードを振り下ろす。

回避される、だけどそちらの方向にいるのを確認して衝撃砲をブッ放す。

 

ボンッ!!

 

土柱が立つだけで直撃しなかった。

そこから更に滑るようにして私の背後に回ってくる。

 

「チッ!」

 

簡単に背後を取らせてやる気は無い。

方向転換をしてみればウェイルは銃を収納して槍を一振り構えているだけだった。

何を考えているのかまるで判らない。

 

「だったら、近接戦闘で!」

 

「………!」

 

左右の双天牙月を連続で振るう。

右の剣を横薙ぎに振るい、左手のソレを大上段から。

更に逆袈裟、刺突、払い、薙ぎ、それを幾度も幾度も繰り返すけれど、それがだんだんと槍で捌かれるようになってくる。

衝撃砲を撃つけれど、それも着弾回数が減ってくる。

 

「まだまだぁっ!」

 

ブレードを連結して投擲し

 

「その瞬間を…待ってたんだ!」

 

一気に懐に潜り込んでくる紫の影が連結したブレードを握る右腕に槍が添えられる。

そのまま右腕が弾かれ、石突が鳩尾のあたりに突き刺さる。

絶対防御が弾いてくれたけど、それでも衝撃はかすかに伝わってくる。

 

「…強い…!」

 

変則的な動きを可能にしているのは、個別に自在に動く左右非対称の背面翼によるものだろう。

それにしても本当にいびつに思える。

右翼3機、左翼2機だなんて今まで見たこともない。

 

衝撃砲を構える。

その瞬間にはその弾道スレスレになりながらも再び突っ込んでくる。

ブレードの連結を解除して右手の剣で受け止める。

同時に左手の剣で刺突を

 

「グッ!?」

 

その一瞬前に左肩に衝撃が襲う。

真紅の槍が、私が剣を振るおうとした瞬間を見据えて肩を撃ってきた。

 

「アンタ、まさか…!」

 

間違いない…私の動きを見切っている…!

 

「やるわね…!」

 

「そっちこそ…!」

 

先ほどまでのシンプルな槍と銃ではなく、真紅の二槍によるラッシュが襲ってくる。

中にはフェイントも込められ、対処すべき刺突も見えなくなってくる。

その双眸は相変わらずバイザーに隠されて見えない。

 

「一番恐れるべきは、槍の実力よりも、その観察眼って事か…!」

 

「機械の相手をし続けていたら、どう手出しをすればいいのか分かるようになることがあってさ。

それを人に言ったら、対人でもそれを向けられるようにってことで鍛えてきたんだ。

自慢じゃないけど、俺は万能なんて言葉とは程遠いところにいるんだ、せいぜいが凡人だ」

 

「その腕前からすれば凡人なんて言葉の方が信じられないけどね!」

 

言葉を交わしながらも私たちは決して両手に握る武器を止めない。

そのたびに火花が散り、視界を焼く。

それでも、互いに笑みが自然と零れていた。

 

「嘘じゃないさ。

機械の相手をするか、体を動かす程度にしか能が無い。

勉強方面でも、多くの科目が苦手分野。得意科目なんてそれこそ、そういった分野なんだよ」

 

突如として自慢だか自虐だか判らないことを言い出すウェイル。

だけど、何故かは判らないけれど、私はその言葉に聞き入ってしまっていた。

 

「出来る事なんて限りが在る、だからこそその分野を突出させた。

俺にできるのはその程度だからな!」

 

右手の槍が突き出される。

左手の剣で受け止める、だけど、思った以上に衝撃が手に伝わってこない。

まさか、フェイク…!?

 

「もう一発!」

 

左手の槍が襲ってくる、こっちが本命だったらしく先ほどの倍の衝撃が襲ってくる。

距離を開けてもあの機動性で確実に追いつかれる。

衝撃砲はどういうわけか発射しようとすればその射線から確実に避けてくる。

不可視の砲弾をこうも早く見切れるってどんな観察眼してるのよ…!?

 

「強いわね、アンタ…。

本当に動かしてから3か月も経ってないの?」

 

「動かしたのは2月だから、まだ3か月経ってないな」

 

「訓練を着けたのって、アンタの姉さんなのかしら?」

 

「………テスターの人とメルクだよ」

 

今の言葉は嘘ね。

理由は知らないけれど、ウェイルは『姉』を大きな存在として認めてはいても、それを周囲にひた隠しにしようとしている。

思えばその人の…

 

「『姉さん』の名前は何ていうの?」

 

「……………」

 

間違いない、意図的に姉の存在を隠してる。

誇りに思いながらも、意図的に口を閉ざす。

考えられる可能性は幾つかある。

 

一つ目には、その姉自身から口を閉ざすように言われているから。

表沙汰には出来ない人物という事かしら…?

 

二つ目には、ウェイル自身が口に出したくない思っているような人物である可能性。

これから来るのは二面性が激しい人物であるという事。

 

三つ目には…『姉』という『偶像』をウェイル自身が思い描いているという可能性。

姉という存在は実在せず、彼の想像の中だけの存在…?

 

どれになるかはわからない。

深く考えるのなんて私には向いてないのは判り切ってる。

だったら…!

 

「さぁ、仕切り直しと行こうか…!」

 

「上等!」

 

私は両手に剣を、ウェイルは両手に槍を握る。

それから幾合も四つの刃がぶつかり合う。

だけど、私だって生半可な修行をしてきたつもりは無い。

たった一人の情報を知りたくて、諦めたくなくて、ここまで来たんだから!

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

鳳 鈴音

 

その名前を耳にしてから胸にざわつくものを感じ取っていた。

夢の中に出てくる女の子に似ていた。

いや、似ているなんて言葉じゃ収まらない。

本人ではないのかと疑うほどだった。

 

言葉を交わし続けたかったが、それを遮る形で鳴り響いたブザーが恨めしい。

 

仕方なく試合に突入したけれど、彼女の実力はあまりにも自分からかけ離れていた。

 

強い

 

姉さんやメルクやヘキサ先生とはまた違った形での実力者だと実感できた。

勝てないと思えるほどに。

 

「やっぱり、世界って広いなぁ…」

 

イタリアの中に居ただけじゃ知ることが出来ないことがある。

モンド・グロッソに出場していた姉さんも同じ気持ちになったんだろうな。

だけど、まったくの未知が目の前に存在することに技術者の端くれとしては嬉しく思えてくる。

 

聞きたい事は沢山有る。

だけど、それは試合の後にするというの口惜しい。

 

思わず姉さんの存在を彼女にまで知られてしまったけれど、これ以上は口を閉ざすことに気を払わないとな。

 

「ああ…本当に強い…」

 

これが国外の国家代表候補生…!

 

「さあ、仕切り直しと行こうか!」

 

「上等!」

 

両手の紅槍を握る。

俺の本来のスタイルではないのだが、訓練ではこの槍を振るい続けた。

アルボーレやウラガーノとは違った意味で感慨深くなってくる。

 

「行くぜ、『クラン』!」

 

両手に握る槍を縦横無尽に振るう。

その悉くを受け止められ、時には切り返されてくる。

オリムラ相手には絶対に負けたくないと思えていたのに、彼女に対しては別の思いがあふれてくる。

 

コレが俺だ

 

今の俺だ

 

だから負けたくない

 

諦めたくないんだ!

 

 

 

 

夢の中で長い間、彼女を見続けた。

彼女は、いつだって涙を流していた。

粘つく闇に囚われ続け、涙を流し続けた。

 

俺を追うように走り続ける

 

その長い髪を振り乱しながら

 

俺に手を延ばしてくる

 

なのに、俺の手はいつも届かなかった

 

もしも…もしも、その彼女が目の前にいる彼女だというのであれば…

 

「まだだ!」

 

「私だって!」

 

槍と剣が幾度も咬み合う。

その都度に火花が散り、視界を焼く。

だけど、イタリアのテンペスタと、中国の(ロン)ではどうしても覆せぬものがある。

それは龍シリーズの途方もないパワー出力。

それをテンペスタで上回るには、その出力を出す暇を与えぬ程の連撃が必要不可欠だ。

何度も練習して、何度も何度も鍛えてもらった。

 

「おぁっ!?」

 

だけど、その手数は彼女に既に見せている。

対処されない筈が無いんだ。

 

「さぁ、もう一回吹き飛べ!」

 

彼女の双剣が連結される。

だったら!

 

「牙を剥け!」

 

俺も二槍を連結させる。

セミオート操作を起動、照準補正!

 

「吹っ飛べぇっ!」

 

恐らく最大出力での投擲。

なら、俺も最大出力で応える!

 

「駆け抜けろぉっ!」

 

エネルギーを最大上限にまで叩き込み、不安定な姿勢から背面の五翼を調整し投擲の姿勢をとる。

石突から颶風と炎があふれ出したのを確認した瞬間に投げつけた。

 

 

ギャギィィィン!!

 

耳障りな金属音とともに赤い火花が空中に飛び散る。

その結果は、相殺。

互いの獲物は互いの手に戻ってくる。

これで二度目の仕切り直し。

 

侮っていたわけじゃないけど、強い…。

それに比べて俺は相変わらずの凡人止まりだ。

でも、それでも良い。

俺はメルクの為に技術者になろうとしているんだ。

なら俺は…(アンブラ)でいい。

俺が目立ちすぎていたらメルク()の立つ瀬を奪ってしまう。

 

「だけど…今だけは…」

 

装甲内部にて再び加速操作。

クランを両手に再び彼女にめがけて突っ込んだ。

微かに彼女の両肩のスパイク装甲が光るのを視覚で捉える。

それと同時に彼女の視線を(・・・)確認し、その視線上から離れる。

 

「…ッ!」

 

「…やるわね、アンタは!」

 

八重歯を見せながら微笑む彼女に俺も微笑み返す。

バイザー越しでは目元が見えないだろうけど、それでも構わなかった。

 

再度、刃が咬みあう。

鋼の牙と、真紅の牙の間に幾度も幾度も火花と悲鳴染みた金属音。

もう試合だなんて関係無かった、むしろ私闘だ。

どちらの腕が上をいくのかを競うためのものじゃない。

男の意地など二の次三の次、腕前なんて劣っているのは俺であることなど明白。

ただ、見せつけるためだ。

 

本来のスタイルではないにしても、今の俺のすべてを見せるための!

 

弾き飛ばされる、即座に姿勢制御をしながらの一薙ぎ。

回避される、右手にトゥルビネ(アサルトライフル)を展開し、引き金を引く。

鉛弾はすべて彼女の剣の側面で防がれる。

 

「一筋縄でも、二筋縄でも突破出来ないか…」

 

トゥルビネ(アサルトライフル)は収納してからもう一度槍を握る。

俺の持ち合わせている手札はもう殆ど尽きている。

その中で彼女に対抗出来たものといえば…。

 

「まあ、凡人らしく泥臭くいくしかないよな!」

 

体力の浪費?

そんなものどうだっていい。

 

「やるっきゃないのなら、やるだけだ!」

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

その試合には、私も見惚れていた。

凰と、ウェイル・ハースの試合に、目を奪われ続けた。

 

「あの槍捌き、一体…誰が教え込んだんだ…?」

 

刀しか満足に振るえない私から見ても、あの槍捌きには驚嘆するしかなかった。

二刀流というのであればともかく、両手に槍を握るなど難しいだろう。

真紅の二槍は長さの為もあって、互いに邪魔になる可能性だって私からすれば想像に難くない。

 

イタリアと言うと、あの茜髪の女が思い浮かぶ。

アイツが私に見せた感情は間違っても良好なものではなかった。

憤怒、蔑視、拒絶の類だ。

何気ない言葉が人の琴線に触れることもある、私がその実例だった。

親近感が湧いたからというだけで気軽にその言葉を放ってしまったからこそ…。

 

「そんなの、ただの卑怯者に決まっています!」

 

先の私の呟きに叫び返したのは篠ノ之だった。

 

「全輝が刀で戦い続けていたのに、ソレを奴は槍ばかり!

そんなの卑怯以外の何物でもありません!」

 

全輝とハースの試合の後、整備室に向かったハースを追って手出しをしようとした為、布仏姉妹に取り押さえられこの管制室に放り込まれていた。

頭の痛い話だが、これもまた私の監督不行き届きとして通告しておくとのオマケつきだ。

ハース兄妹に関わるなと、あれからも通告をしたのだがまるで聞き入れていないかのようだった。

布仏姉妹が此処に篠ノ之を放り込んだのは、コイツを監視しろという意思表示以外の何物でもないだろう。

 

「あんな奴が全輝に勝つだなんて!

それこそ卑怯な手段を用いたに決まってます!

奴の勝利なんて取り消して、全輝の勝利にするべきです!千冬さん!」

 

「織斑先生、だ。

結果は結果だ、それを私情で決定を覆す事など出来ん」

 

「ですが!奴は全輝の機体を壊しています!

その責任を負わせるくらいしないと!」

 

「試合中の機体の損壊は珍しい事ではない。

それに整備課にも話は通っているし、開発元にもオーバーホールの要請は出し終えている。

今後の授業には間に合わないとしても訓練だけなら各アリーナの訓練機でも間に合う」

 

「それでは全輝に機体の貸し出しが優先されないじゃないですか!」

 

当たり前だ、規則は規則だ。

特定個人に機体貸出優先など出来る訳が無い。

ましてや専用機所持者ともなると、貸出優先度は低くなる。

 

「それに試合をしたハースとて機体の損傷が無かったわけではない。

自分の手で点検やメンテナンスをする為にハンガーの貸し出し申請は提出され、学園側も許可を出しているんだ」

 

「不公平です!

だったら奴に全輝の機体の修復をさせて、その費用を払わせて、奴の機体も同じように粉々にしないと…」

 

「馬鹿者。

全輝の機体、白式は第三世代機、言わば国家機密の塊だ。

それを他国の者に整備させるなど条約上出来る話ではない。

奴の機体を粉々にしてみろ、それこそ国際問題どころでは済まない」

 

まったく、相手をするのも面倒になってくる。

これも私が篠ノ之を相手にさせ続けることで監視をさせろという事か…。

 

「ですが!それでは奴に何の責も無い事になってしまいます!」

 

ああ…頭が痛い…。

私と同じように管制室に居る真耶もウンザリとした表情だ。

尤も、真耶も決して私の味方ではない。

第三者として、私を監視している監視者だ。

 

「では私からも問おう。

お前は食堂における器物損壊に関しては賠償する気はあるのか?」

 

「あ、あれは私が悪いわけでは…」

 

「たわけ、大多数の者が目撃し、証言も取れている。

厨房のシェフからもだ。

並びに監視カメラからもお前が先に暴行をしたのも証拠、記録として残っている。

お前が賠償命令に従わないというのなら、お前の両親の所に120万円分の請求書を飛ばすだけだ」

 

「りょ、両親は関係な…」

 

「事前に『ハース兄妹に干渉するな』と警告をした筈だ」

 

「あ、あんな指示到底納得出来る筈が」

 

「お前たちが納得しようと出来まいと関係ない!

これは学園上層部から下された命令だ!私に余計な仕事を増やすな!」

 

ここまで言っても篠ノ之は納得できていないようだった。

コイツは昔からこうだっただろうか…?

もう少し聞き分けが良かったと思っていたが…。

全輝も、聞き分けは良かったと思う。

一夏はどうだっただろうか…?

 

口数はそこまで多くはなかったと思う…。

それどころか、いつ以来からだったかは覚えていないが、あまり視線を合わせる事も少なくなってしまっていた。

 

二人の顔を見る機会が少なくなってしまっていたが、三人分の生活の面倒を見るには仕方なかった。

自分自身の欲求を優先など出来る訳も無く、それでも二人の為に働いているのだと信じられたのは私なりの誇り…だと信じていた。

 

そう、信じていた(・・)

 

「いい加減にしなさい篠ノ之さん。

いつまでも終わった話を蒸し返さないでください」

 

「や、山田先生まで奴の…あの卑怯者の肩を持つっていうんですか!?」

 

今度は真耶に噛みついたか…。

尤も、真耶は篠ノ之に目を向ける事もしない。

あくまでモニターに映されている私の言動を監視している。

 

「貴女の納得は必要無いんですよ。

そもそも、卑怯というのなら貴女はどうです?

ハース君に殴りかかる際も、凰さんに木刀で背後から斬りかかる際も、どちらとも後方から…死角からの襲撃でしたね。

それを卑怯と言わずに何と言うのですか?」

 

「そ、それは…」

 

「更に言うのなら、ハース君達に何もかも責任を負わせようとしていますが、それは貴女の都合(・・)ではなく、ただの感情論(・・・)に過ぎません。

そんなもので周囲に余計な手間を与えないでください。

教師陣も生徒の皆にも多大な迷惑が及んでいる事を自覚しなさい」

 

「……私は…間違ったことをしているわけでは…」

 

「食堂に於ける机や椅子、投影機に観賞植物に無駄になった料理の代金、それらの損壊賠償、しめて83万6000円。

1年1組での授業用の椅子と机の損壊賠償、こちらは36万4000円。

合計金額120万円の支払いは早期にしてください。

賠償責任の放棄や、命令無視をする場合は織斑君と篠ノ之さんの私物を強制差し押さえして、賠償請求に回すこともできますので、自覚しておいてください。

無論、それでも足りない場合は織斑先生と篠ノ之さんのご両親に請求書を飛ばします。

更には中国国家代表候補生である凰さんへの殺害未遂に関しても、反省文800枚提出はさっさとしてください。

すでに中国政府も騒いでいるんですから。

いい加減に自分のやったことは自分で責任を持ちなさい」

 

この言い様…早くも真耶も篠ノ之に愛想を尽かしているのだろう。

 

「繰り返し言っておきますが、全て貴女()が原因であり、元凶であることを自覚してください」

 

「な、なんで私が…」

 

まあ、私の監督不行き届きなのだろうがな…私にも二人を見れないタイミングというものがある。

その隙に二人が騒ぎを起こすというのだからな…そしてその責が私にも回される。

それによって周囲の目が猶一層冷たくなり、真耶のみならず監視の目が多くなってきている気がした…。

事実、私が受け持つクラスの生徒が騒ぎを起こしたのはこれで5度目だ。

一度目は、全輝とオルコットがクラス代表を決める際に諍いを。

二度目は、5組のクラス代表代理が3組のハースに指名された事にオルコットが騒ぎ、他クラスの生徒を巻き込んでの騒動に。

三度目は、食堂に於いて全輝と篠ノ之が忠告を無視してハース兄妹に接触した挙句に他の学年、クラスの生徒を巻き込んで大騒動に。

四度目は、篠ノ之の身勝手で中国代表候補生である鳳への殺害未遂。

そして今回のハースへの八つ当たりをしようと篠ノ之が画策したものの、布仏姉妹による制圧で五度目。

これらがこの半月程の間に起きている。

そのせいで、私が受け持つクラスは騒動を巻き起こすクラスだとレッテルを貼られ、他クラスの担当教諭から避けられ、クラス同士の合同授業を避けられている。

無論、周囲からの私に向けられる視線の冷たさに関しては言うまでもない。

 

何をしても…裏目になり、周囲の温度が冷え、救いの手など一つも無い…。

 

何故、私ばかりがこんな目に遭うのだろうか…。

 

「所属不明機の反応を探知しました!」

 

「なに!?距離は!?」

 

「学園から南方1500m!数は…8機!?

映像を出します!」

 

大モニターに南方を捉えるカメラからの映像が回される。

そこに映っていたのは、見覚えのある機体だった。

 

「『ラファール・リヴァイヴ』だと…!?」

 

そのうちの一機には大型の砲撃兵装らしきものが搭載されているのが見えた。

そして、その側面には…見覚えのあるシルエットが刻み込まれていた。

 

「両手に剣と銃、それを取り囲む八枚の楯…だと…」

 

「国際テロシンジケート…『凜天使』…!?

敵機から高エネルギー反応!砲撃と思われます!」

 

そして画面を貫く野太い閃光。

カメラを巻き込み、そして…

 

「電磁シールドに直撃!ダメです!

耐えられません!」

 

電磁シールドが破られた…。

閃光はシールドを突き破り、グラウンドの中央に突き刺さり、莫大な噴煙を撒き散らす。

 

「緊急警報を鳴らせ!

シャッターを降ろし、生徒の避難を急がせろ!

避難が完了し次第隔壁閉鎖!教師部隊を突入させろ!」


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